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<概要>
 原子力を取り囲む国際環境は流動性を増している。国際的には「核不拡散と平和利用の両立」を目指した核燃料サイクルの多国籍管理構想や共同開発体制、国際標準設計、さらには、原子力安全規制面での国際的調和もIAEAを中心に議題となっている。置いていかれないためには、議論に加わる国際原子力人が求められている。これら国際的な枠組み議論には当然、国際的な基準、運営が必然で、日本人がこれらの規範を先頭に立って構築していかなければリードできない。多くの国で参考にされるIAEA編集の「基準指針」類を例にするなら、基準、規範を「吸収輸入」するのではなく、それらを「作り上げる」一員として「共同作業」に参画すべきなのである。ところが現実にIAEA内部で働く日本人職員が非常に少ないために日本の原子力文化が国際的な場に期待するほど浸透しない。外務省国際機関人事センターや日本原子力産業協会では、より多くの原子力技術者が日本原子力の国際化に参画できるよう支援活動を進めている。
<更新年月>
2006年07月   

<本文>
 原子力を取り囲む国際環境は流動性を増している。21世紀を展望して「核不拡散と安全確保を柱としつつ、次世代炉の積極的開発」を国際戦略と位置づけ、知識や技術の交流、共同研究開発、開発途上国支援も平和利用を国是とするわが国の使命として取り組んでいる(原子力大綱、原子力委員会、平成17年10月)。
 国際的には「核不拡散と平和利用の両立」を目指した核燃料サイクルの多国籍管理構想(*1)、共同開発体制(*2)や国際標準設計(*3)が提唱され、次世代炉開発イニシアテイブ(*4)も進んでいる。軌を一にして、原子力安全規制の調和、世界共通の枠組みもIAEAを中心に議題となっている(図1)。置いていかれないためには、議論に加わる国際原子力人が求められている。
 わが国原子力業界も「国際協力」を重視し交流を続けてきたにしては、日本が国際化しているようには見えない。「国際的枠組み作りへの貢献、人材貢献が足りない」と言われることが多い。それは、日本が「移入(Take)」には熱意があっても、「移出(Give)」志向が弱かったからである。
 従来「日本は独自の(国際基準より高い)基準と技術で高品質、高信頼性を達成し、国民に寄与」する姿勢で来た。「日本特殊」感覚が「世界の常識」への感度を低めていたと言える。他国の範ともなり得る高い性能を実現する一方で、「孤高」で「閉鎖的」な原子力文化を国レベルで、企業レベルで育んで来たのである。それが「失われた10年」を齎し、「原子力ルネッサンスを日本でも」と耳にする現在につながっている。
 例えばプルサーマル、負荷追従運転クリアランスレベル、運転開始後のプラント維持基準など、いずれもわが国原子力界で日差しの弱いテーマである。最近漸く実行の環境が整ったものもあるが、動きは緩やかである。国際的なプラクティスから「学びあるいは利用」していれば、もっと早くに取り入れ得た点があったはずである。これらの例が示すように、「ライフ全体を通して『欧米を始めとする原子力国では普通』と受け止められていること」が、「日本でのみ特殊扱いされている」例が少なくない。しかし、原子力先進国では、「持続性のある世界」への貢献に戦略的であり、原子力「国際環境の中」での「原子機材・技術の輸出推進」にも熱心である。そこに「国際機関と協調し、『利用』」する姿が見える。
 国際展開には「国際の場を知る」人材が必要である。「国際力即ち英語力」ではない。語学は必要条件ではあるが十分条件ではない。必要なのは、原子力知識をベースにした、英語での交渉力、調整能力であり、リーダシップ、管理能力である。異文化の中でのコミュニケーションと言って良い。東南アジアを初めとする開発途上国に対しては医療や農業、工業利用分野での移転が現在の柱であり、原子力発電は今後の成長分野である。原子力発電の経験を有する欧米や中印を主にした工業国相手には商業ベースの輸出が柱である、
 上述したように、「原子力国際化、多国籍化」「核燃料サイクル施設の多国籍管理」「国際共同設計」が話題になる現実である。そこには当然、国際的な基準、運営が必然となる。日本人がこれらの規範を先頭になって構築していかなければ、リードできないし、国益への貢献はままならない。できあがった基準、規範を「吸収輸入」するのではなく、それらを「構築運営」する一員として参画すべきなのである。その効果的推進が「共同作業」である。論文発表や会議での情報交換以上の実践レベルでの交流、文化の共通化を考えるべきなのである。
 IAEA編集の「基準指針」類で考えてみる。開発途上国が原子力を始めようとする場合、ほとんどはIAEAの「基準指針」類を出発点にする。原則としてIAEAの「指針」類に拘束力はないが、多くの国で参考にされ活用されている。これは、燃料、廃棄物管理や原子力技術、放射線技術の応用分野でも同様である。先進工業国でもヨーロッパを中心にIAEA基準類との調和を目指す動きが目立って来ている。「輸出」の戦術を考える段階で初めて「国際的基準」を勉強するのでは遅いのである。日頃から海外の原子力文化を「知り」「調和をとる」(より直截的に表現するなら、日本の基準・考え方に相手を調和させる)ことが、技術移転、輸出戦略上重要なのである(図2)。すなわち、設計、QA、運転、保修、廃棄物管理、安全、PA、その他いろんな分野で原子力文化の国際化、つまり共通化、平準化が必要になる。輸出が現実化した場合に、そのプロジェクト遂行を円滑に進めるための現地との共生行動(現地インフラとの調整、社会受容性の向上支援、運転保守要員の養成、工業基盤育成支援など、現地特有の状況に応じた地道な対応、それは「ローカルエンジニアリング」とも呼べるシステム思考を必要とする)にも有効であり、それがコスト低減になって返ってくる。
