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<概要>
 海外では、運転中の原子力発電所蒸気発生器伝熱管の漏洩量が制限値に達して計画外停止に至るリスクが高くなること、伝熱管補修にかかる直接間接の費用がかかること、伝熱管の施栓が増えて定格出力の維持が困難なこと等の理由で、蒸気発生器の取替えが行われている。わが国でも、定期検査の経費低減、被ばく低減などの理由で、1991年に高浜2号機、大飯1号機、玄海1号機の3基の蒸気発生器取替えに関する設置変更許可申請が行われた。その許可申請中、美浜2号機の事故が発生し、美浜2号機が国内で最初の蒸気発生器取替えを行うことになった。取替え用蒸気発生器は、旧蒸気発生器に比べて伝熱管、管支持板等の材質改善、SG二次側の熱流動の改善などが行われている。1997年までに8プラント、最近では玄海2号機、伊方1号機、2号機及び川内1号機の蒸気発生器の取替えも行われた。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.蒸気発生器取替えに至った経緯
 わが国では、運転中に蒸気発生器(以下、SGと略す)の伝熱管の漏洩を許容しないことをPWR保守管理の基本方針としている。そこで、定期検査において、SGの伝熱管にECT(渦電流探傷検査)等を実施し、有意な損傷が検出されれば、伝熱管の施栓、補修等を行っている。しかし、SGの検査・補修には多大な労力と時間がかかり、定検の長期化、作業者の受ける線量当量の増加といった問題があった。そこで、1991年、高浜2号機、大飯1号機、玄海1号機は3基揃って原子炉設置変更許可申請が行われた。この3基の許可申請中に、美浜2号機でSG伝熱管の破損により非常用炉心冷却系が作動する事故が発生した。事故後、美浜2号機のSGも交換することを決め、1993年国内初のSG取替えが行われた。
2.SG取替えの例
(1)海外における例
 1979年に米国のサリー2号機で初めてSG取替えが行われて以来、アメリカ、ドイツ、スウェーデン、フランス、スイス、ベルギー、スペインなどで1997年までに36基のプラントが取替えられた。取替え理由としては、運転中のSG伝熱管の漏洩量が制限値に達して計画外停止に至るリスクが高くなること、SG補修にかかる直接間接の費用がかかること、施栓が増えて定格出力の維持が困難なこと等、安全性というよりもむしろ経営的な判断に基づくものである。
(2)わが国における例
 1992年に高浜2号機に対する設置変更が許可され、それ以降、1994年までに8プラントに対して設置変更が許可されている。表1にわが国のSG取替えの例を示す。また、玄海原子力発電所1、2号機では、2001年の定期検査の期間中に信頼性向上や点検に伴う被ばく低減をはかるため、主要機器(原子炉容器上部ふた、中央計装盤、復水器細管等)の取替えを実施した。この際、2号機のSGの取替えも行われた。最近では伊方1号機、2号機及び川内1号機のSGの取替えも行われた。
3.わが国の取替え用蒸気発生器の主な改良点
 わが国の原子力発電所の取替え前SGと取替え用SGの仕様比較を表2に、SGの改良点を図1に示す。
(1)伝熱管材料の改善
 伝熱管の材質をインコネル600合金(MA600合金)から、より耐食性の優れた特殊熱処理を施したインコネル690合金(TT690)に変更した。TT690は既に大飯3号機以降のプラントに適用されたものを取替え用SGにも採用したものである。
(2)管支持板の材料改善と管孔形状改善
 管支持板の管孔形状を丸孔型から四つ葉型に変更し、流動状況を改善することにより管支持板の管孔部分での不純物濃縮を抑制するとともに、材質も炭素鋼から耐食性に優れたステンレス鋼に変更した。
(3)二次側熱流動の改善
 流量分配板の設置等により管板部における二次側冷却水の流動状況を改善し、管板部におけるスラッジ堆積を抑制する構造とした。
(4)伝熱管の拡管法の改善
 伝熱管を拡管により管板に密着させる際に発生する残留応力を低減し、これによる応力腐食割れの発生防止をはかるため、従来の機械式拡管法から液圧式拡管法に変更した。
(5)振止め金具の改善
 伝熱管のU字部の振止め金具の本数を従来の2本組から3本組に変更し、蒸気・水二相流による振動抑制の点で一層余裕のある構造とした。また、材料をクロムメッキされたインコネル600合金から耐摩耗性の良いステンレス鋼に変更した。
4.取替工事内容
(1)工事概要
 取替工事の基本的な手順は図2に示すとおりである。
・取替準備
 取替工事の前に、原子炉の全燃料を取り出し、使用済み燃料プールに運ぶ。その後、必要に応じて、外部遮へい壁及び格納容器の仮開口設置工事、移送ルート確保のためのSG周辺コンクリート壁の部分撤去工事、移送力増強のための格納容器内クレーン改造工事などを行う。
・配管切断等
 SGの保温材を取り外し、SGに接続している一次冷却材配管等を切断する。その後、SGを支持している支持脚及びサポートを取り外す。
・SG搬出
 SGをクレーンで吊り上げて原子炉格納容器内の所定の場所まで移動する。移動後、SGを横倒しにして原子炉格納容器から外に出して輸送車両に載せる。
