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1.一般概況
1997年度[平成9年度(平成9年4月〜平成10年3月)]のわが国経済は、実質経済成長率が0.6%減となり、停滞状態に至った。
最終エネルギー消費は、原油換算で3億9,600万キロリットル(kl)と前年度比0.7%の増加となり、平成5年度以来の低い伸び率となった。一次エネルギー総供給量は、6億400万kl(原油換算)となり、前年度比1.1%増となった。エネルギー供給源別構成では、全体に占める原子力のシェアが12.9%と着実に増加した一方、石油が53.6%と減少となり、石油依存度を1.6%低下させた(
表1 )。
平成9年度(平成9年4月〜平成10年3月)新規に運転を開始した
原子力発電所は、柏崎刈羽原子カ発電所7号機と玄海原子力発電所4号機の2基で、9年度営業運転中の原子力発電所は合計52基、発電設備容量4,508.3万kWとなった。また、総発電設備容量(電気事業用)に占める原子力発電設備のシェアは、20.8%となり、平均設備利用率は81.3%と過去最高記録を更新した。一方、総発電電力量は、前年度比3.5%増の9,035億kWh(推定実績)を記録し、これにともない、原子カ発電電力量(電気事業用)も前年度比5.3%増の3,181億kWh(推定実績)となった。また、総発電電力量に占める原子カのシェアは35.2%であった。平成9年度の原子カ関係予算は、4,907億円で前年度比0.8%減となっている。
今後の計画である平成10年度の電力供給計画では、建設中が女川3号(83万kW)、着工準備中の地点として東通1号、巻1号、浜岡5号、志賀2号の4地点466.3万kW、10年度電源開発調整審譲会(電調審(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会))上程計画地点として福島第一7、8号、上関1、2号、島根3号、大間の6地点826.2万kWが計画されている。
2.平成9年度原子力産業実態調査
このような背景のもと、日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)は、わが国における原子カ産業の経済面の実態を把握し、その問題点の分析を通じて産業としての健全な発展に資するとともに、併せて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的として、原子力産業実態調査を実施した。調査結果の主な指標を
表1および
図1 に示す。
a)電気事業の原子カ関係支出高
電気事業の原子カ関係支出高は前年度比5.8%、942億円増の1兆7,161億円となり、3年ぶりに増加に転じた。費目別支出の内訳は、準備費599億円(対前年度11.2%、75億円減)、建設費3,152億円(同15.6%、583億円減)、核燃料費4,553億円(同40.2%、1,306億円増)、運転維持費8,706億円(同3.5%、297億円増)等となっている(
図2 )。
このうち、準備費は前年度比11.2%減である。平成4年度以降減少してきた建設費は、前年度比15.6%減となり、近年のピークであった平成3年度(7,822億円)の約4割の規模に落ち込むこととなった。これは、
図3 に示すとおり、平成2年度以降、建設中の原子カ発電所の基数が年々漸減してきたことを反映している。これまで顕著な伸びを続けてきた運転維持費は、平成7年度調査以降2年連続で減少したが、今回は、増加に転じ、対前年度3.5%増となった。うち、50%を占める「修繕費」が対前年度2.8%(107億円)増の3,916億円となり、構成比10%の「人件費」が同4.5%(37億円)増の860億円となった。また、引当金(廃棄物処分費、原子炉解体費等)、委託費、廃棄物処理費、補償費、消耗品費等が含まれる「その他」は、34%を占め、同6.7%(186億円)増の2,953億円となった。
平成9年度は、2基の新規運転開始があり、これを加えた運転中のプラントの基数は52基となった。運転開始からの平均経過年数は、年度末現在で14年3カ月とかなり高経年化が進んできている。しかし一方では、1基当たりの運転維持費が167億円と3年連続で減少し、単位発電電力量当りでは2.7円/kWhと2年連続の2円台に収まっており、運転保守技術の向上などにより極めて良好なコストパフォーマンスを達成してきていることがわかる(
表2 )。
