<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の理工学利用
<小項目> 理化学利用
<タイトル>
放射線源を用いたテロ行為への対策に関する国際的な活動について (08-04-01-44)

<概要>
 放射線源を用いたテロ行為の懸念があることから、国際原子力機関や国際放射線防護委員会はテロ行為への対策を策定、公表しており、各国政府に国内での取り組みを行うよう推奨している。テロ行為が起こることを防止するために、「放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範」(Code of Conduct on the Safety and Security of Radioactive Sources. CODEOC/2004)、「放射線源の輸出入規制ガイダンス」、「放射線源のセキュリティ」というガイダンス文書が出版されており、各国ではこれらに示されている安全対策、セキュリティ対策を国内法令へ取り入れようとしている。また、テロ行為があった時に避難や復旧活動を行う対策としては「放射線攻撃事態における放射線被ばくからの公衆の防護」(Protection People against Radiation Exposure in the Event of a Radiological Attack,ICRP Publication 96)や「原子力、放射線緊急時への準備と対応」という文書が出版されており、各国で対策を検討するときの参考となっている。
<更新年月>
2007年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 2001年9月11日に起こった米国同時多発テロ以降、放射線源を用いたテロ行為の懸念は増大し、国際機関や国際的な委員会においてその対策が検討されてきた。テロ行為への対策は、大きく2つに分けることができる。ひとつは、テロ行為を防止する対策であり、これには国際原子力機関(IAEA)が「電離放射線と放射線源の安全のための国際基本安全基準(SS115)」(BSS)を基本として線源セキュリティ対策を強化した「放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範」(以下、「行動規範」という)がある。もう一方は、テロ行為があったときに避難や復旧活動などを行う対策である。この対策に関して、国際放射線防護委員会(ICRP)が消防、警察などの緊急時対応を行う部署への線量や住民の避難線量の勧告を示している「放射線攻撃事態における放射線被ばくからの公衆の防護」がある。以下、テロ行為の防止対策とテロ行為があった後の対策に分けて説明する。
1.IAEAで検討され公表されている防止対策
 IAEAでは行動規範を定め公表しており、その中で放射線源の安全とセキュリティ確保のために国、行政、事業者そして実際に放射線源を取り扱う者の役割を定め、a)法規制の規制基盤の整備、b)放射線源取扱者が利用できる施設、サービスの提供、c)規制当局、警察などの職員の訓練、d)放射線源の国内登録制度の確立、e)身元不明線源を規制管理下へ戻す国内計画、f)線源のライフサイクルを通じての管理手順、g)放射線源の輸出入規制の実施を求めている。この行動規範を補完する文書が次々と公表されており、各国はこれら文書を参考に国内法令を整備するよう推奨している。
 防止対策を検討するに当たっては段階的アプローチが提唱されており、放射線源が持っている潜在的なリスクに応じて対策を取ることとしている。それを行う上で基礎となる「放射線源のカテゴリー分け」を公表しており、密封線源として利用されている25核種について危険の指標を表すD値を示し(表1参照)、過去の事故等で得られた教訓を生かし、5段階に分類している。カテゴリー1線源(D値の1000倍以上の放射能を有するもの)はそのリスクが最も高いもので、放射線滅菌施設や遠隔放射線治療装置などが該当し、カテゴリー2線源(D値の10倍以上1000倍未満の放射能を有するもの)には後充填式放射線治療装置や非破壊検査装置があり、カテゴリー3線源(D値を超え10倍未満の放射能を有するもの)には工業用計測機器がある。行動規範では、カテゴリー1、2、3の線源が「危険な線源」としての管理が必要であるとしている。さらに最近では、このD値は輸送規則で定められている約300核種についても計算され公表されている。今後このカテゴリー分けの考えは放射線安全とセキュリティを検討するに当たって基礎をなす考えになると思われる。
 各事業所で取るべきセキュリティ対策の考え方については、核セキュリティシリーズの一環として「放射線源のセキュリティ対策」がIAEAで準備されている。ここでも段階的アプローチを取っており、カテゴリーに応じて、検知{放射線源を盗もうとしたり破壊しようとして侵入することを検知すること}、遅延{壁などの物理的防護策により侵入者が必要とする時間を長くする手段}、対処{侵入者に対して警備員や警察が行動を取り、侵入者の行動を妨害したり、放射線源の現状復帰を行う行為}、セキュリティ管理{機密情報の管理、手続き、記録}、抑止{上の4つの対策により侵入することを思い止まらせること}、の5つのセキュリティ機能を定め、各国で対策を取ることを推奨している(図1参照)。
2.テロ行為があった後の対処について
 放射線施設での緊急時の対応についてはIAEA等で議論されガイドが出版されてきている。IAEA Safety Standard Series GS-R-2、原子力、放射線緊急時への準備と対応等がある。
