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<概要>
 国内に豊富なウラン資源を持つことから、アルゼンチンはこれまで天然ウラン重水炉による原子力発電路線を採用しており、既にウラン採掘から燃料加工に至る重水炉用核燃料サイクルのアップストリームが、アルゼンチン原子力委員会(CNEA)の管理の下にほぼ完結している。ウラン資源に関しては、1990年代後半からコストパフォーマンスを重視して海外ウランの利用に切り替えているが、将来的なウラン需要の増大に備えて国内資源開発にも努めており、アルゼンチン南部のパタゴニア州セロ・ソロで探鉱活動を盛んに行っている。なお、リオネグロ州のピルカニエウ濃縮工場では、20%濃縮ウランを生産して国内研究炉で使用しているほか、研究炉燃料用としてアルジェリアへの輸出も行っている。
<更新年月>
2013年01月   

<本文>
 アルゼンチンの国土の西側にはアンデス山脈が南北に走り、その東側にはチャコとパンパの広大な平原が広がる。アンデス山脈周辺では、鉄、銅、金、ウランなどの鉱物資源が豊富に埋蔵しており、アルゼンチンはこのウラン資源を背景に天然ウラン重水炉による原子力発電路線を採用している。アルゼンチンの主な原子力施設配置図を図1に示す。
1.ウラン資源
 アルゼンチンのウラン探鉱の歴史は古く、1950年代、1960年代初期にかけて行われたエアーボーン地質サーベイにより、次々とウラン鉱床が発見され、その後の商業規模の生産に繋がった。1952年にコルドバ(Cordoba)にパイロットプラントを建設し(1970年閉鎖)、全部で6つの商業規模の生産センターが様々な時期に操業を行っていた(図2参照)。現在はサンラファエル(San Rafael)のみが操業可能であるが、経済性を考慮すると輸入またはスポット市場での入手が容易であるため、1990年代後半から待機状態にある(表1)。しかし、アルゼンチン政府のエネルギー政策では原子力発電の拡大を推進する方針である。アルゼンチン3番目の原子力発電所であるアトーチャ2号機の営業運転を開始した場合、アルゼンチンの原子力発電所の燃料所要量は120tUから220tUへ増大すると予想される。そこで、アルゼンチン原子力委員会(CNEA)はコストパフォーマンスのよい精鉱生産施設の運転開始を提案するとともに、パタゴニア州セロ・ソロ(Cerro Solo)とその近辺で2008年以降3,000mから28,000mの試錐を伴う探鉱活動を盛んに行っている。なお、アルゼンチンの既知資源量(確認資源+推定資源)は年々見直され、2010年には19,600トンU、未発見資源量(予測資源)は13,810トンUである。セロ・ソロに関しては砂岩型のU-Mo鉱石鉱床タイプで、品位は0.3%U、深さ50m〜120mの範囲に存在し、推定埋蔵量は少なくても5,000トンUとされている。周辺区域での資源発見も期待されているが、サンラファエルを含め、環境保全を重視した採掘活動を目指している。
 また、アルゼンチンでは原子力組織の再編に伴い、ウランの探鉱開発、製錬転換工場の運転等を実施していた原子力メンドサSEをウラン供給会社ディオクシテック社として1997年2月に設立した。同社は自社施設での生産、または他の供給国との商業契約により天然ウラン及び濃縮ウランを供給している。
2.転換
 コルドバ(Cordoba)に150トン/年のウラン転換工場(U3O8→UO2)を1982年から操業、エセイサ(Ezeiza)に150トン/年のウラン転換工場(U3O8→UO2)を計画中である。また、ピルカニエウ(Pilcaniyeu)には62トン/年(UO2→UF6)を1984年から操業中である。
3.濃縮
 CNEAはガス拡散法による濃縮パイロットプラントを1990年から運転している。ブエノスアイレスの南方約1,000kmのリオネグロ州ピルカニエウ(Pilcaniyeu)にあり、能力は20トンSWU/年であるが、100トンSWU/年に拡張することが計画されている。生産された濃縮ウラン(20%濃縮)は、国内の研究炉に使われるほか、20%未満の濃縮ウランをアルジェリア、エジプト、ペルー等の研究炉用に輸出している。また、ウラン235濃度を0.85%程度とした微濃縮ウランを製造し、重水炉のエンバルセ、アトーチャ1号機に天然ウランの代わりに装荷して燃料の利用効率を高めることも行われている。
 原子力委員会(CNEA)は、従来の軍用拡散技術を革新的に改良した新型ガス拡散システムSIGMA濃縮工場を建設する方針を2000年4月に示した。同工場は200〜300万トンSWU/年規模で、生産コストは50ドル/SWU以下とされる。
4.燃料加工
