<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力防災と原子力損害賠償制度
<小項目> 原子力賠償制度
<タイトル>
核燃料加工に関する賠償制度の概要 (10-06-04-03)

<概要>
 通常の工場では工場側に過失がなければ、一般被害者に対して損害賠償すべき法律上の義務はない。これに反し、原子力施設の場合には、事業者側に無過失責任・責任集中の規定が適用されている。事業者側は予め定められた賠償措置額を常に用意しておかなくてはならない。その措置額を超える損害が発生した場合には、政府が必要に応じ国会の議決に基づき原子力事業者を援助する制度が作られている。ここでは、この制度の基幹をなしている「原子力損害賠償法」及び「原子力損害賠償補償契約法」の概要について述べ、特に核燃料加工については、具体的な賠償措置額を示す。
<更新年月>
2000年02月   

<本文>
1.原子力損害賠償制度の趣旨と仕組みの概要
 通常の工場などでは、もし事故が起こって周辺の人々や物件に損害を与えたとしても、工場側に過失がなければ損害を賠償する法律上の義務はない。また損害賠償の義務がある場合でも、事業者側に賠償できる資金がなければ(あるいは保険に加入していなかったら)、被害者側は賠償金を受け取れないこともある。これに反し、原子力の場合には、万一事故が生じその影響が事業所外に及んだとしても、賠償に誠実に対応できるように、「原子力損害賠償制度」や「原子力損害賠償補償契約制度」などが完備している。つまり、被害者に対する手厚い保護が法律的に整えられているのである。以下でその法制について述べる。
 「原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年:1961年6月17日、法律第147号)」(原子力損害賠償法)は、わが国の原子力損害賠償制度の基幹をなす法律である。制定の趣旨は、原子力施設の運転等によって生じた損害の賠償について基本的な制度を定め、それによって被害者の保護をはかるとともに、原子力事業の健全な発達に寄与することを目的としたものである。そのため、原子力事業所側に過失がなかった場合でも、原則として事業者側に賠償義務が生じることを規定している(この点が通常の工場の場合と根本的に異なる)。この義務の発生に伴い、事業者側は原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という)を結ぶなどの方法によって賠償金(発電用原子炉再処理施設の場合は600億円。他の施設についても政令で定められた額。これらの額を“賠償措置額”という)を賠償にあてられるように準備しておかなければならない(この準備なしで原子力施設を運転すれば罰則規定が適用される)。
 「原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和36年:1961年6月17日、法律第148号)」(原子力損害賠償補償契約法)は、原子力事業者側が責任保険契約その他の措置によっても被害者側の損害を賠償しきれない場合のために、政府・事業者間契約について定めたものである。事業者側は国に対し、定められた額の「補償料」を納入することが規定されている。
  表1 は、「原子力損害賠償法」と「原子力損害賠償補償契約法」によって構築された、被害者(一般人、下請企業従業員等)に対する損害賠償の制度を要約してまとめたものである。また 図1 は、被害者への賠償に至るまでの仕組み(プロセス)を図示したものである。
 なお、日本と西欧の原子力損害賠償制度の比較については、ATOMICAタイトル:諸外国の原子力損害賠償制度の概要(10−06−04−02)に表示されている。
2.「原子力損害の賠償に関する法律」の要点
 この法律の要点は次のようである。
(a)法律が適用される対象=「原子炉の運転、燃料の加工、使用済燃料の再処理、核燃料物質の使用及びそれによって汚染されたものの廃棄(核分裂生成物を含む)」に起因する損害(第2条)。
(b)無過失責任・責任の集中=原子力事業者が損害賠償する責任をもつ(ただし、その損害が巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じた場合には免責)。したがって、原子力事業者以外の者は賠償の責任をもたない。その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、原子力事業者はその者に対する求償権を有する(第3〜4条)。
(c)原子力施設運転の規制=原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じない限り、原子力施設の運転をしてはならない(第6条)。
(d)事業者による賠償金の用意=原子力事業者は、責任保険契約を結ぶことなどによって1工場もしくは1事業所当たり、もしくは原子力船当たり600億円等の賠償金(賠償措置額)を賠償にあてられるよう用意しておかなくてはならない(注:この賠償措置額600億円は昭和36年法律制定当初は50億円であった(第7〜8条))。
