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<概要>
 世界の長期エネルギー需給に関する検討事例の概要を整理し、今後のエネルギー需要の動向、資源・環境問題の影響などに関してどのような見方があるのかをまとめた。世界人口を安定化するためには発展途上国の人々の生活水準が向上する必要があり、これは世界のエネルギー消費量の増大を伴う。そこで、資源・環境問題に対応しながら、どのようにエネルギー需要を満足していくかが課題である。
 石油に関しては、在来資源の生産規模は今世紀の前半にピークとなり、それ以降は高コストの非在来資源に移行していく可能性が高い。天然ガスに関しては、在来資源の生産規模は今世紀の後半にピークになるとみられているが、長期展望は石油以上に不透明である。石炭は資源量が豊富であるが、気候変動問題に対応するためには今後大幅に利用を拡大していくことは困難であろう。再生可能エネルギーは近未来に大きく期待することは困難であるが、長期的に気候変動問題に厳しい対応が必要となる場合には重要性が高まる。原子力は社会的受容性の観点から近未来の利用規模拡大は困難であるが、長期的な資源・環境問題に対応していくためには重要な選択肢となる。その場合、燃料サイクルを構築するなどウラン資源の有効利用を図ることが必要である。
<更新年月>
2004年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 近年、気候変動問題への対応が世界全体の課題になってきており、将来のエネルギー需給の見通しについて世界のさまざまな機関によって検討が行われている。検討の対象期間は、2100年頃までの超長期に至るものから2030年頃までを対象としたものなど、検討の目的に応じて多様である。この中で、超長期の見通しは社会経済基盤の変化、資源・環境問題への対応などの観点から一つの将来的なあり方を示す「シナリオ」の側面が強い。これに対して、短中期的な見通しには、これまでの趨勢や現実的制約の下で将来エネルギー需給がどのようになるかといった「予測」としての性格もあるが、ここでは便宜的にこれらのすべてをシナリオと呼ぶ。
 ここで取り上げたエネルギー需給シナリオの検討事例を表1に示した。2100年までの超長期のシナリオは3件で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)排出シナリオ特別報告書(SRES)シナリオ(以下、IPCC-SRESシナリオ)、国際応用システム解析研究所(IIASA)及び世界エネルギー会議(WEC)によるシナリオ(以下、IIASA-WECシナリオ)、日本のエネルギー総合工学研究所(IAE)によるシナリオ(以下IAEシナリオ)である。また、2030年頃までのシナリオとしては、国際エネルギー機関の世界エネルギー見通し2002年版(WEO2002)、欧州委員会よる2030年見通し(EC2003)、米国エネルギー省による国際エネルギー見通し2003年版(IEO2003)の3件である。
 以下に、特に2100年までの超長期検討事例を中心に、横断的、俯瞰的にエネルギー需給シナリオの概要を整理し、今後のエネルギー需要の動向、資源・環境問題への影響などに関してどのような見方があるのかをまとめる。
2.エネルギー需給シナリオの概要
 エネルギー需給シナリオの検討の出発点となるのが人口の展望である。図1は、IPCC-SRESとIIASA-WECシナリオにおいて前提条件とした将来人口である。図中の右側にはIIASA-WECシナリオの場合の地域別構成を示している。この地域別構成の図が示すように、今後の人口増加の大部分が発展途上国で起こると見通されており、そこで、発展途上国の人口増加の程度に応じて世界全体の将来見通しにも大きな幅が生じる。(なお、将来的には現在の先進国と発展途上国の構成国は大きく変動するとともに、「先進」と「発展途上」の概念が質的に変化していく可能性もあるが、ここではあくまで現在の構成国、及び発展の概念に基づいて記述する)
 このような大きな幅が生じる背景には、今後の経済成長の想定の違いがある。世界人口が安定化するシナリオでは、基本的考え方として、発展途上国で一人当り所得が増加し、これによって出生率が低下することが想定されている。逆に言えば、世界人口はこれまでの数十年間概ね直線的に増加し続けてきているが、「人口爆発」がさらに深刻化するのを阻止するためには、発展途上国が豊かになる必要があると考えられている。
 したがって、経済成長の展望も図2に示すように、大雑把にこの人口の見通しと連動したものとなっている。この図は世界各国の国内総生産GDP)を合計したものであるが、2100年には2000年の8〜20倍に増加となっている。また、地域別にみると、例えばIIASA-WECのシナリオBでは、図2の右側に示したように途上国の経済規模が急速に拡大し、 2100年には途上国の比率が全体の約6割となる。