 しかし、今までの検討は放射線施設の中でトラブルなどが発生した場合を想定しており、公衆がいるところで発生した場合には対応していない。通常放射線事故が考えられない場所でありそれへの対処が十分でない場所、すなわち都市部で、放射線テロが起こることが考えられる。そこで、ICRPは、放射線テロが行われた後に救援に携わる人や公衆を防護するために、今まで得た科学的知見を基に「放射線攻撃事態における放射線被ばくからの公衆の防護(ICRP Publication 96)」という勧告を2004年に策定し2006年に公表した。放射線攻撃事態における放射線被ばくからの公衆の防護の概要を以下に示す。
1)目的
 公衆を意図的に被ばくさせ、環境を汚染させ、社会に不安や恐怖を生じさせ、社会的に混乱させようとする放射線テロに対して、いくつかの想定シナリオをたてて、公衆の健康を防護するための放射線防護勧告を提供している。この中での勧告は、最近の科学的知見に基づいており、放射線テロに対して救援活動や避難措置を行う国の機関への意志決定支援を目的としている。一般的に、放射線防護とは関係のない人々が安全か危険かといった二者択一的な考えをし、放射線防護のために必要と考えられる措置以上のもの望むことがある。それ故、この勧告は放射線テロの後にある困難な局面への一般的な処方箋にならない。社会的、政治的考慮を入れて各国で検討するための基礎となるものである。
2)対象とする読者
 社会的、政治的状況が異なれば、放射線防護のレベルが異なる適用となることから、緊急時に権能がある規制官署や助言組織が本勧告の読者であることを想定しており、これを基に各国で検討されることを期待している。
3)回復や復旧作業に従事している作業者の線量ガイダンス値
 回復や復旧作業に従事している作業者には平時の職業人の放射線防護基準が適用され、人命救助にあっては、救助される者の利益が救助者自身のリスクにまさる場合にはこの制限が緩和される(表2参照)。
4)回復段階での公衆の防護
 回復段階の公衆の防護として、住民避難などの対策がある。この場合、被災者集団のリスクと不利益とを考えて表3の値が示されている。
 復旧とクリーンアップこれらの作業での放射性廃棄物の安全管理が発生するが、その地域に残った放射性物質により長期にわたる被ばく状況への対処が必要となることがある。この状況に対する放射線防護の介入を正当化する一般的な基準として表4の値が示されている。
<図/表>
表1 代表的核種のD値表
表2 緊急時作業のタイプ別の線量ガイダンス値
表3 公衆防護のための対応策別の回避可能な線量
表4 放射線防護の介入を正当化する線量基準
図1 IAEAから出版されている文書の関係図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
犯罪捜査における放射線利用 (08-04-01-18)
爆薬・薬物探知への放射線利用 (08-04-01-29)

<参考文献>
(1)IAEA:Code of Conduct on the Safety and Security of Radioactive Sources. CODEOC/2004. International Atomic Energy Agency,Vienna(2004)
(2)ICRP:Protection People against Radiation Exposure in the Event of a Radiological Attack,ICRP Publication 96(2005)
(3)IAEA:Guidance on the Import and Export of Radioactive Sources. IAEA/CODEOC/IMP-EXP/2005. International Atomic Energy Agency,Vienna(2005)
(4)IAEA:Categorization of Radioactive Sources,IAEA SAFETY STANDARDS SERIES No.RS-G-1.9. International Atomic Energy Agency,Vienna(2005)
(5)IAEA:Dangerous quantities of radioactive material(D-values)EPR-D-VALUES. International Atomic Energy Agency,Vienna(2006)
(6)IAEA:Security of Radioactive Sources,IAEA-TECDOC-1355,International Atomic Energy Agency,Vienna(2003)
(7)IAEA:Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency,Safety Standard Series No.GS-R-2. International Atomic Energy Agency,Vienna(2002)
(8)IAEA:Preparation,Conduct and Evaluation of Exercises to Test,Preparedness for a Nuclear or Radiological Emergency Response EPR-Exercise(2005). International Atomic Energy Agency,Vienna(2005)
(9)IAEA:Manual for First Responders to a Radiological Emergency. International Atomic Energy Agency,Vienna(2005)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