<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 世論・訴訟
<小項目> 原子力産業実態調査報告
<タイトル>
わが国の原子力供給産業の現況と課題 (10-05-03-09)

<概要>
 現在、原子力関連企業は数百社を数え、電気事業者と共に原子力発電の基幹電源化に重要な役割を果たしてきたが、今後原子力供給産業が原子力事業を推進していくには、厳しい市場見通しのなかで、産業界として技術等をいかに維持・向上させていくかが中長期的に求められている。それにはどのような対応が必要なのか、多くの課題が認められる。原子力産業会議、計画推進本部第1グループ(リーダー三浦研造)は、70社を超える企業から、直接ヒアリング、アンケート調査等により、基礎となる原子力供給産業の実態を調査し、幾つかの提案をしている。
<更新年月>
2005年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 現在、我が国の原子力関連資機材の製造や原子力施設の建設、保守・メンテナンス等の役務の供給企業(以下に原子力供給産業と称する)は数百社を数えるが、近年、原子力市場の低迷や電力自由化の流れ等によって、供給産業は様々な問題に直面している。
I 原子力市場の現状(原産調査時報No.70、第1章)
・市場規模と特徴
 2003年度の原子力供給産業の売上高は1兆4,482億円である。過去最高の売上は1992年度、約2兆2,400億円で、それ以降漸減し、市場規模は10年前の3分の2まで縮小している(図1)。2003年度納入先別原子力売上高の構成は、「電気事業者」(75% 1兆813億円)、続いて「政府」向け(国立研究開発機関と国立大学)(6.7% 970億円)、「公私立大学・病院等」(3% 426億円)、「輸出」(1.6% 234億円)である。
 原子力供給産業の売上先の7割以上を占める電気事業者は、近年、経済の低迷と電力需要の低迷の見通し等から、電源設備投資を抑制している(図2)。これに伴い、一般電気事業者(沖縄電力を含む10社)の電源工事費は1993年度の約1兆4,300億円から、年々漸減し、2002年度には約5,300億円に減少した(約9,000億円減)。拡充工事費も約3兆3,000億円から3分の1に、改良工事費も1兆2,600億円から半分に縮減されている。これとともに原子力発電プラントの新規着工も激減している。電気事業者の新規原子力発電所建設のための支出高は、1991年度の約7,822億円をピークに減少に転じ、2003年度には91年度実績の約1/3、2,588億円にまで落ちている。運転中の原子力発電所の運転維持費は同年度の比較で約6,925億円から8,924億円まで増加。修繕費は近年、3千億円〜4千億円で推移している。
 「政府」への市場依存度は、売上全体の10%を割り漸減気味である。原子力政府予算のうち研究開発関連機器類の受注に関係する予算の推移は、92年度の約2,110億円から、2003年度には約1,590億円と全体予算の約35%にまで減少している。
 売上の減少は、とくに「ものづくり」に関する製造業に端的にみられ、図3のように重電メーカーでは原子炉・発電機器関係売上が93年度の約9,500億円から2003年度は約3,941億円と約6割も落ち込んでいる。供給産業全体の燃料サイクル機器の売上はここ数年は増大してきたが、これは日本原燃の六ヶ所再処理工場建設に伴う機器類の出荷が増大要因であり、これも2002年度(約1,970億円)でほぼ山を越え、2003年度は1,160億円と激減した。今後しばらく、大型受注は期待できない。
・事業形態の変貌
 我が国の原子力供給産業は、ユーザーである電気事業者からプラント全体のシステム設計、製造、据付を請け負う「プラントメーカー」(東芝、日立製作所、三菱重工業の3社)を頂点として、原子炉建屋および周辺施設の設計・エンジニアリング、建設を行う大手総合建設業(ゼネコン)、素材・機器メーカー、エンジニアリング企業、建設・工事企業など多種多様な企業群から構成されている。プラントメーカーは主要業務を、グループ内の数社の企業と密接に連携をして行っている。
また、原子力供給産業の特徴として、各種コンポーネントや機器・設備ごとにコアとなる企業が3〜5社程度存在している。この下に1次〜数次に至る企業が下請けとしてぶらさがる多層構造が形成されており、プラントメーカーとの競争を含め参画企業間での競争が激しくなっている。
・減少する原子力設計技術者
 供給産業の技術系従事者数を分野別にみると、とくに「ものづくり」に必要となる研究者や技術者が大幅に減少しているのが目につく。「研究者」は92年度末の約3千人をピークに年々減少し、2002年度末にはピーク時の3分の1に近い約1,300人にまで落ち込んだ。「設計」部門の技術者は92年度末の約7,400人をピークに、2002年度末には約4,600人となった。この部門の技術者減少は電気事業者にも共通している。「原子炉機器製造」部門でも技術者の減少が顕著である。
