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<概要>
 欧州原子力学会(European Nuclear Society:ENS)は、欧州15か国の18の原子力学会が参加して、1975年4月に設立され、現在は24か国24学会を擁する汎ヨーロッパ学会である。公衆への情報提供の普及、科学技術交流のための会議の開催、教育・訓練の促進などが主な活動内容である。
 ENSは欧州原子力産業会議(FORATOM)と共同で欧州原子力会議(ENC)を4年毎に開催している。また、公開原子力情報に関する国際ワークショップ(PIME)を毎年開催している。さらにENSは、専門誌「ニュークリア・ヨーロッパ・ワールドスキャン」(Nuclear Europe Worldscan)と小冊子「ニュークレアス」(Nucleus)を隔月で発行し、また1991年1月から公衆向けの原子力情報の交換のためのネットワーク「ニュークネット」(NukNet)を開設している。
<更新年月>
2005年02月   

<本文>
1.設立
 欧州原子力学会(ENS:European Nuclear Society)は、1975年に設立された。
2.目的
 ENSは、原子力の平和利用に関する科学技術の発展に寄与し、これを助長していく学術的活動を目的としていたが、やがて科学・技術の問題のみでは不十分で、原子力は日常業務部門に成熟し、会員の大部分がこの部門で活動していることを認識するようになった。現在は産業の支援活動、特に広報情報に重点を置いている。
3.組織構成
 ENSは、欧州15か国から18の原子力学会が参加し、1975年4月に設立された。その後、ロシア原子力学会、イスラエル原子力学会が入会するなどにより、24か国、24学会が参加する、中東の一部を含め、大西洋からウラルさらにロシアを通して太平洋に達する、汎ヨーロッパ原子力学会になった。会員数は2万人を超え、ほとんどが産業、発電所、研究センター、官公庁の専門家である。運営委員会がその政策決定機関となっている。1997年6月6日に総会がオランダ、Pettenで開催され1998年1月1日からの会長と3人の副会長を選出した。運営委員会は会長と参加学会代表及びオブザーバー(イスラエル)の27名で構成され、各学会正会員は、運営委員会における決議権(1票)を有する。理事会は、運営委員会の作業の準備、ENSの発行誌”Nuclear Europe Worldscan”(ニュークリア・ヨーロッパ・ワールドスキャン)の経営などを担当している。運営委員会は、専門委員会を設置する権限を有している。常設委員会として財政委員会、計画委員会、情報委員会、”Nuclear Europe Worldscan”編集顧問委員会及び若年層ネットワーク委員会が設置されている。ENSの発行誌の編集は、編集顧問委員会で行われている。各参加国の学会を表1に示す。
 ENSの資金の約40%は参加している学会からの拠出、約40%は支援機間からの拠出、約20%をENC(欧州原子力会議)の利益から得ている。
4.活動内容
 公衆への情報提供の普及、科学技術交流のための会議の主催と後援、教育及び訓練の促進(奨学金制度など)を主要な活動としている。
(1)会議、ワークショップの主催
・欧州原子力会議(ENC)
 1975年にパリで第1回会議が開催された。従来の原子力国際見本市ニューレックスがこのENC(European Nuclear Congress)に統合され、1986年に貿易見本市(World Nuclear Expo:原子力産業博覧会ともいう)を同時に開催する新しい形で「ENC’1986」(スイスのジュネーブ)が開催された。それ以降、ENCはENSと欧州原子力産業会議(FORATOM)が共催、米国原子力学会(ANS)が協力する形で4年毎に開催している。近年では、ENC2002(2002年10月、Lille、フランス)が開催され、次回は、ENC2005として2005年12月にフランスのVersaillesで開催が予定されている。
・公開原子力情報に関する国際ワークショップ(PIME)
 PIME(Public Information Material Exchange)は毎年開催され、原子力広報活動専門家を対象として、その訓練と、彼らの間の経験に関する情報交換が行われている。近年は、PIME 2003(2003年2月、マルタ)、PIME 2004(2004年2月、Barcelona、スペイン)、Pime 2005(2005年2月、Paris、フランス)が開催されている。
・ENS年次大会
(2)YGNと若年層の教育
 欧州学生交換プログラムを主催。1990年には日本も対象国に含められた。また、1995年には、Young Generation Network(YGN)を支援することを決め、今日の原子力技術を構築した世代と若い世代との知識・技術の交流・移転、若い世代のリーダー育成のネットワークが、多くの欧州諸国に育ってきている。
(3)女性層向け教育
 最近の欧州の原子力の停滞の中で、ENSは、女性層を狙いとしてPA活動を積極的に行っている。