核燃料費は、平成8年度、対前年度16%(438億円)増となり、比較的大きく増加したが、今回さらに同40.2%(1,306億円)増と大幅な伸びを示し、4,553億円となった。核燃料費は、海外への支出(輸入)が比較的多いのが特徴であるが、このうち外貨支払高が1,382億円と全体の32%を占めており、対前年度でみると、36%(366億円)増とほぼ同様の幅で増加している。今回の増加の内訳としては、主として海外に委託している
再処理費用(外貨支払)の増加分と六ケ所再処理工場への前払金支出であることが挙げられている。電気事業の支出を全体から眺めると、運転維持費の増加もあるが、主として核燃料費の増加が全体を引き上げたかたちになっている。
b)電気事業の支出構成比
電気事業の原子力関係支出を構成比でみると、運転維持費が51%を占め、次いで核燃料費が27%、建設費18%、準備費その他が4%を占めることとなった。
図4 に、過去からの構成比の変遷を示す。核燃料費の構成比は、従来14〜17%台で安定していたが、平成8、9年度と変化し、単年度の支出では、建設費を抜いて、核燃料費が第2位の座を占めている。運転維持費は、昭和56年度に20%を超えてから、急激に伸長し、平成5年度以降50%前後のところに落ち着いている。
c)鉱工業の売上動向
平成9年度の鉱工業の原子力関係売上高は、前年度の11.5%、2,351億円減の1兆8,040億円となった。近年、新規原子カ発電プラント建設が低調な中にあって、鉱工業の売上額は、平成6年度の大きな落ち込み(2兆2,063億円から1兆9,375億円へ)から、7、8年度は2兆円規模に回復していたが、今回は平成6年度をさらに下回る大幅な減少となった。鉱工業間の中間取引的な売上を除いた、エンドユーザーである電気事業や政府など最終需要者への売上高(最終需要相当額)も対前年度12%、2,281億円減の1兆6,674億円とほぼ同じ幅での減少の動きとなっている。原子カ関係従事者一人当たりの売上高は、3,993万円となり、こちらは、対前年度4%減となり、比較的小幅の減少に留まった。
d)鉱工業の納入先別売上高比率
鉱工業の納入先別売上高比率を
図5 に示す。鉱工業売上全体に占める電気事業への納入比は67.0%とシェアを狭め、金額としても1兆2,081億円(対前年度2,275億円、16%減)と大幅に減少した。この電気事業向けの売上高減少が、鉱工業全体の売上高減少の主因となっている。内訳からみると、発電プラントの機材およびその建設に関連する売上が大幅に減少している。燃料サイクル関連では、機器製造の部分が大幅減少となったのに対し、核燃料集合体が同63%(310億円)増の804億円と大きく売上を伸ばしたのをはじめ、
核原料物質、濃縮、廃棄物処理・処分、核燃料輸送の各項目でも僅かだが着実に売上を伸ばした。プラントの運転保守に関わる保守メンテナンスは、同6%(167億円)増の2,833億円と売上を伸ばしている。
一方、政府向けは、納入比率は10.4%とシェアを広げたが、これは売上全体額の減少によるもので、額としては前年度とほぼ同じ1,877億円(0.6億円減)となった。また、公私立大・病院等への納入比率は8.5%で、売上額としては対前年度7%(98億円)増の1,528億円であった。中間取引的意味合いが強い鉱工業間の売上は、対前年度5%(114億円)減の2,158億円となり、全体の構成比では、12%を占めた。
e)鉱工業の部門別売上高
部門別原子力関係売上高を
図6 に示す。最もウエイトの大きな原子炉機材部門で対前年度18%(1,259億円)減の5,773億円と大幅に減少し、総売上高に占める構成比も32%となった。これは、原子カ発電プラント建設需要の冷え込みによる原子炉関係機器・コンポーネントの受注減少を反映していると考えられる。サービス分野等を含む「その他製造」部門は、5,645億円(対前年度4%、223億円減)となり、全体に占める構成比は31%となった。内訳は、「その他各種試験機器」が183億円(対前年度13%、21億円)に増加したものの、保守・メンテナンスが3,346億円(同3%、102億円減)、「その他」が、1,843億円(同4%、78億円減)と減少している。
これまで売上を伸ばしていた燃料サイクル部門も今回は、構成比16%の2,918億円(同7%、219億円減)と減少した。内訳では、核燃料サイクル機器の内、再処理・廃棄物処理機器が減少したのに対し、濃縮機器が増加し、結果として核燃料サイクル機器としては1,502億円(同20%、383億円減)となった。この他、核燃料集合体が829億円(同59%、307億円増)と増加となった。核燃料集合体は、ほぼ平成7年度のレベルまで回復している。
