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<概要>
原子力基盤術開発は、原子力委員会が昭和62年6月に策定した「原子力開発利用長期計画」及び同委員会基盤技術推進専門部会が昭和63年7月に報告した具体的研究開発課題と推進方策に従い、原子力用材料技術、原子力用人工知能技術、原子力用レ−ザ−技術、放射線リスク評価・低減化技術の4技術領域の開発を推進してきている。また、平成元年度から、「原子力基盤技術総合的研究(クロスオ−バ−研究)」を開始し、研究機関間の壁を越える積極的な研究交流により着実に進展しつつある。その後の研究開発の成果を踏まえ、引き続き安全性・信頼性・経済性の向上と21世紀初頭の原子力技術体系の構築を目指すため、同専門部会は推進状況を調査し、新たな展開方策を取りまとめた。本文にその要約を示す。
<更新年月>
1996年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子力基盤技術開発のねらい
 1.1 原子力基盤技術開発の意義
原子力基盤技術開発は、従来培ってきた技術ポテンシャルを活用し、原子力開発利用のフロンテイアの開拓と現行の原子力技術体系にインパクトを与えるような創造的・革新的技術開発を目指して、原子力用材料技術、原子力用人工知能技術、原子力用レ−ザ−技術、放射線リスク評価・低減化技術を、当面開発すべき4領域と位置づけ、技術開発の積極的な推進を図る。
 1.2 「原子力基盤技術の推進について」(昭和63年7月原子力委員会基盤技術推進専門部会)における方向性
(1)技術開発課題
原子力用材料は、「基盤技術」の中でも基礎的要素が高いが、中長期的視野に立ち、従来の技術体系に衝撃を与え、他の産業分野への波及効果を資することが重要であり、耐放射線性材料の創製、放射線低減化のための材料開発、化学反応・制御に関する研究開発、解析・評価及び設計のための技術開発、原子力用材料に関するデ−タベ−スの構築・整備を基本的な技術開発項目とする。
 原子力用人工知能は、原子力プラントのような巨大システム制御の安全性の向上及び人間の接触不能な放射線場での作業支援を中間目標に、自己判断・制御を行う自律型プラントの実現を究極的目標とし、ロボット技術やシミュレ−ション技術等を開発する。
 原子力用レ−ザ−は、同位体・元素等の分離、計測・分析、材料加工等のためのレ−ザ−技術を開発する。
 放射線リスク評価・低減化は、安全確保の観点から、被ばく線量評価、放射線リスク評価、放射線リスク低減化技術を開発する。
(2)技術開発の効率的推進方策
原子力基盤技術開発は、”キャッチアップ型”から”創造型”の技術開発を目指し、原子力フロンテイアといわれる先導的・創造的・革新的な技術開発の推進ため、技術開発の進展及び諸般の情勢変化に配慮を加え、非原子力分野を含める研究交流、創造的な人材の意識的な育成、研究開発の積極的な国際化、原子力分野における新しい研究評価の導入、研究成果の報告会等の開催、情報ネットワ−ク化等、研究成果の普及促進を中心に効率的・効果的かつ体系的に技術開発を推進する。

2.原子力基盤技術開発の実施状況
 2.1 各技術領域における研究進捗状況
 原子力用材料技術開発は、新材料の開発、試験装置、試験法及び解析・評価手法の開発が推進するなか、核融合材料等や複合極限環境材料、軽水炉のための少経年劣化材料の開発等微視的観点を考慮した材料科学的研究及び原子力材料用デ−タフリ−ウエイを利用した金属材料、セラミックス、高分子材料に至る幅広い領域のポテンシャルの結集を、産業界の積極的な技術活用とともに図ることが重要である。
 原子力用人工知能技術開発は、産・学との交流も活発であり、自律型プラントのための能動的環境認識技術開発等の成果を通じて関連学会等でも積極的活動が高く評価される一方、非常に萌芽的要素が強い上、近年のコンピュ−タ−のハ−ドやソフトウエアに係る技術及びロボット技術の急速な進歩を背景として、一層の進展が予想される。今後の展開としては、産・学の先端的研究者との交流をさらに深め、産業界の豊富なシステム化技術の経験活用、実プラントへの適用性を考慮したシステム開発が重要である。
 原子力レ−ザ−技術開発は、高密度エネルギ−源、効率的・経済的分離等への応用として、レ−ザ−出力、効率、寿命及び信頼性向上への技術、各種励起同位体・元素生成に係る波長可変技術のための技術開発、並びに、原子力用レ−ザ−利用技術の開発を行っており、ユニ−クで先端的な成果とともに高い評価を受けている。今後は、人材の育成・確保による一層の向上を図りほか、従来の成果を踏まえて、高出力・短波長化の研究を重点的に進め、高レベル放射性廃棄物群分離、有用元素回収等のためのレ−ザ−光化学に関する基礎的技術開発を推進していく。
