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<概要>
 フランスの高速増殖炉スーパーフェニックスは、炉外燃料貯蔵槽からのナトリウム漏えい事故、1次冷却材の中へ空気が混入した事故等により、安全性への危惧が高まり、運転再開は難しい状況になった。このため、当時のベレゴボア首相は、1992年6月に、安全性に関する技術審査、公開調査の実施など4項目の条件を示し、運転再開の延期を発表した。フランス政府は、1994年2月に、高速炉の技術開発のため、プラント性能を実証、プルトニウム燃焼研究、長寿命放射性廃棄物の消滅研究の3つの目的を持った研究炉とすることに決定し、1994年4月に研究計画案が作成された。この研究計画案を検討するために設立されたキャスタン委員会は、1996年7月に所見と勧告を盛り込んだ報告書を政府に提出した。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.研究炉への変更までの経緯
 フランスの高速増殖炉実証炉スーパーフェニックス(電気出力124万kW、熱出力300万kW)は、1985年9月に初臨界、1986年12月に100%出力を達成したが、翌1987年3月に炉外燃料貯蔵槽よりのナトリウム漏えい事故、1990年7月には、1次冷却材の中へ空気が混入する事故が発生し、それ以来運転を停止していた。
 原子力施設安全局(DSIN)は、これらの事故は安全性に影響を及ぼすことから、スーパーフェニックスの運転会社(NERSA)から提出された2次系のナトリウム火災防止対策や1次冷却材中への空気の混入に対する防止対策をもとに、運転再開について審査を行い、条件付きで運転再開を認める報告書を1992年6月に政府に提出した。
 しかし、国内の世論は、スーパーフェニックスの安全性に対して危惧する意見が多く、運転の再開に対しては難しい状況にあった。このため、当時のベレゴボア首相は、1992年6月に2次系のナトリウム火災防止対策の強化、DSINの安全性に関する技術審査と並行して公開調査の実施、および放射性廃棄物の消滅のための条件の検討の4項目の条件を示し、運転の再開を延期する声明を発表した。
 放射性廃棄物の消滅に関する検討により、技術開発と経済性の評価が必要であるとの結論を盛り込んだ報告書が1992年12月に首相に提出された。
 安全性に関する公開調査は、公開調査実施委員会が組織され、1993年3月から6月の間に実施された。その報告書は、1993年9月に提出されたが、その結論はDSINが運転再開を認めるのであれば、公開調査実施委員会はこれを支持するという内容である。
 公開調査とは別に、DSINが行った施設の安全性についての技術的審査の結論は、NERSAの実施する2次系のナトリウム火災防止対策強化工事が検査に合格すること、および運転規則の見直しなど運転に関する改善措置を検証するために出力を制限して運転することを条件に運転の再開を認める内容のものであった。なお、NERSAによる2次系のナトリウム火災防止対策強化工事は1994年4月末に終了した。
 首相の条件であるこれら一連の検討や作業の結果を踏まえて、フランス政府は、1994年2月にスーパフェニックスの目的を変更に関するコミュニケを発表した。その概要は以下の通りである。
 (a)スーパーフェニックスの位置付けを発電炉から研究および技術の実証のための研究炉とする。このため、プルトニウム(Pu)の燃焼および長寿命放射性廃棄物の消滅という2つの課題を優先し、出来るだけ早急に燃焼炉へ移行する。なお、将来の高速増殖炉に貢献するためにプラント性能などの実証も行う。
 (b)安全性に関するDSINの結論を確認する。
 (c)NERSA、フランス電力庁(EDF)およびフランス原子力庁(CEA)の3者による管理委員会は、新しい使命をを考慮した研究計画書を作成する。また、計画の展開および進捗状況は定期的に国家評価委員会と関係する各大臣に報告する。
