<大項目> 国際協力・原子力関連機関
<中項目> 国際条約・協定等
<小項目> 国際条約
<タイトル>
トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約) (13-04-01-06)

<概要>
 トラテロルコ条約は、1962年のキューバ危機を契機に、ラテンアメリカ(中南米)の軍事的非核化構想が進展した結果、1967年に成立した最初の非核兵器地帯条約で、1968年4月に効力を発生した。正式には「ラテンアメリカ及びカリブにおける核兵器の禁止に関する条約」(Treaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America and Caribbean)という。
 この条約は、中南米の33か国に対して核エネルギーの平和利用の権利を認めたうえで、核兵器の実験、使用、製造、生産、貯蔵、配備を全面的に禁止することを目的とし、2002年12月、キューバが核拡散防止条約(NPT)に加盟し、対象33か国すべての署名・批准が完了した。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.条約の概要
 トラテロルコ条約(Treaty of Tlatelolco)は、正式には「ラテンアメリカ及びカリブにおける核兵器の禁止に関する条約」(Treaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America and Caribbean)といい、トラテロルコ条約の名称は、調印式が行われたメキシコ外務省の所在地であるメキシコ・シティの地区名トラテロルコ(Tlatelolco)に由来している。ラテンアメリカ(中南米)核兵器禁止条約ともいわれる。
 この条約は、中南米の諸国に対して核エネルギーの平和利用の権利を認めたうえで、核兵器の実験、使用、生産、輸入、購入、貯蔵、配備を全面的に禁止することを目的に、1967年署名のために開放され、1968年4月に効力を発生した。条約はその後カリブ海諸国にまで適用範囲が拡大されたため、1990年に正式名称が「ラテンアメリカ及びカリブ域核兵器禁止条約」(The Treaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America and Caribbean)と改正された。この条約の対象国は33か国(表1参照)で、2002年12月にキューバが批准をし、対象33か国すべてが締約国となった。トラテロルコ条約に関連する中南米諸国のエリアマップを図1-1及び図1-2に示す。
 また、トラテロルコ条約は英、仏、オランダなど「この条約の適用範囲内に属領を有する」国、いわゆる旧宗主国にもこの地域での非核を求めている。これに係る附属議定書1の署名、批准の状況を表2に示す。さらに、核兵器保有国(5か国)にも同様に非核を求めており、これに係る附属議定書2の批准等の状況を表3に示す。この条約は、中南米という限定された地域で原子力のあらゆる形態の軍事的利用及び爆発物としての利用を国際法として禁止した最初のケースである。
 トラテロルコ条約は、原子力が平和利用から核兵器等へ転用されることを防止する国際条約であるNPT(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:核兵器の不拡散に関する条約、または核兵器不拡散条約、略して、Nuclear Non-Proliferation Treaty:核不拡散条約ともいう。1970年3月5日発効より2年早く発効している。ただし、NPTでは第2条及び第3条で平和目的の核爆発物を取得し、爆発させることを明確に禁止しているが、トラテロルコ条約では、平和目的の核爆発を禁止していない。また、トラテロルコ条約では原子力を許された目的のみに利用していることを検認するためのIAEA(国際原子力機関)保障措置の適用を求めている。
 なお、ブラジルとアルゼンチンは、1991年12月13日、ウィーンに本部のあるIAEA、及び両国が設立したアルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABACC:Brazillian-Argentin Agency for Accounting and Control of Nuclear Materials)の4者の間で締結し、両国内のすべての原子力活動に関わる全核物質及び核物質の輸出に対して保障措置が適用されている。
 参考に、中南米の原子力発電所の一覧を表4に示す。
2.条約締結までの経緯
 中南米非核武装化の構想が最初に提起されたのは、1962年の第17回国連総会である。その契機は同年のキューバ・ミサイル危機(キューバ危機)で、ブラジル等4か国は非核武装化に関する交渉を中南米諸国が実施すべきであるとの決議案を提出した。翌1963年4月に、ブラジルなど中南米5か国の大統領が、中南米地域を非核武装化するための多数国間条約を締結する用意があることを表明するとともに、他のラテン・アメリカ諸国もこれに参加するよう希望することを表明した「共同宣言」を発表した。これを受けて第18回国連総会で、ブラジル他10か国が、(1)「中南米の非核武装化」に関する「合意されるべき諸措置」の研究開始、(2)協定合意後における核兵器国の全面的協力という趣旨の決議案を提出し、賛成91、反対0、棄権15で採択された。キューバは、プエルトリコ、パナマ運河地帯の非核武装地帯への参加、中南米地域の米軍基地にある核兵器貯蔵禁止の検証、アメリカのグアンタナモ基地からの撤退による中南米の非核化を主張して決議案に反対の態度を表明し、採択ではソ連圏もこれに同調した。