・強まる競争要因
 電気事業者では発電プラントの安全性を維持しつつ、全体としての発電パフォーマンスの向上をいかに図っていくかが課題であり、新規発電プラントの建設費や既存炉の運転維持費のコスト削減も重要な課題とされている。また、国の原子力研究開発も一層の効率化が求められている。このため、原子力事業の取引形態も大きく変わってきている。
・進む企業の再編
 我が国においては、最盛期にはほど遠いものの、新規原子力発電プラント建設が継続しており、東芝、日立、三菱の3グループを中心とする3プラントメーカーは厳しい環境のなかでもそれぞれプラントの一括受注に応え得る体制を維持している。素材メーカー機器メーカーにおいてもまだ十分な製造能力を保持している。その結果、現在では「我が国が素材供給から部品さらにシステム設備までBWRとPWRの設計技術力と製造技術力の両方を有する唯一の国」となっている。

II 原子力供給産業の特質と事業の実態(原産調査時報No.70、第2章)
 産業界は原子力における「事業」や「技術」をどのように考えているのであろうか。
・企業がみる原子力の事業・技術的特質
 「計画性がないと成り立たない事業」、「企業努力が届かない要因が多い産業」、「リスキーな事業」、「安全裕度が大きい」、「許認可や品質のハードルが際立って高い産業」、「ホールド・ポイント」、「一点ごとの材料証明、各種試験データの実績が求められる」、「品質・検査記録等の文書の多さ」等、種々の特徴が列挙されるが、全体として、発注には「経験と実績」のある企業が優先されるという特徴を有している(表1参照)。厳しい品質管理や検査に耐え得るだけの人材や設備を備えていなければ原子力事業を続けていけないが、下請企業として優れた技術力をもった新規企業を指名し、その製品や役務を採用しようとすると、ユーザーや元請企業の許可が必要となったり、厳しい確証試験が要求されたりする。
 しかし、最近では実績主義から競争入札という制度の取入れも積極的に行われるようになってきた。同じ供給産業内での競争が激しいのも最近の特徴的な動きである。
・原子力技術は「先端技術」か
 原子力技術は、かつては原子力供給産業の研究開発投資率が他産業より高水準(5〜6%、他産業1〜2%)だったため、先端技術と呼ばれたが、近年では2%台にまで低下している。原子力技術(産業)を先端的と考えている企業は、「核融合技術」「炉心技術」「ロボット技術」をシステムとして「高度の安全性、信頼性、長期性能維持を求める技術」として見ている。「先端的ではない」とみている企業は、「安全第一、実績重視で保守的」であるとして、新技術の開発あるいは採用が進んでいないと認識している。
・原子力の「コア技術」とは何か
 原子力供給産業が原子力事業を行うにあたって、重要と考える技術項目として、炉心設計・解析、安全解析、耐震設計、機器製造技術、保全技術など、また「耐放射線性」「シール性」「耐震性」「遠隔保守」「溶接等の施工」「放射線管理」など原子力固有の必須技術も指摘されている。
 技術項目とは違った観点から「品質保証・管理」と「経験力」の2つを「コア技術」とする回答が8割に達している。これは2003年に原産会議がまとめた人材問題小委員会報告書で、電気事業者、プラントメーカー、工事企業ごとにそれぞれの役割を果たすために必要とされる「コア技術」に近い見方である。
・人材、技術の維持・継承
 アンケート調査によると、原子力事業に携わっている現在の人材はピーク時と比べると、プラントメーカーや機器メーカーで概ね6〜7割、素材メーカーでは1/10、1/3、6割と企業によってまちまちであるが、どの企業も人員の縮小を経験している。原子力供給産業のなかでも人材が減少している業種と人数を維持している業種に2極化が進んでいる。プラントメーカーは人員縮小のなかでも継続的な採用を行っていることから過度な高齢化はみられないようであるが、それ以外の業種では原子力人材の高齢化が進んでいる。また年齢別にみた人材の過多については、総じて50歳代の人員が多く、20〜30歳代の人員の不足を指摘している。
・技術・ノウハウの維持・継承
 事業規模の縮小、人員縮小の状態にあって、経験豊かな人材の高齢化に伴う世代交代の時期が重なり、原子力供給産業はとくに「ものづくり」の技術・ノウハウの維持継承が課題となっている。設計技術、ノウハウをできるだけマニュアル化・データベース化する試みや、技能訓練や技能認定制度、OBの活用などによる対応が取られている。特にプラントメーカーは、設計技術力と製造技術力の両者について企業グループ全体を俯瞰したプラント総合技術力の維持・向上に努めるなど、国際展開をも視野に入れた取組みを行っている。
