<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の新エネルギー
<小項目> 新エネルギー技術開発
<タイトル>
風力発電の現状と水素製造の可能性 (01-05-02-22)

<概要>
 地球温暖化が報告されて久しいが、その原因は19世紀に起った産業革命以降の化石燃料使用量の増加に拠るものと考えられている。この問題を解決するために、人類はストック消費型エネルギー利用を、再生可能エネルギーを中心とした循環型エネルギー利用に変えていく事が具体的な方向と言われている。社会生活レベルを維持・発展させながら、環境問題の解決を図るために新技術を適用することで、持続性のある開発(Sustainable Development)を可能にする事が出来、循環型エネルギー社会の構築が可能になる。そうした技術の一つが風力発電である。
 世界の風力発電は大きく発展しているが、今までの風から電気エネルギーを回収し、消費地に送電するという単純な構図ではなく、今後は風エネルギーが良好であるが未利用な地域で水素製造を行い、それを世界中に供給し燃料電池を代表とする高効率原動機を運転すれば、温暖化ガスの排出を無くすことが出来、環境問題への貢献とエネルギーの安全保障確立が可能となる。そのような試算例として、3年間にわたって行われたアルゼンチン・パタゴニア地方の高風況地域の調査実例を用いて説明する。
<更新年月>
2007年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.風力発電の現状と今後の予測
 風力発電は再生可能エネルギーの代表で、風エネルギーを用いて電気を発生させるのである(図1)。ここ数年間、風力発電は世界中で活発に導入されており、2006年までの実績とそれ以降の予測を図2(参考文献1、2)に示す。2006年に世界で導入された風車容量は15.0GW、即ち1,500万kWでこの量は大型原子力発電所を100万kWとすると15基分である。累計では74.3GW、即ち7,430万kWで同じく100万kW原子力発電所で換算すると74基相当の風車が世界中で運転されている。特に昨今は日本を含め、世界中で多くの50MWを超える大型ウィンドファームが建設されている(図3)。
 日本は2010年の風力発電導入目標を300万kWとしているが、日本特有の問題点があり、非常に達成困難な目標であると言われている。その原因として「平地が少ない」、「設置に適した好風況地域が少ない」、「風の強い地域は人口が少なく送電線が無い」、「電力会社間の系統連系が、分散電力向きではなく送電が難しい」等が言われており、これらを克服する為に各方面で努力がされている。
 一方、風車の大型化も進んでおり、欧州では単機容量が試験機ではあるが5,000kWの風車も運転されている。洋上風車も実用化されており、欧州では既に少なくとも18か所程度の運転が始まっている。日本での計画量は総発電量から考えると非常に小さい。
 世界の風力主要国の総発電量に対する風力発電量の比は、デンマークの19.7%を筆頭にスペインが7.7%、ドイツが5.4%である(図4)。特にスペインのいくつかの地域は100%にもなろうとするところがあるといわれている(参考文献1)。
2.水循環社会システム
 風車は米国や欧州では再生可能エネルギーの中心である(参考文献3)。また前述の通り更なる増加が見込まれている。ここに燃料電池が実用化されれば、風力発電や太陽光発電で水素をつくり、それを燃料として燃料電池を運転し電気を発生できれば、水を媒体とした完全なエネルギーの循環システムとなる。そのために風車の開発のほかに、水素の製造・貯蔵・輸送システムや原動機である燃料電池等の開発・製造等を目指して研究開発が進んでいる(参考文献4)。風車と水素製造、輸送、消費地での社会資本に関する関連を図5に示す。具体的には、風車の電気を利用した水素製造装置で作られた水素は、液化又は高圧ボンベに詰められ大消費地に運ばれる。その水素を燃料電池や水素タービンで自動車用動力や発電することで地球温暖化排出ガスを無くそうということである。
 すなわち水素は化石燃料に替わり、人々の使うエネルギー源として使用され、また完全な再生可能エネルギーとなる。水素製造の原料は電力と水であるから環境への影響は最小であるといえる。しかしながら電解槽では直流電気が必要で、風力発電システムの基本的な設計方針に関わり、また使用する水の供給や性状等も極めて重要である。
3.風力発電設備と水素製造の可能性について試算
 今日までの風力発電は好風況地域で発電し、その電気を消費地に送電するという単純な構図であった。しかし、このようなシステムは消費地に近い必要があるが、通常は風の強い地域は住みにくいので人口が少なく、その結果送電線等が軟弱であるといった社会基盤状況である。世界にはこのような地域が多くある。
