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<概要>
 東北地方太平洋沖地震により襲来した史上稀に見る大きな津波の影響によって、福島第一原子力発電所1〜4号機では電源を喪失。炉心の冷却が出来なくなり、燃料から大量の水素が発生、1、3及び4号機の原子炉建屋上部において水素爆発が発生した。5、6号機では唯一機能維持が出来ていた、6号機の非常用ディーゼル発電機により原子炉を冷温停止する事が出来た。
 東京電力は、2011年4月17日に公表した「福島第一原子力発電所・事故収束に向けた道筋」にて掲げた課題に向け、決死の収束作業を実施。同年12月16日に目標を達成し、現在は廃止措置等に向けた取組みを実施している。
<更新年月>
2016年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. 福島第一原子力発電所事故の概要(図1
 2011年3月11日、福島第一原子力発電所では、東北地方太平洋沖地震を受けて、運転中の原子炉は全て自動停止した。同時に、地震によって全ての外部電源(送電線等からの電力供給)が失われたが、非常用ディーゼル発電機(以下、「非常用D/G」という。)が起動し、原子炉の安全維持に必要な電源が確保された。
 その後、襲来した史上稀に見る大きな津波により、多くの電源盤が被水・浸水するとともに、6号機を除き、運転中の非常用D/Gが停止し、全交流電源喪失の状態となったため、交流電源を用いる全ての冷却機能が失われた(図2図3)。また、冷却用海水ポンプも冠水し、原子炉内部の残留熱(崩壊熱)を海水へ逃がすための機能(除熱機能)を喪失した。さらに、1号機から3号機では、直流電源喪失により交流電源を用いない炉心冷却機能までも順次停止していった。
 このため、消防車を用いた代替注水に努めたが、結果として、1号機から3号機は、それぞれ原子炉圧力容器への注水が出来ない事態が一定時間継続した。これにより、損傷した燃料棒被覆管(ジルコニウム)と水蒸気の化学反応により大量の水素が発生した。
 原子炉格納容器の内圧が上昇し、原子炉格納容器ベントを数回試みたが、1号機と3号機では、漏えいした水素が原因と考えられる爆発により、それぞれの原子炉建屋上部が破壊された。また、燃料が全て使用済燃料貯蔵プールへ取り出されていた4号機では、燃料の冠水が維持されていたが、3号機の原子炉格納容器ベントで流入してきたと考えられる水素によって原子炉建屋上部で爆発が発生した(図4図5図6)。
 5号機、6号機においては、6号機の非常用D/Gが機能を維持していたため、その電力を5号機へ融通することにより、5号機、6号機ともに炉心への注水を行うことができ、さらに、原子炉内部の残留熱(崩壊熱)を海水へ逃がすための機能を回復することで冷温停止に至ることができた。
2. 事故の収束に向けた道筋の概要
事故後、政府及び東京電力は、原子炉や使用済燃料貯蔵プールの注水冷却、電源復旧等の緊急事態対応に注力してきた。東京電力は事故の収束を計画的に進めるため、「福島第一原子力発電所・事故収束に向けた道筋」を2011年4月17日に公表、「原子炉及び使用済燃料貯蔵プールの安定的冷却状態を確立し、放射性物質の放出を抑制することで、避難されている方々のご帰宅の実現及び国民が安心して生活できるよう全力で取り組むこと」を基本的考え方とし、ステップ毎に以下の目標を設定した。
<各ステップの達成時期と目標>
 ・ステップ 1 (達成時期:公表後3ヶ月程度);
  放射線量が着実に減少傾向となっている
 ・ステップ 2 (達成時期:ステップ1完了後3〜6ヶ月程度);
  放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている
 目標達成に向け、原子炉や使用済燃料貯蔵プールの冷却、滞留水や放射性物質飛散の抑制、モニタリング・除染や、労働環境改善等、多くの課題に取り組み(表1)、ステップ1については7月19日、ステップ2については12月16日に目標を達成した。
3. 事故の収束(ステップ2完了)の総括
 12月16日、以下(1)〜(3)の状況から、原子炉は「冷温停止状態」に達し、不測の事態が発生した場合も、敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持することができるようになった。安定状態を達成し、発電所の事故そのものは収束に至ったと判断され、「事故収束宣言」が内閣総理大臣より出された。
(1)原子炉圧力容器底部及び原子炉格納容器内の温度は概ね100℃以下になっていること。
(2)注水をコントロールすることにより原子炉格納容器内の蒸気の発生が抑えられ、原子炉格納容器からの放射性物質の放出が抑制されている状態であること。また、現時点における原子炉格納容器からの放射性物質の放出による敷地境界における被ばく線量は0.1ミリシーベルト/年と、目標とする1ミリシーベルト/年の目標を下回っていること。
(3)循環注水冷却システムの中期的安全が確保されていることが確認できたこと。
 ・設備は、故障や事故に備え何重ものバックアップにより信頼性を確保。
 ・異常が検知でき、設備の停止時には復旧措置、代替手段を確保。
 ・万一事故が発生した場合においても、敷地境界における被ばく線量が十分低いことを確認。(例:注水ポンプは高台などに9台配置。注水設備が全て使用不能となっても3時間程度で消防車による注水再開が可能。1〜3号機において同時に12時間の注水停止が発生したとしても、敷地境界における被ばく線量は年間1ミリシーベルトを下回る。)
<図/表>
表1 事故収束に向けた道筋の総括
表1  事故収束に向けた道筋の総括
図1 事故の推移
図1  事故の推移
図2 津波による浸水域
図2  津波による浸水域
図3 津波の侵入経路
図3  津波の侵入経路
図4 1号機原子炉建屋5階損傷状況
図4  1号機原子炉建屋5階損傷状況
図5 3号機原子炉建屋5階損傷状況
図5  3号機原子炉建屋5階損傷状況
図6 4号機原子炉建屋5階損傷状況
図6  4号機原子炉建屋5階損傷状況

<関連タイトル>
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
福島第一原発事故への国の初期対応 (02-07-03-03)
廃止措置に向けた中長期ロードマップ (02-07-03-08)

<参考文献>
(1)国会事故調:東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書(平成24年7月5日)、http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/pdf/naiic_honpen.pdf
(2)東京電力:福島原子力事故報告書(平成24年6月20日)、http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120620j0303.pdf
(3)政府事故調:東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告(平成24年7月23日)、http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-2.html
(4)東京電力:「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」(平成23年4月17日)、http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110417b.pdf
(5)東京電力:「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」の進捗状況(12月16日)について(平成23年12月16日)、http://www.tepco.co.jp/cc/press/11121609-j.html
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