 発展途上国がこのような経済成長を遂げたとすると、所得の南北格差はどの程度縮まるのか。図3に一人当たりのGDPの世界平均値及び各地域の平均値の推移を示した。
 地域別にみると、現在は最大で約42倍ある地域間格差が、例えばIIASA-WECのシナリオBでは今世紀末には3〜6倍にまで縮まることとなる。あるべき未来の姿という観点から、100年後になお地域格差がこれだけあることがやむを得ないかどうかについては意見が分かれるところと思われるが、2100年には途上国人口が先進国の6.4倍(IIASA-WEC)であることを考慮すると、発展途上国の将来の所得水準が世界全体の資源・環境問題に決定的な影響力を持っていると言っても過言ではない。
 以上のような、人口の推移と経済発展の下で、エネルギーの消費がどのように変化するかを図4に示した。この図は各シナリオの一次エネルギー消費量を比較したものであり、経済構造変化などによる単位GDP当たりエネルギー所要量の変化、エネルギー効率の向上などの想定が反映されている。その結果、GDPの急速な伸びに比べるとかなり緩やかに増加しているが、それでも大きいケースでは2100年に現在の5倍以上の消費量となっている。このうち、IIASA-WECのシナリオBにおける地域別のエネルギー消費量を図5に示した。総消費量に占める途上国の比率は2030年に50%を超え、2100年には約4分の3にもなる。また、一人当たりに換算すると、2100年には北米を除けば地域間格差がかなり縮小している。
3.エネルギー源別の見通し
 将来どのような種類のエネルギーをどれだけ利用していくかは、多くの要因に依存すると考えられるが、超長期の観点からは資源規模の問題と環境問題、とりわけ気候変動問題への対応が、エネルギー選択に影響する特に重要な因子となろう。
 上記のエネルギー需給シナリオにおける、石油と天然ガスの消費量の将来推移を図6に示した。多くのシナリオで、石油の消費は今後さらに増えるものの、2020年〜2040年頃に消費量がピークになることが示されている。一方、天然ガスについては、シナリオによって消費量の水準が大きく異なるが、長期的推移としては消費の増大が継続し、消費量がピークになるのは今世紀の後半ないしは世紀末との見方が多い。
 石炭と再生可能エネルギーの消費量の推移を図7に示した。2100年までの超長期のシナリオ(表1)では、基本的に二酸化炭素排出量の抑制を考慮したものが多く、石炭の消費量は長期的にはあまり増大しない。ただし、資源規模が大きいことを反映して、二酸化炭素排出量の抑制を考慮しない一部のシナリオでは大幅に増加することが想定されている。一方、再生可能エネルギーの利用は、大部分のシナリオで2030年頃まではあまり増加しない想定となっている。特に、WEO2002、EC2003といった2030年頃までを対象とした予測型のシナリオでは、増加がきわめて小さい。しかし、長期的には二酸化炭素排出量の抑制の観点から、大規模な利用を想定するシナリオが増加している。
 原子力エネルギーについて、一次エネルギー換算した利用規模及び発電電力量をそれぞれ図8及び図9に示した。図8によると、長期的にはほとんどのシナリオで現在よりも大幅に利用規模が拡大することが想定されている。しかし、短中期的にみると、図9に示すように2030年頃までの予測型のシナリオでは、社会的な受容性に難がある欧米諸国の状況を踏まえて、原子力発電規模の拡大は困難との見通しが示されている。これは、2100年頃までのシナリオでは、2020年〜2030年から既に原子力発電規模が拡大していく想定になっているのと対照的である。非化石エネルギーのうち原子力では社会的受容性、再生可能エネルギーでは経済性などに課題があるが、こうした課題を比較的早い時期に克服してこれら非化石エネルギーを大規模に利用できる条件を整備していかない限り、超長期的な資源・環境問題に対応していくのは困難であることが示されている。
4.環境及び資源問題
 上記のエネルギー需給シナリオにおける二酸化炭素排出量の推移を図10に示す。世界の二酸化炭素排出量は現時点で約60億トン(炭素換算)であるが、2030年には多くのシナリオで100億トンを超えている。2050年以降に関しては、伸びが鈍化、または排出量が低下に向かうものなど、エネルギー選択等に応じて大きな幅がある。
