<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 自然放射線と健康
<タイトル>
放射線感受性についてのブロスの説 (09-02-07-05)

<概要>
 ブロスと共同研究者達は“3州調査”と呼ばれる調査を基に、医療被曝による白血病リスクについて解析を行った。研究内容は大きく分けて2テーマからなる。1つは出生以前の医療被曝と小児性白血病の関連についてであり、もう1つは成人非リンパ性白血病と医療被曝についての定量的な解析である。その結果、低線量放射線によるがんのリスクが、一般的に行われている推定方法によって示されるものよりもはるかに大きく、通常の診断用 X線 被曝により DNAが損傷を受けている危険性が大きいと主張した。また放射線感受性は個人差があり、アレルギー体質や感染症歴のある子供達や心臓疾患のある成人は対照群にくらべて高感受性であると報告した。しかしBEIR・(1980) では、彼らの統計方法やモデルに信憑性が乏しいとして、ブロスの説を疑問視しており、特にリスクの推定値に関しては否定的立場を取っている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 ブロスらは、アメリカ3州における 1959−1962年の小児性白血病と胎内被曝について分析を行った結果、母親が妊娠中に受けた診断X線被曝(通常0.5−5rad)により、子供達が白血病にかかる相対的リスクが50%も増加すると報告した(Bross and Natarajan,1972)。さらに、1)被曝集団内には、アレルギー体質や感染症歴から判断されるような感受性の異なるグループが混在していること、2)高感受性のグループでは、特に「放射線による影響を受け」やすく、診断X線被曝により白血病のリスクが非常に高くなることを報告した( 図1 )。例えばこの調査では、小児性白血病患者の12%がアレルギー体質であり、高感受性のグループに属する。また上記のような高感受性のグループでは、母親が妊娠以前に受けた診断X線被曝によっても白血病のリスクが増加することが報告された(Natarajan and Bross,1973)。さらに、彼ら独自の数理モデルを用いて解析した結果、両親が診断X線照射を受けた場合、胎児の1%が「影響を受けて」おり、彼らの白血病の相対リスクは50倍、アレルギー等の相対リスクは5倍増加していると推定した (Bross and Natarajan,1977) 。
 また成人男性についても同様の分析をおこなった結果、たとえ0.5radレベルの診断X線でも、照射を受けた人の5%が「影響を受けて」おり、彼らの白血病の相対リスクは10倍、心臓病の相対リスクは3倍に増加すると推定した(Bross et al.,1978,1979) 。またX線フィルムの枚数から皮膚線量(rad)を大雑把に推量し、彼ら独自のモデルを用いて、1rad あたりの「影響を受けた」人の過剰率を計算した(Bross et al.,1979)。その結果、推定線量がゼロに近づいても「影響を受けた」割合の推定値がゼロに近づかなかった( 図2 )。そこでブロスは1rad 前後の線量の放射線誘発がんのリスクはかなり大きいこと、また従来の高線量放射線(0.1−10rad) からの外挿値は低線量被曝のリスクを過小評価していると主張した。
 ブロスモデルでは、白血病の線量−反応関係は様々な感受性をもつグループの割合比によって決定していると仮定している。この点が細胞レベルの放射線障害の機構に基づく他のモデルとは大きく異なる。またブロスモデルでは「放射線の影響を受けた」被曝集団の割合が主要な変数であるが、この値は被験者の面接から得られた白血病以外の病歴等のデータから算出している。
 BEIR 3(1980)は、(1)面接データによって得られた情報のパラメーターが非常に大きく、「放射線の影響を受けた」割合を推定することが困難であること、(2)白血病患者群では、詳細な診察、検査により他の病気を確認する可能性が対照群より高いなどの潜在的片寄りを無視していること、(3)ブロスの統計的方法に信憑性がないこと等を理由に、ブロスの説を否定している。ただし、“高感受性のグループ”の存在については前面的否定はしていない。また、ハンフォード工場の労働者の死亡データを用いた分析結果と矛盾していることも指摘している。
 またUNSCEAR(1986) でも、アレルギー体質や感染症と小児性白血病の関連性について、オックスフォードでの研究を紹介し、ブロスとは異なる説を支持している。
<図/表>
図1 小児性白血病と感染症やアレルギーとの関係
図2 診断X線照射量と「影響を受けた」人の割合

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<関連タイトル>
英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)
診断用医療放射線と人体影響 (09-03-04-01)
米国ハンフォード原子力施設従事者の疫学調査 (09-03-01-02)

<参考文献>
1)Bross, I. D. J. と Natarajan, N. N. Eng1. J. Med. 287, 107, 1972.
2)Natarajan, N. と Bross, I. D. J. J. Med. 4, 276-281, 1973.
3)Bross, I. D. J. と Natarajan, N. J. Amer. Med. Assoc. 237, 2399, 1977.
4)Bross, I. D. J. ら J. Med. 9, 3, 1978.
5)Bross, I. D. J. ら Amer. J. Pub. Health 69, 130, 1979.
6)米国科学アカデミー BEIR−・報告書 (1980) “低線量電離放射線の被曝によるヒト集団への影響”ソフトサイエンス社(1983年)
7)UNSCEAR (1986年) “Genetic and somatic effects of ionizing radiation”
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