<本文>
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放射線リスク評価における遺伝疾患の自然発生率の意味
放射線が被曝者の子孫に与える影響を
遺伝的影響、遺伝性影響、あるいは経世代的影響という。この遺伝的影響のリスクの大きさを推定し、評価するにあたって自然に発生している遺伝的障害や疾病の頻度が問題となる。これは自然発生率が倍になるような放射線の量(
倍加線量)を推定し、それに基づいて遺伝的影響のリスクの大きさを推定する、という方法がリスク推定法の1つとして採用されていることによる。
2 遺伝疾患の種類
遺伝疾患には非常に多くの種類がある。優性の遺伝病としてはっきりしているものが、857、その疑いのあるものが835、劣性の遺伝病は575、その疑いのあるものが671、伴性遺伝病が113、その疑いのあるものが117種である。この他に環境影響と係わりあって発症してくる「多因子性の遺伝病」といわれるものが多数あるといわれている。
ICRPは多因子性の遺伝病は有病率(すべての病気に占める割合)が70%、そのうち
突然変異による分がその5%(全体の3.5%)と見積っている。
表1-1 および
表1-2 にはマキュージックという遺伝学者がまとめた代表的な遺伝病の名称と発生頻度が示されている。
3 遺伝的疾患の自然発生率の推定値
国連科学委員会は先天的な異常を持つ子供の頻度は生きて生まれて来る子供(死産児でない子供)100人当り約10人(100万人当り10万5900人)、と推定している。その内訳は
表2 に示す通りである。
日本における遺伝的疾患の種類と発生率については全てをまとめた統計は得られていないが、いくつかの報告がある。その例を
表3 、
表4 および
表5 に示してある。
<図/表>
<関連タイトル>
放射線の遺伝的影響 (09-02-03-04)
放射線と染色体異常 (09-02-06-01)
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)
BEIR-Vによるリスク評価 (09-02-08-03)
ICRP1990年勧告によるリスク評価 (09-02-08-04)
<参考文献>
(1) UNSCEAR 1988年 REPORT(日本語版:「放射線の線源、影響及びリスク」実業公報社 1990年
(2) BEIR-V,1990
(3) ICRP Pub.60,1990
(4) 松永・浜口編:遺伝医学読本(からだの科学 増刊 21)日本評論社 1989年