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1.炉心シュラウドのひび割れ事例
図1に示すように、BWRの炉心シュラウドは、炉心の燃料棒を取り囲む直径4〜5m、高さ7〜8m、厚さ3〜5cm、重量は35トンを超えるステンレス鋼製の円筒であり、炉心内の上向きの原子炉冷却材流と、その外側の環状部を下向きに流れる再循環流とを分離するとともに、炉心や
気水分離器、蒸気乾燥器などの原子炉圧力容器内の構造物及び機器を機械的に支える役割を果たしている。原子力プラントは、運転開始から30年を超えているものがあり、1990年、スイスのBWR、ミューレベルク発電所において、炉心シュラウドにひび割れが見つかった。その後、米国、ドイツ、スウェーデン、日本のBWRでも同様のひび割れが見つかった(
表1参照)。最近見つかったひび割れの中には、長さがメートル単位に及ぶものもあるが、炉心シュラウドの肉厚を貫通するには至っていない(亀裂の深さは25〜50%)。
これらのひび割れの多くは、溶接線に沿って周方向に発生しており(
図2参照:H3、H4及びH5の溶接線が主な発生箇所)、その原因は、ステンレス鋼の
応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)であることが判明した。
SCCは、材質(炭素の含有率等)だけではなく、製造時の応力や溶接による
残留応力、原子炉冷却材の水質および中性子照射による
脆化などが組み合わさることによって発生する。炉心シュラウドの亀裂が進行し破損すると、炉心内の冷却材流量のバランスが崩れたり、
燃料集合体を十分に支持できなくなったり、また、
制御棒の挿入機能に支障をきたすなどの影響を及ぼし得る。
これらのひび割れに対して幾つかの修理方法が検討・実施されてきた。例えば、米国ブランズウィック発電所や福島第一発電所2号機では、ブラケット法(ひび割れ部表面に板を当ててボルトで締め付ける方法)と呼ばれる補強工法が採用され、また、米国フィッツパトリック(James A. Fitz Patrick)発電所では、タイロッド法(炉心シュラウドの頂部と底部にステンレス鋼製のタイロッド集合体を固定させて補強する方法)が取られた。この他、軽微な亀裂に対しては、亀裂の両端に孔を空けてプラグを施すという修理方法(
ショットピーニング)等が用いられている。
日本でも、炉心シュラウドの亀裂進行の阻止と損傷部位の構造強度確保の観点から、上記の修理方法や取替工法についての検討が進められ、前述したように、福島第一発電所2号機についてブラケット法による修理を行うと共に、1997年5月には、福島第一発電所3号機をモデルプラントとして炉心シュラウドの取替が開始された。
2.炉心シュラウド取替
炉心シュラウドの取替は世界にも例がないことから、BWRを所有する日本国内の電力6社とメーカー2社及び米国のゼネラル・エレクトリック社(GE)が共同で取替技術に関する研究を開始した。その概念設計が1995年に完了し、1996年からは各種取替用自動化機器の設計・製作・機能試験が行われ、さらに、福島第一発電所3号機をモデルプラントとしたフルスケールの
モックアップ試験が実施された。これらの機能試験及びフルスケールモックアップ試験を通して実機への適用性や信頼性を確認し、1997年5月に炉心シュラウド取替工事が開始された。
炉心シュラウドの取替にあたり、SCCに対して感受性の高いSUS304ステンレス鋼製の
炉内構造物をできる限り取り替える方針とし、
図3に示す構造物/機器が取り替え対象とされた。取替用の鋼材として、耐SCC材である低炭素SUS316ステンレス鋼が採用された。
取替の手順は
図4に示す通りであり、同図に沿って各ステップの概略を以下に述べる。
(1)炉内機器取り外し
蒸気乾燥器、気水分離器、制御棒案内管及び燃料等の着脱可能な機器を取り外す。
(2)化学
除染
炉心シュラウド等の切断に先立ち、シュウ酸や過マンガン酸を用いて原子炉圧力容器内壁及び原子炉再循環系配管内面を除染する。具体的には、機器や配管表面の
放射性物質を含む金属酸化物を、シュウ酸及び過マンガン酸による化学反応で溶解させて、
イオン交換樹脂で除去するというものである。
(3)炉心シュラウド上半部取外し
給水スパージャ、上部格子板(頂部案内管)を取り外した後、炉心シュラウドの中間胴部分を水中で放電加工装置により切断し、炉心シュラウド上半部を取り外す。
(4)炉心シュラウド下半部取外し
炉心(支持)板、炉内計装(ICM)案内管、差圧検出/ホウ酸水注入配管を取り外した後、炉心シュラウドの下半部分を(3)と同様の方法で切断し取り外す。
(5)ジェットポンプ取外し