(4)情報の提供
・”Nuclear Europe Worldscan”(専門誌)
 隔月発行の原子力技術/ニュースの専門誌で、欧州内の情報がメインとなっている。2004年現在の発行部数は約2万3千部で、読者は世界80か国あまりにまたがっている。(旧 Nuclear Europe 誌)
・”Nucleus”[ニュークレアス](小冊子)
 この小冊子は、隔月発行される。欧州及び各国の政治家向けに、事実関係とコメントが掲載される。
・”NucNet”[ニュークネット](原子力情報ネットワーク)
 世界各国の原子力関係機関が相互に正確な情報を提供し合うとともに、これらの情報を通信社や報道機関に配信することを通じて、各国国民の原子力発電に対する理解を向上させることを目的とした“双方向の国際的な原子力情報ネットワーク”である。NucNetは各国の代表参加機関の支払う年会費と購読料に支えられた非営利団体で、スイスの首都ベルンに事務所を置き、1991年1月から業務を開始した。日本では、(社)日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)が代表窓口として発足当初から参加している。
 NucNetには2004年現在約50か国が参加し、電力会社、メーカー、規制機関、関係省庁、研究機関など400もの原子力関係機関からオフィシャルな情報の提供を受け、わかりやすい英文に編集し、世界中に配信している。表2にNucNet参加機関の国名を示す。各国語で出された報告書なども、英語で簡単に紹介している。この仕組みにより、マスメディアを通じて原子力関係のニュースが多くの誇張をまじえて報道されるような場合でも、参加機関はオフィシャルかつ正確な情報を入手することができる。また、参加機関がニュースの当事者になるような場合でも正確な情報を世界に配信することができ、間違った情報の氾濫を防ぐことができる。さらに、参加機関は、インターネット上でIDとパスワードを入力することにより、データベースにアクセスすることができる。
 このデータベースは毎日更新され、NucNet発足以来のすべての配信記事が収録され、記事検索機能などがあり、調査担当者の便宜が図られている。
5.ENC2002の概要
 2002年10月7日から9日まで、フランスのリール(ベルギーとの国境近くの街)でENC2002が開催され、原子力政策に関する討議が行われた。ENCの会議は4年に一度開催されるヨーロッパ企業主導の会議で、700人程度の規模の会議であったと考えられる。参加国は、東西ヨーロッパのほぼ全ての国、アメリカ、カナダ、ロシア、日本、中国、台湾、韓国、南アフリカ、ベラルーシ等であった。日本からの参加者は、名簿上は5人、Visitorを入れて10人以下であった。
 会議では、1日目に政策的な話が行われ、2、3日目に技術的なセミナーや若者を対照にしたセミナーが準備されていた。1日目の会議では、スケジュールは予告されていたが、大幅に変更された。主な論点は、原子力は、持続的発展が出来る唯一のエネルギーである事の確認であった。環境派からの参加者1名を除き、原子力が無ければ、将来のエネルギーはまかなえないとの論調であった。しかし、廃棄物問題は、解決しなければならない最重要課題との認識である。BBCの司会者が行った討議では、BNFLのアスキュー社長、地球の友の活動家、ECの代表、AREVAのロベルジョン取締役などが意見を戦わせた。
 会議期間を通じて、ヨーロッパを中心とする企業がブースを設けて、会社の活動状況を宣伝していた。大きいブースは、AREVA、BNFL-Westinghouse、CEA等であった。アジアからは、唯一台湾電力会社がブースを出し、日本からは、三菱重工が、外国の企業と技術協力をしている分野で、共同でブースを設けているのみであった。ヨーロッパにおける日本の位置付けが低下している印象を与えていた。ヨーロッパの人からは、日本はヨーロッパでの競争をあきらめたのか、との話も出ていた。
6.PIME2004の概要
 欧州原子力学会(ENS)が、原子力関係広報・報道関係者を対象として、1988年1月にスイスのモントローで第1回を開催して以来、毎年冬に開催しているもので、今回が16回目である。欧州の広報関係者が一堂に会し、広報での経験、最近話題となっているトピックスなど、情報交換を行っている。PIME2004は、2004年2月8日から11日までスペインのバルセロナ(Barcelona)で開催された。主に欧州から約180名が参加した。日本からも、理化学研究所、海外電力調査会パリ事務所などから4名が参加した。(以下に講演などの要旨を示す。)
(1)B・バレENS会長の歓迎の挨拶
 「原子力発電を行っている世界各国では、米国、中国、仏、ロシア、日本など、5か国以上で原子力が強い支持を受けているが、欧州では政治的・心理的に原子力に強い抵抗感がある」としながらも、欧州における昨年の記録的な猛暑が、エネルギー供給と温暖化対策の重要性を人々に印象づけたと述べ、原子力の重要性が欧州でも認識されつつあると強調した。
