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<概要>
 戦略的環境アセスメント(SEA:Strategic Environmental Assessment)とは、「政策(policy)、計画(plan)、プログラム(program)」の3つのPを対象とする環境アセスメントである。事業に先立つ上位計画や政策などのレベルで、環境への配慮を意思決定に統合(意思決定のグリーン化)するための仕組みである。日本におけるSEAは、環境基本法第19条に基づき、環境配慮が政策や計画等の策定に当たって適切に行われるように図られているが、その他の先進諸国においても1992年の地球サミットの開催を契機にSEAの制度導入が急速に進んでいる。
<更新年月>
2003年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.海外における戦略的環境アセスメント制度の導入状況
 世界最初の環境アセスメント制度は、アメリカで1969年に制定された国家環境政策法(NEPA:National Environment Policy Act)である。NEPAは『政策・計画・プログラム』を含んだ連邦政府のあらゆる意思決定に対して事前に環境への影響を評価することを義務付けるもので、事業アセスメント(事業アセス)のほか、資源開発や水資源開発等のプログラムに対するアセスメントが行われている。
 一方、その他の先進諸国では、事業アセス(事業の実施段階で行われる環境影響評価)の導入が図られた後、1990年前後から急速に、計画や政策を対象とする戦略的環境アセスメント制度への取組が進められた。1987年にはオランダで環境管理法の改正が行われ、事業アセスと併せて一部の計画・プログラムに対する環境アセスメントが導入されている。
 1990年にはカナダにおいて「政策及び計画案の環境評価手続に関する指令」が発令され、連邦政府機関が政策や計画を閣議に提案する場合には、その環境影響を評価した文書を添付することが求められている。1991年にはイギリスで政策評価の際に環境面からの評価を行うための手引きである「政策評価と環境」が発行された。さらに1992年の地球サミットの開催後、多くの先進諸国では、制度の導入が図られた(表1参照)。
 欧州共同体(EU)でも、1993年にはEUの第5次環境行動計画にSEAの導入の方針が盛り込まれ、1996年には「計画及びプログラムの環境影響の評価に関する指令案(SEA指令案)」がEUの行政府に当たる欧州委員会EC)より提案、検討された。現在、EUにおける環境影響アセスメント制度は、特定の公共および民間事業の環境影響アセスメントに関するEU指令(EIA指令)(85/337/EEC)およびその改正であるEU指令97/11/ECに基づいている。これは「対症療法よりも未然防止に重点を置く」というEU環境政策の基本方針に基づくもので、さらに、2001年7月、EUは戦略的環境影響アセスメント指令2001/42/EC(SEA指令)が発効し、加盟国政府は2004年7月21日までに同指令を国内法として整備することが求められている。
 SEA指令は、政策、計画、プログラムに対する戦略的環境影響アセスメントにおいて、従来からの事業を対象とした環境影響アセスメント(EIA:Environmental Impact Assessment)と同様に環境への重大な影響を特定し評価したうえで、意思決定過程に一般市民の意見を組み入れる仕組みを定めている。対象となるのは、公共の都市・農村計画や土地利用、交通、エネルギー、廃棄物、水、産業(鉱物抽出を含む)、電気通信、観光事業などの戦略的な計画やプログラム、および特定の輸送インフラ計画やプログラムなどである。
 海外におけるSEAの制度を類型化すると、(1)事業の実施段階での環境アセスメントと同一の法制度によるもの、(2)政策を対象とする、事業アセスとは別の制度を設けるもの、(3)その他(政策評価の際の環境面からの評価の指針を定めたもの)という3類型に分類できる。表2にSEA制度の類型化を示す。
 中国、韓国などでも戦略的環境アセスメントの導入に向けた取組が開始されている。
2.主要諸国の制度の概要
 諸外国のうち、アメリカ、カナダ、オランダ、イギリス、欧州共同体(EU)の制度の概要を示す。また、表3-1表3-2表3-3表3-4に海外におけるSEAの事例を以下に示す。
2.1 アメリカ
 アメリカでは、1970年に施行された国家環境政策法(NEPA)に基づき、環境影響評価制度が導入されている。同法では「人間をとりまく環境の質に重大な影響を与える立法の提案、その他の主要な連邦政府の行為に関する全ての勧告ないし報告」が対象となり、具体的には、(1)連邦政府が融資、援助、実施、承認を行う事業、(2)連邦政府が作成する規則、規制、計画、政策及び手続、(3)法律の提案に対して環境影響評価書(EIS:Environmental Impact Statement)の作成を義務付けている。カナダや欧州諸国等が事業、計画・プログラムと政策とで異なる制度を採用しているのに対して、NEPAでは、一つの制度で連邦政府の意思決定を包括的に対象としている点が特徴的である。
