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<概要>
 放射線利用振興協会は、放射線照射の事業の振興を目的とする公益法人として、当初、財団法人放射線照射振興協会として1968年(昭和43年)6月に設立され、技術誌の刊行、種々の調査研究活動、シンポジウムの開催、照射技術の指導などを通じて放射線利用と利用技術の普及促進を図ってきた。設立当初、旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)のコバルト60照射施設を利用したガンマ線の試験照射等の事業を開始し、さらに、電子加速器による電子線照射へと事業を拡大してきた。その後、研究炉を利用した照射事業や分析事業、主としてアジア諸国を対象とした国際研修、国際協力に関連した事業、学校教員を対象とし原子力・放射線の科学的知識の普及を目的とした原子力体験セミナー事業などを展開してきた。このような事業の展開に即し、1996年(平成8年)12月に事業目的を「放射線利用の事業を振興するとともに、原子力の利用に係わる技術交流を推進することにより国民生活の向上および国際社会の発展に寄与すること」に改めるとともに放射線利用振興協会と改称し現在に至っている。組織としては、理事会の下に事務局、東海事業所、高崎事業所、国際原子力技術協力センターが置かれている。また、近年の量子ビーム研究開発および利用の目覚ましい進展を反映し、その一環として特に中性子を主体とする産業利用促進を図るため2006年(平成18年)4月に東海事業所内に中性子利用推進部を新設した。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 わが国においては、エネルギー利用のための原子力研究開発が1960年代から進められてきた。その過程で、発生する放射線の有用性も世界中で注目されるようになり、日本原子力研究開発機構(以後原子力機構と記載:旧原研)の高崎量子応用研究所(旧高崎研究所)においても、放射線照射を利用した様々な研究が行われ、その有用性が認識されてきた。この放射線照射の事業の振興を目的とし、放射線の科学的知識の普及に努め、また、照射技術に関する民間への技術移転と定着を図るため、1968年6月に財団法人放射線照射振興協会が設立された。その後、事業の展開に伴い、1996年12月に現在の財団法人放射線利用振興協会(放振協:RADA;Radiation Application Development Association)と改称された。
 設立当初、原研のコバルト60照射施設を利用した様々な試料に対するガンマ線試験照射等の事業を行い、その後、1970年代には原研の研究炉を用いた中性子照射の事業を、さらに電子加速器による電子線照射へと事業を拡大してきた。併せて、研究炉の利用等に係る技術支援やイオンビーム照射研究施設の利用の支援を行うなど、放射線利用の定着に向けた幅広い活動を行ってきた。さらに、技術誌「放射線と産業」の刊行、調査研究活動、シンポジウムの開催、照射技術の指導などを通じて、放射線利用と利用技術の普及促進を行ってきた。
 1995年度からは、地域への放射線利用技術・原子力基盤技術移転の事業を開始し、また、1997年度からは、アジア諸国等を対象とした国際研修や国際協力に関連した事業をはじめ、小学校・中学校・高等学校の教員を対象とし原子力利用の理解を深めるためのセミナーを行うなど、放射線利用の分野のみならず、原子力利用の分野にも活動を展開している。
2.組織と業務
 放射線利用振興協会は、図1に示すように、運営管理を行う理事会のもとに東海事業所、高崎事業所および国際原子力技術協力センターがあり、3.に述べる活動をしている。また、これらの支分組織の活動を総括するため独立して事務局が置かれている。
 東海事業所には照射技術部、分析技術部および中性子利用技術推進部が置かれている。照射技術部ではシリコンの中性子照射を行うとともに研究炉利用等に係る技術支援を行っている。分析技術部では、各種分析業務に係わる技術支援を行っている。中性子利用技術推進部ではコーディネーターを配し、中性子を利用した実験や研究に関する技術支援を行っている。