この他では、建設・土木部門が構成比6%の1,094億円(対前年度38%、659億円減)、発変電機器部門が構成比4%の699億円(同25%、230億円減)と大きな落ち込みとなっている。一方、原子力発電関連の各部門で不振がみられる中、RI・放射線機器は、構成比を11%に伸ばし、1,911億円(同14%、239億円増)と活況を呈している。
f)業種別売上高
鉱工業の売上高を業種別にみると、機器製造メーカーの主要業種である電気機器製造業(23社)が売上高全体の28%を占め、5,095億円(対前年度18%、1,106億円減)となったのをはじめ、構成比16%の造船造機業(5社)が2,905億円(同19%、685億円減)、構成比23%の建設業(78社)が4,079億円(同20%、1,007億円減)とそれぞれ大幅な減少となった。これに対し、売上高の構成比で12%の原子力専業(26社)は、2,179億円(同13%、245億円増)と売上を伸ばし、この他では、構成比6%の「その他」の業種(54社)が、1,160億円(同13%、130億円増)と売上を増加させた。
g)売上高別企業数
今回の調査で原子カ関係の売上について回答があった企業は合計279社(対前年度3社増)であったが、このうち100億円以上の売上があった企業は前年度に比べ2社減って34社、50〜100億円が19社、1〜50億円が174社、1億円未満が52社であった(
図7 )。さらに、売上上位50社の売上合計が全体に占める割合は85%、上位100社の売上合計が全体に占める割合は95%にのぼっている。また、1社あたりの原子力関係売上の平均は65億円(前年度74億円)であった。
h)原子カ関係輸出
平成9年度の鉱工業の原子カ関係輸出は対前年度23%(59億円)減の397億円となった。RI・放射線機器が構成比83%でトップを占め、前年度比27%(70億円)増の330億円と大幅に増加した。原子炉機器・関係設備が前年度の17億円から28億円に増加した反面、発変電機器が同25億円から5億円、原子カ材料が37億円から1億円、その他が113億円から29億円とそれぞれ減少した。
3.鉱工業の受注残高
次年度以降の鉱工業の売上高を予測する上で重要な指標となる受注残高(平成10年3月末現在)は、2兆2,786億円(対前年度1,777億円、7.2%減)であった。
図1に示すとおり、鉱工業の原子力関係受注残高は、昭和59年度以降、3兆5,000億円以上の規模を保っていたが、平成4年度、3兆円台に(3兆1,698億円)、平成5年度以降2兆円台に落ち込んできた。今回、再び落ち込み、受注残高の規模としては、平成9年度売上(減少している)の1.3年分(平成8年度は1.2年分)となった。平成10年度以降楽観できる状況にはないと考えられる。受注残高を部門別にみると、燃料サイクル、RI・放射線機器、発変電機器部門、建設・土木の各部門で増加したにもかかわらず、原子炉機材、その他製造部門での減少がひびき、前年度を下回ることとなった。原子炉機材部門は、ここ数年全体に占めるウエイトを下げつつ推移しており、
図8 に示すように今回は41%、9,314億円(対前年度2,787億円、23%減)と落ち込んだ。その他製造部門は、全体の7%を占め、1,669億円(対前年度6%、107億円減)、燃料サイクル部門は、6,868億円(同2%、115億円増)となり、構成比では30%のシェアとなった。この他、建設・土木部門が構成比9%の2,068億円(同14%、259億円増)、発変電機器部門が構成比7%の1,636億円(同43%、491億円増)、RI・放射線機器部門が1,231億円(同26%、252億円増)となっている。受注残高を業種別でみると、全体に占めるウエイトの大きい業種の中では、全体の40%を占める電気機器製造業が9,073億円(前年度と同じ)、30%を占める造船造機業が6,713億円(対前年度26%、2,314億円減)、構成比18%の建設業が4,194億円(同7%、290億円増)となっており、ウエイトの小さい業種の中では、原子カ専業が211億円(同59%、309億円減)、鉄鋼業が452億円(同564%、384億円増)と比較的大幅な増減が目立って.いる。
<図/表>
<関連タイトル>
平成10年度電力供給計画 (01-09-05-14)
原子力産業実態調査報告(平成8年度) (10-05-03-01)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編集発行):平成9年度 原子力産業実態調査報告−活性化のカギ握るプラント市場建設−(第39回調査)原子力調査時報第69号(1999年2月)