<本文>
1.はじめに
原子力発電所はそれを構成する多くの機器・設備が健全に機能を果たして始めてその性能を発揮できるとともに、安全性が確保される。このため、機器・設備の据付後約2年をかけてすべての機器・設備試験、系統試験およびプラントの試運転および官庁の使用前検査が行われる。試験、試運転全体の工程は原子炉への燃料装荷を境として2つの段階に分けられるが、細かくはさらに細分されるとともに、プラントの設計の違いを反映してPWRとBWRとで若干相違する。PWRおよびBWRの試験・試運転の全体工程をそれぞれ
図1 (PWR)および
図2 (BWR)に示す。
2.PWR
2.1 概要
建設後の試験・試運転は約20ヶ月かけて行い、全体は系統毎の機能試験とプラント全体の出力上昇試験に大別される。原子炉に燃料を装荷する前に原子炉を昇温昇圧して温態での機能試験を実施する所にBWRと異なる特色がある。
2.2 建設段階
建屋への機器・設備の据え付けの最終段階に8から10ヶ月かけて機器・配管の洗浄(フラッシング)や一次系の耐圧試験を行い機器・配管の健全性を確認するとともに、ポンプの単体試運転や弁の動作確認等を行ってこれらの調整を行う。
2.3 機能試験
調整や洗浄の終了した機器・配管が一連の系統を構成できるようになると、順次これらの系統の機能試験が行われる。系統の機能試験は一次冷却系統の耐圧試験をはさんで、常温常圧で行う冷態機能試験と高温高圧下で行われる
温態機能試験に分けられる。
(1)冷態機能試験
化学体積制御系、安全注入系、廃棄物処理系、電源系などすべての系統について、系統の構成や流量などについて可能な限りプラントの運転状態を模擬して、インタロック試験、警報試験、系統運転試験、流量調整試験などを行い、系統がその目的通りに機能することを確認する。
(2)温態機能試験
一次冷却系統設備の耐圧試験を行って、昇温昇圧にそなえた系統の健全性確認を行った後、
一次冷却材ポンプの運転などにより一次系を高温高圧(286℃、15.4MPa)にして、
加圧器の水位制御、圧力制御、逃し弁等の試験や一次冷却系統の熱膨張測定試験など実施し、高温高圧状態での機器の据付状態、動作確認を行う。また、併せて
蒸気発生器を介して発生した蒸気を用いてタービンの回転上昇試験も行われる。
2.4 燃料装荷
格納容器漏洩率試験を行った後、約1.5ヶ月かけて順次燃料を炉心に装荷していき、燃料の所定位置への装荷確認や燃料装荷中の未
臨界確認等を行う。
2.5 出力上昇
8ヶ月から12ヶ月をかけて、原子炉の初臨界をはさんで3つのステップに分けて各種の試験を行う。出力上昇試験工程の概略を
図3 に示す。
(1)臨界前試験
制御棒クラスタや炉内
核計装の動作確認、炉心流量測定、安全保護系設定値確認等、炉心への燃料装荷によってまたは原子炉臨界にあたって問題となる事項を確認する。
(2)ゼロ出力炉物理試験
原子炉を臨界にした後、
制御棒やホウ素価値試験、出力分布測定試験など炉心特性関係の測定、試験を行い計算値と比較評価し、炉心計算(設計)が妥当であることを確認する。
(3)出力上昇試験
タービンの保安装置試験などを行った後発電機を併入し、出力を順次30%、50%、75%、100%と上昇させながら、負荷変動、プラントトリップ等を模擬したプラントの各種の動特性試験や出力上昇に伴う放射線レベル測定試験などをくり返し行い、プラントの健全性、安全性を確認する。試験の最終段階には100時間の定格出力連続運転を行って、プラントの安定な運転性能の確認を行う。
3.BWR
3.1 概要
PWRと同様に建設後約20ヶ月かけて試験・試運転を行う。試験、試運転の全体は系統毎の系統試験とプラント全体の起動試験に大別されるが、系統試験段階では、常温大気圧での試験を主に実施する。起動試験段階では原子炉に燃料を装荷し原子炉の運転により原子炉を昇温昇圧して高温高圧状態での機能試験を実施する所にPWRと異なる特色がある。
3.2 建設段階
機器配管の洗浄を行うとともに系統水圧試験や配管等のサポート検査、電動機単体試運転、制御ループ調整試験、給油などを行い、機器配管の健全性確認や機器設備の調整および必要な手入れを行う。