ジェットポンプ上部の吸入口や混合室を取り外した後、ライザブレース及びディフューザー下部を(3)と同様の方法で切断し取り外す。
(6)ジェットポンプ取付け
炉内機器を取り外した後、原子炉圧力容器内壁に放射線遮へい用の鉛シールドを取り付ける。その後、炉内の水を抜き、ジェットポンプ据付用足場を搬入してジェットポンプを取り付ける。
(7)炉心シュラウド据付け
クレーンを用いて新シュラウドを原子炉圧力容器内底部に降ろし、溶接箇所を合わせながら炉心シュラウドサポート上に設置する。新炉心シュラウドは3つの円筒の鍛造材(SUSF316L)と下端リング(インコネル600)で構成されており、周方向溶接線は従来の7本から4本に、また、軸方向溶接線は従来の26本から2本に削減されている。
図5に新旧炉心シュラウドの溶接線の比較を示す。
(8)炉心シュラウド溶接
遠隔操作による自動溶接機を用いて、新炉心シュラウドと既設シュラウドサポートの溶接を行う。溶接時の入熱量を低減し所要時間を短縮するために、シュラウド下端を狭開先形状としている(
図6参照)。また、シュラウドの外側と内側から溶け込み溶接を行うことで、クレビス部が生じないようにして耐SCC性を高めている(
図7参照)。
(9)炉内機器復旧
差圧検出/ホウ酸水注入配管、ICM案内管を取り付けた後、位置を調整しながら炉心(支持)板、上部格子板(頂部案内管)を据え付ける。その後、炉心スプレースパージャと給水スパージャを取り付ける。
3.海外の状況
米国では、ブラウンズウィック、ドレスデン、クォドシティズ等幾つかのBWRプラントで炉心シュラウドのひび割れが見つかっているが、シュラウドの取替を行ったところはなく、ブラケット法やタイロッド法等の補強工法による修理が行われている。
ドイツのビュルガッセン(Woergassen)発電所においても炉心シュラウドのひび割れが見つかったが、同プラントでは、経済的理由並びに許認可上の制約により、米国や日本で採用したような修理を行うことができないため、炉心シュラウドの取替が検討された。しかし、取替に際しては、プラント全体を近代化する必要性が生じたため、結局、廃炉の決定がなされた。
また、1998年10月には、スウェーデンのオスカーシャム1号機において、炉心シュラウドの交換が行われた。同プラントでは、1993年から設備の近代化計画が進められており、炉心シュラウドの取替は、その最終段階として行われたものである。この近代化計画では、炉心シュラウドの取替に先立ちシュラウドサポートの交換も行われた。
4.シュラウド交換の実績
福島第一発電所3号機における取替工事は1998年3月に終了したが、その後、福島第一発電所2号機、5号機、日本原電敦賀1号機、中国電力島根1号機、福島第一発電所1号機など6箇所が交換された。シュラウド交換工事は、大規模で長期にわたるがいずれも計画とおりか工期を短縮して完了している。今後の工事計画はないが、工事に伴って開発された新技術やノウハウが多方面で役立っている。
<図/表>
<関連タイトル>
BWR原子炉容器 (02-03-03-01)
軽水炉における応力腐食割れ (02-07-02-15)
<参考文献>
(1)大出 厚:福島第一原子力発電所3号機の炉心シュラウド取替工事について、原子力eye,Vol.44,No.4,p.44−47,(1998年4月)
(2)Nuclear Engineering International, Vol.43, No.524, p.32−34, (March 1998)
(3)USNRC : Intergranular Stress Corrosion Cracking of Core Shrouds in Boiling Water Reactors, Generic Letter 94−03, (1994)
(4)USNRC : Cracking in the Lower Region of the Core Shroud in Boiling Water Reactors, Information Notice 94−42 and Supplement 1, (1994)
(5)Atomwortsch Atomtech, Vol.40, No.12, p.762, (December 1995)
(6)Nuclear News, Vol.41, No.13, p.59, (December 1998)
(7)Nuclear Engineering International, Vol.40, No.491, p.32−34, (June 1995)
(8)Nuclear Engineering International, Vol.41, No.503, p.38−42, (June 1996)