<本文>
1.FNCAの目的と経緯
1.1 目的と加盟国
アジア原子力協力フォーラム(FNCA:Forum for Nuclear Cooperation in Asia)は、近隣アジア諸国が原子力分野の協力を効率的かつ効果的に推進する目的で創られた原子力平和利用のための協力の枠組である。日本(文部科学省)は、その運営に主導的役割を果たしている。この枠組には、2014年には12カ国(日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナム)が加盟している。国際原子力機関(IAEA)はオブザーバである。
1.2 経緯(
表1)
日本は、将来のエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興を図り、人類社会の福祉と国民生活の向上への寄与を目的に、自主・民主・公開の三原則の基に1955年から原子力の平和利用を進めている(昭30、原子力基本法)。
1978年には、IAEAの「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に加盟し、アジア諸国との原子力協力を開始した。
(社)日本原子力産業会議(原産)は1983年に「国際協力センター」を開設し、近隣アジア諸国との協力を進めた。当センターは1999年に「アジア協力センター」に改称された。なお、原産は2006年に(一社)日本原子産業協会(原産協会)に改組されている。
1987年には、原子力長計(原子力の研究、開発および利用に関する長期計画)の中で、「原子力利用によるアジア地域の効率的福祉向上のために原子力利用に関する地域ぐるみの協力の有効性」について述べられ、アジア地域との原子力平和利用の協力方針が示された。
原子力委員会は、1990年に第1回 アジア地域原子力協力国際会議(ICNCA)を開催し、アジア地域の各国大臣クラスと地域協力について合意し、協力が開始された。
表2は、ICNCAの基で1991〜99年に実施された7分野の協力と成果の概要を示す。
1998年の第9回ICNCAにおいて、日本は協力の発展のため体制の見直しを提案し、1999年の第10回ICNCAで「アジア原子力協力フォーラム(FNCA)」の発足が決められた。
2000年に第1回FNCAがタイで開催され、9カ国(日本、オーストラリア、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)が加盟した。IAEAは、オブザーバである。協力は7分野(研究炉利用、
ラジオアイソトープ(RI)・放射線の農業利用、RI・放射線の医学利用、パブリック・アクセプタンス、放射性廃棄物管理、原子力安全文化、人材養成)であった。
2006年にバングラデシュが10番目の加盟国となった。
さらに、カザフスタンとモンゴルが2010年に加わって加盟国は12カ国となり、協力分野は4分野(研究炉利用開発、放射線利用開発、原子力安全強化、原子力基盤強化)に再編成された。
2.FNCAの構成と事業
(1)FNCAの構成
図1は、FNCAの2014年における全体像を示す。FNCAは「大臣級会合」と「コーディネーター会合」による組織的推進を図っている。また、各国のコーディネーターの下で、それぞれの国のプロジェクト・リーダーがプロジェクトをまとめる。個々のプロジェクトに関して、毎年ワークショップを開き、情報交換、人員交流、技術交流等を通じて研究開発の推進を図っている。
(2)大臣級会合
原子力の研究開発を所管する大臣級代表による毎秋の会合と、上級行政官による会合で構成される。加盟国の協力方策、原子力政策やその他の重要事項について討議・決定する。
(3)コーディネーター会合
活動を束ねるコーディネーターが各国に1名選任されている。コーディネーターは、自国の分野毎のプロジェクト・リーダーと共に協力活動をまとめるとともに、毎年3月頃に開催されるコーディネーター会合に活動状況を報告し、新プロジェクトの導入、協力方策等を討議する。重要な事項は、毎秋開催される大臣級会合に報告・提案される。
(4)プロジェクト・リーダー
プロジェクト・リーダーは、各国のプロジェクトの責任者でありその活動をとりまとめる。
(5)パネル
2004年にパネル(原子力発電のための基盤整備に向けた取組に関する検討パネル)が事業に追加され、アジア地域のエネルギーと環境問題について検討を続けている。
3.協力活動
3.1 協力分野とプロジェクト
表3-1、
表3-2は、FNCAの協力分野とプロジェクトの変遷を示す。協力分野とプロジェクトは、研究開発の進展、国際社会の状況、各国の要請等により変化している。
(1)プロジェクト