3.3 系統試験
約1年をかけて、2度の
原子炉圧力容器の水圧試験をはさんで発電所補助系、原子炉およびタービン補助系、一次系、安全系の各系統の警報インタロック試験、弁開閉試験、ポンプ等の運転試験、系統流量、圧力等の実測を行って、各系統が設計で意図した所定の機能・性能を持つことを確認実証する。
3.4 起動試験
約8ヶ月をかけて、炉心に燃料を装荷し臨界とした後、出力を上昇させながら順次プラントの各系統が高温高圧下でも所定の機能を持つこと、プラントが外乱に対しても安定安全に運転を続けられることを確認する。試験点を
図4 に、また試験項目の例を
表1 に示す。
(1)燃料装荷および大気圧試験段階
燃料を装荷する箇所の制御棒の動作確認をしながら順次炉心に燃料を装荷し、途中最小臨界試験等を行い安全性を確認しながら全炉心を完成する。
(2)核加熱段階
原子炉を起動し臨界とした後、核加熱によって原子炉を昇温昇圧して、核計装校正、
制御棒価値測定、原子炉逃し安全弁機能試験などを行って原子炉系の健全性、安全性を確認する。
(3)出力試験段階
タービン発電機調整、タービン保安装置試験後発電機を併入し、出力を25%、50%、75%、100%と順次上昇させながら、各出力レベルで炉心流量や核計装の校正、圧力調整器や
給水制御系の調整および負荷遮断や電源喪失などの試験を繰り返し行ってプラントの制御性、安全性を確認する。最終段階で100時間の出力実証試験を行いプラントが安定に連続運転できることを確認する。
4.使用前検査
電気事業法第49条の規定により同法施行規則第68条に基づいて、建設工事の工程毎に各種の官庁立会検査が行われ、これら全てに合格して始めて営業運転に入る。使用前検査は工程の段階に応じて次のようにイ項からホ項に分けられている。
(イ項検査)
「原子炉本体、原子炉冷却系統設備、計測制御系統設備、燃料設備、放射線管理設備、廃棄設備または原子炉格納施設については、構造、強度または漏えいに係る試験をすることができる状態になった時」に行われる「材料検査、寸法検査、耐圧検査、据付・外観検査」。これらは、主に建設の最終段階に実施される。
(ロ項検査)
「蒸気タービンについては車室の下半分が据付完了した時、補助ボイラについては本体の組立てが完了した時」に行われる「蒸気タービン、補助ボイラーの材料検査、構造および外観検査、寸法検査、組立ておよび据付検査、耐圧検査」。これらは、おそくとも温態機能試験(PWR)、起動試験(BWR)開始までに行われる。
(ハ項検査)
「原子炉に燃料を挿入することができる状態になった時」に行われる「燃料装荷時および燃料装荷以降原子炉の運転および安全に必要な設備機能の確認試験」。これらは主に、機能試験(PWR)、系統試験(BWR)時に行われる。
(ニ項検査)
「原子炉が臨界に達する時」に行われる「炉心の反応度制御、安全性確保に必要な設備機能の確認試験」。これらは燃料装荷から臨界前試験時(PWR)、燃料装荷から核加熱(BWR)時に行われる。
(ホ項検査)
「工事の計画に係る全ての工事が完了した時」に行われる「発電所の総合的な機能、性能の確認試験」。これらは出力上昇試験(PWR)、出力試験(BWR)時に行われる。
<図/表>
<関連タイトル>
電気事業法(原子力安全規制関係)(平成24年改正前まで) (10-07-01-08)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):火原協会講座22発電所の建設・試運転と運転保守、火力原子力発電技術協会(1995年6月),p.76-87
(2)火力原子力発電技術協会(編):火原協会講座13火力・原子力発電所における関連諸法規とその適用、火力原子力発電技術協会(1988年6月),p.98-121
(3)徳光 岩夫:原子力発電所の計画設計・建設工事、電気書院(1979年8月),p.290-295
(4)電気事業講座編集委員会(編):電気事業講座第9巻原子力発電、電力新報社(1997年2月)