(e)政府との補償契約=事業者側が責任保険契約その他の措置によっても埋めることができない原子力損害を、事業者が賠償することによる損失を政府が補償する。そのために政府と事業者との間で補償契約を結ばなければならない(第7条、第10条)。
(f)損害賠償紛争審査会の設置=損害賠償について紛争が生じたときには、科学技術庁に「原子力損害賠償審査会」を設け、和解の仲介を行わせる(第18条)。発電用原子炉に起因する場合には科学技術庁長官は通商産業大臣と協議する。
3.「原子力損害の賠償に関する法律施行令」(昭和37年:1962年3月6日、政令第44号)について
 この政令は、前述の「原子力損害賠償法」を補完するもので、特に「法律が適用される対象」と「賠償措置額」が細かく規定されている。
 本政令は、平成11年に一部改正すなわち、賠償措置額の引上げ、適用期限の延長、使用済燃料の貯蔵の事業の追加などがあり、平成12年(2000年)1月1日から施行された。
4.「原子力損害賠償補償契約に関する法律」の要点
 この法律の要点は次のとおりである。
(a)政府が事業者側の賠償に係る損失を補償する要件としては、「正常運転による原子力損害」、「地震、噴火、津波に起因するもの」及び「損害発生後10年経過してからの請求」に限られる。
(b)補償契約金額は、賠償措置額に相当する金額とされている。各事業について平成8年度の補償契約締結の実績(合計)を 表2 に示す。
5.核燃料加工に係る賠償制度
 核燃料施設には広く「製錬施設」、「転換施設」、「濃縮施設」、「ウラン燃料加工施設」、「プルトニウム燃料取扱施設」、「ホットラボラトリ」、「再処理施設」、「核燃料使用施設」などが含まれるが、ここでは原子力損害賠償法に規定する核燃料加工に限定して以下に示す。
(1)原子力損害賠償法「施行令」による賠償措置額
 この施行令は、「核燃料物質加工」について、(a)濃縮度5%未満の濃縮ウラン及びその化合物、ならびにそれらの含有物であってウラン235の量が2kg以上のもの、(b)濃縮度5%以上の濃縮ウラン及びその化合物、並びにそれらの含有物であってウラン235の量が800g以上のもの、(c)プルトニウム及びその化合物、ならびにその含有物であってプルトニウムの量が500g以上のものを「加工」と定義している。
 上記定義の核燃料物質加工に起因する損害に対する「賠償措置額」は、次のように定められている。
・上記(a)の加工又は使用(当事業所内における運搬、貯蔵、廃棄を含む)の場合には20億円
・上記(b)(c)の加工又は使用(同上)の場合には120億円
(2)原子力損害賠償補償契約法(以下「法」という)「施行令」による通知事項
 法は、原子力事業者に補償契約の締結に際し、原子力施設の運転に係る重要な事実の通知を求めている(第9条)。同法施行令は次のように細かく指示している。
・「核燃料の加工」の場合には、工場又は事業所の名称と所在地、施設の構造と設備並びに加工の方法、加工(貯蔵、廃棄を含む)の開始時期と予定終了時期、核燃料物質の種類と年間予定加工量、及び責任保険契約の内容。
・「核燃料の使用」の場合には、「加工」に準じているが、特に使用目的、使用施設と貯蔵施設(又は廃棄施設)の位置及び構造、それに使用された燃料物質の処分方法の通知が求められている(使用施設は概して小規模な研究等に用いられ、貯蔵施設等とは隔離しているのが普通であることによる)。
<図/表>
表1 原子力損害賠償制度の要旨と特徴
表2 原子力損害賠償法に基づく平成8年度補償契約締結実績
図1 「原子力損害賠償法」及び「原子力損害賠償補償契約法」によって構築された原子力損害賠償の仕組み

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
再処理施設に関する賠償制度の概要 (10-06-04-04)
廃棄物処理処分に関する賠償制度の概要 (10-06-04-05)
輸送に係る原子力賠償制度の概要 (10-06-04-06)

<参考文献>
(1)官報 平成11年12月17日付(号外第246号)、大蔵省印刷局、p.19
(2)原子力委員会 第1回原子力損害賠償制度専門部会配布資料、我が国の原子力損害賠償制度の概要(1998年7月15日)
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集(1998年版)、大成出版社(1998年7月)、p.1387−1403
(4)科学技術庁原子力局調査国際協力課ほか:原子力の基礎講座10「原子力と行政」、日本原子力文化振興財団(1996年3月)、p.118,119
(5)原子力ポケットブック 1998/99年版、日本原子力産業会議(1999年2月)、p.76−78
(6)通産省・資源エネルギー庁(編集):原子力発電−その必要性と安全性(第26版)、日本原子力文化振興財団(1998年3月)、p.96
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