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<概要>
 日本国内の約6,000ヶ所以上の放射性同位体使用施設における放射性同位体(ラジオアイソトープ、略称RI)の利用状況を統計データに基づいて概説する。RIの形態としては非密封RI、密封RI、密封RIを用いる医療用具、RIを標識加工した放射性医薬品RI廃棄物があり、各形態それぞれに関する供給量等のデータを紹介する。
<更新年月>
2013年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1951年に初めて外国から放射性同位体(ラジオアイソトープ、略称RI、または単にアイソトープとも呼ぶ)が輸入・頒布され、1960年には放射性医薬品の頒布とRI廃棄物の集荷が始まった。その後、長年にわたって公益社団法人(公社)日本アイソトープ協会がRI使用施設と核種別のRI使用量の状況を調査し、毎年報告を行っている。
 わが国では、全国約6,000ヶ所以上(2011年3月で6,116ヶ所)にも及ぶ病院、大学を含む研究機関、製薬会社などの民間企業においてRIや放射線発生装置が使われている。RIなどからの放射線は、医療分野では病気の診断、治療及び医薬品の開発に、工業分野では多種の一次製品の生産工程における品質管理、物質や材料の改質に、農業分野では品種改良などに広く使われている。ここでは、日本国内におけるRIの利用状況等について、日本アイソトープ協会から毎年公表されている統計データに基づき概説する。
1.ラジオアイソトープ(RI)
 RIは、非密封RIと密封RIとに分けられる。表1に、2007〜2011年度における主な非密封RIの供給量(核種別)の推移を示す。
 非密封RIの供給量のうち3H、14C、33P、35Sなどの標識化合物は、ここ数年、多少の増減があるものの全体的には減少傾向にある。また、32Pのアイソトープ標識化合物も同様に、RIを利用しない研究あるいは新しい技術への移行が進み、減少傾向が続いている。一方、研究目的で使われている放射性医療品の123Iの利用は増加している。標識化合物以外の非密封RIの供給量は、福島第一原子力発電所事故の環境影響調査との関連で、137Csが増加しているが、他はほぼ横ばい状態である。また、2011年度における主な非密封RIの供給量(核種別、機関別)を表2に示す。供給先としては、民間企業が多く、研究機関、教育機関、医療機関、その他と続いている。核種別には85Kr、3H、99Moなどの供給量が多い。
 密封RI全体の供給量は、滅菌のための照射などに用いられる大線量線源60Co、137Csなど)の更新時期などの理由で年度により多少の変動があるものの、ここ数年の傾向としては微増状態が続いている。2007〜2011年度における主な密封RIの供給量(核種別)の推移を表3に示す。代表的な核種について見ると、60Co線源は、医療機器などの放射線滅菌線源の増量周期による増加のほか、ガンマナイフ用の線源も増加している。前立腺がんの治療に使われる125Iも増加が続いている。非破壊検査用の169Yb、192Ir線源は減少傾向にある。192Irにおいては、工業用の192Ir線源は減少しているが、がん治療に有用なRALS(リモートアフターローディング装置)線源である医療用192Ir線源は増加傾向にある。また、がん細胞の診断に使われているPET(陽電子放射断層撮像法)の校正用線源である68Geは一時期増加したが、減少傾向に転じている。2011年度における主な密封RIの供給量(核種別、機関別)を表4に示す。核種別には60Coの供給量が圧倒的に多く、192Irがこれに次いでいる。
 平成16年(2004年)6月に放射線障害防止法の改正法令が公布された。それまでは3.7MBq以下の密封RIは規制されていなかったので、放射線の利点を活かして、日常生活などでさまざまな製品や器具などに少量のRIが使われていた。しかし、国際原子力機関IAEAなどの国際機関が共同で策定した「国際基本安全基準」である規制対象下限値が導入され、放射性同位元素の数量、濃度の小さい機器も新たに規制対象となった。したがって、これまで規制対象でなかった3.7MBq以下の密封線源を内蔵している測定機器なども対応が必要になっている。表5に、放射線障害防止法定義量以下の主な密封RIの供給量(核種別)の推移を示す。多くのRIは研究所などの限られた施設で研究・開発のための実験に使われているが、住居、事務所のほか、不特定多数の人が出入りする公共的な施設においても、健康に影響のない法規制以下のRIが使われている。例えば、蛍光灯の放電管、煙検知器、陶磁器製品などには微量のRIが含まれている。
