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新型転換炉(ATR) 「ふげん」の出口管は多数のステンレス鋼管で構成され、炉心より流出する高温・高圧の高速水−蒸気二相流(約280℃、70g/cm
2;蒸気重量率約14%)を蒸気ドラムに導く重要部品である。出口管がこのような流動条件下で被るエロージョン・コロージョンの影響を評価できる情報がないので、二相流の実規模試験装置(コンポーネント・テストループ、CTL)を用いて、水質、流動条件をかえた実験が行われた。
実験結果から、出口管設計条件下ではステンレス鋼配管のエロージョン・コロージョン量は非常に少なく、その健全性には全く問題がないことが明らかにされ、さらに水質、流動条件を考慮した定量的評価法が作成された。また試料の管内面に生成された腐食皮膜の化学組成および物性が調べられた。
1.試験方法
エロージョン・コロージョン実験は、長時間高温・高圧の二相流を循環させることが出来るCTLを使用して行われた。
図1 にCTLの系統図を示す。熱水と蒸気はミキサで混合し、二相流となってテストチャンネルのループに設けたエロージョン・テストセクションを通り、直接コンデンサに至り熱水と蒸気に分離され、それぞれ循環ポンプおよび蒸気圧縮機により昇圧され、再びミキサに戻ってくる。装置のボイラは単にループの熱損失を補うためのものに過ぎない。
ループの流路に沿い設けられた4個のテストセクションには、それぞれ管径の異なる試料を組み込み、同時に4種類の流速条件での実験を可能としている。
試料の形状は、実験領域での流動パターンが環状二相流であるため、板状ではなく円筒状とし、直管のほか曲管も採用された。
図2 に直管試料取付け構造を示す。試料は電気化学的腐食を防止するため、セラミックス・ライナーを介し試料取付け管内に固定し、テストセクションに設置される。
試料の材質はATR実証炉用のSUS316L である。同材料は低炭素含有量のため応力腐食割れを起こし難い利点がある。
2.実験結果および評価
水質としてはATR同様の中性水、およびCTLで常用のヒドラジン処理水条件(溶存酸素量極めて少なく2ppb以下)の下で、直管および曲管について、蒸気相流速10〜50m/s の範囲で、200 〜3,500 時間のエロージョン・コロージョン試験が実施された。
蒸気クォリティは主に15% とし、参考として60%、100%(蒸気) 、0% (熱水)についても実施された。
中性水、直管条件での実験結果を
図3 に示す。エロージョン・コロージョン量は同一流量条件での蒸気相流速にはほとんど依存しないが、実験時間とともに増大することが認められた。ただしその量は非常に小さく、出口管の健全性には全く影響のないことが定量的に確認された。
ヒドラジン処理水条件でのエロージョン・コロージョン量は中性水条件の1/2 〜1/3 であること、および曲管の値が直管にくらべ若干大きい傾向があることが明らかにされた。なお「ふげん」で使用されているSUS304についても同様であることが確認されている。
また試料表面に生成された腐食被膜について走査型電子顕微鏡、
X線 回折装置などを使用し、表面状態、酸化物組成、密度および空隙率などの物性値が明らかにされた。
さらにエロージョン・コロージョンのメカニズムが、環状二相流の管壁に沿う液膜に依存するとのモデルに基づく、実験データがよく説明できる定量的評価式が提案されている。
<図/表>
<関連タイトル>
新型転換炉の冷却システム (03-02-02-07)
新型転換炉の供用期間中検査技術開発 (03-02-04-04)
原型炉「ふげん」 (03-04-02-09)
<参考文献>
(1)M.Koike, T.Kitahara : Erosion Experiments of Stainless Steel under Water-Vapour Two-Phase Flow Conditions,Proceedings of 6th Annual Conference of Canadian Nuclear Society (1985).
(2)動力炉・核燃料開発事業団:動燃技報, No.73 (1990.3).
(3)小池:高温高圧気液二相流エロージョン・コロージョンの定量、日本原子力学会1990年年会予稿集 (1990.4).