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<概要>
 原子力施設で万一事故が生じた場合、通常の工場の場合と異なり、無過失に起因するものであっても、一般公衆に与えた損害は事業者側で一義的に賠償することが「原子力損害賠償法」で制度化されている(無過失責任・責任集中)。また、一定の賠償額(賠償措置額)を超える損害が発生したときには、政府が必要に応じ国会の議決に基づき原子力事業者を援助する制度が作られている。賠償の立場からは、「再処理施設」の操業は原子炉施設の運転の場合と同ランクに位置づけされ、その賠償措置額が600億円に設定されている。ただし、高レベル放射性固化体の管理(中間貯蔵等)が再処理事業所以外で行われるときには、その管理に起因する事故に対する措置額は120億円とされている。
<更新年月>
2000年02月   

<本文>
1.原子力賠償制度の仕組みと特徴
 原子力賠償制度は法律的には「原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年:1961年6月17日、法律第147号)」とその「施行令(昭和37年:1962年3月6日、政令第44号)」及び「原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和36年:1961年6月17日、法律第148号)」とその「施行令(昭和37年:1962年3月6日、政令第45号)」から構築されている。「原子力損害賠償法」は損害賠償の対象となる原子力事業として、原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用及び核燃料物質(又はそれによって汚染されたもの)の廃棄を取り上げているが、中でも賠償の観点から、「発電用原子炉の運転」と「再処理」を重視している。つまり、この両者を同ランクに位置付けている。
 原子力賠償制度の特徴は次のとおりである。
(a)原子力事業者(電力会社、核燃料加工企業等)は、所管の事業所又は工場の操業によって一般人(下請け企業の従業員を含む)に損害を及ぼしたときには、被害者に対して「無過失の損害賠償責任」を負う。この場合の賠償については、原子力事業者にすべての責任が集中する。
(b)原子力事業者は賠償の確実な履行のため、「損害賠償措置」を講じておかなければ、施設の運転等をしてはならない。そのため、原子力事業者は民間損害保険業者との間に「原子力損害賠償責任保険」を契約しておくとともに、政府との間で「補償契約」を締結しておかなければならない。
(c)「賠償措置額」を超える損害が発生したときには、政府は、賠償に対する援助を行う(賠償支払いのために生じた事業者損失への支援)。
(d)賠償の免責条件として、異常に巨大な天災地変又は社会的動乱に起因する事故が上げられている。
2.再処理施設に係る賠償制度
(1)原子力損害賠償法「施行令」による賠償措置額
 この施行令によると再処理事故の場合の賠償措置額を次のように定めている。
(a)再処理(再処理事業に付随して行う核燃料物質の同一工場又は事業所における運搬、貯蔵又は廃液を含む)−−−−600億円
(b)使用済燃料を溶解した液体から核燃料物質その他の有用物質を分解した残りの液体をガラスにより固化したものに係る廃棄物管理(上記(a)に該当するものは除く。当該廃棄物処理に付随して行う核燃料物質等の同一場所における運搬又は廃棄を含む)−−−120億円 上記の2つの措置額の解釈は次のようである。
 再処理事業者が「高レベル放射性廃棄物(固体)」を管理している限り(再処理事業者の管理責任範囲)、その保管に起因する事故に対する賠償措置額は600億円であるということである(再処理工場内に高レベル放射性廃液をタンク貯蔵している段階も同じ)。もし高レベル固体廃棄物が再処理事業者の手を離れ、他の場所において他の事業者によって管理される場合の措置額は120億円となる。
 このように再処理事業は、関連する廃棄物貯蔵等を含め、同一事業所内においては包括的にとりまとめられ、しかも賠償水準が原子炉運転なみに高く設定されていることに注目したい(他の核燃料施設の場合と大きく異なっている)。
(2)原子力損害賠償補償契約法「施行令」による通知事項
 この政令は、事業者に補償契約の締結に際し、再処理施設の操業にかかわる重要な事実の通知を求めている。
・再処理施設を設置する工場、又は事業所の名称及び所在地
・再処理施設の位置、構造及び設備ならびに再処理方法
・再処理(これに付随する核燃料物質又はそれによって汚染された物の貯蔵又は廃棄を含む)の開始時期及び予定終了時間
・再処理が適用される使用済燃料の種類及びその年間予定再処理量
・(民間)「損害賠償責任保険契約」に関する事項
<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
核燃料加工に関する賠償制度の概要 (10-06-04-03)
廃棄物処理処分に関する賠償制度の概要 (10-06-04-05)
輸送に係る原子力賠償制度の概要 (10-06-04-06)

<参考文献>
(1)官報 平成11年12月17日付(号外第246号)、大蔵省印刷局、p.19
(2)原子力委員会 第1回原子力損害賠償制度専門部会配布資料、我が国の原子力損害賠償制度の概要(1998年7月15日)
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集(1998年版)、大成出版社(1998年7月)、p.1387−1403
(4)科学技術庁原子力局調査国際協力課ほか:原子力の基礎講座10「原子力と行政」、日本原子力文化振興財団(1996年3月)、p.118,119
(5)原子力ポケットブック 1998/99年版、日本原子力産業会議(1999年2月)、p.76−78
(6)通産省・資源エネルギー庁(編集):原子力発電−その必要性と安全性(第26版)、日本原子力文化振興財団(1998年3月)、p.96
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