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<概要>
 同じ元素に含まれる原子は必ずしも1種類ではない。1913年にトムソンはネオンの原子には質量数が20と22の2種類のものがあることを初めて発見した。後に、トムソンがこの実験に用いた装置をアストンが改良し、多くの元素について同位体分析を行った。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 陽極線管の内部では、陽極から陰極に向かって正イオンの流れが生じている。 図1 に示すように、陰極Cは穴をあけておくと、陽極Aから陰極Cへ向かう正イオンの流れ(陽極線という)は、陰極の穴から外へ流れ出てくる。これを電場と磁場によって屈曲させることによって、正イオンの電荷と質量の比e/mを測定することができる。
 1913年、トムソン(J.J. Thomson、英、1856〜1940)は、このような装置を用いて、気体分子イオンのe/mを測定し、ネオンはネオン20とネオン22の2つの同位体から成ることを発見した。1919年にアストン(Francis William Aston、1877〜1945)は、トムソンの装置に改良を加え、イオンの質量を正確に(1000分の1の精度で)測定できるようにした。

2.トムソンの質量分析装置
  図2 はトムソンの質量分析装置の概略図である。Aは陽極線発生管で、ここで生じた正イオンは陰極Cから左側へ流れ出てくる。P、Qは電磁石、L、Mは電極で、ここで屈曲された正イオンは、フィルムFを感光させる。W、Vは遮へい板、Jは冷却器である。
 正イオンはいろいろな速度のものが混ざり合って電場と磁場に入ってくる。速度の大きいものは曲がりにくく、ほとんど直進してフィルムFの中心を感光させる。速度の小さいものは電場によって大きく横方向(紙面では上下方向、これをX方向とする)に曲がり、磁場によって大きく縦方向(紙面に垂直な方向、Y方向とする)に曲がる。
 同一の電荷eと質量mの比e/mを持つ正イオンは、フィルム面上での原点からのX方向の移動xとY方向の移動yについてy2/xが一定になり、同一放物線上を感光させる。これを 図3 に示す。このとき、質量mの大きい粒子ほどy2/xの値は小さくなる。この写真では磁場の方向を反転させ、さらに電場の方向を反転して強めて、重ね撮りがされている。ネオン20とネオン22(共に+1のイオン)の放物線がわずかにづれている。

3.アストンの質量分析装置
  図4 はアストンによって改良された質量分析装置である。2つのスリットS1 、S2 をくぐり抜けてきた陽極線は、電極P1 、P2 で曲げられるが、速度は一定していないので、速いものは少なく、遅いものは大きく曲がる。磁場においても同様に、速いものほど曲がり方は小さいが、曲がる方向は電場と逆になっているので、感光面FG上では速度による位置の差はなくなる。このようにして、e/mの異なる粒子は、速度には関係なくそれぞれ感光面FG上の固有の場所に集まる。 図5 に実例を示す。
 この質量分析装置によって、多くの安定同位体が発見された。
<図/表>
図1 陽極線管と陽極線の発生
図1  陽極線管と陽極線の発生
図2 トムソンの質量分析装置
図2  トムソンの質量分析装置
図3 トムソンの質量分析装置の放物線写真
図3  トムソンの質量分析装置の放物線写真
図4 アストンの質量分析装置
図4  アストンの質量分析装置
図5 アストンの質量分析装置の分析写真
図5  アストンの質量分析装置の分析写真

<関連タイトル>
運動エネルギーによる質量増加の検証となったカウフマンのベータ線屈曲の実験 (16-03-03-02)
内部エネルギーによる質量増加を説明するアインシュタインの思考実験 (16-03-03-03)
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<参考文献>
1.プロジェクト物理6、原子核、コロナ社、1985年、40-46頁
2.マダム・ピエール・キュリー著、皆川 理、杉本 朝雄、三宅 静雄 訳、放射能上巻、1942年、75-88頁
3.菊池 正士、原子核及び元素の人工転換、岩波、1938年、17-27頁
4.H.A. Broose and L. Motz、The World of the Atom、Basic Books,Inc.(1966)793-824
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