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<概要>
 大量に核物質を取り扱う六ヶ所再処理工場に適切な保障措置を適用するために開催されたLASCAR(Large Scale Reprocessing Plant Safeguards)と呼ばれる国際的な技術会合における検討において、既に利用可能となっている保障措置技術を、施設の特徴に基づいて選択し、適切に組み合わせることにより、商業規模の再処理工場に対する国際保障措置の目標を達成できるとの結論が得られた。これを受けて、最新の計量管理システム、工程モニタリングおよびNRTA(ニア・リアルタイム計量管理)などの補助的手段の採用に加え、査察官の非立会検認システムや自動データ収集システムなどの導入により、六ヶ所再処理工場に適用する効果的で、効率的な保障措置システムが開発された。
<更新年月>
2007年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 六ヶ所再処理工場は、800t/年の使用済燃料を処理し、年間のプルトニウム回収量が約8tとなる、商業規模の大型施設であり、高度に自動化されたシステムにより運転されている施設である。表1に六ヶ所再処理施設の主な仕様を示す。
 このような商業規模の再処理工場に対して適切な保障措置を適用するために、再処理技術保有国である仏、独、日、英、米国の五か国に保障措置を実施する国際原子力機関(IAEA)およびユーラトム(EURATOM)の2つの機関が加わり、LASCAR(Large Scale Reprocessing Plant Safeguards)会合が、1988年から1992年の5年間にわたって開催され、1992年5月に最終報告書が取りまとめられた。5年間の検討の結果、「既に利用可能となっている保障措置技術を個々の施設の特徴に基づいて選択し、適切に組み合わせることにより国際保障措置の目標は達成可能である」との結論が得られた。
 六ヶ所再処理工場において、LASCARの結論に基づき、査察側および施設側の協力の下、測定技術の向上を目指した最新の技術を採用した計量管理システム、工程のモニタリングおよびNRTA(ニア・リアルタイム計量管理)などの補助的手段の採用、査察官非立会検認および施設側機器の利用などのシステムおよび自動データ収集システムなどを導入することにより、効率的で効果的な保障措置システムが開発された。また、再処理工程から採取したサンプルの保障措置分析を実施するために、IAEAと国が共同で運用する六ヶ所保障措置分析所(OSL)が施設内に設置され、査察者による保障措置分析業務が迅速かつ的確に行えるなどの設備対応がされている。
 このような保障措置システムの導入により、東海再処理工場の査察活動をそのまま六ヶ所再処理工場に適用した場合に比べ、3分の1近くまで査察業務量を低減することが可能となった。
 六ヶ所再処理工場においては、各工程で取り扱う核物質の種類および形状にあわせて、次のような保障措置システムを構築した。
(1)使用済燃料受入・貯蔵区域
 査察の効率化を目的としてデュアルC/S(二重閉じ込め・監視)を導入するという考えに基づき、監視カメラと放射線検出器で構成された保障措置手法が構築された。
(2)ヘッドエンド区域
 連続溶解・清澄工程を考慮した受払間差異(SRD)の報告方法、使用済燃料のプールからせん断機までの移動に関する知識の連続性、ハル・エンドピースに付着する核物質を測定する施設側のハルモニタの有効利用を図るため、信号の一部を査察側が独自に利用することになった。
(3)主工程
 溶液上の核物質を扱うために、核物質の破壊分析用の試料採取とその採取した試料のオーセンティケーション、また、大量の核物質を取り扱う工程であるために補助的手段である工程モニタリングおよびNRTAが適用された。
(4)MOX転換工程
 主工程と同様にNRTAが適用された。
(5)製品貯蔵工程
 保管される製品が大量であるため、年1回の検認(実在庫検認、PIV)に必要な測定数が増大することを避けるため、製品が貯蔵工程に移管される際に非破壊分析装置(NDA)で測定し、貯蔵庫にデュアルC/Sを適用することにより、PIV時の測定数の低減を図った。
(6)廃棄物処理・貯蔵区域
 最新のNDA機器による測定を行い、測定精度を向上させた。
 これらの保障措置システムは、施設側への影響を最小限とするために、国およびIAEAによる共同利用とされ、それらをネットワーク化し、ほとんど全ての保障措置データ(NDA機器、C/S、モニタリングの各データ)は一元的に査察データベースに集められ、国およびIAEA側がそれぞれにそのデータベースからデータを取得し、独立して適時な評価を行うこととされた。
 また、特に主工程から採取された試料の分析のために、六ヶ所再処理工場内にOSL(On-Site Laboratory)が設置された。特筆すべきは、このOSLが国およびIAEAの共同利用でありながら、お互いに独立検認のためのデータをどのように取得するかという手順書の作成が重要であったということである。
 図1に六ヶ所再処理工場の計量管理体制を示す。

[用語]NRTA、Near Real Time Material Accountancy(ニア・リアルタイム計量管理)。保障措置手段の根幹の計量管理である。特にプルトニウムのような保障措置上重要な核物質を取扱う施設では、計量精度と計量頻度の向上が必要となる。計量精度は、計量管理の不確かさを小さく抑えるために必要であり、計量頻度は、適時性達成の観点から必要となる。NRTAは、在来型の計量管理と同様に物質収支を閉じ、在庫差(MUF)を確定し、これを要素として計量管理を行う。在来型の計量管理と異なる点は、物質収支の頻度が高くなることと、計量の対象となる点が若干増えることである。NRTAの他に、適時性達成を目的として考案された手段には、フランスが提案したランニング・ブック・インベントリィ(RBI)、米国が提案しているプロセスモニタリングおよび最近米国で開発されているAdjusted RBIがある。
<図/表>
表1 六ヶ所再処理施設の主な仕様
表1  六ヶ所再処理施設の主な仕様
図1 六ヶ所再処理工場の計量管理体制
図1  六ヶ所再処理工場の計量管理体制

<関連タイトル>
再処理施設の核物質計量管理 (04-07-03-03)
六ヶ所再処理工場 (04-07-03-07)
再処理施設を対象とする保障措置 (13-05-02-14)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)
保障措置に関する技術開発 (13-05-02-19)

<参考文献>
(1)藤巻和範:大型再処理工場の建設と日本による保障措置システム構築への取組み、核物質管理センターニュース、Vol.34、No.9、8-11(2005年9月)
(2)藤巻和範:六ヶ所再処理工場の保障措置システム、原子力委員会政策評価部会、第8回会議資料(2006年10月5日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/seisaku/siryo/seisaku08/siryo3.pdf
(3)富川裕文:六ヶ所再処理工場の保障措置構築に向けた政府の取組み、核物質管理センターニュース、Vol.34、No.10、6-10(2005年10月)
(4)蔦木泰宏:オンサイトラボ計画のスタート当時、核物質管理センターニュース、Vol.34、No.11、20−24(2005年11月)
(5)S.J.ジョンソン:六ヶ所再処理工場に対するIAEA保障措置システムの開発、核物質管理センターニュース、Vol.35、No.1、10-16(2006年1月)
(6)日本原燃(株):パンフレット「六ケ所再処理工場の概要」(2003年8月)、p.3、p.8
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