<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の理工学利用
<小項目> 理化学利用
<タイトル>
SPring-8計画 (08-04-01-06)

<概要>
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)と理化学研究所は、1991年から建設開始した大型放射光施設SPring-8(Super Photon ring 8 Gevから命名)(兵庫県西部の播磨科学公園都市)を1997年10月に完成し供用を開始した。SPring-8はX線領域に重点を置いた高輝度放射光源であり、日本の研究開発基盤施設として大学、国公立研究機関および民間の研究者の利用に供し、材料科学・情報電子・ライフサイエンス・医療など広範な分野の先端的・基盤的研究開発を推進する上で中核となる施設である。
 放射光は物質を透過しやすく、また波長が短いので直接電子と相互作用するという特性により、物質の構造を調べるのに適した光である。SPring-8で得られる高輝度・高強度の放射光の利用は、これまでの研究を飛躍的に向上させるものと期待されている。
<更新年月>
2000年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射光の発生原理( 図1参照)
 光速に近い速さの電子が磁場中で進行方向を急激に曲げられた時、その接線方向に発生する電磁波を放射光(あるいはシンクロトロン放射、synchrotron radiation、SR)と呼び、1940年代に発見されて以来、(1)強度が高い(2)波長領域が広い(3)指向性がよい(4)偏光している等の特徴から、その利用技術は急速に発展してきた。
2.放射光施設の変遷
 放射光施設は高エネルギー物理学実験用加速器からのビームを利用した第一世代の装置、次いで放射光専用の蓄積リングを用いた第二世代の装置へと発展してきた。これらの装置の光源は主として電子の方向を曲げる偏向電磁石である。これに対しSPring-8は第三世代の装置と呼ばれる。これは電子軌道を蛇行させることによって発生する放射光を干渉させる挿入光源(アンジュレータ、ウィグラー: 図2 参照)を主たる光源とし、従来の光源と比較して極めて高輝度の放射光が得られる装置である。
3.高輝度放射光と大型放射光施設
 輝度の高い放射光を望むのであれば、蓄積電子のビームサイズ(正確にはエミッタンス)を小さくした蓄積リングが必要になる。蓄積リングで設計可能なエミッタンスの最小値は電子エネルギーの2乗と偏向電磁石総数の3乗に比例するので、同じ電子のエネルギーで低エミッタンスの放射光を得るには偏向磁石の数を増やす必要がある。これは必然的に周長が長い巨大な蓄積リングを持つ大型放射光施設であることを意味し、また同時にそのような蓄積リングでは偏向磁石と偏向磁石の間の直線部を多数設けることができるので、そこに挿入光源を導入してより輝度を高めることも可能となる。
 このような、蓄積リングの周長が1,000mを超える巨大な装置は第三世代の放射光源と呼ばれ、現在世界で3つの大型放射光施設が一部稼動中である(図3参照)。
4.大型放射光施設の放射光の特性(図4参照)
 SPring-8のような大型放射光施設で得られる光の特徴として次の3点がある。
(1)極めてつよいX線であり、一般に利用されているX線管方式のものと比較して百万倍以上も強い強度を持つ(高輝度)
(2)赤外線〜硬X線領域までの連続スペクトルであり、実験に必要な波長を任意に選択できる(連続スペクトル)
(3)指向性、偏向性を持つ極めて短いパルス光である(指向性、偏向光、パルス性)
 また、大型放射光施設では放射光を干渉させる挿入光源(アンジュレータ、ウィグラー)が主たる光源となるが、挿入光源から発生する放射光は50m先で5mm程度しか広がらない、非常に指向性に優れた光である。反面、この広がりの中に1〜10kWのパワーが含まれており、ミラーや分光器の熱対策が重要な課題になっている。一方、放射光の利用では検出器や計算機の技術的進歩に負うところが大きい。特にX線フィルム、X線テレビ、イメージングプレートや多線式比例計数装置等の敏感な位置検出器の性能向上なども益々重要になってきている。
5.SPring-8の特徴
 SPring-8は第三世代の放射光施設として世界最高の性能となるよう、以下の方針で設計された。
(1)高輝度を得るために蓄積リングは電子ビームを5nm・rad程度の低エミッタンスとする。
(2)主たる光源となるアンジュレータの1次光で10〜20keVのエネルギーの光を、10E19光子数/秒/mm2/mrad2/0.1%バンド幅以上の輝度で実現する。
(3)多極ウィグラーで200keV程度のX線を10E17光子数/秒/mm2/mrad2/0.1%バンド幅程度の輝度で実現する。
(4)挿入光源用の直線部を40本程度確保する。また特別に長い直線部を4本準備する
(5)加速粒子としては電子、陽電子の両方を可能とする。
(6)施設として将来の発展性を考慮する。
6.SPring-8の概要
 SPring-8の加速器は電子を8GeVまで加速する入射系と、電子を長時間蓄積する蓄積リング、および放射光を取り出し利用するビームラインから成る。SPring-8の主要施設を 図5 に示す。線型加速器の主要緒元を 表1に、シンクロトロンの主要緒元を 表2 に、蓄積リングの主要諸元を 表3に示す。
(1) 入射系
 入射系は1GeVの線型加速器と8GeVのシンクロトロンから構成される。
 線型加速器は250MeVの部分に陽電子コンバータを設置し、陽電子利用に対応できるよう配慮されている。またその際には小型の陽電子蓄積リングも設置できるようなスペースを建物内に確保している。
