<大項目> 核燃料リサイクル施設
<中項目> ウラン濃縮
<小項目> ウラン濃縮方法
<タイトル>
原子法レーザーウラン濃縮 (04-05-01-13)

<概要>
 天然ウランから濃縮ウランを製造するウラン濃縮法には、実用化されているガス拡散法と遠心分離法の他に、現在研究開発中の方法として、金属ウランを蒸発させて得られるウラン原子を用いる原子法とウラン化合物の六フッ化ウランを用いる分子法がある。原子法では、ウラン原子蒸気のうちレーザー光によりウラン235のみをイオン化し、これを電極に集めて濃縮ウランを得る。分離係数が特に大きく、効率良く軽水炉燃料用の低濃縮ウランが得られることが期待される。
 日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))は、1976年から原子法の基礎研究を行い、レーザー光によりウランを濃縮できることが確認されたのち、1987年に9電力会社、日本原子力発電、日本原燃および電力中央研究所によるレーザー濃縮技術研究組合が設立された。原研(現日本原子力研究開発機構)は、引き続き原子法の基礎プロセスの研究を行い、研究組合は、生産を目指して機器および分離システムの開発を行い、1992年には、目標の1トンSWU/年に近い濃縮特性を得た。さらに、1999年には実用規模のレーザー、分離セル装置が所期の性能を有していることを確認した。原子法レーザーウラン濃縮の研究は1998年度で終了したが、レーザーや光伝播の研究開発は、原研関西研光量子科学研究センター発足の母体となった。
<更新年月>
2005年07月   

<本文>
 ウラン原子の吸収スペクトルは、ウラン235とウラン238とでわずかな差、すなわち同位体シフトがある。たとえば図1に示すウラン原子の波数16900cm−1(波長:591.5nm)の吸収線の波数は0.28cm−1(波長:0.01nm)の同位体シフトがある。ウラン235だけに吸収される線幅の極めて狭いレーザー光を、ウラン原子に照射してウラン235だけを選択的に励起することができる。
 ウラン235が励起状態になっただけでは濃縮できないので、さらにレーザー光を照射し、励起状態のウラン235を電離準位に励起してイオン化させる。選択的にイオン化されたウラン235イオンを負電圧を印加した製品回収器に付着させる。ウラン原子の電離エネルギーは、6.2eVである。開発が進んでいる可視光レーザーを用いる場合、図2に示すように、電離エネルギーを3分割して約2eV(〜600nm)おきに可視光レーザーを用いて3段階で電離する。基底準位から波長λ−1で励起させる準位を選択励起準位、選択励起準位からλ−2で励起する状態を中間励起準位、λ−3で励起する状態を電離準位と呼ぶ。なお、ウラン原子には基底準位からエネルギーの大きくない準安定準位があり、蒸発させたウラン原子基底準位の数十%を占める。準安定準位にあるウラン235原子も回収するため波長λ−4のレーザー光で準安定準位から選択励起準位に励起する。
 原子法レーザーウラン濃縮装置は、図3に示すように、レーザーシステムと分離システムで構成される。レーザーシステムは、波長可変で波長幅の狭いレーザー光を発生できる色素レーザーと、この色素レーザーを励起するための銅蒸気レーザーからなる。銅蒸気レーザーは、銅原子をレーザー媒質として可視光(緑色510nmと黄色578nm)を発振する高出力、高繰り返し可能な放電型のパルスレーザーである。分離システムでは、天然ウラン金属を電子ビームで加熱・液化し、その表面を3000K以上の温度にして、ウラン原子を蒸発させてウラン原子のビームを作る。このウラン原子に、ウラン235の吸収波長に合わせたレーザー光を照射して、ウラン235のみをイオン化させる。イオン化したウラン235をマイナスの電圧をかけられた電極に回収する。ウラン238はレーザー光により励起、イオン化されないので直進し、劣化ウラン回収器に付着する。
 効率よくウランを蒸発させること、できるだけ低出力レーザー光で効率よくウラン235をイオン化できるレーザー波長を選択すること、イオン化したウラン235イオンを効率よく回収すること、高出力・高繰り返し化できる同位体シフトより狭い可視光レーザーの開発などが主な研究項目である。
 ウラン235をイオン化するとき、ウラン238はほとんどイオン化されず同位体選択性が極めて高いこと、さらに、適当な波長、各波長のレーザー強度を選ぶことにより天然ウラン中の0.7%のウラン235を1回のプロセスで100%近く分離できることが、原子法レーザーウラン濃縮の長所である。従来技術のガス拡散法や遠心分離法は統計的な分離方法であり、1段あたりの分離係数が小さくカスケード(多段)が必要なのに対し、原子法は濃縮システムをコンパクトにでき、経済性の高い技術の可能性がある。しかし、これまでの核燃料サイクルに組み込まれていない金属ウランを用いること、蒸発部、回収部では高温で腐食性の強い液体ウランのハンドリングが必要なことなどが、不利な点である。
 日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))は、1976年から原子法の基礎研究を行い、レーザー光によりウランを濃縮できることを確認した。1987年に東京、関西などの9電力会社と、日本原子力発電、日本原燃及び電力中央研究所は、レーザー濃縮技術研究組合を設立した。原研(現日本原子力研究開発機構)は、引き続き原子法の基礎プロセスの研究を行い、ウラン235を効率良くイオン化できるレーザー波長組み合わせを見出すなど多くの分光、衝突データを取得し、研究組合に提示した。研究組合は、原子法に必要なレーザー機器、分離システムの開発を行い、1992年には、開発した機器を用いてシステム試験を行い、目標にしていた1トンSWU/年に近い濃縮特性を得た。さらに 1999年には、開発を行ってきた実用規模のレーザー、分離セル装置が所期の性能を有していることを確認した。原研(現日本原子力研究開発機構)の原子法レーザーウラン濃縮は、1998年度で終了したが、レーザーによる一般同位体分離の研究に引き継がれ、またレーザーや光伝播の研究開発は原研関西研光量子科学研究センター発足の母体ともなった。
<図/表>
図1 ウラン原子吸収線の同位体シフト測定例
図2 原子法レーザーウラン濃縮でのウラン235のイオン化方式
図3 原子法レーザーウラン濃縮装置の概念図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<参考文献>
(1) 霜田光一:レーザー研究、Vol.14, p.401(1986)
(2) M.Benedictほか(清瀬量平訳):ウラン濃縮の化学工学、日刊工業新聞(1985)
(3) 中井洋太ほか:レーザー法ウラン濃縮の現状−原子法と分子法−、日本原子力学会誌、35(4),14?25(1993)
(4) H.D.V.Bohm et al: Optics Communications, Vol.26, p.177(1978)
(5) 日本原子力研究所(編):原子力基礎・基盤研究の現状(平成7年)、p.52(1995)
(6) J.A.Paisner:Applied Physics, Vol.B−46, p.253(1988)
(7)日本原子力研究所(編):日本原子力研究所史、p,184−185(2005年3月)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