 この排出量の意味合いであるが、IAEシナリオのBとCにおける2100年までの累積排出量は、IPCC第三次評価で作成された550ppm安定化シナリオでの排出量と同じであり、つまりこれらは550ppm安定化を達成できる排出経路を示している。このときの地表平均気温の上昇は2100年で2℃程度、最終的には3℃程度になるものと計算されている。図10に示すとおり、大部分のシナリオではIAEシナリオのBとCよりも大きな排出量であり、地球温暖化の抑制がきわめて困難な課題であることがわかる。
 環境問題とともに長期エネルギー需給の課題となっているのが資源問題、特に石油と天然ガス資源問題への対応である。石油と天然ガスの資源量についてはこれまでに多くの推定事例があるが、米国地質調査(United States Geological Survey,USGS)による在来資源の評価値の推移を図11に示した。石油、天然ガスともに、資源量の評価値は時間とともに増加し、特に、2000年報告で大きく増加したことが分かる。
 しかしながら、例えば石油資源の2000年報告値(総量で約3兆バレル)は存在の確からしさが50%の値であり、これが95%の場合には約2.2兆バレル、5%の場合には3.9兆バレルというように、きわめて大きな不確実性を伴っている。これが今後の見通しに関して悲観論と楽観論とを生む大きな要因となっている。悲観的な見方としては、例えば図12に示すように、世界全体の石油生産量は2010年過ぎにピークを迎えるとの予測事例がある。また、別の検討事例(参考文献8)では非在来資源までを含めれば石油は2060年頃、天然ガスは2090年頃に生産量がピークとなり、今世紀中は石油と天然ガスの供給力に大きな問題はないとしている。
 なお、エネルギー資源に関しては世界全体としてどれだけ存在するかだけでなく、それがどこにあるのかという地政学的な側面も重要である。図13は世界各地域の石油、天然ガス、石炭の確認埋蔵量を現在の各地域の人口で割ったもの、つまり一人当たり資源埋蔵量を比較したものである。アジア地域では、石油、天然ガス資源はほとんどなく、比較的豊富な石炭でさえも世界平均よりも少ないことが示されている。膨大な人口を抱えるこの地域で、今後急増が予想されるエネルギー需要を賄っていくための方策を講じることが切迫した課題となっている。特に、石油の大部分を輸入し、しかもその8割程度を中東地域に依存する日本としては、エネルギー安定供給に寄与する具体的な施策を着実に実施していくことが必要である。
 上記のように、気候変動問題や石油、天然ガスの資源問題への対応の観点から、多くの超長期シナリオでは原子力エネルギーの利用規模を大幅に拡大することを想定している。例えば、IIASA-WECシナリオでは、図14(a)に示すように原子力発電規模の飛躍的な拡大を想定している。もし、現行の濃縮ウラン軽水炉をそのまま利用し続け、燃料の再利用を一切行わない(ワンススルー利用)とした場合に、この原子力発電を行うためにどの程度の天然ウランが必要になるかを示したのが図14(b)である。この試算によると、例えば、シナリオBでは2070年までに約1500万トン、2100年までには3000万トンを超える天然ウランが必要となる。経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)の推定では、存在の不確かな未発見資源量を含めても130$/kgUで生産可能な天然ウランの量は1500万トン程度である。したがって、原子力エネルギーを世界全体で大規模に利用し、超長期にわたって資源・環境問題への対応に役立てていくためには、燃料サイクルを構築してウラン資源の利用効率を大幅に高めることなどが必要とされる。
5.おわりに
 以上の長期エネルギー需給に関する検討事例の整理から得られる主要な所見を以下に整理する。
(1)現在増加し続けている世界人口が安定化に向かうためには、発展途上国の人々の所得水準、生活水準が向上する必要がある。
(2)こうした発展途上国の経済発展、生活水準の向上は世界のエネルギー消費量の増大を招く。資源・環境問題に対応しながら、どのようにエネルギー需要を満足していくかが課題である。
(3)石油に関しては、在来資源の生産規模は今世紀の前半にピークとなり、それ以降は高コストの非在来資源に移行していく可能性が高い。ただし、資源量の評価値にはまだ大きな不確実性があり、楽観的な見方と悲観的な見方がある。
(4)天然ガスに関しては、在来資源の生産規模は今世紀の後半にピークとなる可能性が高い。非在来資源を含めると概ね今世紀末頃まで生産規模を維持できるとの見方もあるが、需要も大幅に増大する可能性があるので、長期展望は石油以上に不透明である。
(5)石炭は資源量が豊富であるが二酸化炭素等の排出量が多いため、気候変動問題への対応の観点から今後の利用規模を大幅に拡大していくことは困難であろう。
(6)再生可能エネルギーは近未来に大きく期待することは困難であるが、世界全体では潜在的資源規模が大きいので、長期的に気候変動問題に厳しい対応が必要となる場合には重要性が高まる。