 高崎事業所には事業部、普及開発部およびイオン照射利用センターが置かれている。事業部ではガンマ線・電子線による試験照射や各種の照射サービスを行い、普及開発部では放射線利用技術・原子力基盤技術等を国内の地域産業の振興に役立てるための事業を行い、また、イオン照射利用センターではイオンビーム利用に関連する支援業務を行っている。
 国際原子力技術協力センターには、国内研修部と国際研修部が置かれている。国の原子力研究開発や規制活動の進展を基に学校教員を対象として放射線・原子力に関する科学的な知識の普及とその学校教育での活用を目標とした研修、近隣アジア諸国の原子力安全担当者に日本の原子力安全システムを理解してもらいそれぞれの国で役立ててもらうことを目標とするセミナーの開催や国際技術交流等の業務を行っている。
3.主な事業活動等の概要
3.1 普及活動
(a)技術誌「放射線と産業」(1976年1月創刊)を四半期毎に刊行し、放射線利用に役立つ技術の解説や様々な情報の紹介を行っている。また、放射線を照射することにより彩色した水晶、真珠などを用いた装飾品や照射ガラス製品などの普及啓発品の頒布、放射線利用に関連した様々な普及活動などを行っている。
(b)全国の小学校・中学校・高等学校等の教職員を対象に放射線・原子力をテーマとした原子力体験セミナーを行い、教職員が放射線・原子力についての科学的知識を身につけて、科学教育に役立てたもらうため、文部科学省からの委託事業を基盤に活動をしている。本セミナーは、日本原子力研究開発機構の各研究所を主たる会場として実施するコースと地域の教員を対象として各地域で開催されるコースで構成されており、年間で40回以上開催している。コースの種類を以下に示す。
 ○全国の教員を対象としたコース
 (1)専門課程
 セミナーで得た知識を授業で活用するプランを検討する授業実践コースや、エネルギー環境に係わる疑問を探究するエネルギー問題研究コース、教育用原子炉の運転を体験する上級理科コース、原子力体験セミナーの概要を教員研修担当者に周知するための研修特別コースなどがある。
 (2)基礎課程
 受講者の担当教科や関心を考慮し、原子力・放射線の基礎知識を学習する基礎コース、理科で使える実験を学ぶ理科コース、放射線の工業、医療への利用等を学ぶ産業コース、資源・エネルギー、環境等について学習する社会コース、身近な生活や環境に係わる放射線・原子力の知識を学ぶ生活と環境コースなどがある。
 ○地域の教員を対象としたコース
 (1)地域コース:地域の教育委員会、教育センター、教育研究会などと協力しながら地域の要望を取り入れて開催するコース。
 (2)文系コース:全国を10ブロックに分け、主として文系教員を対象として環境資源エネルギーの視点から分かりやすく原子力・放射線の基礎知識を提供するコース。
3.2 試験照射と技術サービス
(a)ガンマ線、電子線照射
 高崎事業所では、日本原子力研究開発機構のコバルト60線源を利用し、原子力施設や宇宙環境で使用される部品・材料等の耐放射線特性試験、高分子材料の放射線加工、水晶、真珠などの委託照射サービス等を行っている。また、電子線照射による半導体の特性改善、原子力・宇宙用部品の耐放射線特性試験、高分子材料の改質などの試験照射を行っている。
(b)シリコンの中性子照射
 シリコンに中性子を照射すると、シリコンの中に約3%存在する30Siが核反応によりリン(31P)に変わる。中性子ドーピング(NTD:Neutron Transmutation Doping)法は、この反応を利用して、高純度のシリコン単結晶中にリンを添加(ドープ)し、シリコンを半導体化する方法であり、この方法の特徴は、均一にリンを添加できることおよび添加するリンの濃度を精度よく調節できることにある。
 東海事業所では、シリコン産業界からの委託を受け原子力機構の研究炉を利用して、中性子照射によるシリコンの半導体化を行っている。
