<概要>
1919年ラザフォードは、窒素
原子核に
アルファ線を当てると窒素の原子
核破壊が起こり、
陽子が放出されることを確認した。最初の人工的な原子核破壊であった。軽い元素である
ホウ素、窒素、フッ素、ネオン、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素についても、アルファ線を当てると陽子を放出する現象を確認した。
<更新年月>
1999年03月 (本データは原則として更新対象外とします。)
<本文>
1914年ラザフォード(Ernest Rutherford、 英、 1871〜1937)は、重い核ではアルファ線が近付いても核からのクーロン力がアルファ線をはじき返してしまうが、軽い核ではアルファ線が著しく接近すると核または
アルファ粒子の破壊が起こるのではないかと考え、空気にアルファ線を当て、核の破壊によって生ずるかも知れない粒子を、ZnSのシンチレーションによって見つけようとした。1915年に入って弟子のマースデンは、アルファ線の
照射を受けている空気から、長い
飛程の粒子が放出されるのを観察した。最初は、空気中の水素がアルファ粒子との衝撃によってはじき飛ばされたとも考えられた。
1917年から1919年にかけて、
図1 の装置を用いて、ラザフォードはいろいろな条件のもとで、この現象を観察した。その結果、アルファ線が空気中の窒素核に当たると、核が破壊されて水素原子核(陽子)が放出されることが判明した。これは
14Nの原子核(陽子7個、中性子7個から成る)にアルファ粒子(陽子2個、中性子2個)が当たり、陽子1個が放出されて、残りの陽子8個と中性子9個で酸素17の原子核が生成されたものと説明された。最初の人工的な原子核破壊であった。ただし、この
核反応は確率の高いものではなく、霧箱による飛跡観察の結果では、40,000本のアルファ線に対して、陽子の発生を見たものはわずか8本であった。
また、ホウ素、窒素、フッ素、ネオン、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウムについても、アルファ線の衝撃により陽子が発生することを発見した。しかし、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、酸素、炭素については、アルファ線衝撃による陽子の発生は見られなかった。
<図/表>
<関連タイトル>
原子核の発見となったラザフォード、ガイガー、マースデンのアルファ線散乱実験と解析 (16-03-03-06)
人工放射性核種を初めて生成したジョリオ・キュリー夫妻のアルファ線衝撃実験 (16-03-03-08)
原子力・放射線にかかわるノーベル賞受賞者 (16-03-03-13)
<参考文献>
(1) プロジェクト物理6、原子核、コロナ社、1985年、p62-64
(2) エミリオ・セグレ著(久保 亮五、矢崎 裕二 訳):X線からクオークまで、みすず書房、1982年、p145-147
(3) 木村 一治:原子核エネルギー、河出書房、1948年、p18-19
(4) スコーランド著(広重 徹、常石 敬一 訳):原子の歴史、みすず書房、1971年、p155-157