<本文>
1.木質
バイオマス発電事業の背景
従来、工場内の蒸気供給源あるいは自家発電として使用されてきた木屑焚きボイラーが、電力販売を収入とする発電所として広まりつつある理由として以下の4つがあげられる。
(1)建設リサイクル法
2002年に建設リサイクル法が施行された。容器包装リサイクル法、家電リサイクル法などと同様に循環型社会形成推進基本法の枠組みの一つであり、資源循環型社会を形成していくための新しい法律である。建設解体現場において、分別解体及び再資源化を義務付けており、「特定建設資材廃棄物」として建設発生木材が指定され再資源化されている。建設発生木材は再資源化のためチップ化施設に流れることとなり、2000年には再利用率38%であったのが、2002年には61%へ急上昇している(
表1)。結果としてまとまった量の木屑チップの確保が容易になった。
(2)新エネ法(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)
「
エネルギーセキュリティの確保」「地球環境対策」「新規産業・雇用の創出」を目的として、新エネ法が制定された。ここで普及のための施策が導入され、「新エネルギー事業者支援対策事業」として機械設備費の約3分の1の補助金を受けることができ、また債務の90%保証も可能となった(
表2)。2002年度よりバイオマス発電についても対象事業となり、初期投資額が低減され、事業リスクが小さくなった。
(3)RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)
RPS法が2003年度に全面施行され、電気事業者に対して新エネルギーによる電力利用を義務付けた。その結果、バイオマス発電についても「新エネ等電気相当量」(RPS)の付加価値が付き、電力だけでなくRPSの販売も可能となり、従来よりも高い評価で電力取引が可能となった(
表3)。
(4)
電力自由化(電気事業法改正)
1995年改正により、IPP(電力卸供給事業者)が登場し、電力の卸供給が可能となった。2000年からは小売についても部分自由化され、PPS(特定規模電気事業者)が登場し、電力における自由化、競争が促進されている。2003年の改正においては、電力取引所も創設された。2005年より運営が開始されて電力の競争市場が整備され始めている。従来電力を販売する場合、管轄の一般電気事業者へ販売するのが一般的であったが、PPSの登場により複数の電気事業者への販売が可能となり、電力価値が競争により評価されるようになった(
図1)。
2.木質バイオマス発電事業の特徴
(1)燃料チップの確保
従来の化石燃料を用いた発電においては、価格の変動はあるものの燃料が不足する事態はほとんど想定されない。また品質もJIS規格であり、均質な燃料を確保することが容易である。しかしながら、木質バイオマスは形状、品質も必ずしも均一とは言い難く、全国に薄く広く分布しており嵩張るため、建設発生木材系ならば人口密集地に隣接する必要がある。またその賦存量も限られており、木質バイオマスの利用施設が乱立した場合、不足する恐れがある。
(2)地域住民・行政の理解
設備の性質上煙突が立つことになり、また木屑チップは嵩張るため運搬車の出入りも多い。騒音対策も必要である。周辺住民、行政の十分な理解を得る必要がある。
(3)電力
電力を販売するためには、施設規模に応じた系統連系可能な送電線が付近に必要となる。また常時一定の電力供給が可能で安定的な電源(ベース電源)となる。
3.木質バイオマス発電事業者(株式会社バイオパワー勝田)の紹介
(1)概要説明(
図2、
図3)
茨城県ひたちなか市に日量150tの木屑焚きボイラー及び蒸気タービンを設置し、4,900kWの発電を行い、場内消費電力を除いた4,100kWの売電を行っている。燃料となる木屑チップは、環境促進事業者(勝田環境株式会社)を中心とした地元業者より入手している。環境促進事業者は周辺地域から収集した伐採・剪定木屑、解体木屑、根かぶなどを同社が保有するリサイクル施設(約370t/日)で、畜舎の敷きわら代用品、パーティクルボード用チップなどに破砕選別している。木質バイオマス発電事業者が燃料としているのは、これらのうちマテリアルリサイクルに適さない木屑チップである。環境促進事業者のリサイクル施設と木質バイオマス発電事業者の発電施設が隣接し組み合わさることにより最適な木質バイオマスのリサイクル事業が可能となっている。発電施設は2004年4月に
