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<概要>
 水素には同位体が存在することが予想されていたが、存在比が約7000分の1と微量であったため、質量分析による検出は困難であり、その発見が遅れていた。1932年ユーレイは、三重点付近で液体水素を分溜し、重水成分を濃縮した試料についてスペクトル線のシフトを観察して重水素の存在を確認した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 重水素の存在比はわずか0.015%であり、微量であるため、質量分析計では発見することができなかった。しかしながら、重水素は水素の2倍の質量があり、性質の差は大きい。水素分子は重水素を含んだ水素分子に比べて蒸発しやすいので、水素を液体にして蒸発させると液相の方に重水素を含んだ水素分子が多く残る。特に液相、固相、気相が共存する三重点で蒸発させると、分離されやすい。
 1932年、ユーレイ(Harold Clayton Urey、米、1983-)達は、このことに着目して、三重点(13.96K、54mmHg)付近で液体水素を蒸発させ、液の方に重水素を含んだ水素を濃縮した。
 水素と重水素とでは、その質量が約2倍違うので原子スペクトルも異なる。わずかであるが、重水素の原子スペクトルは高い振動数の方へ移動する。ユーレイ達は、重水素を含んだ水素の濃縮された試料と通常の水素分子の試料の原子スペクトルを比較し、重水素の存在を確認した。 図1 の上のグラフが通常の水素分子試料のスペクトル、下のグラフが重水素を含んだ水素が濃縮された試料のスペクトルである。下のグラフでは重水素のピークが現われている。
 重水は、中性子減速材としてきわめて有用な材料であり、原子力開発が始まると工業的に量産されるようになった。
 天然水における水素中の重水素の含有率は約0.015%(約7000分の1)であるが、蒸発の際に液体の方に重水素が残る傾向があるため、これに起因して含有率の地域差がある。例えば、赤道上の海水では蒸発が盛んなため重水含有率が地球平均に対して5%ほど上昇しており、極地の降雪では蒸気となって運ばれてくるため重水含有率が20%ほど下がっている。
<図/表>
図1 通常の水素(上)と重水素を濃縮した水素(下)の原子スペクトル
図1  通常の水素(上)と重水素を濃縮した水素(下)の原子スペクトル

<関連タイトル>
原子力・放射線にかかわるノーベル賞受賞者 (16-03-03-13)
1926年〜1939年(昭和元年〜昭和14年) (17-01-01-02)

<参考文献>
1.エミリオ・セグレ著、久保亮五、矢崎裕二訳、X線からクオークまで、みすず書房、1982年、246-248頁
2.H. A. Boorse and L. Motz、The World of the Atom, Basic Books, Inc.(1966), 1269-1287頁
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