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<概要>
 放射線は近年、科学的研究、医学研究、臨床医学、各種産業等、種々の目的で広く利用されており、その利益は極めて大きいが、生体に不利益(害)をもたらす面もある。例えば、三大がん治療(手術療法、放射線療法、抗がん剤治療)時の副作用は治療の妨げとなる問題である。特に、放射線と化学治療の副作用は大きく、副作用の防護研究が必要である。ここでは、放射線治療時に使用できる新たな放射線防護剤としての可能性を有する天然物質の放射線防護効果についてのデータを紹介する。(1)チャーガ(Fuscoporia obliqua)、霊芝、ハタケシメジは、茸であり、その有効成分は、β−グルカンと言われ、放射線防護作用は、マクロファージ、サイトカインの作用により免疫機能の活性化を促し、体力増強であると考えられる。(2)プロポリスとEchinaceaは、薬用植物の由来であり、その効果は、放射線により生じたフリーラジカルを消去し、過酸化脂質などの酸化による細胞の障害を軽減させる。また、白血球数の減少を抑え、免疫力の低下を防ぐと共に、マクロファージの活性やT細胞活性またはINF−γなどサイトカインの増加作用により免疫力を高め、放射線照射に伴う免疫力低下を抑え、感染から生体を防御することが認められた。
<更新年月>
2005年05月   

<本文>
1.プロポリスおよび霊芝を用いた放射線防護効果の研究
 プロポリスは、ミツバチが有害な細菌やウイルスから巣を守り清潔な環境を保つために、樹木から集めた樹液に蜂ロウや唾液を混ぜて作る粘着性のある樹液状の天然物質である。プロポリス溶液には多種多様な有機酸類、フラボノイド類、ミネラル類、およびビタミン類が含まれており、これらがもたらす総合作用が薬効として現れるものと考えられている。報告されている薬理作用には、免疫賦活作用、抗炎症、鎮痛、解熱作用、抗腫瘍作用、抗ガン剤の副作用抑制作用および抗菌作用があげられる。(文献1)
 霊芝はサルノコシカケ科マンネンタケである。副作用が無いため、中国では上薬として扱われてきた。免疫増強作用のあるβ−グルカン(多糖類)が含まれている。また、トリテルペノイド、ステロール、アデノシン、アスパラギン酸、グルタミン等の多数のアミノ酸も含まれており、免疫の賦活作用、抗酸化作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用および抗アレルギー作用などが報告されている。(文献2)
 これらの物質を単独使用または併用し、抗腫瘍効果、放射線照射による血球細胞数の変化、抗酸化作用、cell cytometerによるCD4、CD8のリンパ球の分離を調べた結果では、プロポリスおよび霊芝によりサイトカインやマクロファージの活性化が見られ、抗腫瘍効果が確認された。血球レベルの変化では、血球細胞数の上昇や放射線影響による血球細胞の減少を抑えることが確認された。放射線照射により発生するフリーラジカルを除去する作用が考えられ、免疫増強作用による抗酸化作用が認められた。また、T cell subsetの解析では、プロポリスおよび霊芝によるCD4およびCD8の増加が確認された。これらはプロポリスのフラボノイド類や霊芝のβ−グルカンが作用したものと考えられる。抗腫瘍作用は、マクロファージ、サイトカインの作用により免疫機能の活性化を促し、腫瘍細胞を攻撃することで腫瘍の成長を遅らせている可能性がある。また、プロポリスおよび霊芝のラジカルスカベンジャー作用や、抗酸化作用、T細胞の活性、免疫活性作用も働いている可能性がある。
2.Echinaceaを用いた放射線防護効果の研究
 これまで、放射線防護剤(WR-2721など)や放射線被ばくによる免疫力の低下を防ぐ免疫低下抑制剤(G-CSF、OK-432など)が開発されてきた。(文献3、4)しかし、これらの薬剤は毒性や副作用が強く、複数の薬剤との併用による複合副作用があり問題とされている。このような背景の中、副作用の少ない新薬や自然素材による放射線防護の研究および開発が進められている。Echinaceaは、アメリカ先住民により古くから薬草として用いられ、抗ウイルス性、抗菌性、免疫賦活作用などの効用が報告されている。(文献5)Echinaceaの主な成分は、多糖類、カフェ酸誘導体、フラボノイド、ポリアセチレン、糖タンパク質である。血球細胞に対するEchinaceaの放射線防護効果についての実験では、放射線照射に伴う白血球数およびリンパ球数、単球数の減少抑制効果が示唆され、白血球数、特にリンパ球の早期回復が確認された(p<0.05)。また、マウス末梢血液中の抗酸化効果については、Echinacea投与による末梢血液中の抗酸化活性の上昇が確認された(p<0.05)。免疫系への影響についての実験では、Echinacea投与にはマウス末梢血液中の総IgGおよびIgM量の減少が認められた(p<0.05)。さらに、マウス末梢血液中のTリンパ球サブセットより、Echinacea投与によるCD4およびCD8陽性率の増加が見られ、T細胞の増加および活性化が示唆された(図1)。Echinaceaは放射線照射により生じたフリーラジカルをラジカルスカベンジング作用により消去し、過酸化脂質の生成など酸化による細胞の障害を軽減させることで、放射線照射による白血球数の減少を抑え、免疫力の低下を防ぐと考えられる。
