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原子炉施設を運転すると、放射性物質に汚染されて
放射能をもった気体、液体、固体の放射性廃棄物が発生する。気体廃棄物は、フィルターで放射性物質を取り除き、安全を確認したのち大気中に放出される。液体廃棄物は、放射能の極めて低いものは、安全を確かめて海洋等に放出されるが、その他の液体廃棄物は、水分を蒸発させて濃縮し、固体廃棄物と同じようにドラム缶に詰めて処理される。固体廃棄物は、焼却や圧縮を行い容積を減らして(「減容」という)ドラム缶に詰め、その中で、セメント等を用いた固型化(固化)処理を行って貯蔵され、最終的には
浅地中処分される。
1.
原子力発電所廃棄物の処理処分について
原子力施設では気体・液体及び固体の種々の放射性廃棄物が発生するが、その形態を問わず
高レベル放射性廃棄物以外のものはすべて低レベル放射性廃棄物であり、これはさらに、発電所廃棄物、TRU核種を含む放射性廃棄物(
TRU廃棄物)、ウラン廃棄物、RI廃棄物及び研究所等廃棄物に分類できる。
低レベル放射性廃棄物の処理処分とは、これらの放射性廃棄物に対して行われる一連の操作であり、濃縮、減容、固化等の処理とそれに続く処分などを指して言う。固体廃棄物については、圧縮、焼却、溶融等の
減容処理を行った後、容器に収納し、セメント等を用いてドラム缶に固化する。
低レベル放射性廃棄物の処分については、原子力委員会がその基本方針を定めており、陸地処分が中心となっている。現在のところ、概ね、放射能レベルの低いものについては浅地中処分が採用されている。その他のものについては浅地中処分以外の方法(地層処分等)が検討されている。低レベル放射性廃棄物の処分施設等の概要、経過については、ATOMICAデータ「わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯 <05-01-03-03>」及び六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 <05-01-03-04>」に解説されている。
2.セメント固化法
原子力施設において発生する放射性廃棄物は、安全に貯蔵、処分するために、各種の材料を用いて安定な形態に固化される。低レベル放射性廃棄物の固化法としては、セメント固化法、アスファルト(ビチューメン)固化法及び
プラスチック固化法がある(ATOMICA低レベル放射性廃棄物の固化技術 <05-01-02-08>を参照)。このうち我が国を始め世界的にももっとも多く採用されているものがセメント固化法である。
セメント固化法は、原子力発電所から発生する放射性廃棄物のうち、放射性濃縮廃液、使用済み
イオン交換樹脂、
フィルタスラッジ、放射性スラリー、焼却灰及び不燃性の雑固体を水硬性セメントと混和して、通常は200リットルドラム缶などに充填して固化、もしくは、ドラム缶中に固体廃棄物を充填しておき、その空隙にセメントミルクを注入して固化するものである。
処分用廃棄体であるセメント固化体の構造例を
図1に示す。均質・均一固化体には、混練固化体及び真空注入固化体がある。不均一固化体には、金属、コンクリート、プラスチック、ゴム等の雑固体充填固化体、圧縮体充填固化体、溶融体充填固化体がある。放射性固体廃棄物のセメント固化技術の方法、特徴等の概要を
表1に示す。
放射性廃棄物のセメント固化における利点は、セメント自体が安価であり、また、装置が簡単で処分容器内で固化処理も可能であり、
放射線による劣化が起こりにくいなどがある。一方、欠点としては、減容性が期待できなく増容となること、耐浸出性が劣ることなどである。しかし、近年、優れたセメント固化手法や混和材料の開発によりセメント固化体に期待するところが大きい。改良セメント固化設備の基本フローを
図2に示す。セメント固化体は、告示により「JIS R 5210ポルトランドセメント」もしくは「JIS R 5211高炉セメント」に定める水硬性セメント、またはこれと同等以上の強度及び安定性を有するセメントを使用することが規定されており、セメント固化体の製作方法としては、大別して次の二つの方式、すなわち、(1)液体あるいは粉粒体の形態の放射性廃棄物をセメントなどの固化媒質と混和する均質固化法と、(2)固体をあらかじめドラム缶内に充填しておき、空隙にセメントペーストあるいはセメントモルタルなどの固化媒質を充填して一体化するプレパックト固化法がある。
(1)には、ドラム缶中に廃棄物、セメントなど、必要に応じて水を加え、容器内で練り混ぜを行うインドラム・ミキシング法、廃棄物、セメントなど必要に応じて水をあらかじめミキサで練り混ぜ、処分容器に充填固化するアウトドラム・ミキシング法及び真空注入法がある。インドラム・ミキシング法(
図3)は200リットルドラム缶サイズの処理に適しているが、アウトドラム・ミキシング法(
図4)は処分容器の寸法に関係なく処理が可能である。
(2)には、
雑固体廃棄物や寸法が大きくミキサによる練り混ぜが困難な廃棄物に有効である。
アスファルト固化法は、濃縮廃液と天然にも産出するビチューメン(アスファルト)を加熱混合、脱水し、ドラム缶に充填、冷却固化させる方法である。生成した固化体はセメント固化体に比べて環境水中への放射性廃棄物の溶出は少ない。しかし、この方法はセメント固化法に比べ大がかりな装置を必要とし、固化時に加熱を必要とすることから、発火、爆発の危険性を有しているため廃液の混入率等を厳しく管理する必要がある。この他、減容性、処分条件下での安定性に優れたプラスチック固化、ペレット固化法が多くの発電所で実用化されているが、コストの面からはセメント固化法に及ばない。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-02)
低レベル放射性廃棄物の固化技術 (05-01-02-08)
放射性廃棄物の処分の基本的考え方 (05-01-03-01)
わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯 (05-01-03-03)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
<参考文献>
(1)天沼 京、坂田貞弘監修:放射性廃棄物処理処分に関する研究開発、産業技術出版(1982)p.52
(2)原子力環境整備センター(編):放射性廃棄物データブック(1995)
(3)日本原子力研究所:原子力安全性研究用語集(1997)
(4)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック1994年版、1994年7月、p.35-43
(5)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画、1997年7月、p.69-83
(6)水越清冶:第6回 廃止措置技術−処理処分の技術動向、原子力学会誌、Vol.52、No.2 (2010)