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<概要>
 1979年3月28日米国はこれまでの商業炉の歴史で最悪の事故を経験した。この事故の2週間後米国の大統領は、12名の委員からなる大統領任命の調査特別委員会を設置しスリーマイルアイランド原子力発電所(TMI)の事故原因を総合的に徹底調査検討することを目的として作業を行うことを発表した。4月11日の任命から6ヶ月以内に大統領に報告書を提出すべく活動を開始した。同委員会の正式名称は「TMI事故に関する大統領委員会」であり通称「ケメニー委員会」と呼ばれている。ケメニー委員会は証言や証人喚問の権限を大統領から与えられており、公聴会の結果やスタッフが実施した証人喚問の結果ならびに種々の検討の結果に基づき1979年10月30日に大統領に報告を行った。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 カーター大統領はTMI事故直後の1979年4月1日にTMI-2号炉を視察し、事故処理の安全対策と住民の冷静な対処を要望するとともに、事故による直接の混乱の収まった4月11日には、大統領任命の事故調査特別委員会を発足させ、事故原因の徹底調査を行うと発表した。
 同委員会は正式名称を「TMI事故に関する大統領委員会」 (President's Commission on the Accident at Three Mile Island)、通称「ケメニー委員会」と呼ばれるものであり、ダートマス大学総長のケメニー博士(J.G.Kemeny )を委員長とし、学界、労働界、地方自治体の代表者及び住民代表(ミドルタウンの主婦)から選出された12名の委員から構成され、4月11日の任命から6ケ月以内に大統領に報告書を提出すべく活動を開始した。
 ケメニー委員会は証言や証人喚問の権限を大統領から与えられており、自ら行った12回の公聴会の結果やスタッフが実施した150回以上にものぼる証人喚問の結果ならびに種々の検討結果に基づき1979年10月30日に大統領に報告を行った。
 同委員会の勧告はNRC等によって尊重されることになるため、この勧告は世界中から注目され、とくに、原子力発電所の許認可停止(モラトリアム)に同委員会がどのような決断を示すかに関心が注がれたが、10月16、20日の再度にわたる委員全員の票決の結果、モラトリアムに至らず、この件に関する勧告は行われなかった。
 また、報告書では事故の主要原因はTMI発電所の運転員の不適切な操作にあるとしながらも、設備の欠陥、管理体制の不備などの多くの要因も重なったものと指摘し、今後このような事故の再発を防止するためには、NRC及び産業界において種々の改革が必要であるとしている。特に、NRCについては独立した行政機関として全体的な改組が必要であり、また、産業界に対しては運転員の訓練強化や安全性に対する姿勢の根本的な変更の必要性を強調している。
 カーター大統領はこのケメニー報告を受けてタスク・フォースを編成し、その勧告の検討に当たらせていたが、1979年12月7日声明を発表し、大統領としてのTMI事故に対する姿勢を明らかにした。
 その声明文で、大統領は、原子力発電の安全性は何よりも優先するとして、運転員の訓練強化や制御機器の改善等ケメニー報告書で指摘された改善措置の実施を強く要請し、以下のようにNRC等の政府機関に対し5項目、産業界に対し3項目の改善策を示した。
  (1) NRC委員長の権限強化を主眼とするNRC改組法案の作成。
  (2) NRCのヘンドリー委員長を更迭し、外部から委員長を任命(当面はジョン・エイハーン(John Ahearne)が臨時委員長)。また、安全性の向上の成果について大統領に報告する監査委員会( Oversight Commitee)の設置。
  (3) 連邦緊急管理局(FEMA)を中心に1980年6月までに運転中の原子炉のあるすべての州で緊急避難計画の再検討を完了。
  (4) すべての原子力発電所サイトに常駐検査官を配置。
  (5) ケメニー委員会のすべての勧告を実施するように関係行政機関に要請。
  (6) 産業界が独自の安全基準を開発するように組織化要請。
  (7) 産業界が運転員及び監督者の訓練プログラム等を開発・維持するための作業の実施要請。
  (8) 制御室は緊急時に対応できるようにできるだけ近代化・標準化・単純化を図ること。
 また、TMI事故以来、凍結状態にある新規の原子力発電所の許認可については、米国のエネルギー事情は不安定で高価格な外国石油に依存しているので原子力発電を放棄したり、その利用を長い間停止するような余裕はなく、原子力の利用を放棄することはできないとしてNRCに対して6ケ月以内に遅れている許認可を再開するよう求めた。
