<本文>
1.国情
1.1 概要
正式名称はイタリア共和国(Repubblica Italiana)。地中海に突き出たブーツ形をしたイタリア半島と、シチリア島、サルデーニャ島、その他小島からなり、南北に細長く、約1000km、北緯37度から47度に位置する。三方をティレニア海、アドリア海、地中海に囲まれ、大陸のアルプス山脈やイタリア半島を南北に走るアペニン山脈等より影響を受けるため、20の州の気候風土は変化に富んでいる。面積は30.1万m
2 で日本の約5分の4、人口6100万人(2013年IMF調べ)であり、ローマを首都とする。地方によりドイツ語、フランス語等の少数言語を話すが、基本的にはイタリア語を使用。国民の約80%はキリスト教(カトリック)である。第二次世界大戦中のムッソリーニ政権崩壊後、1946年6月の国民投票で王制を廃止し、共和制をとっている。
1.2 政治
キリスト教民主党と共産党の冷戦の終焉後、1996年以降政権を執った中道左派連合は、EU参加と経済・財政状況の改善のほか、州の自治・分権化、汚職の排除、公正な裁判、在外選挙などの一連の憲法改正、行政改革等を行った。しかし、与党内の度重なる内紛、EU参加のための増税等で不満が高まり、2001年にベルルスコーニ首相(Silvio Berlusconi)率いる中道右派連合が発足、低所得者層等に対する減税措置や企業の競争力向上の為の税制の見直し、南部開発促進政策の強化、憲法改正法案の可決等を積極的に進めた。ベルルスコーニ内閣の在任期間は第二次世界大戦後で最長を記録したが、イラクへの派兵等の親米路線と構造改革に対する反発が強くなり、2006年4月に行われた総選挙で敗北。中道左派連合のプロディ内閣が発足した。同政権はその後崩壊し、2008年5月、ベルルスコーニは4度目の首相の座についたが、2009年10月以降、ギリシャの財政問題に端を発した財政金融危機に対処するための財政緊縮政策、政権運営の手法、首相素行問題等への不満によって支持率が低下したため、2011年11月に辞表を提出した。次期首相として経済の専門家であるモンティ政権(Mario Monti)が財政支出均衡、経済成長、労働市場改革などの政策を実施したが、政権は支持を得られず、2012年12月には辞意を表明した。2013年4月から民主党のレッタ新内閣(Enrico Letta)が発足。景気低迷からの脱却と公的債務の削減、税制・財政措置の改革が課題となっている。
1.3 経済
イタリアはEU加盟国であり、単一市場構成国のひとつである。IMFによると、2012年のイタリアのGDPは2兆140億ドル(約200兆円)、世界第9位である。経済成長率-2.37%、物価上昇率2.58%、失業率は高く10.68%である。
表1 にイタリアの経済指標を示す。
かつて農業国であったイタリアは、第二次世界大戦後は北部に多様な産業基盤が整備され、1951年〜1963年にかけて高度成長を達成した。その後の景気後退や、石油危機などを経て、様々な経済の構造再編が進み、1980年代後半には復調、この時期にブランド化を確立し、輸出競争力で高い評価を受けた。1990年代は民営化、増税、社会保障制度改革などを柱に改革を進めたが、アジア通貨危機、ドイツの経済不況から成長率は低水準に留まり、低迷を続けた。2000年以降、輸出及び設備投資の好調等から経済はやや回復の兆しをみせ始めたが、失業率は長期間10%以上の高水準で推移している。2009年10月のギリシャの財政問題に端を発した財政債務危機がスペイン、イタリアへ波及し、経済は再び低迷を続けている。また、イタリア経済が抱える課題のひとつに南北の経済格差が挙げられる。ミラノ、ジェノヴァ、トリノなどの北部で工業化が進んだのに対し、南部やサルデーニャなどの島嶼部では、農業、観光業、軽工業が中心で、低所得や高い失業率が問題となっている。
2.エネルギーの需給
イタリアはエネルギー資源に乏しく、2011年のエネルギー自給率は18.8%である。需要のほとんどをリビア、ロシア、サウジアラビアからの石油と、アルジェリア、ロシア、オランダからの天然ガスの輸入に頼っている。イタリアのエネルギー政策は、市場の自由化、政治的・行政的決定権の地方への委譲、エネルギー供給源の多様化、エネルギーの安全保障、エネルギー効率の改善、環境保護を軸に進められている。
イタリアの石油消費量は、1970年代初めに一次エネルギー国内消費量全体の約5分の4を占めたが、石油危機を契機にシェアが年々減少し、2002年に50.6%、2011年に38.4%と推移している。特に、発電用燃料が石油から天然ガスに大きく切り替わったため(
表4 参照)、一次エネルギーに占める天然ガスの比率は30〜40%台へ増大してきている(
表2 、
図1 参照)。
しかし、国内資源の乏しいイタリアにとって、石油、天然ガスともに海外からの輸入燃料である。また、発電所の老朽化が進み、新たな設備投資が必要なことや、地球温暖化に対応した再生エネルギーの買取り制度や環境関連税を導入したことから、イタリアの電気料金はEU内でも非常に高い水準にある。OECD/
