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<概要>
 放射能の植物への移行は、放射能が大気中から地表に沈着する時に、併行して植物に沈着・移行する直接移行と、地中から根を経て吸収される間接移行がある。
 大気中からの放射能が植物を経由して人間に移行する主要な経路は、欧米では、大気→牧草→牛→牛乳と考えられており、わが国では、大気→穀類・葉菜→人間と考えられている。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.植物に対する放射能移行評価の意義と主要核種など
 大気中および土壌中には、天然と人工の両放射能が種々の形態で存在しており、その大部分は、核爆発実験により放出された微粒子状の長半減期核種である(ちなみにチェルノブイル事故による放射能放出量は、過去の核爆発実験で地上に蓄積された放射能量の約1/20)。放射性降下物による土壌・植物の汚染経路図を図1に示す。大気中を移行・拡散する放射能の一部は、放射能と結合した塵埃の重力による沈降、地表の物理・化学効果、地表近くでの乱流、降雨洗浄などにより、地表に沈着する。被ばく評価では、放射能の発生源からの経路が最も短いと考えられる大気中から植物への放射能の移行を評価する必要がある。
 また、シダ植物の中には特定の元素を取り込むものが知られ、環境モニタリングへの利用を研究しているところがある。
2.放射能の植物に対する移行機構
 大気中の放射能の植物への移行には、植物体表面に沈着して移行する直接移行と土壌に沈着した後に経根的に吸収される間接移行がある。
(1)放射能の植物に対する直接移行
 欧米では、ヨウ素の大気→牧草→牛→牛乳→人間が、人間への主要経路として考えられている。一方、日本では、大気→葉菜→人間の移行経路が重要である。
 日本では、農作物として、米麦、野菜などに対する放射能の移行が、汚染の対策上重要な位置を占めている。植物に直接移行した放射能は、その壊変、降水による洗浄、蒸発などにより減少する。農作物の収穫までの期間よりも半減期が短い放射能では、土壌を経由する間接移行は一般に小さく、直接移行が重要である。131Iは半減期が短い(8.05日)ために、米麦中への移行・蓄積は現実問題として重要ではないとされている。
 放射性ヨウ素を含んだ液にコマツナの葉先を24時間、および水稲の穂を1時間浸して移行を調べた結果によると、131Iの場合、葉先から葉の内部へは1割程度しか移行せず、モミへの吸収では、95%以上がモミガラに残留していた。外国の研究では、ナス科植物の葉面からCsとSrを吸収させて可食部にどれだけ移行するかを調べた実験があり、それによると、Srは開花期に処理した場合、葉から果実へ0.007%移行し、実がついてから処理した場合0.001%移行する。Csでは開花期に処理した場合0.74%移行し、実がついてからでは0.42%移行している。葉等から転流により放射能が移行するのは低いと考えられる。
(2)放射能の植物に対する間接移行
 既に述べたように、農作物の収穫までの期間よりも半減期が短い放射能では、一般的に間接移行経路は無視される。しかし、例えば90Sr、137Cs、239Puなどの長寿命核種が降下物として地表に落ちた場合には、土壌中に滞留蓄積していくと考えられる。そのため、経根的に植物に移行する経路が重要となると考えられる。
 土壌中に存在している放射能は、時間が経つにつれ土壌粒子に固定化されて植物に吸収されなくなり、また水とともに根が届かない深さに移行することがある。土壌粒子に吸着してしまう量は元素の種類や土壌の種類によっても違う。吸着する割合を示したものに分配係数があり、土壌中にある放射性核種の濃度を土壌溶液中の放射性核種の濃度で割った値で定義され、バッチ法やカラム法等の実験で求められている。
 さらに土壌中に存在している放射性核種が植物にどの程度移行するのかを示す値として移行係数がある。この値は、植物中(特に可食部)の放射性核種の濃度を、その植物を育てた土壌中の濃度で割った値である。この移行係数は植物の種類、土壌の種類、元素によって大きく変動するため、実験によって求めるが、様々な元素および作物についての移行係数の報告値がIAEAによってまとめられている。
 白米への137Cs(半減期30.07年)および90Sr(半減期28.8年)の移行については、直接的な経路、間接的な経路のどちらか一方の単純な経路になることは少ない。放射性核種の降下量が多い時には直接的な経路の割合が多く、降下量が少ない時は間接的な経路の割合が多くなると、長期的な観察結果により結論づけられてる。1960年頃の直接移行の割合は、Srで40−60%、Csでは約95%であったが、1990年以降は降下がほとんど認められないため、直接汚染の割合はかなり小さくなっている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 放射性降下物による土壌・植物の汚染経路図
図1  放射性降下物による土壌・植物の汚染経路図

<関連タイトル>
フォールアウト (09-01-01-05)
放射能の大気拡散、移行 (09-01-03-02)
放射能の牛乳への移行 (09-01-03-04)
食品中の放射能 (09-01-04-03)

<参考文献>
(1)佐伯 誠道(編):「環境放射能」、挙動・生物濃縮・人体被曝線量評価、ソフトサイエンス社(1984年5月)
(2)日本原子力文化財団(編):原子力の基礎講座、(6)人体と放射線・原子力と環境(1996年3月)
(3)内田滋夫、村松康行、住谷みさ子、大桃洋一郎:放射性ヨウ素の農作物への湿性沈着吸収に関する基礎研究 コマツナおよび水稲、Radioisotopes, 39(5)、p.199-203(1990)
(4)Scotti, I.,A.,Carini, F. Heavy metal effect on uptake and translocation of 134Cs and 85Sr in aubergine plants., J.Environ. Radioact.,48(2)、p.180-190(2000)
(5)駒村美佐子、津村昭人、小平潔:わが国での90Srと137Csによる白米の汚染−1959年以来37年間の長期観測とその解析−、Radioisotopes, 50(3)、p.90-93(2001)
(6)IAEA:Handbook of Parameter Values for the Prediction of Radionuclide Transfer in Temperate Environments,IAEA Technical Series No.364,Vienna(1994)、p.12-31
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