着工し、2005年7月営業運転を開始した。発電施設の燃料は全量新エネルギーであり、RPS設備認定を取得している。また高圧での送電であり、電力はPPSである丸紅に販売している。この発電事業に対し、経済産業省資源エネルギー庁より利用計画の認定を受け、新エネルギー事業者支援対策事業の補助金交付を受けている。総事業費は19億円で機械設備の約3分の1を補助金で賄っている。
(2)プラントの要目
施設名称:勝田木質バイオマス発電所
規 模 :蒸発量25.5t/h(6.08MPa,425℃)
発電量 :4,900kW(発電端)/4,100kW(送電端)
燃 料 :木屑チップ150t/日
敷 地 :約9,300平方メートル
運転員 :9名
(3)施設の特徴
本施設の特徴は三つある。
イ.木屑ピットに設置しているクレーンを2台にし、また木屑ホッパへのトラックからの直接投入も可能とし、供給系のトラブルに対し二重に安全対策を施すことによって、プラントの停止を極力防ぐようにしている。
ロ.木屑を燃やして出てくる灰は、サイクロンで捕集される比較的粗い灰とバグフィルタで捕集される比較的細かい灰に分けて貯留している。これはもともと木灰は特殊肥料として使用されており、今回の燃料では建設発生木材由来も使用するものの、問題となる重金属類は主にバグフィルタで捕集されるため、灰の有効利用を模索していく目的で2系統としている。
ハ.排水量を減らすため空冷コンデンサを採用している。給水も上水とし、設備内機器冷却においても空冷式を多く使用することで排水量を極力少なくし、周辺環境に配慮している。
(4)流動層ボイラー
本施設では流動層ボイラーを採用している。流動層とは、層を形成した流動砂が下部吹込空気により流動化(液状化及び気泡沸騰)状態となったものをいう。
気泡沸騰状態の如く流動化した高温砂の熱及び攪拌効果により焼却物の乾燥、着火、燃焼をさせ、その燃焼熱により砂を高温に維持するとともに投入焼却物を燃焼させるのが、流動層燃焼である。高温砂の攪拌効果により、焼却物の表面の燃えかすが削り取られ、未燃焼表面に常に熱と空気が供給されて芯まで燃えつきるまで流動層内で燃焼する。
流動層ボイラーは、イ.低空気過剰率が可能で排ガス量,熱損失を小さく抑えることが可能、ロ.燃焼速度が速く応答性に優れる、ハ.低温燃焼が可能で、クリンカ発生を抑制し低NOxでの運転が可能などの特徴がある。
4.今後の課題
2002年冬に(株)バイオパワー勝田の木質バイオマス発電事業の準備・検討を開始してから、3年以上過ぎ、事業環境も大きく変わっている。既に全国で数万kWクラスの木質バイオマス発電の計画がみられ、今後木屑チップの需給がひっ迫してくるものと思われる。また原油価格高騰をうけ、製紙業界などでは化石燃料から木屑、廃タイヤ、RPFなど代替燃料への転換を促進させており、さらに木屑チップの需給は厳しくなっていくものと思われる。今後は運搬コスト負担の問題が残っているものの、林地残材、間伐材など林業系木質バイオマスの利用についても検討していく必要がある。
また木質バイオマス発電の場合においても、木の保有する
熱量の20数%を利用するに過ぎない。発電利用後の排熱である低圧蒸気、温水は多量のエネルギーを保有しており、これを利用することによりさらに環境にやさしい事業とすることが可能となる。農業のビニールハウスあるいは林業の乾燥施設など、地域にあった熱利用施設と組み合わせることにより、地域との共生を目指した施設を今後検討していく必要がある。
<図/表>
<関連タイトル>
バイオマスエネルギー (01-05-01-06)
新エネルギーの導入と動向 (01-05-01-09)
再生可能エネルギーの普及促進策 (01-05-01-11)
<参考文献>
(1)国土交通省:平成14年度 建設副産物実態調査結果、
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/fukusanbutsu/jittaichousa/index.htm
(2)財団法人新エネルギー財団:新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法について
(3)資源エネルギー庁:RPS管理システム、平成16年度実績 RPS法下における新エネルギー等電気等に係る取引価格調査結果について、
http://www.rps.go.jp/RPS/new-contents/top/toplink-sitemap.html
(4)資源エネルギー庁:電力調査統計、