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<概要>
 酸性雨発生の原因物質は、石炭、石油、天然ガスなどの、いわゆる化石燃料の燃焼によって生じる硫黄酸化物や窒素酸化物である。これらの酸化物は、大気の移動によって非常に長い距離を移動し得るため、ある地域で降っている酸性雨の原因となる酸化物がどこで発生しているかが特定しにくい。日本では、二酸化窒素について厳しい環境基準を設けて規制している。二酸化硫黄についても同様な環境基準を設けて規制した結果、排出抑制の効果が上がっている。
<更新年月>
2005年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 化石燃料を燃焼させる工場や火力発電所(固定発生源)および自動車や飛行機(移動発生源)から排出された硫黄酸化物−SO2や窒素酸化物−NO2等の大気汚染物質が、大気中で移流し、拡散している間に、太陽光線や炭化水素、酸素、水分などの働きで酸化され、硫酸イオンや硝酸イオンの酸性粒子、ガスなどに変化する。これを取り込んでできるpH(水素指数−溶液の水素イオン濃度を表す指数)の低い雨のことを酸性雨という。広義には、雨のほか、霧や雪等も含めた湿性の沈着物およびガスやエアロゾルの形態で沈着する乾性の沈着物をも含める。図1に酸性雨の発生メカニズムを示す。
 pH7未満の雨をすべて酸性雨と呼ぶわけではない。空気中に存在する二酸化炭素が雨滴の中にとけ込み、雨は少量の炭酸を含むため、自然の雨はだいたいpH5.6程度の弱酸性である。酸性雨は、pH5.6以下の雨と定義されている。観測されている酸性雨のpH値は、最も酸性の強いものでpH3程度である。食用酢のpH値は、だいたい3.0くらいである。
 石油や石炭などのいわゆる化石燃料中には、硫黄分が必ず含まれている。したがって、化石燃料を燃やすと、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が発生する。二酸化硫黄は空気中でさらに酸化されて三酸化硫黄(硫酸ガス)となり、水分に溶けて微小な硫酸の粒子となる。これによって雨滴のpHは4.5程度にまで下がる可能性がある。
 また、化石燃料にはこの他、いろいろな窒素化合物も含まれており、燃焼時に一酸化窒素、および二酸化窒素が発生する。さらに、燃焼時の高温ガス中で、空気中の窒素と酸素が結合することによっても、一酸化窒素や二酸化窒素が発生し、これらの窒素酸化物は空気中で酸化され、非常に水に溶けやすい硝酸ガスとなる。そのほかの酸性物質としては、少量ではあるが廃棄物焼却場の煙突から出る塩化水素(塩酸)があり、これも酸性雨に関与している。
 酸性雨の原因となる酸化物は、大気の移動によって非常に長い距離を移動し得るため、ある地域で降っている酸性雨の原因となる酸化物がどこで発生しているかが特定しにくい。日本では脱硫装置が広く普及しているため、硫黄酸化物の発生量は低いレベルに抑えられているが、硫黄酸化物の主要な発生源である石炭は、中国や韓国で大量に消費されており、脱硫装置の不備もあって、大量の硫黄酸化物を排出している。現在日本で降っている酸性雨の主な原因は、これら大陸からの硫黄酸化物であると考えられている。また、ヨーロッパや北米など、他の国と国境を接している地域では、他国で発生した酸化物による酸性雨の被害を受ける被害者であると同時に、自国もまた、他国に被害を与える加害者となっている、というジレンマに陥っている。
 日本では、二酸化硫黄については近年環境への放出量の低減化が良好な状況が続いているものの、二酸化窒素、浮遊粒子状物質は大都市地域を中心に環境基準の達成状況が低い水準で推移しており、光化学オキシダントは全国的に厳しい汚染状況にある。
 一般的な大気汚染の状況を把握するために設置された一般環境大気測定局(以下「一般局」という)と道路周辺における状況を把握するために沿道に設置された自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という)において、それぞれ二酸化窒素濃度の測定が行われた。1970年(昭和45年)以降の測定局における二酸化窒素濃度の年平均値は、1970年度から1985年度まで減少傾向が見られ、その後、漸増、さらに横ばいの傾向にある(図2)。