2.放射性医薬品
 放射性医薬品のうちインビボ(in vivo)用の供給量の2007〜2011年度における推移(核種別)を表6に示す。また、同期間におけるインビトロ(in vitro)用の供給量の推移(核種別)を表7に示す。
 インビボ用の供給量は上記期間に概ね横ばいで推移しているが、わずかに減少傾向を示している。内訳をみると、がんの診断に使われる核種である99mTcと99Mo−99mTc(G:ジェネレータ)の供給量が圧倒的に多く、2011年度に前者は全体の63%、後者は全体の18%を占め、合計で81%に達した。ただ、2009年度以降は99mTcは減少傾向にあり、代わって99Mo−99mTc(G:ジェネレータ)の供給量が増加している。他の核種の年度供給量の推移は多様であり、増加傾向にあるもの(18F、89Srなど)、減少傾向にあるもの(51Cr、133Xeなど)、また、増減を繰り返しているものもある。
 インビトロ用に供給されている放射性核種は、59Feと125Iの2核種のみであるが、このうち125Iの供給量が圧倒的に多い(2011年度には全体の約85%)。しかし、時間的推移とともに顕著な減少傾向にあるため、インビトロ用の全供給量も減りつつある。
 99mTc注射剤の供給量の2007〜2011年度における推移(検査対象領域別)を表8に示した。各対象領域の供給量はいずれも年度によって増減を繰り返しており、供給量の時間的推移はほぼ横ばいであるが、脳を検査対象領域とする99mTc注射剤の供給量は増加傾向を示している。
3.アイソトープ廃棄物
 廃棄物集荷数量と事業所数の2007〜2011年度における推移を表9に示した。廃棄物の総数は2007年度以降、減少傾向にあり、2011年度の集荷本数は8,954本(200Lドラム缶換算)であった。また、2007〜2011年度における廃棄物処理数量の種類別推移を表10に示した。種類別には固体難燃物(プラスチック製品、ゴム・ポリ製品)とフィルタの数量が多いが、最近ではこれらは減少傾向にあり、代わって乾燥動物が急増している。
<図/表>
表1 主な非密封RIの供給量(核種別)の推移
表1  主な非密封RIの供給量(核種別)の推移
表2 主な非密封RIの2011年度における供給量(核種別、機関別)
表2  主な非密封RIの2011年度における供給量(核種別、機関別)
表3 主な密封RIの供給量(核種別)の推移
表3  主な密封RIの供給量(核種別)の推移
表4 主な密封RIの2011年度における供給量(核種別、機関別)
表4  主な密封RIの2011年度における供給量(核種別、機関別)
表5 放射線障害防止法定義量以下の密封RIの供給量(核種別)の推移
表5  放射線障害防止法定義量以下の密封RIの供給量(核種別)の推移
表6 インビボ(in vivo)用放射性医薬品の供給量(核種別)の推移
表6  インビボ(in vivo)用放射性医薬品の供給量(核種別)の推移
表7 インビトロ(in vitro)用放射性医薬品の供給量(核種別)の推移
表7  インビトロ(in vitro)用放射性医薬品の供給量(核種別)の推移
表8  
表8   
表9 廃棄物集荷数量(種類別)と事業所数の推移
表9  廃棄物集荷数量(種類別)と事業所数の推移
表10 廃棄物処理数量(種類別)の推移
表10  廃棄物処理数量(種類別)の推移

<関連タイトル>
放射線利用に関する統計 (08-01-04-02)
アイソトープ等流通統計2005 (08-01-04-07)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
放射線医学総合研究所 (10-04-05-02)

<参考文献>
(1)(公社)日本アイソトープ協会ウェブサイト:http://www.jrias.or.jp/
(2)(公社)日本アイソトープ協会:アイソトープ等流通統計2012、
http://www.jrias.or.jp/report/pdf/ryutsutoukei2012.pdf
(3)(公社)日本アイソトープ協会:放射線利用統計2012、
http://www.jrias.or.jp/report/pdf/the_use_of_radiation_2012.pdf#search='%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E5%88%A9%E7%94%A8%E7%B5%B1%E8%A8%882012'
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