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<概要>
 フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)と欧州共同体が共同で主催するPHEBUS-FP計画は、カダラシュ研究所のPHEBUS研究炉を用いる過酷事故(シビアアクシデント)時の燃料損傷とFP放出移行に関する大規模な総合実験計画である。
<更新年月>
2009年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 軽水炉の過酷事故(シビアアクシデント)時には、炉心の損傷、溶融に伴い核分裂生成物(FP)が一次系を経て原子炉格納容器中に放出される。シビアアクシデントが環境に及ぼす影響を精度良く評価するためには、放出されるFPの一次系内での挙動を解明し、評価手法を確立する必要がある。PHEBUS−FP計画は、カダラシュ研究所のPHEBUS研究炉を用いて、炉心から格納容器に至るFPが移行する過程を、ホットレグ、コールドレグ配管、蒸気発生器等を設置した原子炉システムを模擬した体系で総合的な実験を行う計画である。本計画は、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN、旧IPSN)と欧州共同体が共同で主催し、1993年から2004年にかけて計5回の実験が実施された。日本(日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、原子力発電技術機構(当時、その後原子力安全基盤機構等に移行))、米国、カナダ、韓国が参加し、実験データの評価と解析を行ってきた。
2.計画内容と主な成果
 PHEBUS-FP計画における実験装置の概要を図1に、また炉心の断面を図2に示す。また、実施された5回の実験の目的と実験条件の概要を図3に示す。未照射燃料を用いた第1回目のFPT0試験が1993年12月に、第2回目のFPT1試験は照射済燃料を用いて1996年7月に実施された。FPT0試験とFPT1試験では、燃料やヨウ素の挙動についてはほぼ同様の結果が得られている。燃料の溶融は、予想された酸化ウランの融点以下で開始し、炉心の下端には溶融プールが形成された。未照射燃料よりも照射燃料の方がより低温で溶融を開始している。
 原子炉冷却系や原子炉格納容器内には、当初予想されていたエアロゾル状だけでなく、ガス状のヨウ素もかなり生成された。格納容器サンプ水中には、不溶性ヨウ素(AgI)が生成されていた。ガス状ヨウ素や不溶性ヨウ素の生成は従来のモデルでは説明が難しく、今後の解析モデルの改良が望まれている。
 第3回目のFPT4試験は1999年7月にデブリベッド条件で実施され、低揮発性FPおよびアクチニドの放出量が少ないことが確かめられた。第4回目のFPT2試験は2000年10月に、照射済燃料と制御棒(SiC)を燃料に用い、水蒸気枯渇条件下で実施され、酸化性雰囲気がFP放出に及ぼす影響が調べられた。Moは水蒸気枯渇中に殆ど放出されないことが見いだされた。
 最後のFPT3試験は2004年11月に実施され、炉心構成はFPT1実験と同じく照射済燃料を用いるが、制御棒材料をAg-In-Cd合金ではなくB4Cとし、銀が存在しない条件でのヨウ素挙動、ホウ素が燃料崩壊やFP挙動に及ぼす影響などを調べることを目的に行われた。この結果、炉心損傷の様相は他の実験と近似しているものの、ホウ素・構造材の反応で融点の低い溶融物が生成され、また、ガス状で放出されるヨウ素量が増加しこれが格納容器壁の塗料に効率的に吸着されるなど他の実験と異なる様相も観測された。
 PHEBUS−FP計画から得られた実験データは、原研のVEGA(Verification Experiment of Gas/Aerosol Release)計画等補完的な実験から得られる知見と併せて、シビアアクシデント時における一次系から格納容器へのFP挙動についての総合的な知見を与えるとともに、解析コードの開発・検証に役立てられている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 PHEBUS-FP計画実験装置の概要
図1  PHEBUS-FP計画実験装置の概要
図2 PHEBUS-FP計画実験における炉心断面
図2  PHEBUS-FP計画実験における炉心断面
図3 PHEBUS-FP実験の目的と実験条件
図3  PHEBUS-FP実験の目的と実験条件

<関連タイトル>
PSF計画 (06-01-01-18)
CSARP計画 (06-01-01-20)
ACE計画 (06-01-01-21)
RASPLAV計画 (06-01-01-22)

<参考文献>
(1)原子力発電技術機構:重要構造物安全評価(原子炉格納容器信頼性実証事業)に関する総括報告書(2003年3月)
(2)日本原子力研究所:原子力安全研究の現状 平成11年(1999年10月)
(3)B.Clement et al.,LWR severe accident simulation:synthesis of the results and interpretation of the first Phebus FP experiment FPT0,Nucl.Eng.Des.226,1(2003)
(4)IRSN-Scientific and Technical Report 2006(2006),
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