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<概要>
 1983年11月1日にセラフィールド再処理施設周辺のシースケール村で小児白血病が多発していると指摘する番組が放送された。この番組の放送により、以来セラフィールド再処理工場の問題は、イギリスの全国的な問題にまで発展した。1990年2月にはサザンプトン大学のガードナー教授により、工場周辺の子供の間で多発している白血病は、工場労働者の遺伝子が放射線の影響で突然変異した可能性が高いという調査結果を発表している。セラフィールド再処理施設地域周辺の疫学研究は、現在も継続して行なわれているが、白血病の病因は不明である。
<更新年月>
2002年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.セラフィールド再処理施設についての番組報道
 1983年11月1日に英国のヨークシャーテレビ局(Yorkshire TV)が「ウィンズケール:原子力の洗濯場(Windscale:The Nuclear Landry)」というドキュメンタリー番組を放送した。番組内容は、セラフィールド再処理工場(Sellafield:旧名ウィンズケール再処理施設で、英国の西カンブリア地方に位置する)周辺に住む子供達の間で白血病が多発していると指摘するものであった。この番組は反原発的なものであったため、セラフィールド再処理施設の経営者であるイギリス原子燃料会社(BNFL:British Nuclear Fuels plc)や原発推進派などから強い批判や抗議を受けたものの、非常に話題となった。
 ヨークシャー・テレビ局は1年前から番組制作の準備を始め、様々な調査や情報収集を行った。それによると、セラフィールド再処理工場周辺のシースケール、ウェーバース、ブードルの3村では、子供の白血病発生率がイギリスの平均発生率の5倍から10倍であり、特に同工場から約2.4km離れた海岸沿いにあるシースケール村では10才以下の子供の白血病発生率が平均の10倍に達していることがわかった。シースケール(Seascale)村では、1983年までの30年の間で、ガンを発病した子供が11人おり、そのうち7人が白血病で、しかも10才以下の子供が5人含まれていたという。調査の時点での村の人口はおよそ2000人であった。この番組の放送のかなり以前から、セラフィールド再処理施設は放射能を漏らしているといわれていた。 図1 にセラフィ−ルド再処理施設外観図を示す。
2.ガードナー教授の調査報告とその影響
 政府はブラック卿を中心に調査委員会を組織し調査を実施した。1984年にはブラック報告書が刊行され、小児白血病の過剰発生が確からしいが、施設から放出した環境放射能レベルは低すぎて過剰とは説明できず、更なる調査の必要性があると政府へ勧告している。政府はCOMARE(環境における放射線の医学面の委員会)を組織し広い観点から調査を続けることにした。
 一方、ブラック委員会メンバーの一人であったガードナー教授(M.J.Gardner:サザンプトン大疫学教室教授)により、シースケールを含む行政教区レベルの小地区、並びに放射能汚染地域一帯と従業員の居住区を含む郡レベルで、施設周辺の疫学研究が行なわれた。
 ガードナー教授は、1990年2月にセラフィールド再処理工場周辺の子供の間で多発している小児白血病は、施設で働く父親の遺伝子が放射線の影響で突然変異した可能性が高い、という調査結果を発表した。この調査結果はイギリスのタイムズ紙などでトップ記事として報じられたことから、イギリス中に大きな波紋を引き起こした。
 ガードナー教授の調査結果では、(1)シースケール村生まれの学童に小児白血病/非ホジキンリンパ腫の多発を確認したこと、(2)可能性が疑われる9つ以上の要因の中で、セラフィールド再処理施設で働く父親の放射線被ばくが、受精前6カ月の線量10mSv以上か、受精前総蓄積線量100mSv以上で、有意で大きな相対リスク5〜8が見出されること、(3)線量の大きいほど、影響が大きくなると言えるかもしれないとしている( 表1 参照)。ここで10mSvとは、セラフィールド再処理工場の労働者の1年間の被ばく限度のわずか20%の量でしかなく、調査結果は低い放射線量の被ばくでも危険性が高いことを示していることになった。
 BNFLや原子力推進派も、こうした調査をガードナー教授の発表以前に行っており、セラフィールド周辺以外にも白血病が多発している地域が全国に存在することから、放射能汚染は白血病多発とはなんら関係がなく、その原因は都市から原子力施設に移り住んだ人たちの持ち込んだウイルスである可能性も考えられるとしてガードナー教授の調査結果を否定した。しかし、セラフィールド再処理施設周辺住民からの訴訟は急増し、イギリス国内での原発反対運動はますます活発になった。また、施設労働者の放射線の被ばく基準の引下げ要求も拡大した。 図2 に1983年のテレビ放映以後、1990年までの経緯を、また 図3 にセラフィールドサイトにおける放射能海洋放出の推移に示す。
 ガードナー教授は、1993年に亡くなったが、調査は他の研究者によって継続されている。COMARE第4報(1996年)によれば、小児白血病の多発は1950年〜1990年の40年にわたってシースケールでのみ起こり、他の近隣の町村で起こっていないとしている。環境放射能説、父親被ばく説、化学物質説、キンレンの人口混合説、汚水垂れ流し説などが検討されているが、今の所白血病の病因は不明である。
<図/表>
表1 西カンブリアの若年者における白血病リスク増加に関する因子
表1  西カンブリアの若年者における白血病リスク増加に関する因子
図1 セラフィールド再処理施設外観図
図1  セラフィールド再処理施設外観図
図2 英国原子力施設周辺における若年齢層白血病のこれまでの経緯
図2  英国原子力施設周辺における若年齢層白血病のこれまでの経緯
図3 セラフィールドサイトにおける放射能海洋放出の推移
図3  セラフィールドサイトにおける放射能海洋放出の推移

<関連タイトル>
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
イギリスの再処理施設における放出放射能低減化 (04-07-03-10)
セラフィールド再処理工場から海洋への放射性廃液誤放出事故 (04-10-03-01)
英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)
セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)

<参考文献>
(1) 岩崎 民子、市川 雅教、小林 定喜:英国セラフィールド再処理施設周辺の小児白血病発生増加の可能性について、放射線科学、28(6),144-145(1985)
(2) 岩崎 民子:英国原子力施設周辺の若年齢層白血病増加に関する研究、放射線科学、31(10),279-284,31(11),311-313(1988)
(3) 岩崎 民子:英国原子力施設周辺における若年齢層白血病のこれまでの経緯、放射線科学、3(9),288-289 (1990)
(4) (財)原子力安全研究協会(編):父親の被ばくと小児白血病−ガードナー仮説に関する検討−、1996年3月
(5) Sir. Douglas Black:Investigation of the Possible Increased Incidence of Cancer in West Cumbria. Report of the Independent Advisory Group,HMSO(1984)
(6) Committee on Medical Aspects of Radiation in the Environment. Fourth Report: COMARE Department of Health (1996)
(7) Gardner,M.J., M.P.Snee,A.J. Hall et al.:Results of case-control study of leukemia and lymploma among young people near Sellafield nuclear plant in West Cumbria. Br.Med.J-300:423-429(1990)
(8) Kinlen,L.J.:Can paternal preconceptional radiation account for the increase of leukemia and non-Hodgkin’s lymphoma at Seascale. Br.Med.J-306:1718-1721(1993)
(9) BNFLホームページ:(2002年1月17日)
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