・保管庫での保管
 SGは輸送車両により発電所構内のSG専用の保管庫に運ばれる。
以上が、旧SG搬出の概略であるが、新SGの搬入は、発電所構内の仮置場から搬出するのとは逆の手順で行う。
(2)工事関連技術
 主要な工事技術について以下に示す。
・一体取替と分割取替
 SG本体の取替方法としては、一体取替と分割取替の2通りの方法がある。分割方式の場合には、SGの一部を再利用することも可能である(図3参照)。一方、現場でのSG切断・溶接の煩雑さを避けることから、重量および取替寸法が大きくなる短所はあるものの、国内では、ほとんど一体取替を採用している。
・ポーラクレーンの増強改造
 SGを一体取替する場合、格納容器内のポーラクレーンを使用する場合と大型移動式クレーンを使った格納容器天井部からの搬出がある。格納容器内のクレーンで、SGを吊り上げる場合には、一部を除きほとんどのプラントで容量・揚程の不足となる。そこで、既設トロリーの容量アップ、大容量補助トロリー(ワイヤージャッキ)の追設等の改造により、既設ポーラクレーンの増強が行われる。
・SG搬出入ルートの確保とSG搬出入
 通常、原子炉格納容器内の機器の搬出入には原子炉格納容器機器搬入口を利用するが、大型の機器であるSGの場合には、搬入口の大きさが不十分である場合、あるいは、設置位置がSGの搬出入には不適切である場合、ならびに天井部搬出の場合には、仮設口を設けなければならない。
・コンクリート切断・復旧
 SG周辺には、コンクリート壁が設けられており、開口部の位置によっては、鉄筋コンクリート製の外部遮へい壁の切断・復旧が必要になる他、アイスコンデンサ型プラントでは、SG室の一部コンクリートの切断・復旧が必要となる。
 切断方法は、コアボーリング法、カッター法、ワイヤーソー法などがあり、新旧の鉄筋の復旧方法には、鉄筋エンクローズ溶接法、機械式継手などの方法が用いられる。
・一次冷却材配管の切断・復旧
 一つのSGに付属する一次冷却系配管の切断工法には、1配管に1カ所切断する2カット法、低温側エルボの両端を切断する3カット法、高温・低温側ともエルボの両端を切断する4カット法がある。この三つの工法の中でどの工法を採用するかは施工性、被ばく、工期等を考慮して決められる。切断方法には、バイトを用いる機械式切断、プラズマアークによるガス切断がある。基本的には、復旧時に精度が要求され、被ばく低減の観点から遠隔操作可能な機械式切断が採用される。
・旧SGの構内運搬・保管
 運搬は、自走式の大型トレーラーを用い、保管は遮へい機能を十分有する耐震Cクラスの専用保管庫を使用する。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 わが国における蒸気発生器取替えの例
表1  わが国における蒸気発生器取替えの例
表2 既設の蒸気発生器と取替用蒸気発生器の仕様比較
表2  既設の蒸気発生器と取替用蒸気発生器の仕様比較
図1 蒸気発生器の改良点
図1  蒸気発生器の改良点
図2 蒸気発生器の取替工事基本手順
図2  蒸気発生器の取替工事基本手順
図3 蒸気発生器の分割取替えの手順
図3  蒸気発生器の分割取替えの手順

<参考文献>
(1)百々隆、松下清彦:PWRの蒸気発生器と蒸気発生器取替計画、原子力工業、41(4)、6−11(1995)
(2)百々隆:蒸気発生器取替工事、原子力工業、41(4)、20−24(1995)
(3)百々隆:原子力発電所の蒸気発生器取替え作業について、デコミッショニング技法、12、22−31(1995)
(4)木村精之、百々隆ほか:関西電力における原子力プラント(PWR)蒸気発生器の取替え、火力原子力発電、46(3)、38−48(1995)
(5)平野廣、久利修平:取替用蒸気発生器の設計と製作、原子力工業、41(4)、12−19(1995)
(6)根岸和生:関西電力におけるSG取替工事の経験、原子力工業、41(4)、25−36(1995)
(7)段上守、大新田公久:九州電力におけるSG取替工事の経験、原子力工業、41(4)、37−44(1995)
(8)八島清爾:PWR蒸気発生器の信頼性について、原子力工業、41(4)、62−69(1995)
(9)森田正彦ほか:原子力蒸気発生器取替え工事における技術開発と適用、三菱重工技法、32(3)、191−194(1995)
(10)関西電力:大飯発電所1・2号機蒸気発生器取替工事について(1994年9月)
(11)石井朝行:玄海原子力発電所1,2号機主要機器更新工事、火力原子力発電、53(4)、427−432(2002)
(12)三宅芳男ほか:エネルギーの長期安定供給を目指して−原子力発電の昨日・今日・あした−、三菱重工技報、40(1)、24−31、http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/401/401024.pdf
(13)原子力安全委員会事務局:実用発電用原子炉の法令報告事象について(平成20年5月16日)第8原子力施設事故・故障分析評価専門部会資料(事専第8−4号)
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