 国連決議の採択後、中南米諸国は中南米非核武装化に関する条約案作成のため、1964年11月からメキシコ・シティで予備会談と準備委員会を開催し討議した。この委員会には、域外から米、英、日本など22か国がオブザーバーを派遣、IAEAならびに国連事務総長が技術コンサルタントを派遣して委員会の作業に協力した。この結果、条約草案についての最終合意が成立し、1967年2月14日にトラテロルコ条約は署名のために開放された。
3.条約の内容・性格など
3.1 可住地帯での最初の非核地帯
 この条約は、「領海、領空及び当該国が自国の法令に従って主権を行使するその他の空間」(第3条)の広大な領域を「非核地帯」と定めた。条約では、この地域で、(1)核兵器を方法のいかんを問わず実験し、使用し、製造し、生産し、及び取得すること、(2)締約国自身がもしくは締約国のため第三者がまたは他のいずれかの態様によって、直接または間接に、核兵器を受領し、貯蔵し、設置し、配備し、及び形態のいかんを問わず所有すること、を禁止している。
 また、条約で規定された義務を履行するため、「中南米における核兵器禁止に関する条約機構」を設立(本部はメキシコ)し、(1)自国の原子力活動に対するIAEAの保障措置を適用するためのIAEAとの多角的または双務的協定の締結、(2)条約で禁止された活動が自国で行われなかったことの半年ごとの報告、(3)関連事項の特別報告、(4)条約違反の疑いが生じた場合の特別査察への協力、を管理制度として設けた。
 このような規定により創出された中南米地域の非核武装化の状態を、核兵器の脅威から保障するため、二つの議定書が案出された。附属議定書1は、域外の国であって、中南米地域内に属領を有する国、具体的には、米、英、仏、オランダの4か国に、それらの領域の非核武装化を求めるものである。また、附属議定書2は、核兵器保有国に、(1)この条約で設定する非核武装化の状態を完全に尊重する、(2)条約の適用区域で義務の違反となる行動をいかなる方法によっても助長しない、(3)締約国に対し核兵器の使用または核兵器使用の威嚇を行わないことを義務づけている。
 条約の有効期限は無期限であるが、条約の完全発効の要件は、(1)署名開放日に存在した国(25か国)による批准書の寄託、(2)この条約の適用範囲に属領をもつ国による附属議定書1の署名と批准、(3)すべての核兵器保有国による附属議定書2の署名と批准、(4)IAEAの保障措置適用に関するすべての条約締約国とIAEAとの協定の締結、である。この発効要件を満たすことは容易なことではない。このため、要件を放棄する権利を有することとし、これにより批准の際の放棄宣言の寄託と同時に条約は発効する。条約の批准書寄託国であるメキシコは、発効要件のすべてを放棄する宣言をして、1967年9月20日の批准書寄託と同時に条約発効国になった。
3.2 核爆発の平和利用
 トラテロルコ条約では、平和目的に核エネルギーを利用することの権利は阻害されるものではないとし、これは自明の理とされている。この規定は、この条約から1年半後に成立したNPTの規定と比較してみると、いっそう明らかである。NPTは第5条で「核爆発の平和利用(any peaceful applications of nuclear explosions)」から生ずる利益が、「適当な国際的手続により非核兵器国に提供される」と定めている。この規定を保障するのは「各締約国」であるとされているが、現実に核兵器あるいは核爆発装置をすでに爆発させたことのある国は「核兵器国」である。したがって、非核兵器国は核爆発の平和利用の恩恵に浴することはできても、自分が核爆発を実施することはできない。これに対して、トラテロルコ条約では、「平和目的の核爆発(explosions of nuclear devices for peaceful purposes)」を単独で、あるいは第三国と協力して実施できるとしている。
3.3 最初の非核兵器地帯条約
 非核兵器地帯とは、一定の地域で核兵器の実験、配備、取得をせず、さらに域外の核兵器保有国もこの地域で核兵器の実験、配備、使用をしない「ある一定の地域」をいう。
 非核兵器地帯の概念自体は、1950年後半、世界的な核兵器の不拡散体制の設立に向けた国際社会の補完的措置とした検討されてきた概念であり、東西両陣営間の対立が紛争や戦争に発展することを恐れて非核兵器国側の地域的アプローチとして地歩を得てきた。非核兵器地帯の設置は、初期には、欧州での東西間の緊張を緩和する方法として提唱されたが、核兵器が軍事バランスの主要な要素をなしていた欧州では実現せず、1960年代に入り、トラテロルコ条約により、初めて中南米で実現した。
