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<概要>
 原子力開発利用をめぐる国際情勢から今後の展開を見通すと、従来にも増して二国間、多国間の政策対話を進めることが重要である。また、近隣アジア地域は飛躍的な経済発展が予想され、我が国はこの地域と歴史的、地理的にも密接な関係を持ち、原子力分野での我が国への期待は大きく、我が国はこれまでの技術的蓄積や経験を踏まえて地域内の共通課題や個別の要請にもきめ細かに対応していく。国際機関への貢献についても、IAEAOECD/NEA 等の原子力に関する国際機関の活動に対し、今後とも主体的に貢献していく。また、国際機関が安全の確保、原子力平和利用の推進及び核不拡散体制の強化の面で最大限機能を発揮できるよう我が国は努力する。国内環境の整備は、原子力委員会の主導の下、関係機関の連携を強化する。研究交流を円滑に実施するため組織の整備・強化を図り、組織、人材、運営の面で国際対応能力の充実を図る。本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
9.国際協力の推進
(1) 国際協力の基本的考え方
1) 政策対話の必要性
  原子力開発利用をめぐる国際情勢から今後の展開を見通すと、核不拡散と平和利用の両立、冷戦の終結に伴う新たな協力関係の構築、核兵器の削減に伴う非核化への協力、NPTの延長問題への取組など技術協力という観点からだけでは適切に対応できない課題や国際的に協調して取り組むべき課題が山積しています。これらに適切に対応していくためには、従来にも増して二国間、多国間の政策対話を進めることが重要です。このため、既存の定期的な協議等の活発化を図るとともに、我が国による国際会合開催の積極的提唱、海外での会合への積極的な参加等、あらゆる機会を通じて関心国の政策立案者やオピニオンリーダーとの意志疎通を図っていきます。
2) 積極的国際協力の必要性
 我が国は技術開発に傾注する努力において、今や国際的に主要な地位を占めてきており、従来以上に確固たる主体性を持って積極的に国際協力を進めていく必要があります。
 核燃料リサイクルの意義については既に述べましたが、長期的な視点に立って、核燃料リサイクルに取り組むことは、将来、我が国が原子力分野の技術先進国として重要な役割を果たしていくという観点からも重要であり、持続的に技術開発を進めていきます。その際、先進諸国の開発成果の有効活用の観点、社会的な理解促進の観点、機微技術の移転に慎重に対応する観点から、この分野において長年にわたり研究開発を進め相当な技術蓄積を有する先進諸国と協調して進めることが重要です。このため、高速増殖原型炉「もんじゅ」等の核燃料リサイクル関連の大型研究開発施設を経験国との国際共同研究施設として活用すること、技術情報の交換を活発にすること、技術を蓄積している先進諸国の研究者の参加を得て各国に蓄積された知見を効果的に活用することなどに重点を置くこととします。また、核不拡散に取り組む我が国の姿勢がより明確になるよう、アクチニドリサイクル技術も含め先進的リサイクル技術の研究開発に関する国際協力を積極的に進めていきます。
 高レベル放射性廃棄物の処理処分等のバックエンド対策のように国際的なコンセンサス形成に向け、各国に共通する技術課題の解決が必要な分野や、多額の資金、研究者、技術者の結集が必要な核融合研究開発や放射線の高度利用のような先端分野においても、引き続き国際的な取組を進めていきます。その際、国際協力をより積極的、効果的に進めるため、内外の優れた研究開発施設の活用を図っていきます。
 さらに、原子力分野の基盤技術開発について、他分野への技術の波及効果を発揮し得る国際協力を展開するとともに、これまで培ってきた原子力分野での幅広い技術開発、基礎研究の成果についても、世界のエネルギー問題、地球環境問題の解決への貢献のため、世界に発信し活用していく積極的姿勢をもって国際協力を進めていきます。
 