IEA の統計「ENERGY PRICES & TAXES」によると、2011年のイタリアの電気料金は家庭用:0.279$/kWh、産業用:0.279$/kWhであるが、電力輸入先のフランスでは家庭用:0.187$/kWh、産業用:0.122$/kWhである。ちなみに、日本の電気料金は家庭用:0.261$/kWh、産業用:0.179$/kWhである。
3.電力需給
3.1 電力消費量
1995年〜2000年代前半まで、個人消費支出と輸出の伸びが好調であり、企業活動も活発なことから、イタリアの電力消費量は増大した。しかし、2008年のリーマン・ショックを契機に経済は悪化。緊縮財政から2009年の電力消費量は前年度比5.66%減の3203億kWh(実質経済成長率は5.49%減)となったが、2011年時点の経済状況は若干回復し、電力消費量も3346億kWhとなった。なお、国内発電量は3026億kWhのため、不足分は海外から輸入している(
図2 参照)。2012年の海外からの正味輸入電力量は454億kWhで全供給電力量の13.2%を占める。輸入電力量の内訳はスイスが57.2%、ついでフランスが26.4%である。なお、スイスからの輸入電力量の約半分はフランス起源の電力であり、連系容量上の制約から、スイス経由でイタリアに送電されている。
3.2 発電電力量
2011年の発電電力量は3025.7億kWh、そのうち4分の3以上が火力発電によるものである(
表3 及び
図3 参照)。水力発電量は1960年以降ほとんど横ばいで、2011年は477.6億kWhである。チェルノブイリ事故をきっかけに脱原子力エネルギー政策を進めるイタリアでは、1990年以降、原子力発電は行われていない。そのため、発電電力量の増加は火力発電所の増設によって賄われている。ナイジェリアとのパイプラインを利用した天然ガスの供給が1992年に開始され、イタリア最大の電力会社エネル(ENEL、イタリア電力公社)は大型ガス火力設備の建設や、既設火力のコンバインドサイクル(ガス複合サイクル発電設備)への転換を進めた。このため、2000年以降、天然ガスによる発電量は、石油火力発電を上回るようになった。また、石炭火力発電は、1980年代後半から環境汚染が問題になり、プラント数は徐々に減少したが、原油価格の高騰とユーロ安を背景に、低コスト燃料の利点を生かして、脱硫装置を設置したクリーン・コール設備が普及するようになった。その結果、2004年から石炭火力の比率は上昇し、2011年には19.1%になっている(
表4 参照)。
3.3 発電設備
(1)水力
1960年代の後半まで水力による発電容量は全体の50%を占めていたが、その後は火力発電設備が水力を上回っている。2011年の水力発電設備容量は約2194万kWで発電設備全体の18.9%を占める。発電設備の72%がアルプス山岳地域のイタリア北部に集中している(
図4 参照)。2000年以降、プラント数は年4%で増加しているが、設備容量の増加は年1%にとどまる。2011年の平均設備容量は6.2MWと小型化する傾向にある。
(2)火力発電
2011年の火力発電設備容量は約7390万kW、総発電設備容量の63.5%を占め、電力供給の中心となっている。イタリアでは1996年のEU電力自由化指令に基づき、火力全体の7割以上の設備を所有していた国営電力ENELの民営化が始まり、2003年には発電シェア(電力輸入を含む)を50%に制限された。そのため、ENELは1500万kWの発電設備を売却。比率は売却と新規参入者の電源開発により、40%まで低下した。
(3)原子力
エネルギーの海外依存度の高いイタリアは、1950年代から原子力発電開発に重点的に取組み、1981年には4基147万2000kWの原子炉の運転を開始した。しかし、チェルノブイリ事故をきっかけに、1987年11月、原子力発電所の建設・運転に関する法律の廃止を求めた国民投票により原子力政策は見直され、1990年までに全4基が閉鎖された。近年のエネルギー価格高騰やエネルギー安定供給に対する懸念の高まりを背景に、原子力発電再開の議論が起こったが、2011年3月の福島第一発電所の事故を受け、原子力エネルギー再導入の是非を問う国民投票が2011年6月に行われた。その結果、導入反対94.15%で廃案となっている(ATOMICAデータ「イタリアの原子力事情と原子力開発 <14-06-14-01>」参照)。
(4)再生可能エネルギー
イタリアでは、石油や天然ガスの安定的な調達を重要視する一方、太陽光や地熱、風力といった再生可能エネルギーの導入や省エネを積極的に推進している(
図5 参照)。
地熱発電に関しては、1904年にトスカーナ州ラルデレロで、世界で初めて地熱発電に成功して以来、本格的な地熱発電所の建設が続き、地域熱供給設備としても利用されている。2010年時点の地熱発電の設備容量は84.3万kWで欧州最大、世界でも第5位である。
