<大項目> 放射線と原子力に関する歴史とトピックス
<中項目> 原子力開発の歴史
<小項目> 原子力開発史上の重要な実験
<タイトル>
運動エネルギーによる質量増加の検証となったカウフマンのベータ線屈曲の実験 (16-03-03-02)

<概要>
 どんな物体でも加速していくとその質量が増大してゆき、どんなに加速しても光速を超えられないことが知られている。1901年カウフマンは電子が高速になると、その質量が増大することを実験事実として最初に発見した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
  1901年、カウフマン(Walter Kaufmann、独、1871〜1947)は、ラジウム線源からのベータ線として放出される高速電子線を電場と磁場によって屈曲させ、電子の質量mがその速度によって変化することを確かめた。
  当時は相対性理論はまだ発表されておらず、電磁理論による考察から、止まっている電子は周囲に電場を作るが、動いている電子は電場だけでなく磁場も作るので、磁場の分だけ止まっている場合より大きな質量を持つと考えられていた。カウフマンはこのことを確かめるため、当時の技術では十分に加速された電子線を得ることができなかったので、ラジウム線源からのベータ線を用いて高速電子線を屈曲させる実験を行った。

2.装置
   図1 はカウフマンの用いた装置の原理図である。高速電子線はA点の線源から放出される。Kは紙面をはさんで上下一対になった電極で約7000Vの電圧が掛けられている。また、図面全体は電磁石によって紙面を垂直に貫く方向に磁場が掛けられている。電場も磁場も掛けられていない状態では、A点から発した高速電子は直進して小孔Bを通り抜け、直線X1 、X2 を走ってC点に達する。YZ面にはフィルムが置かれていて、源Aから発して小孔Bを通って直進する電子線はフィルムのC点を感光させる。
  磁場を掛けると、電子線は半径ρの孤ABQを描き、C点からZ方向にZ0 だけ移動したQ点に達し、この点でフィルムを感光させる。一定の磁場のもとでは、電子線の電荷eと運動量(質量mと速度vの積)mvの比率e/(mv)によって、曲がり方が決まり、運動量が大きいほど電子線は曲がりにくくなる。C点とQ点間の距離はe/(mv)によって定まる。
  電場を掛けると、電子線は 図2 に示すように、電場を掛けられた場所で放物線状に曲がる。電場によってフィルムの感光点はY0 だけ上方へ移動する。電子が電場によって上向きに曲げられることによって生ずるY方向の速度成分vy は電荷eと運動量mvの比率e/(mv)に比例する。Y0 はvy /vによって定まるので、Y0 は結局e/(mv2)によって定まることになる。

3.測定結果
  ベータ線からはいろいろな速度を持った電子が放出される。速いものは光速に近く、磁場と電場の両方について曲がりにくく、フィルムのC点の近くを感光させる。速度の小さいものほど曲がりやすくなり、感光点PはC点から遠ざかる。このようにして、ベータ線源からの電子線はフィルム上を放物線状に感光させた。
  カウフマンはフィルム上に感光した放物線状の線の上から5つの代表点を選んで、速度vに対して電子の電荷と質量の比がどのように変わるかを調べた。電荷eを一定と仮定すれば、この結果から速度vと質量mの関係が定められる。この結果が 図3 に白丸で示してある。
  1909年にブーヘラー(A.H. Bucherer)は更に精度を向上させて測定を行った。この結果も図3に黒丸で示してある。図中の線は相対性理論による計算値である。

4.相対性理論の検証
  カウフマンの測定結果(図3に白丸で示す)は、1909年ブーヘラーの測定結果(図3に黒丸で示す)が出るまでは、相対性理論を支持するデータではなく、1902年にアブラハム(M. Abraham)の提出した理論を支持するものと解釈されていた。相対性理論は実験の精度が向上するに従い、その正しさが認められていった。
  相対性理論によれば、どんな粒子でも静止しているときの質量をm0 とするとき、速度vで運動しているときの質量mはm0 より大きくなる。質量の増加分m−m0 は、粒子の運動エネルギーEk に比例する。質量mとエネルギー増加の関係は、粒子のもつ全エネルギー(内部に含まれるエネルギーに運動エネルギーを加えたもの)をEとするとき、E=mc2の関係によって与えられる(Cは光速である)。
  粒子に力を加え速度を増加させていくと、粒子の質量は増加してゆき、粒子の速度が光速Cに近づくと、質量が際限なく増加するため速度は限界に達し、光速Cを越えることができない。今日では、加速器を用いて種々の粒子を加速することができ、すべての加速された粒子について、上記の性質が確認されている。
<図/表>
図1 カウフマンの装置の原理図
図2 電場によるY方向への偏向
図3 電子の速度vと質量mの関係

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<関連タイトル>
内部エネルギーによる質量増加を説明するアインシュタインの思考実験 (16-03-03-03)
トムソンとアストンによるネオン同位体の発見と質量分析器の開発 (16-03-03-04)
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<参考文献>
1.物理学古典論文叢書4、相対論、東海大学出版会、1969年、153-158頁
2.広重 徹、物理学史2、培風館、1968年、82-86頁
3.H.A. Boorse and L. Motz, The World of the Atom, Basic Books, Inc.(1966)502-512
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