(7)原子力は社会的な受容性の観点から近未来に利用規模を拡大することは困難である。しかし、長期的な資源・環境問題に対応していくためには重要な選択肢となる。その場合、燃料サイクルを構築するなどウラン資源の有効利用を図ることが必要である。
<図/表>
表1 エネルギー需給シナリオの検討事例
表1  エネルギー需給シナリオの検討事例
図1 世界人口の長期展望
図1  世界人口の長期展望
図2 世界の国内総生産(GDP)の合計
図2  世界の国内総生産(GDP)の合計
図3 一人当たり国内総生産(GDP)
図3  一人当たり国内総生産(GDP)
図4 世界の一次エネルギー消費量の見通し
図4  世界の一次エネルギー消費量の見通し
図5 一次エネルギー消費量の地域別見通し(IIASA-WEC,シナリオB)
図5  一次エネルギー消費量の地域別見通し(IIASA-WEC,シナリオB)
図6 石油及び天然ガス消費量の見通し
図6  石油及び天然ガス消費量の見通し
図7 石炭消費量及び再生可能エネルギー利用量の見通し
図7  石炭消費量及び再生可能エネルギー利用量の見通し
図8 原子力エネルギー利用量(一次エネルギー換算)の見通し
図8  原子力エネルギー利用量(一次エネルギー換算)の見通し
図9 原子力発電電力量の見通し
図9  原子力発電電力量の見通し
図10 エネルギー需給シナリオにおける二酸化炭素排出量
図10  エネルギー需給シナリオにおける二酸化炭素排出量
図11 米国地質調査(USGS)による資源量評価値の推移
図11  米国地質調査(USGS)による資源量評価値の推移
図12 石油生産量の長期予測事例
図12  石油生産量の長期予測事例
図13 人口当たりでみた化石燃料資源の地域分布
図13  人口当たりでみた化石燃料資源の地域分布
図14 原子力発電規模と天然ウラン消費量(IIASA-WECシナリオ)
図14  原子力発電規模と天然ウラン消費量(IIASA-WECシナリオ)

<参考文献>
(1)IPCC Special Report on Emission Scenarios, N. Nakicenovic and R. Swart(Eds.)(2000),http://www.grida.no/climate/ipcc/emission/index.htm
(2)Global Energy Perspectives,N. Nakicenovic,A. Greubler,and A. McDonald(Eds.),Cambridge University Press(1998)
(3)(財)エネルギー総合工学研究所:平成15年度高速増殖炉利用システム開発調査報告書−高速増殖炉・原子力エネルギーのポテンシャル調査−(2004年3月)
(4)World Energy Outlook 2002,International Energy Agency,OECD(2002)
(5)World Energy,Technology and Climate Policy Outlook 2030 - WETO -,EUR 20366, European Commission(2003)
(6)International Energy Outlook 2003,DOE/EIA-0484(2003),Energy Information Administration,U.S.Department of Energy(2003)
(7)Forecasts of Oil and Gas Supply to 2050,Jean Laherrere,Petrotech,New Delhi(2003)
(8)Why Carbon Fuels will Dominate the 21th Century's Global Energy Economy,Peter R. Odell, International Energy Workshop,Paris(2004),http://www.iiasa.ac.at/Research/ECS/IEW2004/program.html
(9)U.S. Geological Survey World Petroleum Assessment 2000,Chapter RV A Review of Previous USGS World Energy Assessment,U.S.Department of the Interior,http://energy.cr.usgs.gov/WEcont/chaps/RV.pdf
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