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メキシコ合衆国(メキシコ)のエネルギー事情、原子力開発利用の状況、原子力利用等に関する主要法令、許認可・安全規制の管理体制、核不拡散への対応などに関して以下に解説する。
1.メキシコのエネルギー事情
メキシコは、国内エネルギー資源に恵まれており、石油と電力を輸出している。図1にメキシコの一次エネルギー消費量の推移を示す。1970年代から経済の発展に伴ってエネルギー消費は急速に増加している。2006年の一次エネルギー消費のエネルギー源別構成を図2に示す。エネルギー源の89%が化石燃料(石油、天然ガス、石炭)である。原子力の商用発電は1990年頃から始まり2006年には一次エネルギーの1.6%を占めている。
メキシコの発電電力量の推移を図3に示す。1970年代から一次エネルギー消費の伸びを超える速さで急速に増加しており、2007年には257億kWhの発電量に達した。今後とも、年間6%程度の速度で増加していくと見込まれている。2007年の電源構成は、天然ガス49%、石油20%、石炭12.5%、水力10.5%、原子力4.6%などである。天然ガスによる発電量は1990年代から急速に増加しているが、将来的には原子力発電の比率を高め、発電分野における天然ガスや石油消費の割合の低下させることを目指している。
2.メキシコの原子力利用
メキシコにおける原子力利用の歴史の概要を表1に示した。メキシコの原子力開発は、1956年の原子力委員会(CNEN:National Commission for Nuclear Energy)の設立から始まる。当委員会は、ウラン探鉱、研究開発、法令制定などの全ての活動の責任機関であり、原子力発電開発は連邦電力委員会(CFE:Federal Electricity Commission)が担った。原子力委員会(CNEN)は、その後に原子力研究所(INEN:National Institute of Nuclear Energy)になった。この研究所は1979年に分割され、原子核研究所(ININ:National Institute of Nuclear Research)、メキシコ・ウラン会社(Uramex:Mexican Uranium)および原子力安全保障措置委員会(CNSNS:National Commission on Nuclear Safety and Safeguard)となった。1985年に、エネルギー省(SE:Ministry of Energy)がメキシコ・ウラン会社を引き継いだ。
原子力発電に関しては、表2に示すように1976年からラグナ・ベルデ(Laguna Verde)に2基の原子力発電所(沸騰水型軽水炉)の建設を開始し、1号機は1990年から、2号機は1995年から商用運転を開始した。これらの発電所は80%前後の高い設備利用率(運転開始からの累積値)で運転を続けているが、今後タービンと発電機を交換して、20%程度の出力増強を行うことも予定されている。さらに、2015年までに新しい原子力発電所1基、2025年までに7基以上を建設し、原子力発電の割合を発電量全体の12%に高めることが計画されている。
3.主要な安全関係法令と体制
メキシコの原子力利用および放射性物質・放射線利用に関する主な法令を制定順に以下に示す。
(1)「原子力事故損害賠償法(Act on Third Party Liability for Nuclear Damage)」:1974年公布
(2)「1984年原子力開発利用法(1984年法、1984 Act on Nuclear Activities)」:1985年施行、原子力利用の基本法であり、原子力の平和利用を規定する。
(3)「放射線安全取扱法(General Radiological Safety Regulations)」:1988年公布
(4)「環境保全・生態保護法(General Act on Ecological Equilibrium and Environmental Protection)」:1988年公布
(5)「電離放射線の取扱、貯蔵、輸送に関する健康と安全に関するガイドラインNOM-012-STPS-1993(Mexican Official Guidelines NOM-012-STPS-1993 - on health and safety at work in premises where ionizing sources are handled, stored or carried):1994年公布
上記のとおり、原子力開発利用に関する基本法令は「1984年法」であるが、その中でエネルギー省が原子力利用およびその関連技術開発の体制に責任があることを定めている。エネルギー省における原子力利用と安全管理の体制を図4に示す。エネルギー省の下にある規制側の原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)は半独立的な機関であり、公衆の安全のために原子力施設および放射線利用設備の物理的安全性、放射線安全性、保障措置、および法律の適切な運用に当たる。また、原子力施設などの設置場所、設計、建設工事、廃止措置などの基準の認可、評価、改訂、立法などの責任を負う。さらに、原子力施設の建設、操業などの認認可を取消す権限を持っている。
4.許認可
「1984年法」は、原子力発電所や放射線と放射性物質の利用施設の許認可についても定めている。原子力発電所の設置は、ラグナ・ベルデ発電所の場合には、二段階で進められた。第一段階は施設の設置許可(建設許可)であり、第二段階は商用発電の認可であった。
(1)施設の設置許可の申請と限定建設免許
原子力発電所の設置許可を申請できるのは公益会社であるが、今のところ、連邦電力委員会(CFE)だけが公益会社である。公益会社は、原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)に、原子力発電所の設置場所、環境影響評価、および建設中の安全保証計画を提示する。この設置許可申請が認められると、「限定建設免許(Definitive Construction Permit)」が発給され建設が始まる。原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)は工事を検査監督し、建設計画からの逸脱があれば工事を差し止める権限がある。
その後、公益会社は原子力発電所の技術情報を提出する。この技術情報には、工事計画、工事手順の変更や想定事故に対する安全計画などが含まれる。
(2)技術基準書と商用発電の認可
設置許可申請が正式に認められると、原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)は、エネルギー省に与えられた権限により建設を正式に許可し、「技術基準書(Technical Basis)」を発給する。これは、商用発電の認可とみなされている。
近年、申請から商用発電までを一本化する一括申請手続きの導入についても検討が進められている。
5.核不拡散
メキシコでは憲法により原子力開発利用を平和目的に限定することが規定されており、「1984年法」でも同様に規定されている。
メキシコは1969年に「核兵器不拡散条約(NTP)」を批准し、2004年にはIAEA包括的保障措置協定の「追加議定書」を批准している。1979年には「核物質の防護に関する条約」に署名し、1988年に批准した。また、1967年に「トラテロルコ条約(中南米核兵器禁止条約)」を批准した。同条約は1968年に発効した。
(前回更新:1999年3月)<図/表>