 ブエノスアイレスから55km離れたエセイサ(Ezeiza)で、CONUAR SAにより1982年から燃料成型加工工場が運転されている。エセイサ燃料成型加工工場では、アトーチャ1号機用(200体/年)、アトーチャ2号機用(400体/年)とエンバルセ原子力発電所用(5,256体/年)、また研究炉MTR用(26体/年)の燃料製造が可能である。
 また、ジルカロイ管はCONUAR SAにより、アトーチャ発電所に隣接したFAESAでの製造されている。もともと天然ウラン用に設計されていたが、現在では0.85%濃縮ウラン用に変更されている。
5.再処理
 アルゼンチンは、エセイサ原子力研究センターで処理能力5トン/年のピューレックス法再処理パイロットプラントを1994/1995年から運転している。この施設では、アトーチャ1号機の使用済燃料(燃焼度6,000MWD/MT)を再処理することが計画されており、抽出されたプルトニウムをMOX(混合酸化物)燃料としてアトーチャ1号機で再利用する研究も行われている。
6.重水製造
 アルゼンチンは現在までに2基の重水工場を建設した。アトーチャ原子力発電所(Atucha)に隣接して国産のパイロットプラント(2トン/年)を保有していたが、重水需要が増加したため、1980年にスイスのザルツァー社から技術導入して200トン/年のアロイト重水工場(Arroyito)を建設した。1993年からENSI SA(CNEA 49%、ニュークエン州 51%出資の合弁企業)により運転されている。
 1996年4月の入札では、韓国電力公社(現、韓国水力・原子力発電会社)向けの緊急備蓄用重水30トンを、カナダのオンタリオ・ハイドロ社をおさえてアルゼンチンが供給した実績がある。アルゼンチンは人件費とエネルギーコストがともに安いため、カナダのブルース重水工場に比べて製造コストが20%小さいとされている。
 また、ENSI社は1998年2月にカナダ原子力公社(AECL)と、カナダへの将来の重水供給を可能にする了解覚書(MOU)を交わしたほか、2006年11月に長期的な重水供給に関する協定をカナダと締結している。
7.放射性廃棄物処分
 エンバルセ原子力発電所では、100tHM規模の使用済燃料の乾式中間貯蔵施設が1993年から操業している。同発電所の使用済燃料は、使用済燃料プールに10年間貯蔵された後、乾式垂直サイロで管理される。他方、アトーチャ原子力発電所では1988年から湿式貯蔵施設(使用済燃料プール)で管理しているが、エンバルセ型乾式中間貯蔵施設の建設も計画している。
 低レベル廃棄物は原子力発電所サイト内に処分されている。その他の研究・医療・産業用低レベル廃棄物は、エセイサ原子力研究センターで処分されている。
 高レベル放射性廃棄物については、まだ研究段階であるが、ガラス固化セラミック固化を研究中である。処分地については、1977年以来200ヶ所で調査した結果、チューツ州内の廃鉱に深層処分する計画で、事前のフィージビリティ・スタディが行われている。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1 アルゼンチンにおけるウラン生産センター
表1  アルゼンチンにおけるウラン生産センター
図1 アルゼンチンの主な原子力施設配置図
図1  アルゼンチンの主な原子力施設配置図
図2 アルゼンチンにおけるウラン生産センター操業史
図2  アルゼンチンにおけるウラン生産センター操業史

<関連タイトル>
アルゼンチンの原子力開発体制 (14-08-02-01)
アルゼンチンの原子力発電開発 (14-08-02-02)

<参考文献>
(1)(一社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2013(2012年11月)、p.227-230
(2)OECD・NEA/IAEA:URANIUM2011(2012).Argentina

(3)OECD・NEA/IAEA:URANIUM1997(1998)、URANIUM2001(2002)及び URANIUM2003(2004).Argentina
(4)アルゼンチン原子力委員会(CNEA):Nuclear Activities in Argentina (2002年10月)

(5)IAEA/INPRO-ENV-PE 1st Meeting:Level-2/3 PSA: M. Caputo氏発表(CAB - CNEA)、Argentina experience(2012年10月)

(6)国際原子力機関(IAEA):NFCIS(List of Nuclear Fuel Cycle Facilities)

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