・新規建設への対応技術力の懸念
 実際の設計、製作、据付といった「ものづくり」の経験がないと、技術・ノウハウの維持・継承が難しいことはよく知られているが、仮に新規の発電プラント建設の経験がなくなると、具体的にはどのような技術的影響がでてくるのであろうか。アンケート調査の回答で、設計や全体的な取りまとめ・調整能力などの技術・ノウハウが欠如する可能性が目立つ。とくにプラントメーカーは、官庁申請対応、設計、製造工程や人員、費用などをトータルに管理するプロジェクトエンジニアリング能力が新規プラントを計画通り建設していくために不可欠な技術であるとしている。原子力技術・ノウハウの維持・継承については、多くの企業が何らかの形で取り組む結果となっているが、一方、先行きの不透明感から、原子力事業からの撤退も視野に入れ技術・ノウハウの継承を行わない企業もみられる。
 新規建設のための技術・ノウハウの継承問題は、電気事業者にとっても大きな課題で、技術維持のために技術者を別会社にプールし、その会社が自ら発電所の周辺設備等の設計・エンジニアリングを受注したり、原子力以外の分野にも積極的に参入し、実際の設計活動を行っている事業者もある。また原子力発電所の建設をしている他の電気事業者に出向させ、技術者に経験を積ませるなどの対応をとっている。
・他の業務で代替は可能か
 当面は受注が大幅に増えるという見通しはない状況で、原子力に類似した他分野での高品質水準の製造・工事があれば、原子力技術・ノウハウの継承は可能であろうか。
 この点について、大部分の素材メーカーは「ある程度可能」としているが、機器メーカーと工事企業は「可能」(ある程度も含む)と「困難」とする企業が半々に分かれた。ただ、「可能」としたところでも、「類似した機械設備の供給業務があれば、個別の技術は維持可能」としているように、他業務で代替できるのも一定の限度があるようである。
 アンケート調査で「他の事業では代替が効かず、原子力の受注がないと維持が困難」と指摘された技術・ノウハウは表2に示す通りである。
・受注がどのくらい途絶えると継承は困難か
企業は新規原子力発電プラントの受注が何年途絶えたら、製造・役務能力の維持が本当に厳しくなると考えているのだろうか。素材・機器メーカーでは「1〜2年」で経営的に厳しい状況になるとする企業、あるいは「10年」という、まだ比較的余裕のある企業もあるが、大部分の企業は「4〜5年」になると厳しいと答えている。さらに、10〜20年間にわたって途絶えると日本で作れなくなるとする意見も中堅メーカー以下で多い。
・空洞化への懸念——その影響は
 世界でトップ水準の原子力技術力を有し、機器、部品、役務の大部分を国内企業で賄っている我が国であるが、とりわけ製造部門で徐々にその事業基盤が弱体化しつつある。今後とも新規原子力発電プラント建設が停滞し続けるならば、国内技術の維持が困難となり、プラント・機器の改善・改良の技術、ひいては新規技術やプラントの開発力が衰退し、これまで確立されている原子力機器製造の構造が底辺から空洞化していくこともあり得ないことではない。そうすると、国内メーカーの相当部分が原子力事業から撤退し、その穴埋めとして海外企業に供給を依存する割合が大きくなってくる。その時どのような影響が我が国の原子力事業に及ぶのであろうか。表3に示した。
 原子力産業会議調査時報No.70の第3章では、軽水炉市場を中心に今後の市場の見通し、第4章では事業の課題への取り組み方として、市場確保策、品質とコスト、大型プロジェクトの開発力維持及び原子力技術力の国際的優位性確立について述べている。
<図/表>
表1 企業が見る原子力の事業・技術の特徴
表2 「他の事業では代替が効かず、原子力の受注がないと維持が困難」と指摘された技術・ノウハウ
表3 空洞化の影響
図1 供給産業の原子力関係売上高の推移
図2 一般電気事業者の設備投資の推移
図3 重電メーカーの主要機器売上高の推移

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
原子力産業実態調査報告(平成13年度) (10-05-03-06)
原子力産業実態調査報告(平成14年度) (10-05-03-07)
原子力産業実態調査報告(平成15年度) (10-05-03-08)

<参考文献>
(1) 原子力産業会議:調査時報、NO.70、わが国の原子力供給産業の現況と課題、2005年4月
(2) 原産調査報告:わが国の原子力供給産業の現況と課題、月刊エネルギー、Vol.38、No.5、p.104-105(2005/5/1)
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