 非核兵器地帯条約は、南極条約(Antarctic Treaty、1959年12月1日調印、1961年6月23日発効)、宇宙条約(Treaties and Arrangement for Space Activities、1967年発行)及び海底核兵器禁止条約など、単に非可住地域の一定の地域、空間における核兵器の配備、実験及び使用を禁止する条約と異なり、可住地帯に「非核兵器地帯」を設置することを目的とした条約である。
 非核兵器地帯条約(Nuclear Weapon Free-Zones Treaty)は、トラテロルコ条約の他に、(1)ラロトンガ条約(Treaty of Rarotonga):1985年8月6日、第16回南太平洋フォーラム総会で署名され、1986年12月11日に発効、ラロトンガとは条約が署名されたクック諸島の地名で、正式名称は、南太平洋非核地帯条約(South Pacific Nuclear-Free-Zone Treaty)。(2)東南アジア非核兵器地帯条約:1971年のクアラルンプール宣言として採択された東南アジアの平和・自由・中立を実現する構想の一環として、1995年12月15日、バンコクのアセアン(ASEAN:Association of South-East Asian Nations、東南アジア諸国運合)首脳会議で、東南アジア10か国により署名、1997年3月27日発効。(3)ペリンダバ条約(Treaty of Pelindaba):1961年の第16回国連総会で採択されたアフリカ非核地帯化宣言や1964年のカイロでの第1回アフリカ統一機構(OAU:Organization of African Unity)の首脳会合で採択されたアフリカを非核地帯とするカイロ宣言を実現する条約で、1996年4月11日にアフリカ諸国42か国が署名、ペリンダバとはこの条約が妥結した南アフリカ共和国の首都プレトリア郊外の地名で、正式名称は、アフリカ非核地帯条約(Africa Nuclear-Free-Zone Treaty)。(4)中央アジア非核兵器地帯条約(セメイ条約):2006年9月カザフスタン旧セミパラチンスクにおいて条約署名式が開催され(中央アジア5か国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)、2009年3月条約が発効した。
 世界の非核兵器地帯条約等の関係地域マップを図2に示す。
(前回更新:2002年3月)
<図/表>
表1 トラテロルコ条約の対象国
表2 トラテロルコ条約・附属議定書1の批准国
表3 トラテロルコ条約・附属議定書2の批准国
表4 中南米の原子力発電所一覧(2006年12月)
図1-1 トラテロルコ条約関連国エリアマップ(1/2)
図1-2 トラテロルコ条約関連国エリアマップ(カリブ海諸国)(2/2)
図2 世界の非核兵器地帯と核拡散の現状(2001年)

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
アルゼンチンの原子力開発体制 (14-08-02-01)
ブラジルの原子力開発体制 (14-08-03-01)

<参考文献>
(1)外務省のホームページ「非核地帯の概要」、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/n2zone/gaiyo.html(2009年3月)
(2)(財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターのホームページ「非核兵器地帯の包括的検討−とくにアジア・太平洋地域との関連において」、http://www.cpdnp.jp/pdf/kenkyu/hikaku.PDF(1997年3月)
(3)United Nations Publication:The United Nations Disarmament Yearbook vol.25:2000、p.247-255,2001.
(4)米・国務省(U.S.Department of State)のホームページ、http://www.state.gov/
(5)坪井 裕、神田啓治:原子力平和利用における保障措置の観点からみた核軍縮に関連する核物質の検証措置のあり方、日本原子力学会・和文論文誌、第1巻、第1号(2002年3月)p.1-14
(6) 外務省原子力課(監):原子力国際条約集、(社)日本原子力産業会議(1993年6月)p.46,p.711−742
(7) (財)核物質管理センター(編):用語の解説(51)トラテロルコ条約、核物質管理セターニュース、22(9),p.12(1993)
(8) 垣花 秀武、川上 幸一:原子力と国際政治−核不拡散政策論−、(株)白桃書房(1986年4月6日)p.136−141,p.147−159,p.270−272,p284−285,
(9) (財)核物質管理センター(編):非核兵器地帯条約−概要と対比−、核物質管理センタニュース、25(10),p.1−4(1993)
(10)(社)日本原子力産業協会(編):世界の原子力発電開発の動向2006年次報告(2006年12月31日)p.58、p76
(11)(社)日本原子力産業協会(編):原子力年鑑2006年版(2005年9月)p203−211
(12)(社)日本原子力産業協会(発行):原子力ポケットブック 2005年版(2005年7月)p.342−386
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