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1998年(平成10年)4月、通商産業省(現経済産業省)資源エネルギー庁によってまとめられた平成10年度電力供給計画の概要にしたがって供給計画について述べる。
平成10年度電力供給計画は、電気事業法第29条に基づき、平成10年3月に一般電気事業者10社および卸電気事業者3社(電源開発(株)、日本原子力発電(株)、上越共同火力発電(株))から通商産業大臣(現経済産業大臣)(現経済産業大臣)に届出が行われた。
電力は、経済社会活動および国民生活にとって不可欠なエネルギーであり、今後とも経済・産業社会の発展および国民生活の高度化が進展する中で、その安定かつ低廉な供給が求められている。そのために、供給側は必要な電源および送変電等の流通設備の計画的な開発、電源構成のベストミックスの構築、電力供給の効率化に努めるとともに、需要側においても省電力対策および負荷平準化対策を着実に推進していくことが必要である。
近年、電気事業を取り巻く情勢は大きく変化してきており、様々な課題が新たに生じてきている。まず、現在進行中の経済構造改革に関連して、電気事業においては一層効率的な電力供給システムを確立して、国際的にそん色のないコスト水準を目指すことを重要課題としている。平成10年度の電力各社の供給計画は、21世紀に向けての電力供給基盤の確保と経営基盤の強化を図るため「経営効率化とコストダウンの徹底」、「原子力を中心とする電源開発の推進」、「卸供給事業者の活用」、「広域運営の推進」を重点として策定されている。
平成9年12月に京都で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(
COP3 COP 3:The 3rd Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Exchange)において、2010年(平成22年)に向けた温室効果ガス排出量の削減目標が合意された。合意された目標の達成に向けた最大限の省エネルギーと原子力開発の促進が必要である。供給計画は、これらの課題に対する電気事業者としての取り組みが織り込まれたものとなっているが、今後、より一層の取り組みの強化が期待されている。
1.電力需要想定
今回の供給計画の前提となった、2007年(平成19年)度までの一般電気事業用の需要電力量、最大需要電力および
年負荷率の見通しは次のとおりである。
1.1 需要電力量
(1)平成9年度需要実績および平成10・11年度見通し
1997年(平成9年)度の一般電気事業用の需要電力量は、7,970億kWh、対前年度増加率2.9%(気温補正後2.6%)となる見込みである(
表1参照)。
用途別に見ると、民生用需要のうち電灯については、平成8年度における住宅の駆け込み需要による安定した口数の伸びがあったものの、消費税率引き上げを背景とした個人消費の低迷などから原単位(需要電力量/口数)が伸び悩んだため2.6%(気温補正後2.1%)の伸びとなる見込みである。また、業務用電力については、ビル需要の回復を背景とした需要数の増加に加え、ビル空室率の改善、残業時間の増加をうけた原単位(需要電力量/需要数)の緩やかな上昇に支えられて、5.1%(気温補正後4.8%)の高い伸びとなる見込みである。産業用需要のうち大口電力については、年度前半に円安を背景とした輸出の増加により輸送用機械を始め鉄鋼、化学など広範な業種で生産水準が増加したため、年度後半にアジア経済の成長鈍化による輸出の伸びの低下があったものの、2.3%の伸びとなる見込みである(
表2参照)。
1998年(平成10年)度の一般電気事業用の需要電力量は、8,114億kWh、対前年増加率1.8%(気温補正後2.2%)となる見込みである。用途別に見ると、民生用需要のうち電灯については、平成9年度の住宅着工戸数が低水準となることに加え、PHS基地局の増勢に鈍化も見込まれることから口数の伸びはやや鈍化するものの、消費税率引き上げ等の個人消費抑制要因の一巡による安定した原単位の伸びにより2.3%(気温補正後2.8%)の安定した伸びとなる見込みである。また、業務用電力についても、ビル需要の回復を背景とした需要数の増加傾向がやや鈍化するものの3.6%(気温補正後4.4%)の堅調な伸びとなる見込みである。一方、産業用需要のうち大口電力については、アジア経済の成長鈍化による輸出の伸びの低下や財政構造改革による公共投資削減の影響などもあり、0.6%の低い伸びとなる見込みである。
平成11年度の一般電気事業用の需要電力量は、内需の自律的回復により、民生用・産業用ともに堅調に推移するものと見込まれ、8,317億kWh、対前年度増加率2.5%(気温閏年補正後2.2%)となる見込みである。