 (d)政府は、スーパーフェニックスの新しい使命を考慮し、行政手続きを進める。
 この政府決定により、研究炉として新しい使命のもとに再出発をすることになった。
2.研究炉の利用計画(管理委員会作成)
 NERSAなどによる管理委員会が、研究炉としての利用計画を作成し、評価を受けるため1994年4月に政府に提出した。その内容は、次の通りである。
 (a)実用規模の高速炉の性能を実証し、高速炉のための技術開発や知見を得る。
 (b)Pu蓄積量を管理するためのプルトニウム燃焼研究(CAPRA計画)を行う。
 (c)長寿命放射性廃棄物、特にマイナアクチニド消滅研究(SPIN計画)を行う。新しい利用計画は、炉心を変更した第1炉心、第2炉心および第3炉心を用い、それぞれの炉心において実施される。第1炉心は、径方向のブランケット燃料の1層を削除して鋼製の径方向遮蔽体に置き換える。1999〜2000年に予定されている第2炉心は、径方向のブランケット燃料を全層削除する。さらに、2004年に予定されている第3炉心は、軸方向のブランケット燃料を削除して鋼製の軸遮蔽体部にする。目的とする3つの研究や試験は、これら3種類の炉心に試験用燃料集合体を装荷して行われる。試験計画は、DSINの承認を条件とし、計画の進展につれて採用されるが、それまで得られた試験結果に基づいて試験条件などの見直しを行われる。
 第1の目的の性能実証試験では、長寿命の燃料や材料の開発、ナトリウムの運転経験を蓄積、蒸気発生器や燃料取扱系統などの性能、検査技術の実証などを行う。
 第2の目的のプルトニウム燃焼研究においては、次の試験を行う。
 (a)第1炉心:Puの富化度が31%の試験用燃料集合体2体を炉心領域に装荷してプルトニウムの燃焼を調べる試験
 (b)第2炉心:Puの富化度が35%の試験用燃料集合体2体を炉心領域に装荷してPuの燃焼を調べる試験
 (c)第3炉心:Puの富化度が40%以上の試験用燃料集合体を20体(全くウラン使わない燃料ピンを含む)を装荷した領域を作り、Puの燃焼を調べるゾーン試験
 第3に目的の長寿命放射性廃棄物消滅研究においては、次の試験を行う。
 (a)第1炉心:Puの富化度が通常の炉心燃料集合体にネプツニウム(Np)約2kgを加えた試験用燃料集合体1体を装荷してNpの燃焼を調べる試験
 (b)第2炉心:Pu30%、Np3%の試験用燃料集合体2体を炉心領域に装荷してNpの燃焼を調べる試験
 (c)第3炉心:Pu35%、Np3%の試験用燃料集合体とこの集合体にアメリシウム(Am)ピンを組み込んだ試験用燃料集合体2〜8体を炉心領域に装荷してNpとAmの燃焼を調べる試験
3.利用計画の検討結果(キャスタン委員会の報告)
 スーパーフェニックスを研究炉としての利用する管理委員会の利用計画を評価することを目的に、1995年10月に政府によって設置されたキャスタン委員会は、利用計画(PACと略称)について検討し、1996年7月に報告書を政府に提出した。
 キャスタン委員会は、PACの下に実施される試験の安全性などについての検討を行い、委員会の所見として次のようなことを勧告している。
 (a)性能実証試験(PAC1)は、運転および安全性改良を主目的とし、技術的性能や他のエネルギー源に対する経済的競争力の向上に関する検討を優先すべきである。
 (b)プルトニウム燃焼研究(PAC2)および長寿命放射性廃棄物消滅研究(PAC3)で実施される試験は、プラントの安全性に大きく影響を与えてはならない。
 (c)試験は、商業規模の炉の技術選択を優先的な目的としてはならない。
 (d)燃料や種々の材料の性能に関する試験計画は、固体の熱力学、構造力学、腐食および放射線効果に関する基本的な実験、理論および研究に基づいて実施すべきである。
 (e)長寿命放射性廃棄物に関する試験は、核種変換の実施可能性を見極めるに不可欠な知見を、長寿命放射性廃棄物法で定められた長寿命放射性廃棄物の処分について結論を出す予定の2006年までに得ることを優先的な目的とすべきである。