 NEPAでは、環境影響評価の主体に関し、EISの内容等については所管の連邦政府機関が責任を持つこととされ、EISについての最終的な判断も担当の機関が行うことになる。一方、環境保護庁(EPA:U.S. Environmental Protection Agency)その他の関係機関は、環境影響評価書案(DEIS:Draft Environmental Impact Statement)およびEISに対する意見が求められ、十分な調整が図られることになる。国民の関与も重視され、スコーピング(*1)、EIS等の段階で行うこととされている。
*1:スコーピングとは、環境影響の調査・予測・評価の作業を事業者が行う前に、調査の項目や手法について予め情報を公開して、住民や専門家あるいは行政の意見を求めるという仕組み、手続きのことをいう。
 手続としては、スクリーニングやスコーピングが設けられており、具体的な評価項目は、事業の特性や環境影響の著しさに応じて担当の機関が関係する省庁や国民の意見等を勘案して定めることとなる。ここで、「人間をとりまく環境」には、自然環境、社会環境、歴史的文化、健康等の要素が含まれている。また、EISでは、すべての合理的な代替案の環境影響を比較可能な形で提示することが義務付けられている。
2.2 カナダ
 カナダでは、1990年の内閣指令に基づき、政策・計画案に対する環境影響評価が行われ、「環境影響評価・レビュープロセス(EARP)」の一環として制定された。なお、1995年には、EARPに基づき、連邦政府の支援や承認を必要とする開発事業を対象とする「カナダ環境影響評価法(CEAA)」の改正も行われている。
 本手続の目的は、立案や意思決定過程において環境への配慮を体系的に組み込むことで、事業アセスを補い、意思決定の早い段階で環境への影響を認識、緩和することができるため、経済面でも効果があるとされている。
 本手続の対象は、閣議に諮られる政策・計画(但し、環境に関連する範囲のものに限る)である。個別の事業については、閣議に諮られるものであってもカナダ環境影響評価法(CEAA)に基づく手続が行われることになる。また、閣議に諮られないものについては、各省の判断により、環境への影響が評価され、評価書が公表される。
 手続は、政策・計画の立案を行う大臣による自己評価の原則に基づき、各大臣がその実施に責任をもつ。環境大臣は、政策・計画の影響評価を促進する責任を有し、各大臣に対して政策・計画の環境への影響や環境上適切な措置を講ずる旨の助言を行う。なお、他省庁への助言は、環境省において行われ、環境レビュー目録の管理や手続上のアドバイス、手続の改善は、環境アセスメント庁において行われている。
 公開評価書が必要な場合、その内容や程度は、各大臣が、国民の関心や各ケースの事情に応じて決定することとされている。国民との協議は、環境アセスメントの重要な要素であり、事業に対する環境影響評価では欠かせないものであるが、協議の性格や内容は各大臣の自由裁量に委ねられている。
2.3 オランダ
 オランダでは、環境管理法に基づく戦略的環境影響評価手続と環境テストとの2つの制度が実施されている。
2.3.1 戦略的環境影響評価の手続
 環境管理法は、国土計画や各部門の活動計画の策定に当たり、環境影響評価を義務付け1987年に制定された。具体的には、国家事業として行う廃棄物処理事業、発電、土地開発、上水道事業など、また、自治体事業として行う地域の廃棄物処理事業、住宅地・工業団地開発事業などがその対象となっている。
 環境管理法に基づく環境影響評価の手順を、図1に示す。オランダでは、計画の立案に際して十分な公開性と住民の参加を確保するとのルールが確立されており、国民は、スコーピングと環境影響評価書の2段階で関与することができることとなっている。また、審査のために環境影響評価委員会が設けられ、スコーピングと環境影響評価書の段階で審査を行っている。環境影響評価書には、合理的な範囲内での考慮すべき代替案の記述や、活動をしない場合との影響比較等が義務付けられている。
2.3.2 環境テスト
 環境テストは、環境に著しい影響を及ぼす可能性のある法律案の閣議決定に際して、環境に関する記載を義務付けるものであり、1994年の閣議決定に基づき実施されている。図2にその手順を示す。なお、法案が議会で審議されるため、環境テストの手続は立案手続に即して関係省庁が共同で行い、国民や環境部局からの意見聴取の手続は特に設けられていない。
2.4 イギリス
 イギリスでは、採るべき手続を公式に定めたSEAの制度は存在しないが、政策や開発計画等の立案に際して十分な環境配慮を行うため、環境省は「政策評価と環境」「計画作成ガイダンスノート12」「適切な実践のためのガイド(A Good Practice Guide)」等の指針を発行している。
2.4.1 中央政府レベルの指針
 財務省により「経済的評価」に関する手引き等によって政策評価が行われている一方、環境への配慮が十分行われていないことに鑑み、1990年の環境白書で指針「政策評価と環境」の作成が決定され、1991年9月に環境省から主に中央政府向けに公表された。
