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1.原子力利用の概要
(1)原子力利用の開始
メキシコの原子力開発は、1956年の原子力委員会(CNEN:National Commission for Nuclear Energy)の設立から始まる。1966年に原子力委員会(CNEN)と連邦電力委員会(CFE:Federal Electricity Commission)により原子力発電所設置の検討が始まった。連邦電力委員会(CFE)は、1969年に600MWe相当で技術が確立した原子力発電所の設計に入札するよう諸外国に呼びかけた。1972年には建設が決定し、1976年にラグナ・ベルデ(Laguna Verde)に正味出力654MWeの2基のGE製沸騰水型原子力発電所(BWR)の建設が開始された(図1)。この発電所の建設においては、メキシコ産業界による技術上の貢献はわずかであった。しかし、技術の発展と人材の育成を図るため、原子炉運転員を連邦電力委員会(CFE)のシミュレータで訓練した。
(2)開発・管理の体制
1956年に設立された原子力委員会(CNEN)は、その後、原子力研究所(INEN:National Institute of Nuclear Energy)に改組された。原子力研究所(INEN)は1979年に3組織に分割され、原子核研究所(ININ:National Institute of Nuclear Research)、ウラン会社(URAMEX:Mexican Uranium)および原子力安全・保障措置委員会(CNSNS:National Commission on Nuclear Safety and Safeguard)となった。1985年に、エネルギー省(SE:Ministry of Energy)がURAMEXの事業の一部を引き継いだ。
(3)原子力発電の拡大
連邦電力委員会(CFE:Federal Electricity Commission)は、ラグナ・ベルデ原子力発電所の発電容量を20%以上(280MWe)増強することを目指して、2007年にスペインの大手電力会社イベルドローラとフランスの重電メーカのアルストムとタービンおよび発電機の更新を契約した。2008〜2010年にかけて増強のための設備更新が行われる予定である。
メキシコ政府は、発電分野における天然ガスへの依存割合を減らすために、原子力利用を拡大していく意向であるが、明確な計画は明らかでない。しかし、新しい原子力発電所1基の建設を2015年までに進める推進委員会が設立されており、それ以降2025年までに7基以上を建設し、原子力発電の割合を発電量の12%にする計画である。メキシコにおいても、原子力発電は天然ガス発電と競合できると見られている。
(4)長期計画
メキシコ政府には、国際的革新安全炉(IRIS:International Reactor Innovative and Secure)のような小型炉を、発電、海水脱塩および農業利用に採用する計画がある。すでに、国立原子力研究所(ININ)は、3基のIRISと7基の逆浸透膜式の海水脱塩装置を利用して、840MWeの発電と併せて、海水脱塩により日量14万トンの飲用水を生産することを検討している。
2.燃料サイクル
(1)燃料製造
原子力開発初期の政策では、国内ウラン資源を原子力発電所の燃料に使用する計画であった。しかし、国際市場価格と比べて経済性が乏しいため、メキシコ最初のラグナ・ベルデ原子力発電所で必要なウランは、スポット市場または中長期契約により購入することを決定した。
核燃料は法律に基づき国が所有し、原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)の管理下にある。
ウラン探査は、1957年から1970年まで原子力委員会(CNEN)が実施し、その後1979年にURAMEXが引き継いだ。URAMEXの1982年の評価によると、既知ウラン資源(回収コスト80〜130ドル/kgU)は2,400tUである。URAMEXはウラン産業の設立に意欲的であったが、原子力利用計画が縮小されたため、1983年に探鉱、探査活動を終了し1985年に解散した。1960年代にはチワワ(Chihuahua)地区ビラ・アルダナに試験レベルのウラン工場があったが、こられの施設は廃止され、尾鉱などはペナ・ブランカに処分された。図2にメキシコの主なウラン鉱床を示す。URAMEXの事業の一部はエネルギー省傘下の鉱物資源委員会(CRN)に継承されたが、近い将来にウラン生産を行う計画はなく、商業規模での探査もその後していない。
なお、ウランの精錬、六フッ化ウランへの転換、燃料成型加工に関しては、原子力研究所が小規模な設備で実施している。GEの技術協力でラグナ・ベルデ発電所用の燃料集合体を製造するパイロットプラント(年20体程度の規模)の建設計画もあったが、経済性が疑問視されており実現はしていない。燃料製造に関しては、六フッ化ウランをフランスから購入し、米国のUSECに濃縮委託し、さらに米国GEに燃料集合体製造を委託している。
(2)使用済燃料と放射性廃棄物
使用済燃料の保管と廃棄、および放射性廃棄物の処理処分は、エネルギー省に権限と責任がある。エネルギー省は、使用済燃料と放射性廃棄物の管理会社の設立を管理と財政の両面から検討している。ウラン資源の入手可能量や価格が長期的に不透明であることから、政策的な自由度を高めるために使用済燃料は長期貯蔵をする方針である。このため、ラグナ・ベルデ原子力発電所には、原子炉寿命相当分の使用済燃料を全て保管できる規模の燃料貯蔵プールが整備されている。研究用原子炉の使用済燃料も同様に貯蔵されている。
低レベル放射性廃棄物(LLW)の処分を行うためのピドレラ(Piedrera)処分場は1985〜1987年に操業し、20,858立方メートルの廃棄物の処分を終えた。さらに、原子力発電所4基分、医療および工業利用の放射性廃棄物の処分場を検討している。
3.研究開発の体制と協力
メキシコにおける原子力の研究開発の中心機関は、研究炉トリガーMk-III1000kWを保有する国立原子力研究所(ININ:National Institute of Nuclear Research)である。また、サカテカス自治大学(University Autonoma de Zacatecas)は、1969年に設置したシカゴモデル900の未臨界実験装置を保有している。
カナダおよび米国と緊密に協力しており、このうちカナダとは1995年のメキシコとカナダの原子力協力協定により、研究開発、健康、安全、緊急時計画、環境保護に関する情報交換の協力がある。また、核物質、装置、技術などの協力がある。また、米国とは、メキシコ電気研究所(Mexican Electric Research Institute)と米国電力研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)との間に、原子炉の過度特性に関するRETRAN-3コード、原子力発電所の確率論的リスク解析、過酷事故の解析に関するMAAP-3コード、核データライブラリーを含むCPM-3コードなどに関する研究協力がある。また、ニューヨーク州、レンセラー工業大学と過酷事故解析用エプリル(April)コードに関する協力がある。<図/表>