 放射線リスク評価・低減化技術開発は、放射能等の測定技術開発による被ばく線量評価技術の開発、外部及び内部被ばくによる人体への影響評価技術の開発等による放射線リスク評価技術の開発を行うともに、これらの知見を基に放射線リスク低減化技術の開発を推進してきたが、長年蓄積した成果をデ−タベ−ス化するとともに、遺伝子解析技術等、ライフサイエンス分野の新技術や新知見を積極的に活用した高精度な放射線リスク評価技術の開発を重点的に行うとともに、放射線被ばくによるリスク低減化技術の開発を促進し、国民の安全確保により一層の貢献を図る必要がある。
 2.2 研究推進体制等の現状
 クロスオ−バ−研究の推進に当たり、産・学・官の有識者及び参加研究機関の代表者からなる、基本事項を審議する研究推進委員会と技術領域に対応した具体的方策を審議する研究交流委員会が設けられたほか、研究者の受入制度、研究の国際化、委託研究が進むなか、今後、各種研究機関間の交流はもとより、大学や産業界との連携を促進する必要性はあるものの、国内外の多数の研究者の出席によるシンポジウム報告会等により研究成果の普及を促進しているところである。
 原子力基盤技術評価は、平成2年3月に基盤技術推進専門部会専門部会研究評価小委員会を設置し、平成3年10月に研究者への奨励と効率的・効果的推進方策、推進施策検討の際の参考、及び研究評価方針を取りまとめ、平成4年3月、技術領域毎の外部専門家からなる研究評価ワ−キンググル−プを設置、各課題毎の3段階評価の開始やクロスオ−バ−研究の中間評価が実施されている。

3.原子力基盤技術開発の新たな展開方策
 3.1 新しい技術領域への取り組み
 新しい技術領域として、原子力分野におけるのニ−ズ、先端的科学技術研究開発活動状況、他の研究分野へ波及効果、若い有能な研究者の勧誘の観点から、以下の3領域を取り上げ、積極的な推進を図る。
(1)放射線ビ−ム利用先端計測・分析技術
 近年、加速器等の整備により重イオンビ−ム、放射光、陽電子線等、各種のビ−ムの利用により、原子構造、電子構造等微小領域に関する計測・分析及び超短時間でおこる物理現象や化学反応等の動的過程等、また、生体への応用など広範な波及効果を期待しつつ、各種ビ−ムの発生・形成及び3次元画像再構成法等計測・分析デ−タの高度な処理に係る技術開発を積極的に推進する。
(2)原子力用計算科学技術
 近年、ス−パ−コンピュ−タ−の導入、ダウンサイジングによる並列処理、高速かつ高度な情報処理技術の発展に伴い、大規模な科学技術計算が可能になる一方、原子力の分野では、極低温、超高温、放射線重照射、過酷な腐食環境、超高真空等の極限環境の模擬、複雑な現象の再現又は機構の解明、計算機上実験や材料設計等の実行による効率的・経済的・合理的研究推進、安全研究として過酷な環境下での構造物の評価・解析手段等、そのニ−ズが増大している。今後は、ス−パ−コンピュ−タ−による並列計算技術、ニュ−ラルネットワ−ク等、新たな研究手法や思考法を構成する方法論の開発など、原子力安全確保に対する開発推進は勿論、将来型計算科学技術の開発への基盤を構築し、他の分野へ貢献を図ることが重要である。
 3.2 積極的な推進方策の展開
 産・学・官及び外国との研究交流の促進としては、研究推進委員会を強化し、大学、産業界等との情報交換の活発化や研究者の参加、外来研究員制度等現行の研究者交流制度に係る予算の拡充と有効活用、産業界の活用、国際的なヒュ−マンネットワ−ク網の推進が、重要である。
 広範な学問領域の専門家との研究交流や情報交換を通じ、技術的ブレ−クスル−を図る仕組みを整備することが必要である。
 さらに、外部に開かれた試験研究機関として、運営しやすい柔軟な人材結集型システムを導入などの促進する。
 また、中長期的観点から、国内留学制度、研究員制度等の利用により、豊かな独創性や創造性を有する若手研究者等、優秀な人材の計画的育成・確保を図ることが重要である。現在、一部の研究所及び国研等においては、連携大学院方式による研究指導を行っているが、欧米諸国の成果を踏まえた新しい方式の推進を検討していく必要がある。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第440号(第38巻第4号)大蔵省印刷局(1993年7月)
(2)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック 1994年版、(社)日本原子力産業会議(1994年3月)
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