 指針には、環境に対する影響の評価を政策評価に含めることの必要性、そのために必要となる評価プロセス、環境情報の収集方法やそれを政策の立案と評価に用いるための方法等が盛り込まれ、一般的な政策評価の諸段階と、それに沿って環境評価を行うためのチェックリストが示された。
 「政策評価と環境」は、政府のグリーン化(Greening the Government)の中心課題と位置づけられ、1998年にはこの指針が関係省庁への一般向けに改訂されるとともに、「環境に関する技術的ガイダンスのレビュー(Review of Technical Guidance on Environmental Appraisal)」が発行され、(1)環境影響評価、(2)ライフサイクル分析、(3)重み付けによる環境影響評価、(4)戦略的環境アセスメント、(5)リスクアセスメント、(6)多様な規準の分析、(7)費用対効果分析、(8)費用便益分析など、環境影響評価に関する8つの技術手法が示されている。
2.4.2 地方公共団体が策定する地域開発計画の指針
 1990年の都市・農村計画法により地方公共団体(州および区レベル)が土地利用と開発の枠組みを定める開発計画の策定に際して環境への配慮を行うこととされ、また、1991年の計画および補償法により全ての地方公共団体が開発計画を作成することとなった。これを受け、1992年に環境省が同法を解説するため「政策計画ガイダンスノート12」を作成した。同ガイドは、地域開発計画を策定する際に配慮すべき事項として自然保護やエネルギー問題等を取り上げ、具体的にそれらの問題と地域開発計画との関連について説明するとともに、「政策評価と環境」を活用して環境への配慮を政策評価に組み込むことを求めている。さらに、1993年には「適切な実践のためのガイド」も発行されている。
2.5 欧州共同体(EU)
 EUにおける環境政策は、1987年の単一欧州議定書(ローマ条約の大改正単一欧州議定書Single European Act 1986)の発効以来、重要な政策として位置付けられ、特に1992年に決定された第5次環境行動計画は、「持続可能な開発」を基本としたEUの環境政策のガイドラインとなった。第5次環境行動計画の成果に対する包括的な報告書である「グローバル・アセスメント」が2000年5月に欧州委員会により発表された。報告書では、第6次環境行動計画(2001〜2010年)の戦略的視点を示し、EUにおける持続可能な開発の方針の要点となる環境目標や優先事項(気候変動、自然と生物多様性、環境と健康・生活の質、天然資源と廃棄物)が設定された。また、環境に関わる法規制を廃棄物管理、騒音、大気汚染、水質汚染、自然および生物多様性の保護、産業の分野に設けている。
 環境関連の主な指令・規制として、(1)IPPC(Integrated Pollution Prevention and Control:統合的汚染防止管理)指令、(2)EIA(Environmental Impact Assessment:環境影響アセスメント)指令、SEA(Strategic Environmental Assessment:戦略的環境影響アセスメント)指令、(3)セベソ2指令(一定の産業活動に伴う重大事故の危険性に関するEU指令82/501/EEC)、(4)EMAS規則(Eco-Management and Audit Scheme Regulation:環境管理・監査スキーム規則)があげられる。これらのEU法は、環境汚染管理とリスクマネジメントの視点から、産業分野で最も重要な4大柱とされている。
<図/表>
表1 先進諸国における政策・計画等に対する環境評価制度の導入状況
表1  先進諸国における政策・計画等に対する環境評価制度の導入状況
表2 海外におけるSEA制度の類型化
表2  海外におけるSEA制度の類型化
表3-1 海外におけるSEAの事例(1/4)
表3-1  海外におけるSEAの事例(1/4)
表3-2 海外におけるSEAの事例(2/4)
表3-2  海外におけるSEAの事例(2/4)
表3-3 海外におけるSEAの事例(3/4)
表3-3  海外におけるSEAの事例(3/4)
表3-4 海外におけるSEAの事例(4/4)
表3-4  海外におけるSEAの事例(4/4)
図1 オランダにおけるSEAの手順(1)
図1  オランダにおけるSEAの手順(1)
図2 オランダにおけるSEAの手順(2)
図2  オランダにおけるSEAの手順(2)

<関連タイトル>
環境基本法 (01-08-01-02)
環境影響評価法 (01-08-01-03)
地球サミット(UNCED) (01-08-04-08)

<参考文献>
(1)環境影響評価情報支援ネットワーク:
(2)戦略的環境アセスメント総合研究会:戦略的環境アセスメント総合研究会中間報告書(平成11年7月)
(3)社団法人日本機械工業連合会:調査レポート「EUの環境政策と産業」
(4)株式会社EAC:http://www.eac-oki.co.jp/sea/siryou3/hyo3-3.PDF
(5)欧州委員会:環境影響評価指令実施状況報告書
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