<大項目> 海外情勢
<中項目> 中南米各国
<小項目> アルゼンチン
<タイトル>
アルゼンチンの原子力発電開発 (14-08-02-02)

<概要>
 アルゼンチンは豊富なウラン資源を利用した天然ウラン重水炉路線を選択している。現在、アトーチャ1号機とエンバルセの2基が運転中で、全発電電力量の5〜6%を供給している。アトーチャ1号機は中南米初の原子力発電所となるもので、ドイツのシーメンス・クラフトベルク(KWU)社とのターンキー契約で建設された。第2の原子力発電所であるエンバルセ発電所はカナダ型重水炉が採用された。アトーチャ1号機は1974年6月から、エンバルセは1984年1月から営業運転を開始している。
 続いてアトーチャ2号機が1981年から建設を開始したが、資金難で1995年以降建設は中断した。しかし、2000年に入ると、経済成長及び民需拡大を背景に2007年から建設を再開。2014年6月3日には臨界に達し、2014年6月27日には初併入(送電)に成功している。
 また、アルゼンチン原子力委員会はアトーチャ原子力発電所に隣接する敷地内に、独自に開発した小型モジュール炉CAREM25の建設を2014年2月から開始している。機器や関連サービスの7割はアルゼンチンの国内企業から調達する方針で、2017年頃の燃料初装荷を目指している。
<更新年月>
2016年01月   

