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<概要>
 軽水炉のシビアアクシデント時の核分裂生成物(FP)のふるまいと、放出されるFPの種類と量(ソースターム)の評価については、1979年のスリーマイル島2号機(TMI−2)事故以来、国際協力研究や各国独自の研究が精力的に進められている。わが国においても、日本原子力研究所(現:日本原子力研究開発機構)のソースターム評価試験装置を用いた実験やTHALESコードを用いた評価解析が行われた。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
 FP挙動については、燃料の健全性に関係したUO2ペレットからの放出および格納容器内での有機ヨウ素の生成については古くから研究されていたが、シビアアクシデント時のソースターム評価を目的として大規模に研究されだしたのはTMI−2事故以降である。シビアアクシデント時のソースターム評価のためには、損傷燃料からのFPの放出、放出されたFPの原子炉冷却系や格納容器内での移行や沈着等についての広範囲な情報が必要である。
 燃料からのFP放出実験には大きく分けて原子炉を用いた大規模総合実験と燃料温度や雰囲気を正確に制御できる分離効果実験があり、前者に属するものとしては、米国のPBF−SFD実験、ACPR−ST実験、カナダの炉を利用したNRU−FLHT実験、フランスのPHEBUS−FP実験等があり、後者の代表的なものはORNLのHI/VI実験である。大規模総合試験の代表例としてPBF/SFD実験装置、個別効果試験の例としてORNLでのVI実験装置の模式図をそれぞれ図1および図2に示す。なお、これらの研究の多くは米国主導の国際協力研究であるCSARP計画の下で行われた。
 その後、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では従来の範囲を超える高温高圧の条件で照射済燃料からの放射性物質放出実験(VEGA:Verification Experiments of radionuclides Gas/Aerosol release)が行われ、FP放出における圧力の影響や低揮発性物質の放出等に関する知見が得られた。図3にVEGA装置の概要を示す。
 放射性物質放出の総合試験および分離効果試験で主に以下のことが明らかになった。
(1) 揮発性FP(Kr,Xe,I,Cs)の放出率は燃料温度に依存し高温で大きくなる、
(2) 燃料の酸化がCsの放出速度を増大させる、
(3) 高圧条件下では大気圧に比べて燃料からのCsの放出が抑制される、
(4) TeとSbはジルカロイ被覆管が酸化しない間は被覆管中に吸収されるが、被覆管の酸化に伴って放出される、
(5) MoとRuは水蒸気雰囲気(酸化条件)でより揮発性の高い化学形に変化する、
(6) Sr、BaおよびEuは、水素雰囲気でより揮発性が高くなる、
(7) CeとZrの放出は微量である、
(8) Puは約2800K以上でそれまでの温度に比べて放出速度が増大する。
 燃料から放出された放射性ヨウ素(よう素、沃素)の内、少なくとも95%はセシウム(Cs)と結合してCsIとして移行する可能性が高い。この場合はエアロゾル化しやすく、また水溶性なので、水が存在すると除去される。なお、除去されにくい有機ヨウ素生成についても調べられた。
 FP放出経路中に水が存在すればヨウ素の大半が除去されることは、TMI−2事故時のヨウ素放出が非常に少なかったことの理由の一つである。このような水層によるヨウ素除去効果を確かめるため、プールスクラビング試験が行われた。図4は日本原子力研究所で行われた装置の模式図と実験結果であり、ヨウ素の大半が水層で除去されることを示している。また国内の産業界でも、より大型の装置を用いて同様な試験結果を得ている。
 一旦水に吸収されたヨウ素は、事故時の格納容器内の強い放射線場に長時間置かれると、放射線化学的影響により揮発性の化学形に変化し、気相中に再放出される。事故後長時間にわたるソースタームの評価にはこのような化学的影響の考慮が必要であり、米国、カナダ、欧州(英、仏、スイス等)、日本で研究が行われ、解析モデル等が開発された。
 TMI−2やチェルノブイル事故に於いてのFP放出が解析されたが、この結果もFP挙動解明に役立つ。表1は解析結果であるが、TMI−2で環境への放出が少なかったのは、格納容器が健全であったことと、放出経路に水が存在したためと考えられる。
 ソースターム評価手法に関しては、総合解析コードであるMELCORやTHALES−2等にもFP挙動解析モデルが含まれているが、FPの放出移行を詳細に解析するものとしてはMELCOR、VICTORIAが開発されている。
 アクシデントマネジメントの一つである格納容器フィルタベントはヨーロッパの一部の国の炉で設置され、また、フィルタベントのエアロゾル除去に対する有効性を確認する実験が行われたが、さらに、格納容器損傷部を通って漏洩するFPについての研究も行われた。但し、これらの研究は格納容器の健全性に関する研究(ATOMICA<06−01−01−10>)で扱っているので、ここでは省略する。
<図/表>
表1 TMI−2事故とチェルノブイル事故で放出されたFP量
表1  TMI−2事故とチェルノブイル事故で放出されたFP量
図1 PBF/SFD1−4実験体系とFP測定系統図
図1  PBF/SFD1−4実験体系とFP測定系統図
図2 ORNLのVI実験装置系統図
図2  ORNLのVI実験装置系統図
図3 照射済燃料からの放射性物質放出実験(VEGA)装置の概要
図3  照射済燃料からの放射性物質放出実験(VEGA)装置の概要
図4 原研のプールスクラビング装置の模式図と実験結果
図4  原研のプールスクラビング装置の模式図と実験結果

<関連タイトル>
シビアアクシデント時の炉心溶融進展に関する研究 (06-01-01-09)
シビアアクシデント時の格納容器の健全性に関する研究 (06-01-01-10)
高温ガス炉燃料の事故時のFP閉じ込め機能 (06-01-04-01)
放射能ソースタームの評価に関する研究 (06-01-05-07)

<参考文献>
(1) 西沢 嘉寿成ほか:軽水炉のシビアアクシデント研究の現状、日本原子力学会誌、Vol.35、No.9、p.762−794 (1993)
(2) 杉本 純ほか:シビアアクシデント研究に関するCSARP計画の成果、日本原子力学会誌、Vol.39、No.2、p.123−134 (1997)
(3) 大久保 忠恒ほか:軽水炉燃料のふるまい、原子力安全研究協会 (1998)
(4) T. Kudo, et al.:VEGA; An Experimental Study of Radionuclides Release from Fuel under Severe Accident Conditions, Proc. 2005 Water Reactor Fuel Performance Meeting, Kyoto, Japan (2005).
(5) J.C. Wren, Radioiodine chemistry: the unfinished story, The 1st European Review Meeting on Severe Accident Research (ERMSAR−2005), Aix−en−Provence, France, (2005)
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