(2)D・テイラーEU委員会原子力・原子力安全課長:「ユーラトムと原子力安全」
 EUでは90%の人々が地球温暖化に懸念を持っているが、原子力がその解決に貢献出来ると知っている人は4分の1にすぎない。EU委員会(EC)が昨年、廃炉基金の整備や原子力規制のハーモナイゼイションなどを含む「原子力パッケージ」と呼ばれる指令を昨年採択、欧州議会へ送付したが、英国、ドイツ等5か国の反対のため、議会を通過できないでいる。これらの国は、原子力規制などにおける国の主権が制約されるのではないかとの懸念を持っているが、それは全く正しくない。同パッケージは「原子力安全規制は各国の責任」とはっきり謳(うた)っている。
(3)スイス原子力協会(SVA)P・ヘーレン事務局長:国民投票にむけたキャンペーン
 スイスでは、2003年5月の国民投票で原子力発電からのフェーズアウトやモラトリアムの延長を求める2件の議案を退けた。
 国民の3分の1が原子力支持、他の3分の1が原子力は嫌いだが必要と考えているスイスで、SVAは論点を原子力フェーズアウトが引き起こす経済的打撃や、フェーズアウトの実現可能性に絞り、「反対派による安全論争に巻き込まれない」ことに努めてキャンペーンを張り、反原子力2提案を退けることに成功した経験を紹介した。その結果、「原子力のない電力(原子力フェーズアウト)」には賛成が34%、反対が66%、1990年から続いている「原子力モラトリウム」の延長(モラトリウム・プラス)には42%が賛成、58%が反対、勝利した。ただ、原子力フェーズアウトの拒否は、「原子力の受入れ」ではないことに注意が必要であると。1990年以来の年月が社会を「クールダウン」し、電力の40%が原子力、60%が水力という現在の「スイス・ミックス」が最適だとの合意が得られた。
(4)P・ベルナール(仏CEA原子力開発革新部長):原子力エネルギーの将来
我々は近い将来、人口が今より30億人以上増えるという重要な時期に生きている。しかも、一人あたりのエネルギー消費量は欧州・日本に比べて、中国が1/6、インドは1/20である。世界の持続可能な発展のためには、原子力は重要な位置を占める。原子力のリバイバルが謳(うた)われているが、中国では今後3000万kW、インドでは250〜2000万kWの新設が行われようとしてる。2050年には石油生産が減少すると予測されるが、原子力が一次エネルギー供給の7%から20%へ増加することにより、石油を代替できる。
 第3世代原子炉としては、AP600/1000、APR1000、ABWR、EPRなどがある。EPRは経済的で安全性に優れた炉で、コアキャッチャーなど4つのリダンダントな安全系をもち、過酷事故の確率は1年間あたり100万分の1。
 持続可能性を持ち経済的競争力を持つより革新的な炉が、国際協力による研究開発が行われており、フランスも加盟しているGEN-IVもその1つ。電力生産だけでなく、水素製造による輸送用でも原子力を利用できる。11か国が協力し6炉型が検討されているが、2030〜2040年には3〜4システムに絞り込まれる。
 核融合も、16MWのJETから2035年にはITERで自己点火を実現。その次には2070年頃、実証炉を目指している。
<図/表>
表1 欧州原子力学会(ENS)の参加学会
表1  欧州原子力学会(ENS)の参加学会
表2 NucNet(原子力情報ネットワーク)参加機関国名
表2  NucNet(原子力情報ネットワーク)参加機関国名

<関連タイトル>
欧州原子力共同体(Euratom) (13-01-01-09)

<参考文献>
(1)European Nucleat Society : ENS Annual Report 1992,Nuclear Europe Worldscan 7−8/1993
(2)European Nucleat Society : ENS Annual Report 1989,Nuclear Europe Worldscan 7−8/1990
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞第1761号(1994年10月6日)
(4)ENC’98 CALL FOR PAPERS,ENC’98 Program Committee,
(5)The European Nuclear Society,
(6)European Nucleat Society : ENS Annual Report 1996,Nuclear Europe Worldscan 7−8/1997
(7)欧州原子力学会(ENS)のホームページ http://www.euronuclear.org/
(8)ENS紹介と組織 
(9)ENSに関する質問 
(10)Nuclear Europe Worldscan 
(11)NucNetについて 
(12)サイクル機構パリ事務所:ENC2002会議の状況、事務所活動/欧州原子力事情

(13)喜多智彦:PIME2004会議参加報告 
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