協力活動は、2000年に7分野で開始されたが2001年に電子線加速器の工業利用が追加され8分野となった。2006年には「研究炉利用分野」の「テクネシウム99mジェネレーター」プロジェクトが目的を達成して終了した。一方、「中性子散乱」プロジェクトは、アジア諸国の設備・装置が整備されるまで中断されることになった。2009年に、「放射線利用開発」分野のうち医学利用の「医療用PET・サイクロトロン」プロジェクトが終了した。
2010年には、協力活動は4分野(研究炉利用開発、放射線利用開発、原子力安全強化、原子力基盤強化)の11プロジェクトに再編成された。2000年に開始された「原子力基盤強化」分野の「原子力広報」プロジェクトが終了した。
2011年、「原子力基盤強化」分野に核保安、
保障措置、情報交換、人材育成等が目的の「核セキュリティ・保障措置」プロジェクトが発足した。
(2)プロジェクトの活動状況
表4は2014年に進められている4分野10プロジェクトの概要を示す。「研究炉利用開発」分野には、2プロジェクトがある。「放射線利用開発」分野には、健康と産業/環境に関する4プロジェクト、「原子力安全強化」分野にはマネジメントと安全・廃棄物の2プロジェクト、そして、「原子力基盤強化」分野には人材養成と核セキュリティ・保障措置の2プロジェクトがある。
各プロジェクトでは、情報交換しながら共通課題、共同研究等を検討し、その効率的推進のためにワークショップを年1回の割合で開催している。
表5は、第13回から第14回大臣級会合(2012〜2013年)の約一年間におけるFNCAの活動例である。プロジェクトの成果は、研究論文、ガイド・マニュアル、成果集、講演会「アジアの発展と原子力」等で公表されている。
3.2 パネル(原子力発電のための基盤整備に向けた取組に関する検討パネル)
経済成長の著しいアジアでは、エネルギー需要の急激な増大があり、化石燃料資源の少ない国々では原子力エネルギーは重要な選択肢であると認識されている。FNCAでは2004年に、原子力発電のための基盤整備に向けた取組に関するパネルデスカッションが開始され、2014年までに3フェーズの検討が進められた(
表6)。
第1フェーズ(2004〜2006年)では「アジアの持続的発展における原子力エネルギーの役割」に関して、FNCA参加各国の長期エネルギー需給、環境影響、経済性、原子力エネルギーの役割が検討・評価された。
第2フェーズ(2007〜2008年)では、「アジアの原子力発電分野における協力」に関して、原子力発電導入に必要な人材育成、原子力発電の安全確保と基盤整備等が検討された。
第3フェーズ(2009〜2014年)では「原子力発電のための基盤整備」に関して、2013年度までに、各国の基盤整備の現状、核燃料サイクルと放射性廃棄物、研究機関の役割について検討された。また、福島第一原子力発電所の事故に関連して、情報の共有、知見・教訓、緊急時対応、立地評価、リスクコミュニケーション、原子力損害賠償、緊急時の地域協力、核セキュリティ、市民との意見交換等について議論された。2014年度には、ベトナムの原子力発電計画、福島第一原子力発電所の現況と計画、技術支援機関、中小型炉開発、緊急時対応・準備、ステークホルダー・インボルブメント(利害関係者間の連携)等について検討された。この活動は、さらに次フェーズに引き継がれる予定である。
(前回更新:2006年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
IAEAのアジア・太平洋地域協力協定(RCA) (13-03-02-02)
日本のIAEA/RCAへの協力 (13-03-02-03)
原子力委員会 (10-04-02-01)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)
<参考文献>
(1)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)ホームページ、FNCAとは
http://www.fnca.mext.go.jp/about/aboutfnca.html
(2)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)ホームページ、ニュースレター、No.1、22、23、
http://www.fnca.mext.go.jp/newsletter/no1_2000-9.pdf
http://www.fnca.mext.go.jp/newsletter/no22_2013-3.pdf
http://www.fnca.mext.go.jp/newsletter/no23_2014-1.pdf
(3)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)、パンフレット(2011/3)、
http://www.fnca.mext.go.jp/newsletter/fnca_brochure.pdf