<本文>
1.日米原子力協定等の下に実施
1)1992年に始まったプルトニウム海上輸送の実施は、改定された日米原子力協定(1988年7月17日発効)の最初の適用を受けたプルトニウム海上輸送であった。即ち、日米原子力協定等に基づき、巡視船による護衛のみならず、様々の総合的な核物質防護を講じて実施された。
2)具体的な
核物質防護措置の一環として、先ず、妨害行為の発生の危険や脅威を極小化するための予防措置として
・専用輸送船の使用
・慎重な輸送経路の選定
・無寄港で航行
等の措置が講じられた。
また、万一の妨害行為等の発生に備えて、
・武装した護衛者の輸送船への乗船
・出発から到着まで、武装護衛船の同行
・海上における積荷の移動の防止措置(クレーンの無力化等)
・多重の通信体制の確立
・オペレーション・センターによる常時監視の実施
・緊急時計画の作成
等の措置が講じられた。
3)これらの総合的な核物質防護措置については、日米間および日仏間で十分密接な協議を実施し、輸送に当たり万全の体制で実施された。
2.国際世論等の動き
1)1992年時の輸送に当たっては、グリーンピース等の各種団体が国際的に意図的な情報を流したこともあり、疑問や懸念を示した国々に対してはわが国の関係当局は、関係者および専門家を南太平洋等の現地に派遣して、プルトニウム平和利用計画、輸送の安全性など、技術的な説明を行い、関係国の理解を求めた。
結果として、プルトニウムの海上輸送に対するわが国への公式の抗議は無かった。
2)
国際海事機関(IMO)および国際原子力機関(IAEA)におけるプルトニウム等の国際輸送規則が十分ではないので、プルトニウムの海上輸送を中止すべきとのグリーンピース等から指摘があった。この指摘に対して1992年12月イギリスのロンドンおよび1993年4月オーストリアのウイーンで開催された国際海事機関(IMO)/国際原子力機関(IAEA)の合同作業部会において議論した結果、国際海事機関(IMO)および国際原子力機関(IAEA)の加盟各国はグリーンピース等の指摘した内容を技術的・科学的でないとの観点から否決した。
3)一方、国際海事機関(IMO)においてプルトニウム等の海上輸送について議論され、使用される輸送船舶は、日本で採用されていた
使用済燃料の専用船の構造要件としていた二重船殻(ダブルハル)、二重底等の難沈構造、消火設備等の構造要件等が国際規則として採用された。
3.フランスからわが国へのプルトニウム輸送実施
1992年のプルトニウムの輸送については、フランスのラ・アーグ再処理工場からわが国までの国際輸送であり、国際規則としてのIAEA輸送規則を満足するとともに、フランスの国内輸送規則およびわが国の輸送規則の全ての要件を満足して実施された。
輸送荷姿は、約1トン(核分裂性プルトニウム)を133基のFS-47(IAEA輸送規則において、B(U)型輸送物として、一番厳しい設計要件を満足している。)と呼ばれる
輸送容器に収納し、さらに15個の輸送コンテナーに収納され、ラ・アーグ再処理工場からシェルブール港まで極めて厳重な警備のもと陸上輸送された。引き続いて、これら輸送容器を搭載した専用運搬船「あかつき丸」は厳重に警備されたシェルブール港を1992年11月7日21時出港し、1993年1月5日茨城県の日本原子力発電(株)の東海港まで海上保安庁の護衛船「しきしま」の護衛をうけ、約60日間かかって無事海上輸送が行われた。
さらに、東海港から動力炉・核燃料開発事業団(動燃(現日本原子力研究開発機構))東海事業所まで約2日間にわたって陸上輸送された。
ラ・アーグ再処理工場からわが国までの輸送を通じて、事故等のトラブルは一切なく、無事に輸送された。
<関連タイトル>
六フッ化ウランおよび二酸化ウランの輸送 (11-02-06-03)
イギリス返還プルトニウム輸送 (11-02-06-06)
世界の核物質輸送の動向 (11-02-06-07)
国際海事機関(IMO)の活動 (13-01-01-16)
<参考文献>
(1)科学技術庁(編):平成7年度科学技術六法、大成出版社(1995年4月)、p.1407-1426
(2)International Atomic Energy Agency: Safety Series No.6, Regulations for the Safe Transport of Radioactive Material (1985 Edition),International Atomic Energy Agency (1985)
(3)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課ほか(監修):放射性物質等の輸送法令集1997年版、日本原子力産業会議(1997年1月)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック1997年版、日本原子力産業会議(1997年5月)、p.209-212
(5)原子力委員会(編):平成8年版原子力白書、大蔵省印刷局(1997年3月)、p.166-167
(6)原子力安全委員会(編):平成7年版 原子力安全白書、大蔵省印刷局(1996年7月)、p.70-73
(7)久保 稔:特集プルトニウムの利用技術の現状と課題−プルトニウムの輸送、原子力工業、40(1)、49-54(1994)