風力発電は、プーリア、シチリア、カンパーニャ州など南部を中心にウィンドファームが建設され、欧州で3位、世界でも6位に入る。また、太陽光発電設備も急速に拡大している。2010年11月には、欧州最大の太陽光発電所が、米国SunEdison社によりベネチア南西部のロヴィーゴに完成した。
なお、2009年6月の「EU再生可能エネルギー促進指令」に基づき、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに17%とする目標を掲げている。
4.広域大規模停電の発生と慢性的な電力不足の回避
イタリアでは、1980年以降の新規電源開発の遅れとフランス、スイスからの安価な輸入電力に頼り、慢性的な電力不足が続いた。2003年夏には輪番停電が発生したのに加え、2003年9月28日には、イタリア全土19州、最長18時間、約5700万人に影響が及ぶ広域大規模停電が発生した。
停電発生時、国内供給電力は2105万kWであったが、電力需要は2770万kW。残り665万kWは、スイス(364万kW)、フランス(221万kW)、スロベニア(64万kW)、オーストリア(19万kW)から送電網を通じて供給していた。停電の直接原因は、スイスのウルミベルグ山稜(Urmiberg/標高900m)地点で380kVの高圧線に樹木が接触して過負荷が生じ、スイスからの送電が停止したことにある。イタリアは350万kW分の揚水発電を停止しようとしたが間に合わず、電圧降下。送電系統保護のためにフランス、スロベニア、オーストリアからの送電が一斉に遮断され、周波数帯域を維持できず、イタリア国内の発電所1200万kWが2分程度で全て停止したことにあった。
この大規模停電を重要視したイタリア産業省は、原子力を含めた新規発電所建設の必要性を訴えるとともに、2004年7月、イタリア国内の発電業者に国外での発電所建設や運営に関わる投資を行わせる「エネルギー政策再編成法(マルツァーノ法)」を成立させた。また、発電所建設許認可手続きの迅速化等により、国内の電力供給力は急速に増強された(
図3 参照)。
送電に関しては系統運用を効率化するため、所有者と運用者を一体化することとなった。2004年5月には首相府令により、系統運用会社GRTNはENELの送電設備管理会社Ternaに移管され、2006年5月からENEL以外の送電設備も含め、系統運用が開始されている。
(前回更新:2005年9月)
<図/表>
表1 イタリアの主要経済指標
表2 イタリアにおける一次エネルギーの供給構成
表3 イタリアの電源別発電電力量と設備容量の推移
表4 イタリアの火力発電所の燃料別発電量の推移
図1 イタリアにおける一次エネルギー供給量の推移
図2 イタリアの電力輸出入内訳(2012年)
図3 イタリアの電源別発電設備容量の推移
図4 イタリアの380kV送電系統図(2012年)
図5 イタリアの再生可能エネルギー発電量の内訳推移
<関連タイトル>
イタリアの原子力事情と原子力開発 (14-05-14-01)
イタリアの原子力施設の廃止措置政策 (14-05-14-02)
スロバキアの原子力事情 (14-06-08-02)
<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第1編、2008年版(2008年3月)、イタリア
(2)日本原子力産業協会:原子力年鑑、各論2013年版(2012年10月)、イタリア
(3)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2013年版(2013年5月)
(4)IEA Energy Statistics:2011 Energy Balances for Italy,
(5)Terna(ENELの送電設備会社):PROVISIONAL DATA ON OPERATION OF THE ITALIAN POWER SYSTEM、2012、2013年7月,
(6)外務省:イタリア共和国、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/index.html
(7)GSE S.p.A(Gestore dei Servizi Energetici):Statistical Report 2011、Renewable Energy Power Plant in Italy
(8)OECD/IEA:ENERGY PRICES & TAXES,
(9)国際通貨基金(IMF):World Economic Outlook Database Italy(2013年10月)、
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/weodata/index.aspx
(10)Terna(ENELの送電設備会社):DATI STORICI,