(2)長期見通し
今後の需要電力量については、内需を中心とした安定的な経済成長、経済社会の高度化、アメニティ志向の高まり等に加え、電気の持つ利便性等による
電力化率の高まりを反映して、省エネルギー対策の着実な進展による減少要因を踏まえても、着実に増加していくものと予想されている。
用途別に見ると、電灯は、人口の伸び率鈍化、家電機器の省電力化等による低下要因はあるものの、アメニティ志向の高まりや冷暖房兼用エアコンなどの暖房機器や温水洗浄便座などの新型機器の普及拡大、冷蔵庫・テレビ等の大型化等の増加要因から、平成8年度からの年平均増加率は2.3%(気温補正後2.3%)となる見込みである。また、業務用電力は、省エネルギー型ビルの普及、労働時間の短縮等の減少要因はあるものの、サービス経済化・情報化の進展、空調需要の増加、余暇の拡大等の要因により年平均増加率3.9%(気温補正後3.9%)となる見込みで、この結果、民生用需要は平成19年度で5,783億kWhとなり、年平均増加率は3.0%(気温補正後3.0%)の堅調な伸びとなる見込みである。
大口電力は、加工組立型産業である機械産業の安定した伸びが見込まれるものの、鉄鋼等の素材型産業は内需の鈍化などから減少が見込まれることに加え、自家発電の増加もあり、年平均増加率は0.9%の低い伸びとなる見込みである。また、小口電力は、製造部門における生産縮小による需要減はあるものの、非製造部門における生活関連および空調需要の安定した増加により年平均増加率は1.3%(気温補正後1.4%)となる見込みで、これらの結果、産業用需要は平成19年度で3,977億kWhとなり、年平均増加率は1.0%(気温補正後1.0%)となる見込みである。
以上の結果、一般電気事業用の需要電力量は、産業用需要が伸び悩むものの、民生用需要の堅調な増加により、平成14年度には8,830億kWh、平成19年度には9,760億kWhとなり、平成8年度からの年平均増加率は2.1%(気温補正後2.1%)となる見込みである(
表1参照)。
1.2 最大需要電力
一般電気事業用の最大需要電力(夏季ピーク電力)は、これまで主として民生用需要における冷房機器の普及拡大による夏季需要の増加により需要電力量を上回る伸びを示してきている。
1997年(平成9年)度の最大需要電力は、高気温発生月が地域により分散したため1億6,414万kWと平成8年度に比べ0.6%の減少(気温補正後では2.4%の増加)となった(
表1参照)。
平成10年度の最大需要電力は、業務用電力を中心とした民生用需要の堅調な伸びや景気の緩やかな回復による産業用需要の増加等から1億7,291万kWとなり、マイナスとなった前年度の反動から5.3%(気温補正後2.8%)の増加となる見込みである。
今後の最大需要電力については、需要電力量が着実に増大する中で、負荷平準化対策の推進により年
負荷率が平成8年度実績から改善されることから、平成14年度には1億8,715万kW、平成19年度には2億540万kWとなり、平成8年度からの年平均増加率は2.0%(気温補正後2.0%)と需要電力量の伸びを下回る見込みである。
1.3 年負荷率
年負荷率については、負荷平準化対策を講じない場合、負荷率の低い業務用電力需要の割合が増加する一方、負荷率の高い大口電力需要の割合が減少する等の需要構造の変化により長期的に低下していくことが予想される。これに対し、本供給計画においては、負荷平準化対策として、夏季ピーク時における需要を他の時期、時間帯にシフトすることを目的とする需給調整契約(業務用電力を中心とする蓄熱調整契約や産業用の計画調整契約等)の拡大等が織り込まれている。具体的には、平成9年12月の電気事業審議会基本政策部会電力負荷平準化対策検討小委員会(当時)の中間報告を受けて、見直し・拡充が図られた電力会社における料金制度の多様化・弾力化、奨励金の導入や国における蓄熱空調システム導入促進を目的とする支援制度等の効果を、昨年度計画以上に織り込むことにより、ピークシフト効果が1996年(平成8年)度から2007年(平成19年)度にかけて492万kW増加すると見込んでいる。
この結果、年負荷率は、平成19年度には57.6%となり、平成8年度実績から1.0ポイント(気温補正後0.7ポイント)の改善が見込まれている(
表1参照)。
(注)「年負荷率」とは、最大需要電力に対する年平均需要電力の比率をいい、夏季ピーク需要が大きくなるのに伴い、年負荷率は小さい値となる。
2.供給力の確保
2.1 需給バランス
(1)平成9年度需給実績および平成10年度需給バランス