 それでは「IAEA原子力文化との調和」を計るためにはどうするか。その最良の道が、日本の原子力文化を背景にIAEAの「指針」類作りに参画することである。それも会議で情報を提供し意見を述べるだけではなく、「指針」類作りの計画、実行に担当者として実務に参画することである。ところが現実にIAEA内部で働く日本人職員は非常に少ない。2005年10月時点の26名はG8諸国の中ではイタリアに次いで下から2番目、韓国と同数である。専門職全職員数の約3%に過ぎず、20%近くの運営資金を分担する日本は代表的なアンダーレプレゼンティッド国なのである。
 職員の絶対数、とりわけ計画実行を担う中堅部隊(P4、P5)が少ないために日本の原子力文化が国際的な場に期待するほど浸透しない。IAEAの活動方針作り、基準・指針類への日本カルチャー反映(ニーズもシーズも)、日本技術への理解、開発途上国への技術広報などは職員の立場で効率的に取組めるのである。委員会議長などの重要ポストに日本人専門家を招聘、委嘱するにも現地スタッフの力が大きく作用する。活動計画の立案や日本の国情に合う目標アウトプットの仕様作りに参画し、規制や基準の方向性に関する情報に早い段階で関与し得ることは日本の原子力に直接的に反映できる利点である。技術分野では特にエンジニアリング分野、研究応用分野でその必要性が高い。IAEAの技術系5部局の中で言えばエネルギー局、安全局、原子力科学・応用局である。保障措置局、技術協力局がこれに次ぐ。
 もちろんIAEAが「日本原子力文化の国際化」に必要な唯一の組織ではない。他の国際機関や個々の国との二国間関係も重要である。が、国内における原子力文化の再生、将来の「輸出」を考えた国際化にはIAEAの「利用」価値を再評価してよい。IAEAの場で職分を担うことは原子力の平和利用を国是とする日本の、日本人技術者の使命でもなかろうか。
 なぜ応募者が少ないか。個人としては生活や語学の不安もあるだろう。が、より大きいのは「帰国後の職場」への不安である。しかし、国内では職域経験を広め、人の輪を広げるために「出向」する例が多い。上述のように日本原子力へのプラスの見返りも期待できるのである。勤務経験は帰国後の業務分野、職域に新しい可能性も与えてくれる。組織としても職員としての派遣に積極的な意義を見出す意味がある。希望する機関には、登録すれば空席公募情報を公告と同時に流してくれることになった(平成18年3月)。行政的には、勤務経験者の登用制度や人材バンク制度などがあると応募者の動機付けに繋がる。生活や語学の問題は個々人が心配するほど深刻ではない。
 国際要員にどんな能力、経験が求められるか。専門分野での実務経験に加えて、マネージメント能力、国際経験、異文化との協調性、良好な人間関係等だろう。国もとの関連情報、専門家情報を集めることもIAEA職員に期待される要件である。専門分野、マネージメント能力では「普通の日本人技術者」ならほとんど適格者である。あとは「英語で仕事をする」語学力と経験である。「英語で会議を取り仕切る」能力も必要である。思い立って身に付く能力ではない。個人の努力による日頃の積み上げが問われる。
 「日本原子力文化の国際化」のために国際的な場で働く人、「国連(IAEA)も働く場所としての選択肢」と考える人、チャレンジする人が望まれている。外務省国際機関人事センター(http://www.mofa-irc.go.jp/ )では関心ある人に支援情報を提供し、将来性ある若い人たちの派遣(Junior Associate)支援制度を設けている。原産協会(http://www.jaif.or.jp/)でも、より多くの技術者が「日本原子力文化の国際化」に携わってもらう願いを込めて「国連機関応募の勧め」を運営している(図3)。ここには、ポストの探し方、応募用紙の書き方、適性自己診断などがある。最近のIAEA勤務経験者の協力も得て、相談窓口も常時機能している。
 最近では東京大学に国際人養成の専門コースが設けられ、社会人にも窓口を開いている。東工大COEでは若い層にインターン派遣などの場を提供している。組織としても、個人としても、「国際力ある原子力人」養成、活用に関心を持つ場が増えている。
(*1) IAEAが提唱するMultilateral Nuclear Approaches (MNA)
(*2) 米国が提唱する共同開発体制Global Nuclear Energy Partnership (GNEP)
(*3) 多国籍設計認証構想Multinational Design Approval Program (MDAP)
(*4) IAEAが推進するInternational Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles (INPRO)や米国が主導するGeneration IV International Forum (GIF)
<図/表>
図1 国連旗
図1  国連旗
図2 国際原子力機関IAEA本部
図2  国際原子力機関IAEA本部
図3 日本原子力産業協会ホームページ「国連機関応募の勧め」
図3  日本原子力産業協会ホームページ「国連機関応募の勧め」

<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
日本のIAEA/RCAへの協力 (13-03-02-03)

<参考文献>
(1)外務省国際機関人事センター:http://www.mofa-irc.go.jp/
(2)原子力産業協会:国連機関応募の勧め
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