 以下4.にその代表的な地域として、3年間にわたって調査したアルゼンチン・パタゴニア地方における風力発電設備と水素製造の可能性についての試算を報告する。アルゼンチン・パタゴニア地方は世界でも稀有な強風地帯であり、人間が住むのには厳しすぎるので海岸線以外はほとんど住んでいない。この地域で上記システムについての可能性について述べる。
4.アルゼンチン・パタゴニア地方における風力発電設備と水素製造の試算
4.1 アルゼンチンにおける風力水素製造の可能性調査の背景
 風力発電を用いた水素製造は二酸化炭素排出量ゼロの究極の形であることから、日本でもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)」と呼ばれたプロジェクトで検討されてきた(参考文献5、6、7)。本計画はアリューシャン列島の高風況地域における風エネルギーの利用を考えたものであったが、同様に世界には風況が良いが社会資本が無く風で得られた発電を活用できない地域がある。そのよう地域においては、十分な風と大規模水素製造システムとを準備する事により、産業の出来なかった地域(逆に言えば風が強くて活用できなかった地域)で産業を起こすことが可能となり、しかも世界の温暖化防止に貢献することが出来るという、画期的な事と考えられる。最初に石油を中東から運び出すのと同じ状況である。
4.2 パタゴニア地方における調査の概要(参考文献8、9)
 調査地域は図6に示すアルゼンチンのパタゴニア地方のチュブット州(Chubut)とサンタクルス州(Santa Cruz)である。これ等の地域は風況良好で、地形的にもアンデス山脈から東側は緩やかな平地が続くが人口は少ない。現在までは沿岸部で石油掘削が一部行われている程度でまだ開かれていない高風速地域である。
 現地のエネルギー会社から得た年間平均風速を表す風況地図を図7に示す(参考文献10)。殆どの地域で平均風速7m/sec以上であり、特に高風速地域では平均風速が10m/secを超える地域もある。加えて最新の風車設置計画場所では年間平均風速12m/secという報告がある。
 パタゴニア地方の強風地域であるチュブット州、サンタクルス州と日本の面積と人口密度を表1に示す。この表や現地の情報から、(1)面積は両州で日本より広い、(2)地形は風車建設には有効な地域である、(3)人口はチュブット州で41.3万人、サンタクルス州で19.7万人と日本と比較して極めて少ない、(4)住宅は殆ど無く、道路は幹線のみである、(5)気象状況の報告では乱れも雷も無いこと等がわかり、建設には非常に良いサイトであることが判明した。
4.3 パタゴニアにおける風車の運転実績と風速
 現地に設置され運転されている欧州製の風車運転実績の例を図8図9図10に示す。本図に示すとおり2002年から運転成績が落ちている。これは風車設置場所の風況調査が十分行われていなかったために最適風車選択が行われていなかったことに尽きる。現地の保守担当者の言葉で言えば「この地域は予想以上に風が強いので故障が発生している」という事になるが、風車関係者は、風況を十分に計測し、その風に適した風車を選択、又は設計すれば克服できると考える。即ち最新技術を採用した高信頼性風車を適用すれば、高稼働率運転は得られるものと考える。
4.4 パタゴニアにおける潜在風力エネルギー量検討
 高風速域に風車を設置した場合の潜在エネルギー量を計算し、風車設置台数の可能性と計算仮定を表2に示す。
 本計算の結果から以下のことが言える。すなわち、日本の年間発電量と比較して、当地域の総潜在エネルギーは約10倍にもなる膨大な量である。
 この様な、「風は有るが社会資本が無い」とか、「風が強くて人の住めない」という地域はまだ世界中にあるものと考えられる。石油を代表とする化石燃料を中東等の原油産出地域から採掘するのに使ったわれわれの先達の開発エネルギーを以て、新しい風力水素開発に取り組めば、新しい21世紀のエネルギーが得られ、それが永遠に使える事と考えられる。
4.5 パタゴニアにおける水素製造コストの試算
 各機器コストの最安値のものを使い、実績の無い機器はNEDOのロードマップにおける期待値を採用した(参考文献5)。今後技術革新が行われる前提の目標コストを重ね合わせ検討した。
(1)風力発電コストはデンマークの独立コンサルタント会社BTM Consult Apsの報告(2006年版)を採用した。即ち1,664$/kWを採用した。
(2)水素を製造する為の必要電気量はNEDOのロードマップ(参考文献5)では、現状変換効率は5kW/Nm3であるが、開発最終目標として4kW/Nm3の目標がある。従って、ここではNEDOのロードマップに沿ったものとした。