1997年(平成9年)度は、7月初めに記録的な暑さとなったが、それ以降不順な気温変動を繰り返し、平均するとほぼ平年並みの気温となった。各社別では、北海道(夏季記録)、東北、中部および北陸が一日最大需要電力(「H1」ともいう、発電端での電力)の記録を更新した。しかし、高気温の発生時期の違いから電力10社合計では、残暑の9月2日にピークが発生し、1億6,783万kWとこれまでの記録である1億7,113万kW(平成7年8月25日)よりも331万kWの減となった。
また、供給力整備の目安となる最大3日平均電力(「H3」ともいう、送電端での電力、本タイトルの説明文において「最大需要電力」は「最大3日平均電力」のこと)は10社合計で1億6,414万kWとなり、平成8年度に比べて0.6%の減となった。これに対し、供給力については、各社とも
定期検査の調整や計画的な融通調整により1億8,614万kWの供給力を確保し、供給予備率は10社合計で13.4%であった。
平成10年度は、最大需要電力が10社合計で1億7,291万kWと見込まれるのに対し、供給力としては、新増設電源等の供給力増加対策を着実に推進するとともに広域的な電力融通により、平成9年度実績に比べ366万kW増の1億8,980万kWを確保している。その結果、供給予備率は10社合計で9.8%を確保しており、また、各社別にみても8.1%以上の供給予備率を確保している(
表3参照)。
(2)長期電力供給バランス
長期的にも、今後10年間の電源の開発および電力の適切な調達により、2002年(平成14年)度には2億426万kW、平成19年度には2億2,485万kWの供給力を確保する計画となっている。その結果、最大需要電力に対して、平成14年度で9.1%、平成19年度で9.5%の供給予備率を有しており、安定供給が確保できる計画となっている(
表3参照)。
具体的供給力としては、現在運転中の2億1,536万kW(平成10年3月末現在:
表4参照)に加え、建設中の55基2,848万kW、着工準備中の49基3,652万kW、さらに、平成10年度電源開発調整審議会(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会)上程予定21地点1,413万kW(水力396万kW、火力191万kW、原子力826万kW)が計画されている(
表6参照)。今後とも、将来の電力の安定供給確保の観点から、平成11年度以降上程が予定されている電源等も含め、電源開発を計画的に遂行する必要がある。
3.電源構成の多様化
本供給計画が実現した場合の2007年(平成19年)度末の発電設備の構成を含む推移を
表4および
図1に、同じく発電電力量の構成について
表5および
図2に示す。
電源構成については、非化石エネルギーの中核として原子力の開発を推進するとともに、電源の多様化の観点から、原子力に加え、石炭火力、
LNG 火力、水力(一般および揚水)等についてバランスのとれた開発をすることとなっている。また、石炭火力、LNG火力については、地球環境問題への対応および省エネルギーの推進の観点から、高効率発電方式を採用し発電効率の向上に努めることとしている。さらに、国産エネルギーである一般水力および地熱発電についても、着実な開発を進めることとしている。
原子力については、今後10年間で9基1,128万kWが運転開始し、平成19年度末において5,620万kWになると計画されている(
表4参照)。平成21年度運転開始電源として島根3号が追加されており、平成10年度には6基826万kW電源開発調整審議会(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会)に上程される予定である(
表6参照)。
<図/表>
<関連タイトル>
平成8年度電力供給計画(資源エネルギー庁発表) (01-09-05-04)
電気事業審議会の長期電力需給見通し(1998年6月) (01-09-05-13)
<参考文献>
(1)通商産業省資源エネルギー庁(編):平成10年度電力供給計画の概要(1998年4月)
(2)日本原子力産業会議(編集発行):平成10年度電力供給計画の概要、原産マンスリー、第31号 (1998年6月) p123-165
(3)通商産業省資源エネルギー庁:平成10年度電力供給計画の概要、電力開発計画新鑑平成 10年度版、日刊電気通信社、p26-33 (1998年10月)
(4)電力10社の平成10年度供給計画、エネルギー(ENERGY) Vol.31 No.6、日工フォーラム社 (1998年6月),p56-77
(5)志間 正和:平成10年度 電源開発基本計画の概要、火力原子力発電、Vol.49 No.11、(社)火力原子力発電技術協会、p28-30 (1998年11月)
(6)経済企画庁:平成10年度の電源開発基本計画(第138回電源開発調整審議会)、電力開発計画新鑑 平成10年度版、日刊電気通信社、p5-24(1998年10月)