 (f)スーパーフェニックスで実施される科学的活動を検討する科学評議会を設置する。評議会は、計画されたプログラムや実施された試験に関して意見を提出する。
 (g)1991年の長寿命放射性廃棄物法に基づき設置された国家評価委員会に科学評議会の意見を付して、PAC実施報告書を提出する。
 (h)総ての研究に対し、外国の研究者の積極的な参加を求めべきである。
 また、キャスタン委員会の研究計画の内容についての検討結果は、次の通りである。
 (a)PAC1:もしプログラム全体を見直すような長期的のトラブルが発生が無ければ、PAC1によって達成できると考える。
 (b)PAC2:この研究は、Pu燃焼用燃料集合体の商業的使用の適正を実証することである。Puの蓄積を避けるためのPu管理という観点からは、軽水炉のみで可能であり、高速炉が経済的に有用になることはないと考えられる。しかし、可能な限りPuの在庫量を減らし、その在庫を燃焼させるに必要な時間を短縮することが不可欠と考えられるので、スーパーフェニックスをPu燃焼炉の研究開発にも使用すべきである。
 (c)PAC3:この研究では、主にNpの燃焼研究に限定されていて、Amが燃焼されないと意味を持たないが、1回のプロセスによってAmを90%以上破壊する燃焼試験を行えば意味がある。従って、2006年前に意味のある結果を得るには、安全上問題がなければ、Amを含む燃料を高速中性子領域に装荷することを優先すべきである。
 さらに、現時点でも2006年までに有用な知見を得ることは困難であると思われことから、キャスタン委員会は、PACの当初の目的を拡大してスーパーフェニックスに多様な役割を与えることが適当であると勧告している。例えば、次のような用途が考えられる。
 (a)長期間の照射試験施設
 (b)マイナーアクチニドの消滅を1回のプロセスで行う試験施設
 (c)熱中性子領域の長寿命・核分裂生成物の消滅試験のための中性子源
 (d)一般的な高速中性子を利用する研究施設
 キャスタン委員会は、委員会の勧告と同じような試験計画を含む、スーパーフェニックスの試験計画の範囲を拡充する可能性を再検討した旨の通知をCEAから受けている。これらの試験計画は、委員会が設置を勧告した科学評議会に提出されることになる。
4.運転状況
 スーパーフェニックスは、1994年7月に設置を許可する政令が発令され、8月3日に運転許可が発給された。翌8月4日に起動し、30%、50%、60%、90%と逐次出力を上げながら、各種の試験、保守点検などが行われた。
 スーパーフェニックスを研究炉として用いての研究は、1997年から開始される予定であり、第1炉心への炉心変更作業が1996年12月末から開始された。
 しかしながら、フランス国民議会(下院)の総選挙を受けて左派連立政権(社会党、共産党、緑の党)は、経済的理由により(既に約600億フラン:約1兆2千億円を投じている)1997年6月19日にスーパーフェニックス炉の廃止決定を表明した(文献(3))。
<関連タイトル>
フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)
高速増殖実証炉スーパーフェニックスをめぐる動き (14-05-02-08)
高速増殖炉スーパーフェニックスの即時閉鎖(1998年12月30日) (14-05-02-12)

<参考文献>
(1) 欧州事務所 原子力チーム:キャスタン委員会、スーパーフェニックスに関する報告書の提出(フランス)、海外電力、1996年11月号
(2) 日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 平成8年版、1996年10月 p118-120
(3) 日本原子力産業会議(編):原子力産業新聞、第1895号(1997年6月26日)
(4) 日本原子力産業会議(編):原産マンスリー、No.21、p1-4(1997.7)
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