 TMI事故に関しては米国議会も独自の事故調査の実施を決めるとともに、NRCへの不信や有力な代替エネルギー源として考えられている石炭資源の豊富さから原子力開発体制の総点検をするまで許認可停止(モラトリアム)を実施するとの法案が提出された。モラトリアム法案についてはNRCの予算案にからめて原子力発電所の許認可を停止しようとするものであったが、1979年11月29日に行われた下院本会議でのモラトリアム法案は折りからのイラン問題で、エネルギーの対外依存を助長させるような行動は避けるべきとの意見が大勢を占め、圧倒的多数(254票対135票)で否決された。
 また、事故調査は上院の原子力規制小委員会(U.S.Senate,Subcommittee on NuclearRegulation : 委員長 Gary Hart)、下院科学技術委員会のエネルギー研究・生産小委員会(Subcommittee on Energy Research and Production : 委員長 Mike Macormack)等で行われ、報告書が発表された。
 上院原子力規制小委員会報告書におけるTMI事故の評価については、ケメニー委員会報告書などと同様にTMI事故の直接的な原因は運転員が安全系の自動作動を無視し炉心損傷に至らしめたことであるとしながらも、その根底には電気事業者、原子炉メーカー、NRCなどが実施している運転員の訓練、中央制御室の設計、計測機器・プラントの設計、緊急手順書等の欠陥に責任があるとしている。また、避難やその他の保護活動については、電気事業者、NRC及び州の対応が不適切であったとし、次の3つの問題を指摘している。
  (1)事故以前の緊急時対応計画が不備であったこと。
  (2)情報の伝達が悪かったこと。
  (3)防護活動は慎重に考慮すべきであることを認識していなかったこと。
  下院エネルギー研究・生産小委員会報告書下院における報告書もほぼケメニー報告書などと同様の結論を得ており、TMI事故について次のように評価している。
  (1) TMI事故における被ばくによる影響は小さく、かつ大惨事が差し迫ったものではなかった。
  (2) 原子力発電所の安全系は設計時において考慮された余裕のため放射性物質の重大な放出はなく、原子炉の基本概念である多重防護の考え方が有効であることが証明された。
  (3) TMI事故に対する検討とその結果から得られた措置が、今後の原子力発電所の安全確保に大いに役立つであろう。
 アメリカでは、カーター大統領が直属の調査委員会(ケメニー委員会)を設置して調査と勧告を行なわせた他に、NRCも独自の調査委員会(ロゴビン委員会)や、多数のタスクフォースを設置して、原因の究明と必要な改善措置の勧告を行わせた。これらの勧告等は全て収集され、分類整理の上、実行計画が定められ実行に移された。また、民間産業界も、原子力産業会議(AIF)や電力研究所(EPRI)を中心にして安全性向上の活動を行った。また、電力会社の共同出資による原子力プラント運転協会(INPO)も規制当局と連絡を保ちつつ、独自の活動を行った。
 わが国でも、TMI事故は重大なものとして受け止められ、発足間もなかった原子力安全委員会の下に「米国原子力発電所事故調査特別委員会」を設置し、調査と必要な勧告を行わせた。この特別委員会は、3回にわたって報告書を提出しているが、その中でも第2次報告書の中で、「わが国の安全確保対策に反映させるべき事項」を摘出し、詳細検討を勧告している。これが、「52項目の勧告」とよばれるもので、各項目はそれぞれ専門的検討を経て、順次規制行政や安全研究に取り入れられている。また、TMI事故で周辺住民の避難勧告が出された事実にかんがみ、わが国でも原子力防災を一層充実させる必要が感じられ、中央防災会議の決定を受けて、原子力安全委員会は、防災対策の実施主体である地方自治体への手引きともいうべき「原子力発電所周辺の防災対策について」を決定するとともに、これに先立だって万一の事故の際に必要な技術的勧告を行う「緊急技術助言組織」を設置した。
<関連タイトル>
米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の概要 (02-07-04-01)
TMI事故の我が国における対応 (02-07-04-06)
TMI事故直後の米国における対応 (02-07-04-07)
TMI事故大統領委員会報告書の概要 (10-03-02-04)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):昭和56年版 原子力安全白書 大蔵省印刷局(昭和56年12月)
(2)日本原子力文化振興財団(編):原子炉の原理・研究用原子炉(昭和59年3月)
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