3.チャーガ(Fuscoporia obliqua)とプロポリスを用いた放射線防護効果の研究
 チャーガは、東欧では16世紀から疾病と成人病に対する民間治療薬として使われてきた。現在、チャーガとプロポリスの抗酸化作用、免疫賦活作用に着目し、放射線治療時の副作用低減について、in vivoにおける放射線照射による末梢血液中の血球数への影響が調べられている。また、ケミルミネッセンス法による抗酸化作用およびラジカルスカベンジ作用、ESRによるフリーラジカル量等の測定が行われている。さらに、腫瘍抑制と密接な関係を持つ抗酸化作用、免疫賦活作用と併せて腫瘍壊死因子TNF-αへの影響に着目し抗腫瘍効果についての検討が行われている。(文献6)末梢血液中の血球数への影響については、チャーガ、プロポリスおよびMix投与によって、有意に白血球数とリンパ球数の上昇が認められ(p<0.01)、免疫賦活活性が示唆された。照射群に対しては、チャーガ 、プロポリスおよびMix投与により放射線照射に伴う白血球数とリンパ球数の減少が抑制され、早期の回復が認められた(p<0.01)。抗酸化については、プロポリスとMix投与によりSOD様活性の上昇が認められ(p<0.05)、ルミネッセンス法ではチャーガ投与によりp<0.05、プロポリスおよびMixではp<0.01と抗酸化能の有意な上昇が認められた(図2)。ESRでは有機ラジカル量には有意な差は認められなかった。Tリンパ球サブセットの解析では、チャーガ投与により、CD4およびCD8陽性率の増加が見られ、Tリンパ球の増加および活性化が示唆された。腫瘍成長抑制への影響については、チャーガ、プロポリスおよびMix投与により、腫瘍成長の抑制が認められた(p<0.01)。チャーガとプロポリスは放射線照射により生じたフリーラジカルをラジカルスカベンジング作用により消去し、有機ラジカルの生成を阻害し、過酸化脂質の生成など酸化による細胞の障害を軽減させ、放射線照射によるリンパ球数の減少を抑える可能性が認められた。(文献6)また、マイクロファージによって産出される腫瘍壊死因子であるTNF-αが増加していた(文献7)
4.ハタケシメジ(Lyophyllum decastes sing)とプロポリスを用いた放射線防護効果および抗腫瘍効果に関する研究
 熱水抽出ハタケシメジおよび水抽出プロポリスを蒸留水で溶解したしたものを投与物として、血球細胞数およびフローサイトメトリーによるTリンパ球の解析を行った研究は次のとおりである。
 ICRマウスを用い、非照射群としてControl (Top water)群、プロポリス群、ハタケシメジ群、Mix群、2Gy全身照射群としてX群、プロポリス+X群、ハタケシメジ+X群、Mix+X群の以上8群(n=10)とした。投与方法は強制経口投与にて隔日で行い、投与量は250mg/kg/0.5mlとし2週間の事前投与終了後に実験を開始した。末梢血球細胞数測定には照射1日前から30日後までに白血球(リンパ球、単球、顆粒球)を測定した。有意差検定にはANOVA検定を行った。Tリンパ球分画ではC57Blマウスを用い、実験群は血球測定と同様の8群とした。投与は隔日で腹腔内に100mg/kg/0.3ml行い、2週間の事前投与終了後に実験を開始した。抗酸化の検討としてAAPH法 とSOD様活性測定法を行った。実験群は4群とし、投与方法は強制経口投与にて隔日で行った。さらに、放射線防護剤が腫瘍に与える影響を検討する為、腫瘍の成長測定を行った。その際、放射線治療を模擬するため、2Gy×3回の計6Gy局部照射の群を用いた。実験群はControl (Top water)群、プロポリス群、ハタケシメジ群、Mix群、6Gy治療群としてX群、プロポリス+X群、ハタケシメジ+X群、Mix+X群の以上8群(n=8)とした。腫瘍細胞はSarcoma180(2×106 cells)を用い、マウス左大腿部へ移植した。投与方法は強制経口投与にて隔日で行った。有意差検定はノンパラメトリックなWillcoxon順位和検定を行った。非照射群における末梢血球数測定ではハタケシメジ群およびMix群において白血球数、リンパ球数、単球数の増加が見られた。また、CD-3・CD-4 doublepositive細胞の増加も認められた。プロポリス群においてはL/P活性の有意な増加およびCD-3・CD-4 doublepositive細胞の増加が認められた。さらに、抗酸化活性におけるSOD法においてはハタケシメジ群およびMix群にsuperoxideのスカベンジングに関するSOD様活性が認められた(図3)。X線を2Gy全身照射した場合、X群に対してハタケシメジ+X群およびMix+X群に白血球数、リンパ球数(図4)、単球数に関して減少抑制に関する統計的有意差が認められ、プロポリス+X群では照射前および照射直後においてリンパ球数の減少抑制が認められた。腫瘍への影響に関しては非照射ではプロポリス群およびMix群において腫瘍成長の抑制が確認され、統計的有意差も得られた。これにより、プロポリスおよびMixはそれ自体に腫瘍成長抑制効果があることが確認された。6Gy局部照射では腫瘍成長の抑制においてMix群はX群に対して統計的有意差が見られ、プロポリス+X群、ハタケシメジ+X群、Mix+X群の3群で成長抑制の傾向が確認された(図5)。相乗効果が期待できる場合には、一つの物質を大量に用いる場合よりも併用する方が少量かつ効果的に恩恵を受ける事ができ、拮抗効果が起こる場合には併用する事で本来の効果が現れないこともある。