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1934年ジョリオ・キュリー夫妻(Jean Frederic Joliot、仏、1900〜1958、Irene Curie Joliot、仏、1897〜1956)は、アルミニウム、ホウ素、マグネシウムを
ポロニウムからのアルファ線で
照射すると、線源を取り去った後にも
放射線の放出が続いていることを発見した。放射線は特有の
半減期を持って指数関数状に減衰した。半減期は、アルミニウムについては3.25分、
ホウ素については14分、マグネシウムについては2.5分であった。放出される放射線は、前二者が陽電子、マグネシウムが電子であった。
線源のアルファ線のエネルギーを減少させても、放出放射線のエネルギーと半減期は変わらず、ただ
放射能の強度が低下するだけであった。
どのような放射性元素が発生したのかは、次の化学処理によって判明した。
アルミニウムの場合:照射されたアルミニウム片を塩酸で処理すると、発生した放射能のすべては気体(主として
重水素)に移り、残ったアルミニウムに放射能はなかった。放射能は水酸化リンの形で気体となった。
ホウ素の場合:照射された窒化ホウ素をカセイソーダと加熱すると、放射能はすべてアンモニアに移り、残ったホウ素には放射能がなかった。
以上から、次の核反応が起こったものと推定された。
1)アルミニウム場合:
アルミニウム27の
原子核(
陽子13個、
中性子14個)に
アルファ粒子(陽子2個、中性子2個)が入射し、中性子が放出され、残りの陽子15個と中性子15個で、リン30の原子核が生成される。リン30は陽電子を放出してケイ素30(陽子14個、中性子16個)に
壊変する(現在知られているリン30の半減期は2.50分である)。
2)ホウ素の場合:
ホウ素10の原子核(陽子5個、中性子5個)にアルファ粒子(陽子2個、中性子2個)が入射し、中性子が放出され、残りの陽子7個と中性子6個で窒素13の原子核が生成される。窒素13は陽電子を放出して炭素13(陽子6個、中性子7個)に壊変する(現在知られている炭素13の半減期は9.97分である)。
また、マグネシウムの場合については、前二者ほど簡単には確認できなかったが、次のような核反応が考えられた。
3)マグネシウムの場合:
マグネシウム25の原子核(陽子12個、中性子13個)にアルファ粒子(陽子2個、中性子2個)が入射し、陽子が放出され、残りの陽子13個と中性子15個でアルミニウム28の原子核が生成される。アルミニウム28は電子を放出して、ケイ素28(陽子14個、中性子14個)に壊変する(現在知られているアルミニウム28の半減期は2.24分である)。
<関連タイトル>
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
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<参考文献>
1.ウィークス、レスター著、大沼正則 訳、元素発見の歴史、朝倉書店、1990年、880-881頁
2.マダム・ピエール・キュリー著、放射能 下巻、白水社、1943年、407-409頁
3.プロジェクト物理6、原子核、コロナ社、1985年、85-88頁