 シンクロトロンは線型加速器から入射された1GeVの電子を8GeVまで加速して蓄積リングに送る。偏向電磁石、四極電磁石、六極電磁石を規則正しくリング状に並べたFODO型と呼ばれる磁石配置で製作されている。
(2) 蓄積リング
 蓄積リングは、Chasman-Green型と呼ばれる磁石配置で、挿入光源を設置するための直線部を多数確保している。また1周のうち4箇所は将来の利用に備え偏向電磁石を除いた磁石配置になっていて、特別に長い直線部になっている。
 低エミッタンス実現のためには、機器の配置、特に各種の誤差に対して非常に敏感な磁石の配置が重要であり、磁石の製作精度は数ミクロン以内に抑えられている。また建物の変形にも対策が必要であり、強固な岩盤上に建物を建設し、断熱対策も十分に施されている。さらに磁石の精密な設置には特に注意を払い、1台数百キログラムから数トンにもなる電磁石約1,000台が50ミクロン以内の誤差精度で据え付けられている。
 蓄積リングは電子ビームを安定に20時間以上の長時間にわたって蓄積するため、電子ビームを蓄積した状態で10E−10Torr以下の真空を実現させる必要がある。そのため電子ビームの通り道となる真空ダクトにはNEGポンプを内蔵するような工夫を払っている。
(3) ビームラインと利用研究分野例( 図6
 放射光はミラーや分光器を設置したビームラインを通って実験ステーションに導かれる。SPring-8のビームラインは、偏向電磁石から23本、挿入光源から38本設置することが可能である。それらのビームラインは、多数のユーザが交互に使用する共用ビームラインと、一部のユーザが専有して使用する専用ビームラインに分けられる。ビームラインは要素機器の規格化が図られ、また建設はユーザからの申請に基づきビームライン検討委員会で審査される。検討委員会ではユーザから提案のあった23件の「計画提案書」に関し研究内容ならびに技術的妥当性などを検討し、1997年までに建設する10本の共用ビームライン計画をまとめた。
 ビームラインの長さは蓄積リング棟実験ホール内で光源から80mの長さで設置される。このうち30m程は蓄積リングを収納している放射線防護用コンクリート壁で囲われたマシン収納部内にあり、残りの部分が実験ホールに設置される。しかし実験の種類によってはより長いものが必要になる場合があり、300mあるいは1,000mの長さにまで延長できる中尺、長尺ビームラインをそれぞれ9本と3本設置することが可能である。
7.SPring-8の建設地
 SPring-8は、兵庫県が整備を進めている西播磨テクノポリス計画の中核を成す、播磨科学公園都市(計画都市面積約2,000ヘクタール、計画人口約25,000人)内に1997年10月に建設され供用を開始した。敷地は赤穂郡上郡町、揖保郡新宮町、佐用郡三日月町の三町にまたがる約140ヘクタールの広さがある。敷地の概観は 図7 に示す。
 SPring-8までの交通アクセスは以下のとおり、
(1)山陽新幹線相生駅から北へ約17キロメートル、播磨科学公園都市行きの路線バスで所要時間約25分
(2)中国自動車道佐用インターチェンジから南へ15キロメートル、所要時間約20分近隣には兵庫県立姫路工業大学理学部、住友電工播磨研究所(小型放射光装置を設置)がある。また敷地内には姫路工業大学高度産業科学技術研究所が、SPring-8の線型加速器から電子ビームの供給を受けて1.5GeVの小型放射光施設を建設するニュースバル計画が進行中である。
8.放射光の利用研究( 表4 および 表5 参照)
 X線は物質を透過しやすいとともに、波長が短いため、電子と直接相互作用するという特性により、物質の構造を調べるのに適した光である。放射光はこのX線領域の光の輝度を飛躍的に向上させ、物性物理、化学、材料科学、ライフサイエンスなどの幅広い分野で多くの研究成果が得られてきた。放射光を利用する研究分野は、物理、化学の基礎研究から医療、工学などにおける応用分野まで広範囲の研究がある。
<図/表>
表1 線型加速器の主要諸元
表2 シンクロトロンの主要諸元
表3 蓄積リングの主要諸元
表4 共用ビームライン(10本)の利用研究分野例
表5 専用ビームライン・原研/理研ビームライン・他(9本)の利用研究分野例
図1 放射光発生の原理
図2 挿入光源の原理(アンジュレータ、ウィグラー)
図3 世界における大型放射光施設
図4 SPring-8の放射光スペクトル
図5 SPring-8の主要施設
図6 SPring-8のビームライン配置
図7 SPring-8施設概観

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
シンクロトロン放射光 (08-01-03-08)
SPring-8(放射光)施設による放射線利用 (08-04-01-07)
海外における中性子利用の現状と将来 (08-04-01-43)

<参考文献>
(1)日本物理学会(編):シンクロトロン放射、培風館、(1986)
(2)原雅弘、宮原義一:大型放射光施設SPring-8について、Engineering、No.60、18-21、(1993.8)
(3)大野英雄:大型放射光施設SPring-8の現状と利用研究、The Journal of Science Policy and Research Management、Vol.9,No.1-2,29-33(1994)
(4)大西正視、寺井隆幸ほか:特集 高輝度放射光の発生と利用、日本原子力学会誌、Vol.36、No.7、587-610、(1994)
(5)日本原子力研究所・理化学研究所:大型放射光施設SPring-8(パンフレット)、1995年6月
(6)上坪宏道:SPring-8計画の現状とその利用計画、原子力工業、40(11),15-20(1994)
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