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輸送に係る原子力損害賠償制度については、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)の第2条において、原子炉の運転、加工、再処理、使用済燃料の貯蔵及び核燃料物質の使用によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む)の廃棄とともに、これらに付随する核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の運搬を、「原子炉の運転等」と定義づけ、同法の対象として含むこととし、原子力損害賠償制度が適用されることとなっている。
図1に輸送に係る原子力損害賠償制度の概要を示す。
したがって、原子炉の運転、加工、再処理等と同様に、
1 原子力事業者の無過失損害賠償責任と賠償責任の原子力事業者への集中
2 原子力事業者への損害賠償措置の強制
3 賠償措置額超過の原子力損害等に対する国の措置
等について、定められている。
1.核燃料物質等の運搬の範囲
(1)核燃料物質の運搬については、原賠法施行令第1条の規定により一定量以上の濃縮ウラン、プルトニウムが対象となり、
天然ウラン、
劣化ウラン、一定量に達しない濃縮ウランやプルトニウムは、本法の対象とならない。
(2)使用済燃料については、量、濃縮度に関係なく原賠法の対象となる(同法施行令第1条第6号ロ)。
(3)核燃料物質によって汚染された物については、汚染の程度に関係なく原賠法の対象となる。
2.運搬の場合の原子力事業者への責任の集中
(1)原則の適用
原賠法3条によって、賠償責任を負うのは、原子力事業者に限られる。したがって、原子炉の運転等によって原子力損害が発生した場合に、その現実の行為を原子力事業者本人が行っていなかったようなとき(運送業者に核燃料物質を運搬させ、又はメーカーに原子炉の製作及び試運転をさせていた際に原子力損害が発生したというようなとき)においても、その原子炉の運転等に係る原子力事業者(運搬の依頼主又は原子炉の注文主である原子力事業者)が責任を負う。
(2)外国から又は外国への核燃料物質等の運搬
運搬については、原子力事業者間の運搬は本条第2項に定めるところによるが、核燃料物質を外国から購入し、又は使用済燃料を外国に送りだすような場合には、運搬途上で生じた原子力損害について本法が適用される限りにおいて、当該運搬が「付随してする」と考えられる「原子炉の運転等」に係る原子力事業者が責任を負うこととなる。
(3)原子力事業者間の運搬
運搬が、原子力事業者相互間のものであるときは、双方の原子力事業者に付随する運搬となるので、双方の原子炉の運転等となり(第2条参照)、どちらを責任を負うべき原子力事業者とするかが問題となる。そこで、原賠法第3条第2項で「当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」とした。
この場合、特約は、双方の原子力事業者に有効なものでなければならない。一方の原子力事業者の他方に対する一方的な通知のようなものは、有効なものとはいえない。
3.運搬の場合の賠償措置額
損害賠償措置を講じる単位は、1工場又は1事業所当たり1損害賠償措置である。いわゆる「サイト(敷地)主義」といわれるものである」から、サイト内の運搬については当該サイトに付された損害賠償措置額が適用される。サイト外の運搬については、濃縮度5%以上の濃縮ウラン、使用済燃料、高レベル放射性廃液、高レベル放射性廃棄物固化体及びプルトニウム等の運搬に対して120億円が、その他の運搬に対して20億円が、賠償措置額として定められている。
なお、「運搬は、汚染物ドラム缶1本を運んでも1運搬」であるが、「少量の汚染物を継続してかつ同一の経路及び方法で運ぶような場合は、適当な期間を定めて1運搬とし、一つの措置でカバーすることができる」とされている。
<図/表>
<関連タイトル>
日本の原子力損害賠償制度の概要 (10-06-04-01)
核燃料加工に関する賠償制度の概要 (10-06-04-03)
再処理施設に関する賠償制度の概要 (10-06-04-04)
廃棄物処理処分に関する賠償制度の概要 (10-06-04-05)
<参考文献>
(1)官報 平成11年12月17日付(号外第246号)、大蔵省印刷局、p.19
(2)原子力委員会 第1回原子力損害賠償制度専門部会配布資料、我が国の原子力損害賠償制度の概要(1998年7月15日)
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集(1998年版)、大成出版社(1998年7月)、p.1387−1403
(4)科学技術庁原子力局調査国際協力課ほか:原子力の基礎講座10「原子力と行政」、日本原子力文化振興財団(1996年3月)、p.118,119
(5)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック 1998/99年版、(1999年2月)、p.76−78
(6)科学技術庁原子力局(監修):原子力損害賠償制度、通商産業研究社(平成7年9月)