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<概要>
 本訴訟は、北陸電力(株)志賀発電所1号炉(昭和63年(1988年)12月着工)の建設差止を求めた民事訴訟(昭和63年(1988年)12月(1次)および平成元年(1989年)7月(2次)提訴、平成元年(1989年)10月審理併合)である。金沢地方裁判所における第一審判決(平成6年(1994年)8月25日)は請求棄却となった。
 原告側(控訴人)は、同年8月31日に名古屋高等裁判所金沢支部(名古屋高裁)へ控訴し、平成10年(1998年)9月9日に名古屋高裁は原告側の控訴を棄却した。控訴人は控訴審判決を不服として、平成10年(1998年)9月20に最高裁判所に上告した。
 平成12年(2000年)12月19日、最高裁判所は「住民側の主張は上告理由には該当しない」として、住民側の上告を棄却する決定を下し、住民側敗訴の判決が確定した。
<更新年月>
2002年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.本訴訟の概要
 本訴訟は、人格権・環境権に基づく妨害予防請求として北陸電力(株)の志賀発電所1号炉(BWR 型54万kW、昭和63年(1988年)8月22日に原子炉設置許可、昭和63年(1988年)11月に着工、平成5年(1993年)7月30日に営業運転開始)の建設差止を求めて、原告の周辺住民ら100名が昭和63年(1988年)12月1日(1次)、さらに、100名が平成元年(1989年)7月14日(2次)に、北陸電力(株)を被告として金沢地方裁判所に提訴した民事訴訟である(平成元年(1989年)10月5日に審理が併合された)。原子力発電所の建設(運転)差止に関する民事訴訟としては、わが国で4番目のものである。北陸電力志賀1号炉訴訟の主な経緯を 表1 に示す。

2.金沢地裁、名古屋高裁金沢支部の判決
 金沢地方裁判所の第一審では、本件原子炉の必要性、事故防止対策、被ばく(被曝)低減対策、地質・地盤、廃棄物処理の危険性、使用済燃料貯蔵の危険性、防災対策、品質管理等が主な争点となり、平成6年(1994年)8月25日の金沢地方裁判所(金沢地裁)での第一審判決は請求棄却となった。原告側はこれを不服として、同年8月31日、名古屋高等裁判所金沢支部に控訴した。
 平成10年(1998年)9月9日の名古屋高等裁判所金沢支部での判決では「原子力発電所の事故によって原告らの生命、身体等の人格権を侵害する具体的な危険があるとは認められない」として、一審判決を支持し、住民ら原告側(控訴人)の控訴を棄却した。
 判決では、金沢地裁での審理終了後に発生した阪神大震災(平成7年(1995年)1月17日)や「もんじゅ」事故(平成7年(1995年)12月8日)を踏まえて検討しても、原子力発電所の安全確保対策は安全性を確保することができ、大量の放射性物質を環境に放出するような事故による具体的な危険性は認められない、と結論している。
 また、判決のなかで、わが国の電気は必要不可欠な基幹エネルギーになっているとし、「原子力発電による国民への電力供給の実績に照らすと、現時点でのわが国における原子力発電所の必要性は本件原子力発電所を含めこれを否定することはできない」と指摘した。
 しかし一方では、TMI事故チェルノブイル事故、わが国での多数の事故などによって、国民の原子力発電所の安全性に対する信頼性はゆらいでいることや、再処理問題や将来の廃炉問題など未解決の問題点を残しており、「原子力発電所がその意味において人類の「負の遺産」の部分を持つこと自体は否定しえない」とも述べ、今後原子力発電所を推進すべきか廃止すべきかは、地球資源・環境問題を含めた長期的・総合的な展望にたったエネルギー政策の中で、「多量の電気消費に慣れた生活水準の見直しも含めて、適切な情報公開のもとに人類(日本国民)が選択すべき事項である」との見解を示した。
 原告側(控訴人)は名古屋高等裁判所金沢支部での控訴棄却を不服として、平成10年(1998年)9月20日に最高裁判所に上告した。

3.最高裁の判決
 平成12年(2000年)12月19日、最高裁判所第三小法廷(金谷利広裁判長)は、「原告の主張は事実誤認や単なる法令違反を主張するもので、適法な上告理由に当たらないとして、原告の請求を棄却する」と判決、上告を棄却する決定を下し、原告住民側の敗訴が確定した。
<図/表>
表1 北陸電力志賀1号炉訴訟の主な経緯
表1  北陸電力志賀1号炉訴訟の主な経緯

<関連タイトル>
日本の原子力発電所の分布地図(2001年) (02-05-01-05)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1) 原産新聞編集グループ(編):伊方に続き志賀、女川:「合法」との判断相次ぐ、原告の請求退ける、原子力産業新聞(2000年12月21日付け)第2068号、(社)日本原子力産業会議(2000年12月21日)2面
(2) 日本原子力産業会議:原子力施設に係る主な訴訟の状況、原子力ポッケットブック2001年版、p.176-177
(3) 産経新聞朝刊(2000年12月20日)24面「女川・志賀原発訴訟:最高裁が住民側上告を棄却、民事では初の判断」
(4) 朝日新聞夕刊(2000年12月20日)37面「志賀・女川原発:最高裁が運転差し止めを棄却、住民側の敗訴確定」
(5) Mainichi Interactive科学環境ニュースのホームページ(物理・化学・原子力)「女川・志賀原発訴訟−−最高裁(2002年2月)
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