(2) 近隣アジア地域及び開発途上国との協力
1) 近隣アジア地域との協力の重要性
 近隣アジア地域は、今後、飛躍的な経済発展が予想される地域であり、この地域の発展は世界の繁栄に大きく貢献していくものと考えられます。我が国はこの地域と歴史的にも地理的にも密接な関係を持っており、原子力分野についても我が国への期待は大きく、我が国としてはこれまでの技術的蓄積や経験を踏まえ、地域内の共通課題に取り組むとともに、個別の要請にもきめ細かに対応していくことが必要です。
2) 国情に応じた長期的継続的な協力及び基盤整備に係る協力
 近隣アジア地域及び開発途上国との協力にあたっては、長期的な展望にたち制度・技術の両面から継続的な取組が不可欠です。各国の政策立案者等との政策対話を行い、必要に応じてエネルギー政策全般にも検討の範囲を広げて共に検討し、各国の要請、実状を的確に把握し、国情に応じた協力を実施する必要があります。このような協力を実施していくにあたり、既存の二国間、多国間及び地域の協力の枠組みを効率的に組み合わせていくとともに、安全確保、核不拡散、研究支援に係る制度的な協力体制を検討していくことが重要です。
 また、各国が自立的に原子力分野での実績を積んでいくようになるためには、その国の技術向上等に係る自助努力を支援し、中長期的に研究開発能力の向上を図ることが重要と考えます。このため、研究基盤や技術基盤の整備に関して重点的に取り組むこととし、研究用原子炉利用、放射線利用等の基礎的な研究分野を中心に、既存の研究交流制度を拡充していきます。一方、原子力は裾野の広い技術であることから基礎科学、産業技術等の向上や人材の養成等が図られることが必要です。
3) 原子力資機材等の供給への取組
 近隣アジア地域及び開発途上国との国際協力の進展に伴い、従来からの人材交流・情報交換を中心とした協力に加えて、今後は原子力資機材等の我が国からの供給が活発になると考えられますが、我が国の原子力産業の現状、相手国の要請、他の供給国との連携・協力等を踏まえ、我が国全体として総合的な取組の必要性について検討することが重要です。国は、民間協力の進展に合わせた二国間原子力協力協定の締結等必要な環境整備を図ります。一方、民間においては、原子力発電に係る経験、知見をもとに運転管理者等の養成・訓練等に貢献し、また、計画策定、立地調査、原子力に対する理解の増進等の建設・運転等に至る準備的な活動等に対して貢献していくことが期待されます。
4) 安全確保と核不拡散への配慮
  原子力開発利用に当たっては安全の確保が大前提であること、またある国の原子力施設の事故等は他国の国民の不安を招く恐れがあり、各国の原子力開発利用に影響を与えかねないことなどから、近隣アジア地域や開発途上国との協力に当たっても各国に共通する問題として安全の確保に重点を置いた協力が重要です。このため相手国の国情、規制体制の整備計画に沿って、人材養成、規制関係情報の提供等を行い、また、安全確保に係る研究、技術基盤の整備等の協力を進め、原子力安全文化の醸成を促していくこととします。原子力資機材等の供給を伴う協力にあたっては、NPT等国際的な核不拡散体制下の義務等を遵守していく必要がありますが、我が国が核不拡散の観点から十分な対応をとるとともに、人材交流を通じて経験等を移転し被供給国における保障措置、核物質防護体制の整備・強化に対しても協力していき、相互に核不拡散に関する意識の向上を図る努力をしていくことが重要です。

(3) 国際機関への貢献
 IAEA、OECD/NEA等の原子力に関する国際機関の活動に対しては、原子力平和利用に関する国際的な共通課題の解決、国際的なコンセンサスの形成、効率的な国際協力計画の推進等の観点から、今後とも主体的に貢献していきます。また、冷戦終了後の新たな国際秩序が模索される中で、国際機関が、安全の確保、原子力平和利用の推進及び核不拡散体制の強化の面で最大限その機能を発揮できるよう我が国としても努力していきます。
 このため、国際機関への派遣員数の増加、主要ポストへの計画的派遣に努めるとともに、我が国に関連の深い重要テーマに関する活動に対して応分の資金拠出を行っていきます。

(4) 国内環境の整備
 国際協力を効果的に実施して行くためには、国際情勢に即応して柔軟な対応を図ることが必要です。このため、共通する方向性を関係機関が共有できるよう原子力委員会の主導の下、関係機関の間の意志疎通・調整を十分に図り、連携を強化していきます。
 また、国際協力の実施機関においては、研究交流を円滑に実施していくため、宿舎の整備、実施にあたる組織の整備・強化を図ることが期待されます。さらに、研究開発施設を国際的に開放していくことにより、開かれた研究開発体制を確立するため、組織、人材、運営の面で一層の国際対応能力の充実を図ります。
<関連タイトル>
核不拡散へ向けての国際的信頼の確立(平成6年原子力委員会) (10-01-04-01)
安全の確保(平成6年原子力委員会) (10-01-04-02)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1754号(1994年8月11日)
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