(c)データベースによる情報の提供
 工業、農業、医学などの分野における放射線利用技術等の情報をデータベース化し、インターネット(http://www.rada.or.jp)を通じて提供している(図2)。
(d)技術サービス
 ○高崎事業所では;
 ・コバルト60ガンマ線照射施設および電子加速器施設の運転・保守業務の技術支援
 ・イオン照射研究施設(TIARA)の利用業務の技術支援
 ○東海事業所では;
 ・研究炉等の利用に係る技術支援
 JRR-3などの研究炉および様々な研究施設の利用に係る下記業務の技術支援;
 冷中性子源装置の運転、照射キャプセルの設計、研究炉利用設備の運転、燃料・材料の照射後試験、研究炉の水・ガスの管理、試験研究施設における分析・利用推進業務、研究開発業務等
3.3 国際原子力技術交流の推進に係わる諸活動
 国際原子力技術協力センターでは、わが国の原子力安全技術が諸外国に普及するよう、セミナー、技術情報交換などの活動を行っている。
(a)国際原子力安全セミナーの開催
 安全確保に必要な多くの技術を広く普及させるため、アジア諸国等の原子力技術者、研究者および安全行政官を対象として毎年種々のコースのセミナーを開催。
 ○これまでに開催したコース;
 ・アジア諸国向けコース
 ・ウクライナ向けコース
 ・旧ソ連・東欧諸国向けコース
 ・安全解析コース
 ・放射性廃棄物・使用済み燃料管理コース
 ・施設管理コース
 ・原子力行政コース
 ・放射線利用コース
 ・原子力知識普及コース
 ・放射線安全コース
 ・原子力プラント安全コース
(b)アジア・太平洋原子力技術協力への支援
 アジア諸国を主な対象に原子力機構が実施している次のような人材養成事業に対し、講師派遣を含む支援を行っている。
 ・原子力専門家を派遣して行う放射線・原子力技術研修
 ・各国の人材養成の中核となる教官等を招へいして行う指導教官研修
 ・旧ソ連等を含めた諸国の行政官、技術者を招へいして行う核不拡散の保障措置研修
3.4 放射線利用技術・原子力基盤技術の移転
 文部科学省の委託を受けて、地域産業の振興に貢献するために工業、農業および医学などの分野における放射線利用技術や原子力基盤技術の移転事業を行っている。
(a)専門家派遣と技術研修支援
 県などの公的機関が放射線利用技術やその基盤となる原子力基盤技術を導入しようとする場合に、国などの研究機関の専門家を派遣している。また、県などの研究者・技術者が研究機関において受ける技術研修を支援している。
(b)技術セミナーの開催
 地域の企業の研究者・技術者を主な対象にして、専門家による講義、放射線利用技術の説明パネルの展示および放射線測定の体験からなるセミナーを各地で開催している。
(c)中性子利用技術の移転の推進
 放射線利用振興協会は日本原子力研究開発機構と協力し、研究炉で作られる中性子を利用した実験や研究を民間企業などに活用してもらうため、コーディネーターを配し、技術支援を行っている。産業利用推進のためのしくみや期待される中性子の産業利用の分野を図3に示す。このしくみは、将来的には大強度陽子加速器(J-PARC)で作られる中性子利用への展開を図るものである。
(前回更新:2004年7月)
<図/表>
図1 放射線利用振興協会の組織図
図1  放射線利用振興協会の組織図
図2 放射線利用技術および原子力基盤技術データベース
図2  放射線利用技術および原子力基盤技術データベース
図3 中性子の産業利用推進のためのしくみと産業利用の分野
図3  中性子の産業利用推進のためのしくみと産業利用の分野

<参考文献>
(1)(財)放射線利用振興協会ホームページ:http://www.rada.or.jp
(2)(独)日本原子力研究開発機構ホームページ:http://www.jaea.go.jp/index.shtml
(3)(財)放射線利用振興協会パンフレット(2006年7月)
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