(文献7、8)ハタケシメジとプロポリスの併用(濃度比1:1)を行った結果では、血球数の変化および抗酸化の側面では相加的に作用し、CD-3・CD-4 doublepositive細胞およびCD-3・CD-8 doublepositive細胞では放射線からの賦活作用が著しく、CD-3・CD-8 doublepositive細胞の賦活作用は単独投与では見られない相乗作用が示唆された。プロポリスはヘルパーT-cellの増強に関与し、免疫的観点から放射線照射後の副作用の一つである白血球数低下を抑止していると示唆された。ハタケシメジの主成分であるβ-(1-3)Dグルカン、β-(1-6)Dグルカンが、Tリンパ球を活性し、免疫増強に関わることが考えられる。
5.まとめ
 放射線による人体への影響は、多くの研究により明らかであり、特に胎児は成人と子供に比べ、2〜3倍も感受性が高い。(文献9)放射線に関する生体への影響に対する防護効果は各種薬剤の併用によって専門的に研究され、報告されている。また、放射線と温熱治療、抗癌剤との併用癌治療時に正常組織に対する放射線影響の軽減によって副作用を抑える研究もされている。放射線防護効果をもつ天然物質を単独および併用投与しても放射線の腫瘍成長抑制を妨げず、むしろ腫瘍成長抑制を促進することが示唆された。この理由として腫瘍細胞などの低酸素細胞内においては血流が乏しく(文献10)、血漿中に存在するラジカルスカベンジ因子は少ないと思われる。このことから抗腫瘍成分および免疫細胞の活性による腫瘍抑制因子が強く働いた可能性がある。今後、多種多様なガン腫において、さらに精密な実験系により検討を進める必要がある。
<図/表>
図1 C57BL/6CrSlcから得られたCD4+細胞数の比較
図1  C57BL/6CrSlcから得られたCD4+細胞数の比較
図2 各投与群によるICRマウスのSOD様活性度(%)の比較
図2  各投与群によるICRマウスのSOD様活性度(%)の比較
図3 SOD測定方法を用いた抗酸化作用
図3  SOD測定方法を用いた抗酸化作用
図4 マウスの全身照射における末梢血液中のリンパ球の経時的変化
図4  マウスの全身照射における末梢血液中のリンパ球の経時的変化
図5 放射線照射後の腫瘍の大きさの率
図5  放射線照射後の腫瘍の大きさの率

<参考文献>
(1)E. I. Ghazaly and M. T. Khayal:The use of aqueous propolis extract against radiation-induced damage. Drugs, Exp, 21(6): 229-236(1995)
(2)Wang-Chi Chen, Dou-Mong Hau and Shiuh-Sheng Lee:Effect of Ganoderma Lucidum and Krestin on Cellular Immunocompetence in γ-Ray-irradiated Mice,American Journal of Chinese Medicine,Vol. XXIII , No,1,71-80(1995)
(3)鈴木郁功:水溶性プロポリスの免疫賦活作用、Food Style, 21 (3), 12-13(1999)
(4)Ukawa U., Ito H., Hisamatsu M.: Antitumor Effects of (1→3)-β-D-Glucan and (1→6)-β-D-Glucan Purifide from Newly Cultivated Mushroom, Hatakeshimeji. Journal of Bioscience And Bioengineering. 90(1), 98-104(2000)
(5)Block K. I., Mead M. N.:Immune system effects of echinacea, ginseng, and astragalus, Integr. Cancer. Ther. 2(3): 247-67(2003)
(6)具 然和:チャガの効能と効果(放射線治療副作用防止のための必須)、(株)理想書林出版、2(2004)
(7)具然和、鈴木郁功、大嶋正己:プロポリスとPhellinus Linteusの放射線防護効果に関する研究、医学と生物学,146(6),111-116(2003)
(8)鳥塚晶久、磯崎興志、徳永勇治郎:柴朴湯とプロポリス方剤の門脈血流動態及びCDT4 / CDT8による併用効果、和漢医薬学雑誌14(4),384-385(1998)
(9)Yeunhwa Gu, Michiki Kai and Tomoko Kusama; The embryonic and fetal effects in ICR mice irradiated in the various stages of the preimplantation period; Radi. Res., 147, 735-740(1997)
(10)新海政重、上野健吾、本多裕之、小林猛:ガン組織内温熱療法用発熱体としての針状成形マグネタイト、日本ハイパーサーミア学会誌、18(4), 191-198(2002)
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