<本文>
1. 原子力発電所の状況
 アルゼンチンではアトーチャ原子力発電所1号機(圧力容器型重水炉(PHWR)、35.7万kWe)とエンバルセ原子力発電所(カナダ型重水炉(CANDU炉)、64.8万kWe)、合計電気出力100.5万kWが運転中で、アトーチャ2号機(PHWR、74.5万kWe)及び小型モジュール炉CAREM25が建設中である(表1参照)。
 アトーチャ原子力発電所(ATUCHA)は、ブエノスアイレスの北西100kmのパラナ川沿いのリマに、エンバルセ原子力発電所(EMBALSE)はブエノスアイレスの北西約700kmのコルドバ州リオテルセロ人工湖畔に立地している(図1参照)。なお、資金難で1995年から工事進捗率80%で建設を中断していたアトーチャ2号機は、2007年から建設を再開し、2014年6月3日に臨界に達し、2014年6月27日に初送電に成功した。
 アルゼンチンにおける2012年末の発電設備容量は、3,496万kW、その内訳は水力26.0%、火力68.1%、原子力2.7%である。また、2012年の全発電電力量は1,299億kWh、構成比率は水力22.7%、火力70.8%、原子力4.6%である(表2)。発電電力量は2000年〜2012年にかけて年率3.44%で上昇しているが、1997年以降、ガス火力発電設備の建設を強化しているため、原子力シェアは年々減少する傾向にある(図2参照)。
2.原子力発電開発の経緯
 アルゼンチンは、日本の約7.5倍の国土278万km2に約4,298万人が住む南米の大国で、石油、天然ガス、水力のエネルギー資源が豊富なエネルギー純輸出国である。しかし、原油や天然ガスの国内生産量が減少し続けており、近い将来エネルギーの純輸入国になると見られている(図3参照)。このため、エネルギー政策は国内の原油、天然ガスの生産量の増加に最重点がおかれている。原子力発電に関しては電力供給のオプションの一つであり、人的資源利用や雇用創出の場として高く評価されている。
 アルゼンチンでは、1940年代後半から原子力開発に関心を示し、原子力産業の自立化をめざしていた。1950年には原子力委員会(CNEA)が設置され、原子力開発の基盤整備が進められた。原子力委員会を中心に軽水炉及び重水炉の炉型の検討が行われた結果、外国に燃料を依存せず、濃縮ウランを必要としない天然ウラン重水炉が採用された。現在もこの路線が堅持されている。
 1968年、原子力委員会は、アルゼンチン国内初で、中南米最初の原子力発電所となるアトーチャ原子力発電所1号機の建設に関するターンキー契約をドイツのシーメンス・クラフトベルク(KWU)社との間で締結した。アトーチャ1号機は電気出力35.7万kWのPHWR型発電所である。関連機器の4割をアルゼンチン国内企業から調達した(土木工事は8割)。アトーチャ1号機は1974年6月に営業運転を開始した。
 アトーチャ1号機の完成と前後して1973年には、エンバルセ原子力発電所の建設が、カナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada Ltd)(原子炉部分)とイタリアの企業Italimpianti(タービン部分)に発注された。エンバルセ原子力発電所は電気出力64.8万kWのカナダ型重水炉(CANDU−6)で、国内企業の関連機器の調達率は約6割であった(土木工事は100%)。エンバルセ原子力発電所は1984年1月に営業運転を開始した。
 政府はさらに4基の原子力発電所の建設計画を1979年に承認したが、実際に発注が行われたのはアトーチャ2号機(シーメンスKWU製PHWR、74.5万kWe)だけであった。1980年には、アルゼンチンの原子力発電所の主契約者兼アーキテクト・エンジニアとなるENACE(CNEA75%とシーメンス25%の共同出資)が設立されたが、建設資金の確保が困難となって、アトーチャ2号機の建設は1995年に工事進捗率80%で中断した。また、他の3基の建設計画はすべてキャンセルされた。
 なお、アルゼンチンでは国営企業の非効率な運営により負債が増大したとの観点から、1960年前後に一部の民営化が実施された。しかし、こうした動きが本格化したのは1992年で、電気事業でも一部の国営企業が民営化された。アトーチャ1号機とエンバルセの両原子力発電所は、原子力委員会(CNEA)の管轄下にあったが、1996年の原子力開発・規制体制の再編成で、建設中のアトーチャ2号機も含め、国営のアルゼンチン原子力発電会社(NASA:Nucleoelectria Argentina S.A.)が所有・運転することになった。
3.原子力発電開発計画
 アルゼンチンの経済は、1999年1月のブラジル金融危機以来、次第に景気が低迷し、経済危機に転化したが、国内内需の拡大や自由変動相場制への移行などで、経済回復に成功し、高成長を維持した。しかし、2013年以降、個人消費の伸び悩みから景気は急速に減速している。一方、発電電力量は国内需要の増加から2000年〜2012年にかけて年率3.44%で上昇し、その後も発電量は2013年に1,395億kWh、2014年に1,400億kWhと年率+0.3%で上昇している。
 このような状況をうけ、2006年8月にはデビド企画・公共投資大臣から、今後8年間に約35億ドルを投じる原子力発電開発計画が発表された。計画では、(1)運転開始2010年半ばを目標にアトーチャ2号機の建設を再開する(見積額6億ドル)、(2)2年以内にエンバルセ発電所のバックフィット作業に着手し、運転寿命を25年延長させる(見積額4億ドル)、(3)3年以内に重水生産容量を拡大し、アトーチャ2号機に必要な重水量を確保する(見積額2億ドル)、(4)アトーチャ2号機運転開始後、新規原子力発電所建設のフィジビリティ・スタディを開始する(見積額20億ドル)、(5)INVAP社を中心に同国が独自開発中の小型炉CAREM(Central Argentina de Elementos Modulares、熱出力10万kW、電気出力2.5万kW、一次系一体型PWR)の原型炉研究開発を推進する、(6)IAEAなど国際的枠組みを遵守した上でウラン濃縮活動を再開する(同国は1983年にガス拡散法ウラン濃縮に成功したが、資金難で活動は凍結した)、となっている。
 アトーチャ2号機に関しては、2014年6月3日に臨界に達し、2014年6月27日に初送電に成功した。また、エンバルセの寿命延長プログラムについては、南米諸国向けの開発金融機関であるアンデス開発公社(CAF、本部カラカス)からの融資を得て、総工費13億6,600万ドルで、圧力管や蒸気発生器、その他の機器の交換とアップグレードにより、電気出力を3.5万kW向上させ、30年間の運転寿命延長を図っている。作業はカナダ・AECL社の協力で2015年11月から開始し、20ヶ月ほどで終える予定である。
 原子炉増設に関しては、アトーチャ3号機(80万kWe級加圧重水炉)を中国の協力を得て建設することが予定されている。そのため、2015年2月には中国との原子力協力協定を批准し、2015年11月にアルゼンチン国営発電会社(NASA)と中国核工業集団公司(CNNC)が商業的枠組み契約を締結した。CNNCは中国秦山−III原子力発電所で運転する70万kWe級カナダ型重水炉(CANDU−6)を参照炉として、資金、技術、機器、資材等を提供する一方、国産化重視の観点から、所有者兼アーキテクト・エンジニアであるNASAが準備作業から、設計、建設、運転を担当し、使用機器や関連サービスなどの7割を国内企業から調達する。また、アトーチャ4号機には中国国産第3世代PWRである華竜1号(Hualong One)が採用される予定である。アルゼンチン政府はさらにアトーチャ5号機、アトーチャ6号機の建設を視野に入れ、2014年7月にはロシア政府と二国間協力協定を、2015年4月には原子炉建設に関する了解覚書(予備プロジェクト開発協定)を締結している。
 また、原子力委員会(CNEA)は2014年2月、アルゼンチンが独自開発した電気出力2.5万kWの一体型PWR原型炉「CAREM25」の本格着工を発表した(図4参照)。この小型モジュール炉(SMR)はCNEAが設計し、使用機器や関連サービスの7割を国内企業から調達する。直径3.5m、高さ11m、重さ約200トンの円筒型圧力容器は国内のIMPSA社に既に発注済みで、2017年後半の燃料初装荷を目指している。
(前回更新:2012年12月)
<図/表>
表1 アルゼンチンの原子力発電所
表2 アルゼンチンの発電設備容量および電力需給バランス
図1 アルゼンチンの原子力発電所の分布地図
図2 アルゼンチンの発電電力量の推移
図3 アルゼンチンにおけるエネルギー需給バランス
図4 CAREM原子炉の概要

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
重水冷却圧力容器型炉 (03-02-05-02)
アルゼンチンの原子力開発体制 (14-08-02-01)
アルゼンチンの核燃料サイクル (14-08-02-03)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:原子力年鑑2016年(2015年11月)、アルゼンチン
(2)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2015年版(2015年4月)
(3)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編(1995年3月)、アルゼンチン、p.647−659
(4)米国エネルギー情報局:
(5)国際エネルギー機関(IEA):Argentina:Statistics、http://www.iea.org/countries/non-membercountries/argentina/http://www.iea.org/stats/WebGraphs/ARGENTINA3.pdf
(6)国際原子力機関(IAEA)中・小型原子炉技術ワークショップ:CNEA(CAB)Zanocco氏発表「CAREM技術概要と計画ライセンス状況」(2011年12月)
(7)世界原子力協会(WNA):アルゼンチン、http://www.world-nuclear.org/information-library/country-profiles/countries-a-f/argentina.aspx、Nuclear share figures、http://www.world-nuclear.org/information-library/facts-and-figures/nuclear-generation-by-country.aspx
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