(3)金利は今後の上昇を検討して2%、3%、4%、5%の4ケースを検討した。その他の詳細項目と計算手法は紙面の制限で割愛する。
 風車から電気を作り、それをもとに水素を製造するコストの計算結果を図11図12に示す。先に述べた数量の機器を設置する事でプロジェクトが進めば水素の製造コストは現在の市場コスト(CIF現地サイト基準で現在の価格(参考文献11))150円/Nm3からその1/8程度で、またWE-NETで報告されている26.49円/Nm3の約60%のコストで生成することが可能になる。
 実際にプロジェクトを進めるときには、これ以外の諸項目を含めた検討検証が必要である。
5.風力発電と水素製造に関して
 本稿は風力水素に関する試算例をパタゴニアの調査結果を元に示したが、WE−NET報告(参考文献7)にも、水素エネルギー協会の調査(参考文献12)でもわかるとおり、世界中には未開発で膨大な潜在的なエネルギーを持った地域がある。環境問題とエネルギー問題を解決するためには日本だけのことを考慮した施策ではなく、世界に目を向け、石油や石炭のように二酸化炭素を排出することの無いエネルギー源を探す必要がある。パタゴニアの2州だけで年間発電総量は、日本の総発電量の約10倍である。しかしながら化石燃料のように、掘ったら原油、石炭、天然ガスといった単純なものではなく、風や太陽光から水素をつくるという、手間の係るシステムに成らざるを得ない。このことは、今日まで再生可能エネルギーが小規模の取り組みでは競争力が無かった事を意味する。
 しかしながら、日本の電力業界や関係諸企業が、今日までにそのシステムを構築するのに必要だった投下資金と同じコストで検討すれば、今後必要な設備は得られると思われる。それが現在の環境問題の解決策であるとすると、何にも増してこれ等の技術を開発して実際に適用し、人類の為に貢献する必要がある。
<図/表>
表1 パタゴニア地勢一覧
表2 パタゴニア風車設置台数可能性検討
図1 風力発電システム
図2 風力発電装置の導入実績と今後の予測
図3 大型ウィンドファーム
図4 年間風力発電量比率(風力発電量/総発電量)
図5 風力による水素製造と輸送、社会資本に関する概念図
図6 パタゴニア調査地域
図7 パタゴニア風況地図
図8 チュブット州Aサイトにおける運転実績
図9 パタゴニア州Bサイトにおける実績
図10 チュブット州Cサイトにおける運転実績
図11 風速9m/sec地域の水素製造価格
図12 風速10m/sec地域の水素製造価格

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
風力発電 (01-05-01-05)
新エネルギーの導入と動向 (01-05-01-09)
水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術 (01-05-02-05)
水素生産技術 (01-05-02-18)

<参考文献>
(1)BTM Consult ApS:World Market Update 2006(March 2007)、および Ten Year Review of the International Wind Power Industry 1995-2004(September 2005)
(2)BTM Consult ApS:World Market Update 2005(March 2006)
(3)例えば、IEA:KEY WORLD ENERGY STATISTICS 2007
(4)例えば、米国の取り組みは DOE: 他を参照
(5)NEDO:2006燃料電池・水素技術開発ロードマップ−今後取り組むべき技術課題−(平成18年6月)
(6)NEDO:平成9年度成果報告書、NEDO-WE-NET 974、水素製造技術の開発(平成10年3月)
(7)NEDO:平成12年度成果報告書、NEDO-WE-NET-0008、水素製造技術の開発(平成13年3月)
(8)水素エネルギー協会:第115回定例研究会予稿集(平成17年5月19日)
(9)水素エネルギー協会:第117回定例研究会予稿集(平成18年2月23日)
(10)アルゼンチンC.A.P.S.A.社:Large Scale Wind Hydrogen Production in the Argentine Patagonia(2004年6月)
(11)(財)電力中央研究所:電中研ニュース338(2000年10月)
(12)勝呂幸男:足利工大第6回風力エネルギー利用総合セミナー(2006年)
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