 また、二酸化窒素に関する環境基準の達成率においても、表1に示すように、平成5年度から平成9年度までにほとんど改善はみられない。全国の達成状況はこの期間にほぼ横這いである。大気汚染防止法によって、工場等の固定発生源についてはNOxの総量規制制度が導入されている東京都特別区等地域、横浜市等地域、大阪市等地域の3地域に着目した場合には、一般局、自排局ともに平成7年度まで改善傾向があるが、その後再び悪化し、平成9年度には5年度の水準に逆戻りしている。「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(自動車NOx法)の特定地域(首都圏特定地域、大阪・兵庫圏特定地域)の中での達成状況もこれと同様な傾向を示した。NOx発生源として大都市では自動車が過半数を占めている(図3)。このためディーゼル車については1996年(平成8年)1月に「自動車排ガスの量の許容限度」の改正が公布され、一部の大型車について規制が強化された。
 2003年度(平成15年度)の環境基準達成状況は、一般局99.9%、自排局85.7%で両者ともに改善傾向が見られる。2003年度に環境基準が達成されなかった測定局は、一般局については東京都に分布し、自排局については自動車NOx・PM法(自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法、平成4年法律第70号)の対策地域を有する都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県)のほか、静岡県、岡山県、広島県、山口県、福岡県、長崎県の6県に分布している。自動車NOx・PM法の対策地域全体における環境基準達成の自排局の割合は2003年度、76.4%で改善傾向が見られる(図4)。
 長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準は、「二酸化硫黄の年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した後の最大値が0.04ppm以下であり、かつ、年間を通じて1日平均値が0.04ppmを超える日が2日以上連続しないこと」となっている。
 2003年度の二酸化硫黄に係る有効測定局数は、一般局1,395測定局(643市町村)、自排局92測定局(77市町村)で、年平均値の平均は両測定局とも0.004ppmであった。この数値は近年横ばい傾向にある。(図5)環境基準達成率の推移は、近年良好な状態が続いており、2003年度は一般局99.7%、自排局100%であった。
<図/表>
表1 二酸化窒素に係る環境基準達成率
表1  二酸化窒素に係る環境基準達成率
図1 酸性雨の発生メカニズム
図1  酸性雨の発生メカニズム
図2 二酸化窒素濃度の年平均値の推移(1970年度〜2003年度)
図2  二酸化窒素濃度の年平均値の推移(1970年度〜2003年度)
図3 自動車NO
図3  自動車NO
図4 対策地域における二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(自排局)(1994年度〜2003年度)
図4  対策地域における二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(自排局)(1994年度〜2003年度)
図5 二酸化硫黄濃度の年平均値の推移(1970年度〜2003年度)
図5  二酸化硫黄濃度の年平均値の推移(1970年度〜2003年度)

<関連タイトル>
酸性雨の影響 (01-08-01-23)

<参考文献>
(1)気象庁(編):温室効果気体の増加に伴う気候変化(2)気候問題懇談会温室効果検討部会報告(1990)
(2)環境庁(編):平成8年版 環境白書 総説、大蔵省印刷局(1996年6月)
(3)環境庁(編):平成9年版 環境白書 総説、大蔵省印刷局(1997年6月)
(4)環境庁(編):平成10年版 環境白書 総説、大蔵省印刷局(1998年6月)
(5)環境庁(編):平成11年版 環境白書 総説、大蔵省印刷局(1999年6月)
(6)環境庁(編):平成11年版 環境白書 各論、大蔵省印刷局(1999年6月)
(7)環境省ホームページ:平成17年版環境白書、http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/
(8)電気事業連合会(編):「原子力・エネルギー」図面集2004−2005(2004年12月)、p54
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